Metamorphose2




 白が目に眩しいテーブルクロスを広げ、無骨な指が丁寧に紅茶を注いだカップは二人分。少々歪なスコーンは先程焼き上がったばかりなんだと笑顔を見せたマッシュの手製で、午後の仕事に一区切りつけたエドガーは思わず顔を綻ばせた。
「今日は天気が良いな。椅子に縫い付けられているのは勿体ないと思っていたところだよ」
「なら窓を開けようか。いい風が吹いてるぜ」
 窓に向かうマッシュの背中を軽く振り返り、目線をテーブルの上の紅茶に戻したエドガーは、カップを手に取り鼻を寄せる。香りを楽しんでいると、マッシュが開けた窓から流れて来た風が湯気を揺らして棚引かせた。
「風、強いか?」
 窓の隙間を調節しながらマッシュが尋ねる。紅茶を口に含んでほうっと息を吐いたエドガーはいいやと首を横に振り、不恰好なスコーンを掴んだ。
「気持ちが良いからそのままで」
「了解」
 戻って来たマッシュはソファに腰を下ろし、テーブルを挟んでエドガーと向かい合う。割れ目から横半分に指で割ったスコーンに、ジャムとクロテッドクリームをたっぷりと乗せて品良く齧り付くエドガーを、にこにこと見守るマッシュもまたカップを取って唇に寄せた。
「美味いな」
「そっか、良かった」
 見た目は悪いけどな。ボソッと続けたエドガーにマッシュは照れ臭そうに苦笑し、エドガーは朗らかに笑い返してもう一口紅茶を飲む。
 他愛のない話をしながら、普段と何ら変わりのないティータイムは和やかに過ぎた。
 エドガーが食べかけのスコーンを皿に置き、指についた屑をさり気なく舌先で舐め取った時だった。ふいに勢い良く吹き込んできた風がテーブルクロスを巻き上げた。
 ひらりと舞ったクロスの端をエドガーの指が咄嗟に掴む。マッシュも反射的に伸ばしていた手でクロスをエドガーの指ごと包んで押さえ、指を重ねた二人は思わず顔を見合わせた。
 マッシュは恐らく無意識にエドガーの甲側から指を強く握り締めた。その瞬間ビクリと肩を大きく揺らし、腰にキュッと力を込めたエドガーの、僅かに強張った頬にさっと朱が走る。
 エドガーの口があ、と音もなく開いて弁明の言葉を紡ぎかけた。しかし微かに戦慄いた唇からまともな声は出ず、一瞬にして動揺に眉を垂らし濡れた瞳を泳がせるエドガーの異変の理由を理解したマッシュは、躊躇いを飲み込んで身を乗り出し、すっかり赤く染まった耳に唇を寄せた。
「……今夜、部屋に行くよ……」
 低い囁きにぶるりと全身を震わせたエドガーは、少しの逡巡を経てぎこちなく頷いた。
 マッシュはそっとエドガーの指から手を離し、流れるような動きで兄の柔らかい頭髪を撫でて、ソファに体重を預ける。
 エドガーはまだ震えの残る指で懸命にカップを手に取った。取っ手を持つだけでは心許無くもう片方の手を添えて両手で支え、乾いた口内を湿らせるように一口含んだが、こうなるともう味など分かったものではない。



 のらりくらりと拒み続けたマッシュに再び抱かれるようになってから、エドガーの身体には顕著な変化が起きていた。
 ふとした一瞬にスイッチが入る。肌が触れた瞬間、目と目が合った瞬間、ほんのささやかなきっかけで身体は夜の熱を蘇らせて、エドガーの内側を急速に昂らせた。
 あからさまな反応にエドガーははっきり戸惑っていた。取り繕うどころではない、あっと思った時には顔にも身体にも現れている。
 他意のない触れ合いだと分かっているのに、あの身体の奥深くを穿つ閃光のような快感が、日常をも侵食するのをどうにも止める術が無かった。
