-cinema diary-

2002年3月の映画日記(その2)


 

2002.3.30 香港テイスト

「ジェヴォーダンの獣」

監督:クリストフ・ガンズ
出演:サミュエル・ル・ブラン、ヴァンサン・カッセル、モニカ・ベルッチ、マーク・ダカスコス、他

鑑賞日:2002.3.1

公式サイト:http://www.france-no1.com/


 1764年、フランス中南部ジェヴォーダン地方は、たびたび出没を繰り返す「獣」と呼ばれる正体不明の怪物に脅かされていた。王国軍が討伐部隊を繰り出す中、パリから調査のためにやってきたのが、学者にして騎士であるフロンサック(サミュエル・ル・ブラン)だった。
 討伐部隊の出動もむなしく「獣」はたびたび出没を繰り返す。フロンサックは彼の義兄弟であるインディアンの戦士マニ(マーク・ダカスコス)とともに調査を進め、やがて事件の影にある陰謀に徐々に近づいていくが……。

    *    *    *

 何でも、このジェヴォーダン地方の「獣」というのは、フランス史に実在する事件なのだそうであります。3年間で100人以上の犠牲者を出し、その多くは女子供。狼に似てはいるが、狼とは違う未知の猛獣……。王国軍による再三の狼狩りにも関わらず犠牲者は増え続け、そしてある時からふっつりと途絶え、それっきりなーんも無かったとの事。もちろん、「獣」の正体は不明のまま。
 ……以上が史実に残る記録です。本作はそのフランス史上最大級の謎に迫る、華麗なる歴史ゴシック大作なのでありました。……てゆうか、一応そういう事にしておきますけど(笑)
 日本では同時期に「ヴィドック」と公開が重なってしまいました。あちらはもう少し時代が下ったパリが舞台のゴシックミステリ?で、映像も凝りまくりのカルトな一作でしたが、本作「獣」の方は、それと比べれば割とまっとうな史劇物だったと思います。
 とはいえ、あくまでもそれは比較上の問題っつうかなんつうか。至って普通に歴史大作ロマンになっているかのように思わせといて、実はこの作品、マーシャルアーツ・アクションが華麗に炸裂する、香港テイストバリバリのアクション映画なんですよね(笑)
 そもそも監督のクリストフ・ガンズはかつて日本のコミックを実写映画化した「クライングフリーマン」なんていう作品を撮っているようなお人ですからねぇ……。脇役とはいえ強烈な印象を残すインディアンのマニを演じるマーク・ダカスコスは、同作品で主役を演じて以来、B級アクション映画には欠かせない役者さんになっております。
 ようするに、そんな監督、そんな役者による、そういう映画だと思って見ていただくと、大変楽しめる一作かと思われます(笑)



 そもそも、お話からしてビミョーにバカっぽい感じですしねぇ(笑) あらすじだけ読めば格調高いゴシックホラーのような趣きですが……。
 主人公フロンサックは学者にして騎士にして絵の才能もあるという才人で、新大陸アメリカでインディアン相手に戦ってきたという経歴の持ち主です。それだけならいいのですが、彼はその地でインディアンの戦士に命を救われ、彼と義兄弟になって一緒にヨーロッパに帰ってくるわけです。
 それがモホークの戦士マニなのですが……彼はインディアンなのに、何故かクンフーの才能に滅法長けているのですよ(笑) フロンサックも彼の手ほどきを受けたのか、やっぱりクンフーに長けています。冒頭の雨の中での格闘シーンのため息のでるような華麗さに、まず目が釘付けになりますね(笑) それ以外にも、随所に華麗なるクンフーアクションが取り入れられているのでありました。「ジェヴォーダンの獣」というタイトルから獣VS人間の構図を誰もが想起すると思うんですけどねぇ……。意表をついて、人間VS人間のマーシャルアーツ・アクションの方がかなり見応えたっぷりでありました。
 映像自体、ほとんどジョン・ウーのパクリか、というくらいに、スローモーションがこれでもか!と挿入されております。かなりかっこつけてます。そして無意味にかっこいいです(笑) いやー、なんかスゴイですこの映画!(笑)
 あとで調べてみたら、本作で編集を手掛けたデヴィッド・ウーは、ジョン・ウーの香港時代の代表作を軒並み手掛けている人でした(笑)



