塔矢アキラはイイ男だ。……と思う。 最初は恋人フィルターがかかってカッコ良く見えるのかと思ってた。でもどうやらそれだけじゃないらしい。 街を歩けば女の子が振り返る。ヘンな頭してるせいで笑われてるわけじゃない。目の形が違う。顔なんか赤らめてるし。集団で歩いてる時はみんなでヒソヒソキャーキャー言ってる。あんま気分良くねえ。 あの奇抜な髪型に文句を言わせないほどのイイ男ぶり――侮れない。危険だ。 俺は塔矢を観察することにした。 棋院での塔矢は文句なくカッコイイ。 一般客も多いから常に緊張感保ってるし、アイツ基本的に礼儀正しいし。いっつも怒られてばっかりの俺とは違う。 碁盤の前に正座してる姿。ピンと背筋伸びてカッコイイ。真剣な目してる横顔とかマジちびりそう。ヤバイ、イイ男だ。こりゃ女の子も惚れちゃうよ。 帰り道の塔矢も勿論カッコイイ。 歩く姿勢がなんか男らしいんだ。結構デカイ身体してんのに絶対背中丸まんないし、足の動かし方とかしゃきしゃきしてるからサマになる。 ちょっと寄り道した店でも、次に来る人のためにドアさりげなく押さえてたりするのが嫌味なくらい似合う。すいません、とか小さくお礼言う女の人ににこって笑うとこも腹立つくらいカッコイイ。 なまじ付き合ってから俺がアレコレ服装に口出したから、前みたいにキテレツな服も着なくなって見た目も完璧になっちまった。まずった。服はあのままにしておけばよかったかも。 帰って来た後の塔矢だって当たり前のようにカッコイイ。 コート脱ぐ腕の動きとか、ボタン外す指先とか。軽く髪掻き上げて、面倒くさがる素振りも見せないで台所立つ姿も見惚れるくらいイイ男。 コイツ案外手先も器用なんだ。料理美味いし。イイ男がフライパン持ってる姿ってなんでこんなに絵になるんだろう。ヤバイ惚れ直す。 できた料理も綺麗に皿に盛り付けして、割と凝った食器とかに映えるなんちゃら風なんちゃらみたいなオシャレなメニューが並んだら、例えイイ男じゃなくても尊敬する。おまけにこれ作ってんのが半端なくカッコイイヤツだなんて、神様いろんなもの与えすぎだろ。凹む。惚れる。 美味いっつったら嬉しそうに笑う。笑顔が可愛い。切れ長の目が細くなると凄く優しい印象になる。綺麗な口唇は弓なりに吊り上がってもやっぱり綺麗。 ああ、こんなにいい男なのに、文句も言わずにさっさと後片付けまでこなしちまうんだ。俺ってば上げ膳据え膳。我儘言ってもあんまり怒んねーし。つうか軽く窘められて終わる。なんかコイツの手の中で転がされてる感じする。 今日も一日塔矢はイイ男だった。 それが嬉しいけどちょっと悔しい。あんまり敵増やしたくないし。コイツが無自覚だから俺が余計な心配することになるし。いろいろ気苦労も多いけど。 二人で仲良く潜り込んだベッドの中で、塔矢の手が俺の身体に伸びてきた。 ……、……、……忘れてた。 夜の塔矢はカッコ悪かったんだ。 俺を包むように抱きながらすやすや眠ってる塔矢の寝息を子守唄に、俺は小さくため息をつく。 唯一カッコ悪い部分は人様に見せられるような状況じゃない。やっぱり他のヤツラはカッコイイ塔矢しか見ることないんだなって思うと少しムカつく。 でもカッコ悪い塔矢を知ってるのは俺だけだから、それはそれでいいかな……とも思う。 少なくとも、カッコ悪い塔矢は俺だけの塔矢だ。 |