相変わらず長い。溜息ひとつ、時計を見るのも馬鹿らしくなってシャワールームのドアの前まで押しかけた。
 水音が聞こえる磨りガラスの向こうで肌色のシルエットが小さく動いている。あの長い髪を念入りに洗えばそれは時間がかかるのは分かる。だけどなかなかこの扉が開かない理由はそれだけではないだろう。
 ノックもなくドアを開くと、こちらに背中を向けて湯を浴びていた兄がぎょっとして振り向いた。背中を覆い隠す金色の髪が艶やかに濡れている。髪はすでに洗い終わっているようだし、身体なんてさっさと流せばそれで構わないのに、いつまでもこの狭い空間に閉じこもって出てこない。
「な、なんだ。急に開けるな」
 兄は頬を赤く染めて腕でさりげなく身体を隠した。今更だと思わず笑ってしまう。全くこの人は、何度その身体を拓かせても生娘の気分が抜けないらしい。
「あんまり遅いから、中で倒れてるのかと思った」
 じいっとその身体を上から下まで舐めるように見つめながらそう告げると、兄の赤い顔がむっと顰めっ面になった。そしてこちらに背を向けて暗に拒絶の意思を示す。
「大丈夫だ。……もうすぐ出るから、早く閉めろ」
 もうすぐ、の感覚は多分自分とは違う──もうとっくに待てなくなっていた足が勝手にシャワールームに侵入していた。兄が驚いて再び振り向く前に、全く隠れていない引き締まった尻を鷲掴みにしてもう片方の腕で濡れた身体を抱き寄せた。
 頭から湯を被るが気にしない。服だけは脱いだ方が良かったかもしれない。べたりと身体に張り付いたシャツは不快だった。
 兄が腕の中で暴れるので黙らせるために口を塞ぐ。強めに尻を揉みしだけば抵抗は弱まる。いい加減降ってくるシャワーの湯が鬱陶しくなり、手探りで止めた。水音が止めば口付けの合間の息遣いしか聞こえなくなる。
 舌を捩じ込み少々強引に口内を荒らした。兄の足から力が抜け始める。尻を掴んで支えながら、口付けの合間に改めて濡れた兄の美しい裸体を視姦した。
 白い肌を桜色に染めて、たっぷり時間をかけて隅々まで磨き上げていたのだろうか? いや、この人はこう見えて呆れるほどに臆病だ。心の準備が整わなかった──いつものことだ。
 誇り高い王たる兄は、弱い部分を人に見られることを極端に嫌う。それは素肌を晒す時も同じで、血を分けた自分にでさえ何もかも曝け出すことを躊躇う。どうせ快楽に落ちてしまえば啜り泣きながらあられもない姿で脚を開く癖に、ギリギリの瞬間まで兄は兄で在ろうとし王で在ることも忘れることができないらしい。
 だからこんな風に分かりきった情事の準備をしている時も、理性が情欲を抑え込もうとする。一人の空間で冷静に考えようとする。抱かれるために身体を清めながら、その行為に罪悪を感じて動けなくなる。
 怖気付いた兄の決断をのんびり待っていたら夜が明けてしまう。この人にはこれくらいが丁度いい。頑ななドアをこじ開け、無理やり身体を攫って屈服させるくらいでなくては素直にさせてあげられない。
 すっかり息が上がった兄の目が蕩け始めた。潤んだ青い瞳を半分近く覆った瞼が震えている。半開きの唇の端からは唾液が垂れ、身体中に散っている水滴に混じった。その濡れそぼった肢体の美しさは例えようもない。
 シャワールームの壁に兄の背を押し付け、自分の下半身を急いで寛げる。壁で兄の背中を支えながら、しなやかな筋肉を纏う長い両脚を抱え上げた。拡げた身体の中枢に繋がる入り口へ猛ったものを押し当て、先端をぐいぐいと潜らせる。兄は両手を自分の背に縋らせて爪を立て、顔を肩に擦り付けて声を殺そうとする。

 そんなことをしても無駄なのに。一番奥を貫けば、強張った身体はほらすんなりと解けていく──可愛らしい嬌声も我慢できなくていいんだよ。
 少し乱暴に堕とした後は、きちんとベッドで優しく愛してあげるから。欲しいものを全てあげる。そしてこの人を縛り付ける肩書きやプライドから臆病な心を解放させ、望むがままに自由にしてあげよう。

 腕の中でくたりと力なく身体を預ける兄の額にキスをして、兄を貫いていたものをずるりと抜き、大きく開いた脚を揃えて横抱きに抱える。
 さあこの狭い檻から出してあげる。貴方がひたすらに隠し通そうとする、本当の姿で愛し合うために。