 まあ、そんな映画なのでツッコミどころは色々あります(笑)
 例えば問題の「獣」ですが……正体不明の怪物の間はコワい存在だったのに、実際にその容貌が白日の元にさらされると(いや、ホンマに昼間のシーンに堂々と出てくるんですよ(笑))、拍子抜けもいいところでした。トホホ……。
 あとはですねぇ。「獣」騒動をホラー的に描くか、陰謀をメインにクンフーアクションでごり押しするかすりゃいいのに、ヘタに歴史ロマンのニュアンスを出そうとして、騎士フロンサックと地元領主の娘の恋愛なんかも並行して描かれとるんですけど、その辺りはっきりいって余計というか、かなり緊張感に欠けるんですよね(笑) フロンサックも、格調高い史劇ロマンの主役にしておくにはかなりカルい性格の人物として描かれてますしぃ。そっち方面を期待すると、はっきり言ってかなりダメダメな内容だったかも知れません。
 そんなこんなで、ASD的にはこの映画、おバカなアクション映画として充分に楽しめたのですが……「格調高い歴史ロマン」を期待すると大火傷する事必至だと思われますので、これから鑑賞される方はその辺りどうか充分にご注意下さいませ……(笑)



 余談ながら、「獣」の正体に関しては「なんじゃそりゃーっ!」と呆れ返ってしまいました。こんな映画がヒットする、フランスって一体……(笑)



おすすめ度:☆☆☆☆(ボロクソけなしつつも薦めます(笑))




2002.3.30 ソツのない

「ボーン・コレクター」

監督:フィリップ・ノイス
出演:デンゼル・ワシントン、アンジェリーナ・ジョリー、他

鑑賞日:2002.2.26

公式サイト:http://www.spe.co.jp/movie/bonecollector/


 著名な犯罪学者でもある科学捜査官のリンカーン・ライム(デンゼル・ワシントン)は、職務中の事故で脊髄を損傷、首から上と指先しか動かすことの出来ない身体となっていた。
 そんな折に発生する事件。パトロール中だった警官アメリア(アンジェリーナ・ジョリー)が線路わきで発見した死体の周辺には、謎のメッセージが残されていた。やがて起きる連続殺人事件、そのたびに現場にひっそりと意図的に残される手がかり……犯人は警察に挑戦していたのだ。ライムはアメリアを助手に抜擢して、共に捜査に当たるが……。


    *    *    *


 DVDにて鑑賞。
 えー、詳しい事はよく知りませんが、全米ベストセラー小説の映画化なのだそうです(てゆうか、調べろよそのくらい(笑))。
 まあ何と言いますか、全体的に漂っているソツのなさっぷりが、なんとなくそれっぽいような気が。
 サスペンス的興味をぐいぐいと引っ張っていきつつ、犯行の残忍さで怖さを演出しつつ、半身不随(全身かな?)になって世をはかなむ主人公が最後には生きる目的を取り戻すという……あんまりソツが無さ過ぎて、なんも言うことないですね(笑)
 でもって、監督がフィリップ・ノイスであります。トム・クランシー原作の「パトリオットゲーム」「今そこにある危機」を撮った人でして……この人の作風ってのも、なんかこうぱりっとした個性のない、無難でソツのないサスペンスものばっかり撮っている人なのですね。
 それやこれやもあいまって、無難でソツの無さっぷりがこれでもか!という風に徹底されている……まあ何てこたぁない映画でした(笑)
 いや、決して凡庸でつまらないと言っているわけじゃないんですよ? デンゼル・ワシントンは寝たきりの天才犯罪学者という究極のアームチェア探偵をなかなか見事に演じてますし。犯行現場の陰惨たる雰囲気とか、グロい描写をギリギリまで避けつつおどろおどろしさを煽り立てて、かなりうまいなーとは思うんですけど……。
 ひとつ大変にトホホだったのは、犯人の正体に関してであります。正体不明のサイコキラーとの知恵比べ、という頭脳戦的な展開が結構面白かったのに、「意外な人物」が犯人だった事が判明した途端に一気に興ざめしてしまいました。
 このテの無差別サイコ殺人ものは、犯人は「得体の知れないモンスター」であり、一種のホラー映画になっているからこそ面白いんじゃないかと思いますが……それが分かった途端、ホラーとしてちっとも怖くない=面白くない映画になる、ってのがかなりトホホな感じでありました。
 それを除けば、全体的にソツなくまとまった作品であります……って、そのソツの無さが何ともはや、コメントに苦しむ映画になってたんですけど(笑)



