親父が飲まないってんで実家からもらいもんのワインが送られてきた。よく分からん銘柄の真っ赤なワインだ。 俺もあんまワイン好きじゃねえから困ったけど、たまたま塔矢が打ちに来てたから対局もそこそこにワインパーティーを持ち掛けた。 アイツもちょっと困った顔して、「ワインは悪酔いするんだ」なんてわざとらしい躊躇見せたから、嫌いじゃないならいいじゃん飲め飲めって無理矢理コップ持たせた。うちにグラスなんて洒落たもんねえし。 最初は良かった。ちっちゃなコップ3杯くらいなら俺ら普通の顔してた。 だけど4杯目後半くらいから、アイツの目付きが極端に変わった。 「大体キミは普段から何事に対してもいい加減で大雑把すぎる! 周りへの気遣いは足りないし大事なことでもすぐに忘れるし約束だってしょっちゅう放ったらかして……」 ……怒られた。 アイツ酔ったら説教始めるらしい。酷い目にあった。 そんで次の日文句言った。ちょっと二日酔い気味らしい機嫌の悪そうな目をした塔矢だったけど、すまないと素直に謝ってくれた。 「ワインを飲むといつもそうなんだ。日本酒だったらそんなことはないんだが」 ホントかよと思いつつ、それから数週間後に珍しく出張先が被った夜、地元の人に紹介された居酒屋でまたアイツと飲んだ。 今度は日本酒にしろよっつったらアイツは頷いて、確かに最初の数杯は良かったんだ。 俺もちょっと酔ったかなっつう頃、アイツの目付きがまた変わった。 「ボクだってあの一局は腑甲斐なかったと思ってる……! しかしあの頃は精神的にも疲れていた頃で、ボクなりに試行錯誤した結果だったんだ……! だけど満足できない内容だったことは否定できないし……、う、うう……」 ……、泣かれた。 しかも元ネタはもう五年も前のリーグ入り逃した対局だ。あん時の塔矢の不調っぷりは周りにいたやつならみんな知ってるし、確かに今のコイツからは考えられない負け方だったけど、今更引っ張ることねえだろ。 そんなことねえよって慰めても泣くし、そうだよなって同意しても泣くし、アイツの面倒見るのでクタクタになった。すげえ寝不足になった。 次の日文句を言おうかと思ったけど、アイツの二日酔いぶりが前回の比じゃなかったみたいでちょっと躊躇った。どうやら夕べのこともあんまり覚えてないらしい。とりあえず内容には触れずに、これだけ聞いてみた――お前、人と飲む時いつも日本酒なの? って。 「大体日本酒だよ。でも人とあまり飲むことがないからな……同じ人と飲む機会がないんだ。大体みんな都合が悪くなって」 どうやら誰彼構わずあの調子らしい。二度目はないっつうのがやけに生々しくてイヤになる。 でもまあ俺も付き合い長いし、ワインも日本酒もかっ飛ばした酔っ払い方するアイツに変な興味も出て来たから、他の酒もちょっと試してみたくなった。怖いもの見たさってやつだ。 で、棋院出る時に一緒になった日にそのままうちに呼んで、ビールだったらどうよ? ってずらずら缶を並べてみた。あんまりビールは飲んだことがない、っつうアイツの反応に期待しながら缶を次々空けてみたんだけど。 「あーっはっはっはっは、あの時のキミの顔と言ったら! 本当に間の抜けた顔で、あっはっは、ヒー」 ……腹抱えて大笑いする塔矢はなんかあんまり見たくなかった。 結局潰れて帰れなくなって、床に転がしたまんま腹にタオルとかかけてやって、真っ赤な顔でぐったり眠ってる塔矢見てたらなんつうか変な気分になってきて。 あ、俺コイツと一生一緒にいそう。……なんて、すげえ自然に未来予想図が浮かんできた。 普段はキリッとしてるけど、他人じゃ想像できないような醜態晒す相手は、たぶんこれから俺一人なんだろうな、なんて。 未来予想図っちゅうより、諦めとか――悟りの域に近かったかもしんねえけどな。 |