茹だるような夜。 空気はこもり、じっとりと湿っぽく、黙っているだけで汗が滲み出て来るような不愉快な暑さ。 布団どころか、服を着ていることさえ鬱陶しいくらいの熱帯夜に、しっかりべったり絡み付いて離れない腕。 ――……暑い…… ヒカルは目を閉じたまま、ずっと眉間に寄りっぱなしだった皺を深くさせた。 このくそ暑い夜に、恋人のおかっぱはがっしり腕の中にヒカルを捕らえたまま眠っている。 寝る時は身体に悪いからとクーラーは止められた。それはごもっともだが、クーラーを止めたことで容赦なく温度の上がった部屋で、どうしてこんなに密着して眠らなければならないのか。 暑苦しい髪型をしているくせに、暑そうな素振りを少しも見せずにアキラはすやすや眠っている。アキラと向かい合うように抱き締められたヒカルは、ベッドに横になってからずっと寝つけずにひたすら不快感に耐えていた。 眠る前にシャワーを浴びたというのに、首から背中から滲み出た汗でべたべただ。ヒカルの身体をしっかり抱えているアキラの腕が、胸が、何もかもが暑い。ぴったりくっついている身体と身体が作り出す、ほんの少しの隙間に生まれる空気が熱くてたまらない。 ヒカルは深く細い息をついた。その息がアキラの鎖骨に跳ね返って自分に返って来る。……生温い空気を受けてヒカルは限界を察した。 もう、無理だ。これ以上くっついていたら全身汗疹だらけになる。その上暑さで一睡もできずに朝を迎えてしまう……。 突き飛ばそう。起きなかったら何発か殴ろう。一度リビングに逃げて、身体から鬱陶しい熱が消えるまでソファで眠ろう――ヒカルはそっと手のひらをアキラの胸に当て、押し返すように力を込める。 それほど力を入れた訳ではなかったが、アキラは自分の胸に感じた圧迫感に気付いたようで、少し身じろぎした後目を開いたようだった。 「ん……? どうしたの……?」 眠たそうな掠れ声で尋ねて来るアキラは、ヒカルの背に回していた腕を軽く持ち上げ、ヒカルの髪に指を差し入れた。優しく梳くように何度か撫でられて、ヒカルは思わず口ごもる。 「……、寝返り、打ちたい」 考えていたこととまるで違う言葉が出て来て、ヒカルは酷い自己嫌悪に陥った。 アキラはああ、と納得したように腕の力を緩める。拘束から柔らかく解かれたヒカルは、バツの悪そうな顔をしながら寝返りを打ってアキラに背を向けた。 アキラは背中から再びヒカルを抱き締めて、そのうなじに顔を埋めると満足そうに呼吸を整え始めた。 少しもしないうちに眠りについたアキラの寝息を耳にして、ヒカルは大きな溜め息をつく。 ――俺、やっぱコイツに甘過ぎる…… 背中にとくとくと伝わるアキラの心臓の音を受けながら、ヒカルは寝苦しい夜を何とかやり過ごそうときつく目を瞑って必死で羊の数を数えた。 |