 ちなみにこの時、デンゼル・ワシントンは実在のボクサー、ルービン・カーターを演じた映画「ハリケーン」の、役づくりのまっ最中だったそうです。半身不随の寝たきりの男を演じている裏で、彼は筋肉ムキムキのボクサーの役づくりをしていたというわけで……。
 時折発作を起こして今にも逝ってしまいそうなはずなのに妙に健康的で顔色もよくて、白い歯がくっきりと浮かび上がるスマイルがあまりにもさわやかすぎるのは、裏にそういう事情があったんですね……(笑)



オススメ度:☆☆☆(決してつまらないわけではないんですが……)




2002.3.30 ネズミ講って言うな(笑)

「ペイ・フォワード」

監督:ミミ・レダー
出演:ケビン・スペイシー、ヘレン・ハント、ハーレイ・ジョエル・オスメント、他

鑑賞日:2002.2.26


 社会科の教師シモネット(ケビン・スペイシー)は、毎年の一番最初の授業で、生徒たちにひとつの課題を出している。「自分たちの手で世界を変える方法について考えよう」……何か考える事が大事だ、という事を促してるこの課題に、トレバー少年(ハーレイ・ジョエル・オスメント)は、一つのアイデアを思いつく。
 周囲の人間に、三つの親切をする。その親切を受けた人間は、別の三人に対して親切を行う……ペイ・フォワード(次へ渡す)と名付けられたその行為がめぐり巡って世界中の人に広まっていけば、確かに世界は変わるはずだった。トレバー少年は実際に、自らの手でそれを行動に移そうとするのだったが……。


    *    *    *


 DVDにて鑑賞。
 「シックス・センス」「AI」でその芸達者っぷりを存分に見せつけてくれたハーレイ・ジョエル・オスメント君の主演作であります。
 てゆうか、この作品出演者が豪華過ぎです(笑) 社会科のシモネット先生を演じるのは「アメリカン・ビューティ」でアカデミー賞をとったケビン・スペイシーで、母親役のヘレン・ハントも「恋愛小説家」で主演女優賞をとってます。更に、ハーレイ少年自身も「シックス・センス」でノミネート経験アリ、ですから……何ともはや、地味な人情ドラマのように見せかけて、実はアカデミー役者による激しい演技合戦が繰り広げられている、アツイ作品だったのですね(笑)
 お話そのものは……あらすじに書いたとおりですが、ぶっちゃけた話「善意のネズミ講」であります。まあきっと、この作品を見た多くの観客は「ンな都合のいい事実際にはあるわけねぇだろバーロー」と醒めた目で見ている事間違い無しのような気もしますけど(爆)、映画自体もそういう能天気なポジティブシンキングモード全開にはまったくなってなくて、実は結構シニカルな展開を見せてくれたりしています。つうか、オチがねぇ……。



おすすめ度:☆☆☆(しかし、映画を見て実際に試した人いるんだろうか……)




2002.3.30 タイトル長すぎ(笑)