 我ながら何と浅ましくみっともない身体になってしまったのか── 一人になった執務室で未だ抜け切らない顔の火照りを持て余しながら、エドガーは竦んだ両肩をぎこちなく抱き寄せた。
 つくづく、マッシュと関係を持つようになったのがあの狂える魔導師を討つ旅の最中ではなくて良かったと思う。
 熱く湿った吐息を切なげに漏らしながら、エドガーはかつての仲間たちの顔を頭に浮かべた。これは、物理的にも精神的にも近い距離にいた彼らを誤魔化せるような生易しい反応ではない。
 机上に伏し、呆れを多分に含んだ何度目かの溜息を吐くが、あの低音の囁きを思い出すと再びその呼気には熱が籠って、自戒の念が有耶無耶になってしまうのだった。




 ***




 仄暗い寝室ではベッドサイドに小さな灯りが置かれるのみで、天井に映し出された黒い影が時折控えめに揺れていた。
「っ……」
 軽く顎を振り上げ、漏れそうになる声を抑えるため唇に折り曲げた指を添える。そのままぎりりと歯を立てて、エドガーは眉間の皺を深く刻んだ。
「指、噛んじゃダメだよ……」
 下肢の間から聞こえる声は優しく掠れている。
 ベッドに仰向けに横たわるエドガーはマッシュによって下衣を全て取り払われ、立てた膝を開いて脚の付け根の一番奥を晒していた。しっとりと濡れた蕾に中指を深く突き立て、マッシュは指の腹で丁寧に肉壁を探りながらゆっくり抜き差しを繰り返す。
 指が深く潜り込む度にエドガーは息を詰める。思わず力が入った下腹をマッシュがそうっと撫でた。長い指が柔らかく腹を滑る動きでエドガーの肌が粟立つ。しばし止めていた息が続かなくなった時、ハッと短く吐き出された呼気は熱く色付いていた。
 深く差し入れた指を引く時に、内壁の微かな膨らみを意図的に強く擦る動きがエドガーの腰を小刻みに揺らす。もう、いい、と途切れ途切れにエドガーは請う。ほぼ吐息に掻き消されたか細い声をそれでもマッシュは拾っていたらしく、軽く傾げた首を横に振った。
「出しておきなよ。でないと」
 中でイク時辛いだろ。後半は口の中だけで呟き、マッシュは指の動きを速める。指の腹を天に向け、知り尽くした一点を強めに刺激し、腰を強張らせたエドガーがピクピクと膝を腹に寄せるのを確認したマッシュは、もう片方の手をエドガーの陰茎の根元にそっと添えた。
「う、くっ……ん」
 それだけの刺激で呆気なく吐精したエドガーは、いつしか注意を忘れて噛み締めていた指に深く歯を立て、しばし全身を硬直させていた。
 やがてマッシュの手のひらが促すように腿の裏側を撫でると、下肢は脱力して膝がぱたりと倒れる。同時に指から歯を離したエドガーが浅く短い呼吸で思い出したように酸素を必死で取り込み始めた。
 ハッハッと荒く息を吐き出すエドガーの太腿から腰を優しく撫で上げたマッシュは、身を乗り出して顔を寄せる。切なく眉を寄せてぼんやり目を蕩かせるエドガーの唇を摘むように口づけ、緩く吸い上げるとエドガーは睫毛を震わせながら目を閉じた。強請るように口を開けるその隙間に請われるがまま、マッシュは舌を捩じ込む。
 エドガーの腕が辿々しくマッシュの背に伸びていく。まだ快楽の余韻で身体がビクつくようで、ぎこちなく背中を撫でるその動きを邪魔しないよう胸を合わせて震える身体を抱き込んだマッシュは、シーツに沈んでいたエドガーの片脚を抱えて膝を折らせた。
 とうに解れ切っている蜜穴へ自身の陰茎を充てがい、先端を潜らせる。肉襞はほとんど抵抗もなく侵入物を呑み込んだ。亀頭の凹凸を過ぎてぐっと奥まで突き入れた時、伏せられていたエドガーの瞼がぱっと開いて顎が跳ね上がる。
「あっ……は……っ」
