突然アキヒカです。突然始まり突然終わります。

今回は喧嘩弱くてぼこぼこになるアキラさんの話です。






「塔矢っ!!」

 地面を蹴った弾みでつんのめり、アスファルトに手をつきながらも横たわるアキラの元へ飛ぶように駆け寄ったヒカルは、ぐったりしたアキラの背中に腕を差し入れて支えるように身体を起こしてやった。
 口元の赤い痣、噛んでしまったのか血も滲み、眼の周りも青くなって普段の美男子ぶりとは別人のようだ。絹のような髪を乱して弱弱しく首を持ち上げようとするアキラを、ヒカルは蒼白な顔で心配そうに覗き込んだ。
 じわじわ腫れていく瞼を細く開いてヒカルを見上げたアキラが、薄っすら開いた口唇から浅い息に乗せて掠れた声を漏らした。

「け……怪我はないか」

 その、自分の状態に対してあまりにアンバランスな発言に、状況が状況だと言うのにヒカルは思わず吹き出しかけた。
 しかしすぐに真顔に戻り、アキラの体重を自分の胸で受け止めるように移動させながら、すっかりぐしゃぐしゃになった前髪を掻き分けてやる。

「ばかやろ、俺の心配してる場合か! バカ、お前こんな、弱いくせに……」
「……怪我は、ないのか」

 些細な動きでも恐らく痛みが走るのだろう、小さく動く口唇を申し訳なさそうに見つめたヒカルは、ないよ、と囁くように伝えた。
 アキラはほっと息をつき、傷だらけの顔で静かに微笑む。

「よかった……怪我がなくて」
「塔矢」
「いいんだ、キミが無事なら、ボクは」

 バカ、ともう一度短く吐き捨てたヒカルは、腕の中のアキラをきゅっと緩く抱き締めて何度もバカ、バカと連呼した。
 喉まで出掛かった、弱いんだから逃げろよとか、ぶっちゃけ俺がやってたらあっさり返り討ちにできたとか、そういったことはぐっと飲み込んだ。
 怪我が治るまで、今度は俺がこいつを守ってやらなきゃ――頼りないナイトを介抱しながら、ぼろぼろのアキラの額にヒカルは小さく口付けた。






(2008.07.12)


閉じますよ