嫉妬




「小麦粉に、水に……、卵っ……と」
「うむ」
「そんで混ぜる」
「うむ」
「で、さっき切った野菜をつけて……」
「うむ」
「油で揚げて……」
「うむむ」
「……できたっ」
「おお!」
「どうだ? カイエン」
「見事な天ぷらでござる」

 次々と揚がる天ぷらが皿の上で山になっていく。鼻歌を歌いながら天ぷらを揚げていくマッシュの背中に掴まりながら、ガウがひょいとキッチンに顔を出した。
「こらガウ、油跳ねるから引っ込んでろ」
「がう〜」
 ガリガリ背中に爪を立てられながらもマッシュは気にせず手を動かし続け、その横でカイエンが顎に手を添えてうむむとうなり続けていた。
「しかし器用でござるなマッシュ殿、拙者のうろ覚えの材料でこうまで完璧に作るとは」
「まあ合ってるのか分かんねえけど……味はどうだ? カイエン」
 味見の許可と受け取って、カイエンは律儀に「失礼」と一礼してから出来立ての天ぷらをひとつ摘んだ。
「うむ! まさに天ぷらの味!」
「ガウも、ガウも!」
「ガウはもうちょっと冷めてから! うまくできてるみたいだな。たくさん作ってみんなに配りにいくか」


「……それでこの大量の『天ぷら』とやらを持ってきたのか」
 飛空艇に城の仕事を持ち込んで缶詰になっていた兄の元へ、息抜きにどうぞとマッシュが差し出した天ぷらを見て、かけていた眼鏡を外しながらエドガーが呆れたように言った。
「ああ、カイエンがドマでよく食べてたって零しててさ。どんなのか聞いたら簡単に作れそうだったから」
「ふうん」
「奥さんの得意料理だったんだってさ。まあ奥さんの味とは程遠いだろうけど、それでもうまいって褒めてくれて」
「ほお」
「ガウもがっついてさー、まだ熱いっつってんのに食い意地張って口に突っ込むから舌やけどしたって大騒ぎして走り回って……」
「マッシュ」
「なに?」
 エドガーは座ったまま頬杖をつき、目の前で両手に皿を持つマッシュを意地悪そうに見上げた。
「お前は人たらしだねえ」
「え?」
「知らないうちに仲間を増やしてくるし、みんなと仲良くなるのは早いし」
「んー」
「あまりにカイエンやガウとべったりしているから、俺はどうやら嫉妬しているようだ」
「ええー?」
 言葉の割ににやにやと含み笑いで見るエドガーを困ったように見下ろし、ふと何か思いついたように改めて両手の皿を見せた。
「じゃあさ、この天ぷらの皿、どっちかロックに持ってこうと思ってるんだけど、兄貴はどっち持ってったらいいと思う?」
「急に何を……いや、こっちだな。このキノコの盛り合わせ」
「なんで?」
「あいつな、キノコが苦手なんだとさ。それが情けなくて、トレジャーハント先の山で迷って食べるものがなくなった時にそこらに生えてたキノコを食べてあたったらしい。もう二度とキノコは食わないなんて喚いていたが、食えるキノコと食えないキノコの違いくらい……」
「兄貴」
「うん?」
「俺もこういうのですぐ嫉妬するけど?」
 ぱちぱちと瞬きするエドガーを見てマッシュはにっこり笑った。三秒置いてエドガーも吹き出す。
「そうか」
「そうだよ」
「なら仕方ない」
「嫉妬されたご感想は?」
「……悪くない」
「うん、俺も」
 マッシュはキノコが乗っていない方の皿をエドガーの机に下ろし、これかけて、と塩の小瓶も置いた。
「じゃあロックに届けてくる」
「ああ。……マッシュ」
 ドアに向かうマッシュにエドガーが呼びかけると、マッシュは首だけ振り返る。
「愛してるよ」
「俺も」
 微笑み合って扉は締まる。
 部屋に残されたエドガーと大量の天ぷらが乗る皿。
「……胸焼けしそうだな」
 苦笑しながら小瓶を手に取った。