「博士の異常な愛情」

監督:スタンリー・キューブリック
出演:ピーター・セラーズ、ジョージ・C・スコット、スターリング・ヘイドン、他

鑑賞日:2002.2.15


 東西冷戦の真っ只中、アメリカ空軍のリッパー将軍(スターリング・ヘイドン)は、ソ連本土への全面核攻撃をまったくの独断で実行に移してしまう。
 だがソ連は、究極の報復兵器である「皆殺し兵器」を完成させていた。ひとたびソ連に核攻撃が加えられれば、報復措置として全自動で全世界を死滅させるという兵器である。それは本来、究極の抑止兵器として造られたものだったが、その存在が公になる前にリッパー将軍は狂気に陥り、そんな彼の誤った判断で世界はまさに滅亡の危機に瀕していた。
 爆撃機を呼び戻す暗号を巡って、空軍基地に身を寄せていた英国空軍大佐マンドレイク(ピーター・セラーズ)が奮闘する一方で、マフリー米大統領(ピーター・セラーズ)、ジッドスン将軍(ジョージ・C・スコット)、ストレンジラブ博士(ピーター・セラーズ)ら首脳陣は対策を討議するが、話し合いはまともな方向には行かなかった……。


    *    *    *


※ややネタバレあり※


 はい、今回もまた、DVDレンタルによる「旧作いっぱい見て勉強しよう」キャンペーン(笑)の成果であります。
 1964年作、古典中の古典ですよね、これも。難解な作品の少なくないキューブリック監督ですが、この映画はそんな中では格段に分かりやすい作品でありました。



 えーっと、それでですね……一言で言えば、とても不謹慎な作品でした(笑)
 製作年代から見て、おそらく「キューバ危機」をモチーフとしているんじゃないかと思います。実際の事件では何とか回避された核戦争の危機ですが、こちら「博士の異常な愛情」はと言いますと……ま、その顛末に関しては本編をご覧いただくのが早いかと思いますけど……ひとつ言うなれば、こんな風に実際の事件が推移するととってもイヤだなあ、という事でしょうか(笑)
 何せ、まともな登場人物が一人もいませんからねぇ(笑) リッパー将軍は意味不明の被害妄想にとらわれた立派なキチ(ピー)ですし、ジッドスン将軍は「この際共産主義者を皆ごろしに」とか物騒な事を言い出すお方ですし、ソ連の書記長はこの大事なときにぐでんぐでんに酔っぱらってますし……うーむ(爆)
 それでもって、一番ヒドイのが科学顧問のストレンジラブ博士なんですけど(笑) この人、人類滅亡のこの危機を前に、危機回避は諦めて優秀な人間だけ集めてシェルターに引きこもろう、とか言い出すわけですよ。優秀な人間たちの、優秀な子孫だけが生き残ればそれで人類は救われるのだ……というような事を。
 まあ、ASD自身よそで見かけた人様の映画評を元に今こんな事を書いているので、えらそうな事は書けませんが(爆)、上のストレンジラブ博士の言っている事は「優生学」あるいは「優生思想」というものでして、ナチス・ドイツが主張していた事そのまんまなのですよね(爆)
 ドイツ人こそが優秀な民族、その優秀さを極めるために優秀な人間同士で子孫を作っていって、優秀でない人々は淘汰してしまおう……というような発想の元にあれやこれやと空恐ろしい事をしていたのがナチス・ドイツでございます。
 でもって、そのような意見にアメリカの首脳陣が深く納得して聞き入っているってんですから……それって一体、どういうことですか(爆) しかも、しまいにはこのストレンジラブ博士、「大統領」と「総統」を言い間違えるは、右手を高々と掲げて敬礼しはじめるは……(爆)
 その後のミもフタもないラストも含めて、どうなのよこれはっ!という感じの本作ですが……まあ基本的にはコメディです。かなーりブラックなコメディですけど(笑)



 ちなみに、有名な話ですが一応紹介しときます。タイトルの「博士の異常な愛情」というのは、原題である「Dr.Strangelove」を単語に分けて単純に直訳して適当に助詞を繋いだだけというトンでもないタイトルなんですよね(笑)
 「考え無しのタイトル」「誤訳」という批判も目にしますが、ASD的にはこのタイトルを思いついた配給会社の人ははっきり言って天才だと思います(笑)
 ついでにこの映画、長ったらしいサブタイトルもついてまして……正式なタイトルは「博士の異常な愛情/または私は如何にして心配するのを止めて水爆を愛するようになったか」です。
 長ッ。



おすすめ度:☆☆☆☆(一応、ジョークの分かる方に(笑))


 


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