耳障りな時計の音だけが傍にいる。 白い壁に背中をつけて、緩く立てた膝の上にだらりと置いた右手。力なく垂れた指先は動かず、意味もなく血の通っていないような指の腹を見つめるアキラの黒い瞳もうつろだった。 『ちょっと遅くなるわ』 たった一言の素っ気無いメールが来てから、すでに四時間が経過している。 ちょっと、という言葉にもとより期待などしていなかった。彼はいつだって自由で、時間を表す言葉に束縛されることのない人だから。 こうして待っているのは、アキラの自己満足だった。 そもそも自然とこんな関係になったわけではない。かなり無理を言って自分の熱を押し付けた。渋々ながらも受け入れてくれた彼に、これ以上どんな我が儘が言えるだろう。 永遠にも感じられる一人の時間を乗り越えれば、彼は必ず帰って来てくれる。 そう懇願したのはアキラで、唯一の約束として了承したのは彼だった。 だから、今こうして一人きりで彼の帰りを待っている間、彼が誰と、何処で、どんなふうに過ごそうとも、アキラは口出しできないし追求することもない。 空が薄ら白む頃にひたりと足音を立てるその姿を、黙って迎えるだけの哀しい存在。 抱き締めたり、キスをしても、彼は嫌がる素振りを見せないけれど、決して応えてはくれないのだ。 アキラが越えてしまった二人の間を分かつ壁を、彼は崩すことはないだろう。 どうして、対等であるだけで満足できなかったのだろう。 まだ彼は帰らない。 |