突然アキヒカです。突然始まり突然終わります。

今回は悪魔アキヒカの続きほんのちょっとです。
(アキヒカJUNKにいっこ前のお話があります)






「……なんだキミは」
 引っ張り上げた本人が口にするには、第一声はあまりに態度の大きなものだった。
 しかしアキラはその発言が状況に不釣合いだとは欠片も考えていなかった。生まれた時からみっつの不思議な生き物しか目にしておらず、絶対的なコミュニケーション不足だという理由もあるが、純粋に浮かんだ疑問を真っ先に言葉に乗せたというのが正しいのだろう。アキラは戸惑っていた。
 何しろ自分と同じ形をしたものが、同じ地面の上できょろきょろと首を動かしている。はっきりと挨拶もした。
 「彼ら」が言葉を話すというのは水晶を覗いていて理解していた。だが、実際に耳で彼らの声を聞き取っていたというより、水晶を通して彼らの口の動きを見ることによって言葉を受け取っていた、という表現のほうが正しいと思われた。
 よって、彼らの言葉を「受信」していた経験はあっても、「聞く」のはこれが初めてだったのだ。動き、話す自分と同じ形をした生き物――未知の生物にアキラは狼狽え、大いに動揺した。
 ところが金色の前髪を持った青年は、アキラの質問には答えずにただ首を回し続け、薄暗く陰気な室内を充分なほど目で確認してからぽつりと言葉を漏らすだけだった。
「これ、映画のセット?」
 アキラは眉を顰めて瞬きをした。
 自分が要求した質問に対する答えでないだけではなく、彼の発した単語は全て意味が分からなかったためだった。
 青年はぽかんと半開きだった口をそのままに、ようやく自分が尻餅をついていたことに気づいたのか、腰の辺りをパンパン手で払いながらそろそろと立ち上がる。
 どうやら背丈はアキラと同じくらいのようだった。僅か一メートルの距離で向かい合った二人は、複雑な顔を見合わせる。
「ここ、何?」
 またも彼はアキラの質問には答えなかった。そればかりか新たな質問を寄越した。
 何度も瞬きを繰り返しながら、アキラは困惑した。「ここは何か」という質問にぴったりくる答えがよく分からなかったのだ。
 この世界しか知らないアキラにとって、ここが何であるかだなんて考えたこともなかった。この場所は自分の暮らす空間で、それ以外の何でもない。
 闇を纏った城の存在が何であるのか、考えるきっかけを得たのはそれが初めてだった。
 アキラがうまく言葉を返せないでいると、割って入るようにみっつの不思議な生き物が飛び跳ねて近づいてきた。
「若旦那、もウ少し下がったほうガいいでス」
 ニヤニヤ笑いながらアキラに囁き、彼らは青年を取り囲むように飛び跳ねる。
 言われた通りに思わず後退したアキラは、少し目が楽になったことに気づいた。
 どうやら瞬きの回数が増えていたのは、動揺しているせいだけではなかったらしい。彼がなんだか眩しいのだ。あの前髪がそうさせるのか、彼を取り巻く空気が何故だかアキラの目を刺すようにぼんやり輝いている。
 青年はぴょんぴょんと跳ねる不思議な生き物を見て、大きな目を更に広げた。
「うわっ、何コレ!? ロボット? ぬいぐるみ? すげー、動いてる」
 物怖じしない彼は、ぱっくり裂けた口で不気味に笑う生き物を見ても怖がることはないようだった。
 ドリカスがアキラを振り返り、眠りの魔法を、と小さく囁く。アキラは魔法をかける理由が分からずにただ戸惑った顔をしたが、ドリカスはやや語調を強めて再度要求した。
「眠レば光も弱まりまス。早く」
 光に当たった目がじんわり痛み始めていたことを思い出したアキラは、狼狽しつつも不器用に魔法の呪文を唱え始めた。彼は恐らく感受性豊かなのだろう、アキラの拙い呪文をすんなり頭に浸透させたようで、数秒も経たないうちにぱちんと瞼を閉じてしまった。
 再び床に崩れた彼を、生き物たちが身体と地面の間に潜り込んでひょいと持ち上げる。小さな生き物たちが掛け声を合わせて彼を運んで行くのを、アキラは呆然と見ていることしかできなかった。
 水晶の部屋から彼の身体が運び出されると、また部屋に重苦しい闇が戻る。アキラは思わず水晶を振り返った。先ほどの彼に比べて、この光はなんと弱弱しいことか。
 彼は何者なのか。アキラの疑問はついに晴れなかった。違う世界の生き物なのだということは分かるが、それだけだった。
 何故彼を引っ張り上げてしまったのか、まじまじと闇の中で手のひらを見つめる。
 動き、話した。自分とよく似た形の生き物――
 目を刺すような光だったというのに、痛みだってまだ取れていないのに、不思議とあの白さが胸に残る。
 焼きついた光の残像がまだ離れていかない。


 ――元の世界に返すのはまずい。
 帰り方をあの人に知られてしまったら大変だから。
 放っておけば闇に溶けて消えてしまうだろうけど、
 光の力が強ければ悪いことが起きるかもしれない。
 さて、この光害をどうしようか……――






続きを足掻いてみました。
こんな雰囲気で書けたらいいなあ、というお話でした。
今度こそ続きません!

(2009.04.14)


閉じますよ