Dream Maker





チョコレートが溶け出したような感覚。
確かに形を持っていたものがぐずぐずに溶けて流れる様。
熱を持つと溶けるなんて気が利いてる。
それからぐちゃぐちゃになって溶解して揮発して最後は皆無?
そんな綺麗な物質がこの世にあったらお目にかかりたい。
 
 
落ちたマイクロトフの身体をなぞる。
きっと今はナニをしても無反応。
殺したって無抵抗。
多分ひとつのマテリアル。
だから彼を形作る体をなぞって皮膚に傷を残してその吐息に眉を顰める。
生きてるのが悔しい。
自分とは別のモノとして存在するのが許せない。
動かない彼の唇を捕らえて無理やり唇を押し付ける。
吐息を奪うために。
そうしないときっと別の愛情表現をしてしまう。
 
 
例えば その誘惑のような白い首を絞めるとか。
 
 
ぞくりとした。
感じた感情は正しく快感。
判りやすい男の俺は鎌首をもたげた自分の楔を自分で抜く。
目の前の純粋な物質を目で犯しながら。
(さっきまでの嬌声だって耳に残ってるし。)
彼が本当の物質になったって欲情できる。
根拠はないけど確信を持った劣情をそのまま愛情とすりかえて彼を騙す。
もっとも騙されているのは俺自身?
そんなチープな言葉で騙してないと、きっととっくに愛情表現。
真白な彼でも窒息寸前にはどす黒い醜悪な赤に染まるのだろうか。
見てみたい。
彼のその白い肌がケガされる様。
ダンスニーとユーライアは仲良く机に並べられている。
ベッドの中の俺と彼。
剣と言うのも一つの誘惑。
つっこんでかきまわして中をぐちゃぐちゃ。
悲鳴と一緒に彼が迸らせる体液。
その色が赤いか白いか苦いかしょっぱいかの違い。
その程度。
苦悶の表情は快楽に歪む時と一緒だ。
そんな妄想を追いながら、自らの手の動きはやはり的確。
最高のSEXは自慰というのはきっと真実。
でも自慰にはオカズが必要だよね。
どうせだからマイクでイきたい。
マイクでなければ意味がない。
  
 
チョコレートが溶け出したような感覚。
確かに形を持っていたものがぐずぐずに溶けて流れる様。
熱を持つと溶けるなんてサイアクだ。
それからぐちゃぐちゃになって溶解して揮発して最後は皆無?
せめてそこまで潔く。
それだけ簡単な決着のつけ方があるのなら世の中はもっと簡単に回ったはずだ。
もちろんそんな単純な日常は今日も昨日も手に入らなかった。
世の中は今も混沌に満ちていて気が狂いそうな喧騒に揉まれていて
そうして今日もカミューは俺を食い尽くす。
 
彼の壊れた魂は俺を食らい尽くしてまだ足りない。
何に飢えているのだろう。
 
俺にはまだ理解が出来ない。
 
それでも彼が何処かにイかないように。
俺は俺の持てる全てを投げ出して彼を繋ぎとめようとする。
マトモな思考は等についえた。
あとは自分だけの問題となるのだろう。
彼の手がなぞる自分の体に意識を集中。
ああ。マイクロトフの体は今日も残った。
だから俺はその体内にとどまって、カミューという獣を繋ぎとめていられる。
噛み付かれて奪われて、意識を向ける前に彼は欲情を示す。
人の体に不埒な真似をしながら自分一人で高みに上る。
そんな勝手な獣はいつも誰よりも綺麗だ。
誰のものにもならないと宣言されているようで少し哀しい。
だからせめて繋ぎとめられるならばぎりぎりまで。
いつまで持つかな。
(どうやらそろそろ限界だ。)
俺も彼も。
 
 
「マイク。」
 
 
彼が髪を震わせて欲を吐き出した。
その瞬間に呼ばれた名前に安堵して眠りに落ちる。
 
 
 
今はまだ俺のモノだ。
 
 
 
 
 
 
汚した彼を綺麗にしてから自分の穢れた手を洗う。
冷たい水が体温をせせら笑う。
むかつく。
まるで熱情の儚さを指摘されているようだ。
少し乱暴に手を拭って二人のベッドに戻る。
夜気にあたって少し冷えた俺の体は、夜具に戻った瞬間にマイクの肌を刺激したらしい。
いつもは一度寝ちゃうと中々起きてくれないのに。
「カミュー、冷たい。
 シャワー浴びたのか?」
「ううん。手を洗ってきただけ。
 起こしちゃった?」
「起こされた。」
憮然と答えてから俺に抱きついてくる。
子供みたいな仕草は覚醒しきってない時のクセだ。
「なに?
 マイクが暖めてくれる?」
「お前が冷たいと俺も冷たい。
 早くぬくまれ。」
「そうだね。」
俺も彼を抱き返す。
お互いの体が一つの温もりを育てる。
それを喜んでいられるうちが華だ。
今では別の存在というのを余計に意識して凶悪な気持ちにすらなる。
はやまっちゃおうかな。
誘惑のユーライアはやはりベッドの側の机の上に。
「いつか。」
マイクのくぐもった声。
そろそろ再び睡魔の虜。
「うん?
 何?」
「いつか、俺を殺すなら。
 ひとおもいに来い。」
「そう。
 それが好み?」
「失望されるのだけは厭だ。」
「失望?
 するわけないでしょ?
 でも俺達の感性ってやっぱぴったし。
 奪うなら一気がいいよね。」
抱きしめられていた腕が落ちた。
どうやら睡魔に奪われた恋人。
俺の傍らにマイクロトフの体だけを残して。
それだけだって僥倖だけど。
俺は彼を離さない。
奪うならいっそひとおもい。
白い首には所有の刻印。
誘惑のユーライア。牽制のダンスニー。
並んだ剣はその象徴。
 
 
 
チョコレートが溶け出したような感覚。
確かに形を持っていたものがぐずぐずに溶けて流れてそれからどうした。
熱を持つと溶けるなんて気が利いてる。
いっそのこと初めから。
 
 
 
 
最後の皆無を夢見る前に。
 
 
 
 
 
   END






田中うずり様からいただいたバレンタインSSです!
こ、このギリギリラインの2人の関係にゾクゾクします…!
その瞬間を迎えるまで、2人は離れられないんだなあ…と思います。
田中うずり様、有難うございました!
(2001.02.19UP)