欲張り




 その夜は何となく一人で眠るのが寂しくて、ベッドを抜け出してドアを開けた途端に目の前にいたマッシュに驚き、マッシュもまた驚いて頬を赤らめた。
 何となく寂しくて、と自分と同じ台詞を言うものだから、つい苦笑して部屋に招き入れる。
 お茶でも飲むかとかけた声には返事がなく、背中から包むように抱き締められてごくりと喉を鳴らした。
 首筋に当たる唇が肩をぴくぴくと震わせる。薄手の寝衣の隙間から無骨な指が滑り込み、鎖骨を撫でて胸まで。突起をそっと摘まれて、あ、と吐息が溢れた。
 顔が見たくて身を捩ると、耳まで赤くしたマッシュが蕩けるような目で自分を見つめる。思わず強請るように唇を開くと、簡単に望みは叶えられ、優しく塞がれた隙間から温かな舌がそっと歯列をなぞった。
 口づけは深くなり、腰から力が抜けてマッシュの胸に縋る。マッシュは軽くない体をひょいと抱え上げ、労わるように抱き寄せながらベッドへ優しく降ろしてくれた。
 ぎし、と軋む音と共に伸し掛かってくるマッシュの衣類に手をかけ、脱がす手伝いをする。露わになった鍛えられた胸を目にするとぞくりと腰が震えた。
 マッシュの指がひとつひとつ寝衣のボタンを外していき、肌けられた胸に噛み付くように口付けられた。チリチリと焼けるように痛むその場所には赤い華が咲き、その横の突起を優しく口に含まれてまた息が漏れる。舌で転がされると呼吸が荒くなる。思わずシーツを握り締めた。
 マッシュの唇は少しずつ腹に降りていき、臍周りを擽られてから下着ごと着衣をずらされ、緩く立ち上がりかかったそこへと辿り着く。ちゅ、ちゅ、と音を立ててキスをされ、恥ずかしさに目を閉じると、温かい口内にすっぽりと包まれて声が漏れた。
 上顎と舌で扱かれると腰が勝手に動いてしまう。根元から搾り出すように吸い上げられ、程なくして精を吐き出した。マッシュは口元を拭いぺろりと舌で舐めとる。その赤い動きを見るとまたぞくぞくと体が震える。
 今度はと身体を起こし、マッシュの厚い胸を優しく押して下腹部に顔を埋めた。質量のあるそれの輪郭を唇でなぞり、横から噛み付くようにして舌で嬲る。頭の上でマッシュが短く息をついた。
 下から上に舐め上げて、突起部分だけを咥え込み口の中で掻き回すように舐める。く、と漏れるマッシュの声に気を良くして一気に根元まで咥えると、マッシュの腰がびくっと揺れた。
 頭を上下させて舌と唇で扱く。マッシュが頭を掴んでくる。それでも構わずに口を動かしていると、やや乱暴に引き剥がされた。
 切羽詰まった表情で挿れたい、と囁かれて、期待で胸が高鳴るのを気づかれないようにそっぽを向いて横たわった。そうっと両脚の膝を立て、ゆっくり開くとマッシュはその太腿に手を添えて、指の先を潜り込ませる。くちゅと水を含んだ音を聞いて頬が染まる。
 ややせっかちな動きで中を掻き回され、その余裕のなさに苦笑するものの、若干の物足りなさも感じてしまって自らもういいと告げた。マッシュが潤んだ目で情けなく見つめてくるので、鈍感さに焦れて早く、と囁くと、犬が飛びつくようにキスをされた。
 脚を抱え上げられ、一番奥へと猛り切ったものが充てがわれる。ぐぐ、と感じる圧迫感に思わず目を細め、顔を背けるように頬をシーツに擦り付けた。
 何度も彼を受け入れたその場所は、侵入者に吸い付くような締め付けを見せ、ゆっくりと全てを呑み込んでいく。根元まで咥え込まれたマッシュがはあと大きく息をついて、腰が動き出した。
 ギシギシとベッドが音を立てるのも構わず、マッシュの腰が打ち付けられる。突き上げられるといつも息が止まりそうで呼吸の確保に口を開けるが、そこからは耳を塞ぎたくなるような甘い声が漏れてしまって恥ずかしさに目眩がする。
 マッシュは眉根を寄せて、切なげに細めた目でじっと自分を見下ろしている。その唇からは荒い呼吸の合間にあいしてる、と愛の言葉が溢れ、体だけでなく胸の中もマッシュでいっぱいになっていくのを感じる。
 あまりに切ない顔をしているので、思わず両手を伸ばして頭と頬に触れた。優しく撫で回すとマッシュが照れ臭そうに微笑む。きっと自分も同じ顔をしているのだと思った。
 腰の動きが速くなり、嬌声が堪えられず唇を噛む。噛んではいけないと嗜めるようにキスをされて、いっそこのまま塞いで欲しいと自分からも唇を吸う。
 体の一番深いところで繋がって、そのまま快楽に理性を飛ばした。びくびくと震えて液を零すその根元、マッシュのものを咥え込んだ部分からも白く濁った液体が溢れ出る。
 ずるりと引き抜かれると全身の力が抜けた。後始末もできずに四肢を横たえて放心していると、同じく隣に転がっていたマッシュがゆったりと汗ばむ胸を起こした。
 影が落ち、優しい口づけに目を閉じる。
 あいしてると囁くと、おれもあいしてると容易く欲しい言葉をくれる。
 寂しさが治まっても、今夜はもう一人では眠れそうにない。
 与えられるだけ欲張りになるんだと漏らすと、俺もだよと笑ってまたキスをくれた。