突然アキヒカです。突然始まり突然終わります。

今回は彼女持ちのアキラさんに片思いしてるヒカルのお話です。






 こうして並んで歩く時間が好きだと―― 一定のリズムを刻む靴音を耳に、吐き出す白い息がじんわり胸を暖めて行く。
「降ってきそうだな」
 低い呟きに、ああと頷き返す。
 少しだけ背中を丸め、マフラーで顎先を覆って俯きがちに、気づかれないようにちらりと隣の様子を伺うと、冷気に栄える黒い髪がさらさらと揺れているのが目に映った。
 形の良い口唇から、ふわりと棚引く白い息に見蕩れる。棋院までの道程、僅かなひととき。
 凛とした気配が隣にある。それだけで心に小さな火が灯る。
「今日は対局の後は? 暇ねえの?」
「ああ……ごめん、彼女が迎えに来るんだ。食事を約束させられた」
 幸せなひととき。
 切ないひととき。
「お前出無精だからな〜」
「よく怒られるよ」
 軽く目を伏せて静かに笑う横顔。

 ――ああ、この顔、好きなんだ。

 目尻に優しさが滲み出た微笑み。
 自分ではない誰かを想って浮かべるその微笑みが、一番好きな顔だなんて切ない。
 だから黙って、ずっと隣を歩いて行く。

 きっと自分も、この男のことを想って同じ顔をするのだろう。
 そう思うと、切なくて笑みが零れた。






(2009.04.14)


閉じますよ