こうして並んで歩く時間が好きだと―― 一定のリズムを刻む靴音を耳に、吐き出す白い息がじんわり胸を暖めて行く。 「降ってきそうだな」 低い呟きに、ああと頷き返す。 少しだけ背中を丸め、マフラーで顎先を覆って俯きがちに、気づかれないようにちらりと隣の様子を伺うと、冷気に栄える黒い髪がさらさらと揺れているのが目に映った。 形の良い口唇から、ふわりと棚引く白い息に見蕩れる。棋院までの道程、僅かなひととき。 凛とした気配が隣にある。それだけで心に小さな火が灯る。 「今日は対局の後は? 暇ねえの?」 「ああ……ごめん、彼女が迎えに来るんだ。食事を約束させられた」 幸せなひととき。 切ないひととき。 「お前出無精だからな〜」 「よく怒られるよ」 軽く目を伏せて静かに笑う横顔。 ――ああ、この顔、好きなんだ。 目尻に優しさが滲み出た微笑み。 自分ではない誰かを想って浮かべるその微笑みが、一番好きな顔だなんて切ない。 だから黙って、ずっと隣を歩いて行く。 きっと自分も、この男のことを想って同じ顔をするのだろう。 そう思うと、切なくて笑みが零れた。 |