Orange Love
「おれんじでー?」


食後、「ハッピーオレンジデー」の言葉と共に出されたデザートはアキラの手作りで、オレンジの上部を切り取り果肉を刳り貫いたそれを器とした、凝り性の彼らしいゼリーだった。
オレンジデーとは一体何なのか。
聞いたことも無い名にヒカルは頭上に疑問符を浮かべる。


バレンタイン・ホワイトデーを経た恋人たちが、互いにオレンジのものを贈り合い愛情を確認し合う日。
それがホワイトデーから一月後の本日、4月14日なのである。


「制定されたのは平成6年なんだけど、知らない人は多いみたいだね」
「なんでオレンジ……?」
「オレンジは一つの木に実が沢山なるから欧米では『多産』とか『繁栄』の意を込めてプロポーズや結婚式に使われるらしい。花言葉も『花嫁の喜び』だからね。それに肖ってオレンジなんだ」


こじつけもいいところである。
大体前の二月でそれぞれ贈り物をし合ったのだからそれで十分なのではないか?
いやそれ以前に。


「よくそんな日知ってたな」
「この前夕方のワイドショーで特集してたから」
「お前、ワイドショーなんて見てんのかよ」
「偶にね。今日のおかずとか美味しい店の紹介とかもやってるし、なかなか役に立つよ」
「へぇー……」


いそいそとワイドショーを見る塔矢アキラ。
その姿をアキラを囲碁界の貴公子と賛辞するお嬢様達に見せてやりたいと思う。
が、同時に絶対に見せたくないとも思う。
塔矢がこんな風に菓子作りをするなんてことも、きっとみんな知らない。
自分だけが知るアキラ。そのなんと甘美なことか。


「お前って結構イベント好きだよな。誕生日とかクリスマス位は祝うかなーって思ったけどさ。バレンタインとかは『菓子メーカーの策略に乗せられるなんて馬鹿馬鹿しい』ってタイプだと思ってた」


バレンタインもホワイトデーもしっかりクリアし、更にはオレンジデーまでも祝うとは。
正直とても意外だ。


「確かに、製菓会社の策略に乗るなんて馬鹿馬鹿しいと思ってたし、実は今も思ってるよ」
「はぁ!?じゃあなんでわざわざこんなモン……」
「けど、そんな馬鹿馬鹿しい策略でも、君と愛を交わすための口実になるなら乗せられるのもいいかな、なんてね」
「恥かしい奴…………口実なんて必要なのかよ」
「必要というより、ささやかなエッセンスというところかな」


呆れた。けれど分かってる。顔が熱い。きっと耳まで朱い。
なんだか悔しくてそっぽを向いた。
視界の外でアキラの小さな笑い声が聞こえて益々熱が上がる。


「……俺はなんも用意してねーぞ」


贈り合いなんて出来ないぞ、と少し拗ねてみる。
不意に目の前に影が落ちた。


「こうすれば二人で楽しめるだろう?」


頬に手が掛かり唇に押し付けられるアキラのそれ。
半開きになったヒカルの口に彼から、いつの間に含んだのか、オレンジゼリーが舌で贈られた。
互いの間を行き来し、無くなればまた追加され、贈り合い。


爽やかで甘酸っぱいはずのオレンジなのに。
きっと加算された二人の愛情のせいだ。
目眩がするほど濃厚な甘味を何度も互いに交わし、二人思う存分オレンジに酔いしれた。




('07.04.14)
Happy Birthday to Ms. Akira Aoba !! & Happy Orangeday !!




綾貫蜜姫様から誕生日のお祝いにSSをいただきました!
ヒーラブラブ!オレンジデーだなんて知らなかった!
生誕日がブラックデーかと荒んでいた心になんて優しく甘酸っぱい光が。
料理上手なアキラさん素敵!ワイドショーまで見て完璧ですね!
レイアウトもすっごく可愛らしかったのでそのまま戴いてきちゃいました。
蜜姫様、本当に有難うございました〜!
(2007.4.16UP)