砂漠の手前で降りた場所から、頭上に煌めくファルコン号が豆粒になって消えて行くまで見送った。 もうあの飛空艇で仲間たちと空を駆ける旅をすることはない。全ては終わり、故郷や所縁の地に散った仲間はこれからそれぞれの道を行く。 闘いは終わったのだ。ボロボロに薄汚れた格好で、魔法がなくなった世界で傷の手当てもままならず、それでも皆笑顔でファルコンを降りていった。 また会おう──合言葉のように別れの言葉を残して、いつ来るのか分からない「また」を誓った。 そして自分もまたファルコンを降りた。弟であるマッシュと共に。 体はくたびれているが、城まで歩けない距離ではない。行こうかと振り返った視線の先、マッシュが唇を引き締めて真剣な眼差しを自分に向けていた。 どうした、と尋ねる前にマッシュが口を開き、低くきっぱりした声で告げた。 「……兄貴。ずっと、言わなきゃならないと思ってたことがある」 珍しく真面目な顔で話し出すマッシュを前に、思わず動揺して言葉を遮りそうになる。──まさか、城には戻らないとでも言い出すのではないか。 しかし最後まで話を聞く義務があると思いとどまった。ファルコンを降りて二人だけになったタイミングでマッシュが口を開いたのだから、自分はその言葉を聞かなければならない。意を決してマッシュに向き合い、弟が話す内容を受け止めようと背筋を伸ばした。 「……十七で城を出て、好き勝手やらせてもらった。俺たち二人にフィガロを任せると言った親父の遺言を、俺だけ反故にしてしまった」 それは、とつい口を挟みそうになるのをぐっと堪える。マッシュの目は話を途切れさせてくれるなと静かに訴えているようだった。 「あの時の俺は今よりずっと子供で、無力で……あのまま城に留まっていても、きっと兄貴の力にはなれなかったと思う。だから城を出たことは後悔していない。だけど、俺がいない間の十年、兄貴が一人で支えたフィガロを……俺が捨てたフィガロを、俺は故郷として愛してる。フィガロを守り続けた兄貴のことを、……世界で一番愛してる」 真っ直ぐに自分を見つめる青い瞳を見返す視界が揺らぐのは、情けなくも滲み出る涙がこの目を覆わんとするから。せめて雫のひとつも零すまいと唇を噛み締め、握り締めた拳が震えるのは抑えきれずに黙ってマッシュの言葉を受け入れる。 マッシュは目の前でおもむろに膝をつき、呆れるくらいに純粋な、しかし意思を持った大人の男の目で自分を見上げて言葉を続けた。 「虫のいい話だと分かってる。だけど俺はこれから先、兄貴とフィガロの力になりたい。……お願いだ。貴方の隣に、俺の居場所をください」 そう言って頭を垂れたマッシュの金色の髪を見下ろして、返すべき言葉を探して心を彷徨わせる。 馬鹿なことを、と諌めるべきか。居場所なんてもうとっくにあるではないか。ずっとずっと、闘いの間肩を並べて歩いてきたではないか。 お前のいないフィガロなど、もう俺には考えられない──そう告げるべきかと言葉は惑い、いや、浮かんだどれでもないのだと自分もまた膝をついた。 そして手を伸ばして自分に跪く弟の体を抱き締めると、堪えていた涙がころりと落ちてマッシュの肩を濡らした。 「……おかえり、レネ」 ──ああ、これで充分ではないか。 マッシュの肩が震え、次の瞬間息が止まるくらいの力で抱き締められた。負けじと自分の腕にも力を込める。 愛してる、愛してる、愛しい弟。 やっと帰ってきてくれた。 おかえりマッシュ。ほら、俺たちのフィガロが見える。 |