疎通




 飛空艇の食堂にめいめい集まって朝食をとるいつも通りの朝。
 顔を出して元気よくおはようの挨拶をしたマッシュは、トレイをふたつ手にとってその上に食事を乗せていく。
 隣に並んだロックがひょいとマッシュの手元を覗き込んだ。
「おはよ、マッシュ。二人分?」
「おーおはよう。うん、兄貴の分。先行ってろって言われたから」
 そう言いながら自分とエドガーの分の食事をそれぞれのトレイに乗せたマッシュは、最後にカップに半分ほどコーヒーを注ぎ、残り半分をミルクで満たした。それをエドガーの分と思しきトレイに置いたのを見たロックがあれ、と声を上げる。
「エドガー、ブラックしか飲まないんじゃなかったっけ」
「うん、普段は。多分今日はこっちだよ」
 何でもないことのように自分用の紅茶を用意しながらマッシュが答えた時、食堂の入り口から噂の人であるエドガーの声が聞こえてきた。
 マッシュとロックが振り返ると、エドガーもまた二人に気づいて近づいてくる。
「やあロックおはよう。ああマッシュすまないな、俺は今日コーヒーにミルクを」
「入れたよ」
「え?」
 トレイごとエドガーの分の食事を差し出したマッシュがにっこり笑い、エドガーはマッシュの顔とトレイの上のカフェオレを交互に見て瞬きをする。
 それから吹き出すように小さく笑い、お見通しだな、とトレイを受け取るエドガーに、ロックが解せないといった調子で首を傾げた。
「お前らたまにテレパシーでも使ってんのかって思う時あるよな。なんで分かんの?」
 首を向けられたマッシュは誇らしげに微笑み、さあね、と前置きをしてから答える。
「兄貴のことなら大体分かるよ。離れてる時間が長かったからかな」
 ロックが納得いかない、と顔を顰めた。
「普通は余計に分かんなくなるだろ」
「そうかな?」
 マッシュの含みのある笑みを見たエドガーが、肘で弟の頑丈な腕を突く。
「さ、無駄話はそろそろ終わりにして食事をいただこうじゃないか。今日の朝食当番はセリスだったかな? これは味わって食べねば」
「エドガーてめえ、変なこと考えたらぶん殴るぞ」
 笑うエドガーと彼を睨むロックの後ろに続き、マッシュもまた笑いながら朝食の席についた。





 部屋の中に荒い呼吸が満ちている。
 頸を吸い上げると、顎を仰け反らせたエドガーの長い髪がマッシュの顔を覆い、その髪の匂いに陶酔するようにマッシュは睫毛を伏せた。
 深く繋がった部分からぐちぐちと粘液の混ざる音がする。背中を完全にマッシュに預けたエドガーは、天を仰いで喘ぐ自分の頭の重さに耐え切れず、マッシュの肩に後頭部を乗せて僅かな休息を求めた。
 ふいにマッシュが低く笑った。その吐息が耳にかかりエドガーの体が敏感に震える。
 笑った理由を問うためにゆっくり首を回したエドガーの快楽に蕩ける目と、緩く口角を上げたマッシュの熱情に燃える雄の目がかち合う。マッシュは薄っすら唇を開いてエドガーの無言の問いに答えた。
「……ロックが、さ。なんで分かるんだ、って。聞いてたろ」
 エドガーは答えられず、ただ荒い息遣いだけで相槌に代える。
「分かるさ。離れてる間、毎日死ぬほど兄貴のこと考えてたんだ。十年経ってやっと逢えた。それからずっと兄貴を見てる。一秒だって無駄にしない……これだけ見てりゃ何だって分かる」
 エドガーが僅かに目を細めた。そしてうっそりと微笑み、絶え絶えの息に混じらせて掠れた声を絞り出す。
「……じゃあ、今、考えてること……分かる、か?」
 マッシュもまた挑発的に笑い、わかるよ、と小さく呟いてから、
「もっと酷くして欲しいって思ってる」
 そう答えてエドガーの唇を乱暴な口付けで覆い、下から腰を強く突き上げた。塞がれたエドガーの口で籠もった嬌声が出口を失う。無理に首を曲げていたエドガーが快楽の狭間に苦痛で眉を歪めた瞬間、マッシュはエドガーを貫いていた自身を引き抜いて力の入らない兄の体を倒し、強引に脚を抱えてヒクついた入り口を再び刺し貫いた。
「あ──!!」
 塞ぐものがなくなったエドガーの口から悲鳴が溢れる。マッシュは体を深く倒し、エドガーと胸を合わせてより奥へと熱を繋げた。背中に感じるエドガーの爪の刺激に薄ら笑いを浮かべて、攻められると弱いことを知っているエドガーの耳を舌で嬲りながら腰の動きを速めていく。
 びくびくと二度三度不自然に震えたエドガーの体からくたりと力が抜け、マッシュもまたずるりと抜いた自身に手を添えて精液を絞り出した。エドガーの腹の上で二人の濁った液が混じり、それを見下ろしたマッシュは据わった目でエドガーに視線を寄越す。
 恍惚に赤らんだ瞳でぼんやりとマッシュを見上げるエドガーは、満足げに淫靡な笑みを浮かべていた。
 ──ほら、やっぱり何でも分かる。
 マッシュもまた満ち足りた微笑みを見せて、エドガーの望み通りに愛を込めた口付けを捧げた。