 マッシュの陰茎をギュウと締め付け、大きく震えた脚は一瞬硬直してすぐ弛緩した。腹に張り付かん勢いで起立しているエドガーの陰茎からは何も溢れはしなかったが、角度を保ったまま僅かに萎む。
 数秒息を止めたエドガーが再び浅い呼吸を始めた時、自身のものを呑み込んでいる箇所がヒクヒクと収縮している様をマッシュは感じた。挿入しただけで空イキした過敏な身体を労わるように撫でて、未だ不自然に四肢の彼方此方を痙攣させるエドガーの奥へ、挿し入れたままのものを突き進めた。
「ヒッ……」
 反射的に膝を引き上げたエドガーに合わせて膝裏を掬い上げ、両脚を開かせる。自分を拘束しようとする手にエドガーは僅かな抵抗を見せたが、すぐに突き上げられる動きに合わせて顎を反らして呼吸を確保することに集中し始めた。
「あああ、だめ、だめだ」
 譫言のような声色で呟かれた後、エドガーは再び腰を浮かせて身体を畝らせた。陸に打ち上げられた魚を思わせる動きでまた軽い絶頂を迎えたことを知り、マッシュは優しく目を細めるも腰の動きを止めようとはしなかった。
 やや緩慢に奥を穿ち、自分ではコントロール出来ずに波打つ身体を持て余すエドガーの秘部を深く拓いていく。このまま加減していても、一度エドガーにスイッチが入ってしまえば何度となく絶頂し続けることをマッシュはすでに知っている。
 執務を終え寝支度で緩く編み直した髪の解れた結び目、仄暗い灯りの下でも分かる紅潮した頬を順に見つめる眼差しには他意のない愛おしさのみが溢れ、エドガーに苦痛を強いる気が全くないことをきっぱり示していた。
「もう一回、イッてもいいよ」
 穏やかな囁きに対し、エドガーにはまともに会話を返す余裕がなかった。頻回の呼吸ですっかり乾いた唇を不器用に開いて、ほとんど言葉にならない喘ぎ声を漏らす。
 それでも微かに首を横に振る仕草を受け取りうん、うんと頷いて、マッシュはエドガーの両膝を合わせるようにして脚を閉ざし、ゆっくりと片側に倒した。
 挿入の角度が変わって小さく呻いたエドガーは、先程までより理性的な溜息を吐く。安堵が色濃く出たその吐息は、快楽による翻弄から僅かに解放されたことを表していた。
 あの夜を経て、過敏を極めたエドガーの身体は時に本人の心身を酷く疲弊させた。
 単純に快楽を受け入れて溺れることを由としない性格であるのも一因だが、身体が自身の支配を離れて行くことがエドガーにとって恥と恐怖を感じさせるようだった。
 何より、自分一人だけ極まってばかりではマッシュに愛情を返せているのか自信がないのだと、小さく零したのをマッシュは耳にしている。抱かれるだけでなく抱き合いたいのだと、エドガーの葛藤をマッシュは正しく受け止めた。
 わざと良いところから外した場所で、マッシュは緩く腰を打つ。エドガーが応えるように孔を締めた。
 狭まったマッシュの眉間を横目で見上げ、エドガーは微笑する。恍惚とした笑みから溢れる慈愛にも似た色はマッシュの胸にじわりと広がり、最奥を握り締めて離さない。思わず脚を割り開いて激しく貫きたくなる衝動を堪えて、マッシュは自分にも迫り上がって来た甘美な波を受け入れていった。
 マッシュ、とエドガーの口が動く。目敏く捉えてマッシュが身を屈めると、エドガーはやや苦しそうに頭を擡げながらマッシュの後頭部に手を伸ばし、唇を合わせてきた。心地良く唇を食まれながら腰を振るマッシュの呼気に熱が増す。うなじから汗で湿った背中を滑り撫でたエドガーは、もう一度マッシュ、と掠れた声で呼び掛けた。
 マッシュは小さく笑い、自分からもエドガーの唇を覆うように口付けて、合わせていた膝をゆっくりと開かせる。ほぼ同じだけの熱を宿した青い目を重ねて、確かめ合う眼差しを互いに受け取り、二人で快楽を得るべく抱き締め合った。
 強く胸に寄せたエドガーの身体を抱き起こし、繋がったままの箇所が抜けないように下腹に腰を下ろさせる。マッシュに跨りながら、自身の体重を支えるべく力を込めて硬くなったエドガーの腿を優しく撫でた。
「動くよ。いい?」
 エドガーはすっかり上気した頬で、浅い息と共に「ああ」と呟いた。眦はとろんと下がり、マッシュを見つめる瞳は潤んで今にも内から雫が溢れ出そうではあるが、焦点は定まっている。
 マッシュはなだらかに弧を描いたままの唇で音を立ててキスをして、その茶目っ気のある仕草とは裏腹に強い力でエドガーを抱き締め、凶悪なほど雄々しく腰を突き上げた。
「ッ……」
 エドガーの声が詰まる。同時にマッシュの首や背に回した腕の力が強まり、その弾力のある肌に容赦なく爪を立てた。
 鋭いだろう痛みに眉ひとつ動かさず、マッシュは腰を力強く打ち付ける。マッシュに縋りながらエドガーが漏らす嬌声が徐々に甲高く乱れ始めた。
 エドガーの箍が外れる箇所をマッシュは掌握している。完全に怒張し切った逞しいもので貫いた奥にぶつかる壁は、二人がぴったりと肌を密着させなければ掠る程度にしか届かない。
 エドガーは未だ最後の理性が抵抗するのか、恐らくは無意識に脚を踏ん張って腰の位置を留めていた。いつかは自ら腰を落としてくれるだろうかと未来に仄かな憧れを抱きながら、自分が先に限界を迎えてはたまらないとマッシュがエドガーの腰を掴む。
「ひ、やっ……」
 本能的に身を捻ろうとしたエドガーを逃さぬよう、マッシュは掴んだ腰を引き下ろしつつ結合部を強く突いた。顎をピンと伸ばして悲鳴じみた声を上げたエドガーは、それから突かれる動きに合わせてビクビクと身体を跳ねさせながら顔をぐしゃぐしゃに歪める。
「あーっ、ああーっ、あ〜ッ……」
 まるでマッシュのために用意された象であるかのようにしっくりと繋がったその果てを、トン、トンと意図的に突いてやる。その都度内壁は畝りながら陰茎に絡み付き、中で煮える熱い精を搾り取らんばかりに締め上げた。
 頭を振って身悶えるエドガーから滴る汗と涙と唾液がマッシュの肩や背を濡らす。奥歯を噛み締めたマッシュの獣じみた荒い呼吸と理性を飛ばしたエドガーの喘ぎ声が混じり合い、肌から立ち昇る蒸気すら見える熱気の中、絶頂を迎えたエドガーの張り詰めて大きくしなる身体の中に熱い精液が注ぎ込まれた。
 ガクガクと揺れる足腰を崩折れないよう支え、緩く腰を突き上げて一滴も残さぬよう吐精する。揺さぶられる度にビクンと顎を上げるエドガーの頭が垂れると、そこにあるのはぼんやりと蕩けた青い瞳が陶酔に浸る様だった。
 肩に預けられた頭を優しく撫で、マッシュは未だ不規則に痙攣を繰り返す身体を抱き締める。ヒクつく蕾は萎んで微かに収縮する陰茎を呑み込んだままだった。
 事が終わってすぐに抜くとまるで半身を奪われたかのように心身を不安定にさせて泣くエドガーのために、マッシュは時間をかけて全身に広がる熱の波紋が収まるのを待つ。マッシュの背中の汗がすっかり冷える頃、耳に届く呼吸が徐々に深くなり、マッシュに凭れる身体からは震えが抜けて重みが増していた。
 マッシュは慎重にエドガーの上半身を片腕に寄せ、瞼が下りたその表情に苦痛がないことを確認して、汗で乱れて張り付いた前髪を額から剥がしてそこへ恭しく口付けた。鼻に、頬に、唇にはやや長めに、順にキスを落としてそっと身体をベッドに横たえる。
 ようやく繋がりが外れた結合部はマッシュの象そのまま、僅かに窄まった。赤く腫れぼったいそこを愛おしげに見つめてから、マッシュもまた乱れて額に垂れていた己の前髪を掻き上げる。
 そして入眠した愛する人に毛布をかけ、その身体を清めるべくベッドから下りた。



 エドガーが目を覚ましたのは二時間近く経ってからだった。
 うとうとと微睡みつつも完全には寝入っていなかったマッシュの腕の上で、エドガーは緩慢に身動ぎしながらぼんやり瞬く。微笑したマッシュは指に絡めたままだったエドガーの髪を柔らかに撫でた。
 心地好さそうに一度目を閉じたエドガーが再び目を開いた時、夢現だった眼差しにはしっかりとした光が戻っていた。
「また、気を失ってしまったのか……」
 ぽつりと呟くエドガーの頭を抱き寄せ、マッシュは頭頂にキスをする。
「でも、前みたいにいきなり失神するようなのじゃなかったよ」
「お前が加減してくれたからだろう」
 それだけではないと思うけど、そう言いかけたマッシュはしかし口には出さずにエドガーの頭を撫で続け、眠っている間に編み直した毛束を優しく握って頭を擦り寄せた。
「身体、辛くないか?」
「う……ん、喉が、渇いた」
「分かった」
 するりとエドガーの頭の下から腕を抜いて身を起こし、マッシュはサイドテーブルに用意していた水差しを手に取る。──まるで辛いことはないだろう、証拠にエドガーは起き上がろうとしない。
 労わるように肩を支えてその身を自身に凭れさせ、水を注いだグラスを渡す。用意したのはもう随分前なので室温になっているだろうが、疲れた身体には冷た過ぎるより良いのではないかと、喉を鳴らして水を貪るエドガーを見てマッシュは思った。
 一気に中身を飲み干してふうっと息を吐いたエドガーは、空のグラスを見下ろすように俯く。その横顔に思うところがあるのを嗅ぎ取り、マッシュは直接尋ねる代わりにエドガーの肩を掴む手に力を込めた。チラリと目線を寄越したエドガーが、気恥ずかしそうに眉を下げる。
「……本当に、幻滅、していないか」
 マッシュは表情を特に変えずに頷く。予想はしていたといった顔だった。
「しないよ」
 またエドガーがチラリとマッシュを見る。即答したためか疑いの色が含まれていた。
 初めてエドガーが情事の後に子供のように泣いてから何度となく夜を重ねて来たのだが、あられもなく反応してしまうことをエドガーは確かに恥じていた。声を上げること、繋がっただけでも気を遣ってしまうこと、感極まるとぐずぐずと泣いてしまうこと、その何れもがみっともなく情け無いことだと本人は本気で思っているらしい。
 マッシュとしては、そんなエドガーに本当に幻滅しているのならそもそも夜を共にしないだろうというのが本音だ。愛する人を醜いと思うような行為をあえて強いる理由などなく、どの姿も愛しいからこそ肌を合わせているのだが、うまく言葉を尽くせていないようで信じ切ってはもらえない。
 それでもちょっとしたきっかけで反応してしまう身体を、マッシュが求めることを拒まないエドガーとの溝はいつか埋まるとマッシュは信じていた。どちらか一方だけが快感を得るのではなく、一緒に気持ち良くなろうとしてくれていることが愛しかった。
 元々エドガーの身体を変えたのはマッシュだった。そのことをエドガーは決して責めなかった。
「愛してるよ。全部」
 素直な気持ちを口に出せば、恥じらい戸惑いながらもエドガーは黙って身を預けてくれる。
 いつか何も引け目を感じることなく二人で溺れてしまえたらと願いながら、きっとその日は来るのだとマッシュは強く思う。
 俯く顎を掬い上げると、見上げた瞳には迷いも期待もどちらも揺れているように見えて、マッシュは堪らずに愛を込めて口付けた。