-cinema diary-

2002年7月の映画日記(その2)


 

2002.7.16 ビルの谷間の暗闇に

「スパイダーマン」

監督:サム・ライミ
主演:トビー・マグワイア、キルスティン・ダンスト、ウィレム・デフォー、他

鑑賞日:2002.5.11

 成績優秀ながらサエない高校生ピーター(トビー・マグワイア)は、ある日遺伝子操作されたクモに噛まれた事により、特殊能力に目覚めてしまう。その力に戸惑いを見せる彼は、育ての親だった叔父の死をきっかけに、自分の力の意味を考え始める。やがて彼は「スパイダーマン」となって、悪と戦う事で自分の能力を生かそうとするが、そんな彼の前に宿敵グリーン・ゴブリン(ウィレム・デフォー)が立ち塞がる。


    *    *    *


 いやぁ……サム・ライミ、やってくれました! 素晴らしい! オレ達が見たかったスパイダーマンは……ってこのネタはゴジラの時にやったのでもうやりませんけど(笑)
 つうかASDさんは別に熱心なスパイダーマンのファンでもアメコミのファンでも無いのですが(笑)、この作品、マニア心をおおいにくすぐってくれる快作でありました。



 「バットマン」のヒット以来、アメコミの映画化作品にはある種のパターンが定着しているように思います。原色バリバリのいかにもなコミック世界を、モノトーンの落ち着いた印象に修正する事で、映画らしいリアルな画づくりを志している場合が多いのですが……。
 確かにティム・バートンの「バットマン」は、そうする事で過去の映像化とはまったく違うイメージを打ち出す事に成功しました。けれどあの作品の場合、そういった変更には「映画っぽさ」を出すという以上の理由があったのですよ。
 元々バットマンというのは、とても暗いヒーローなのです。幼い頃に両親を殺され、その復讐のために財力にものを言わせてハイテク装備に身を固め、悪党に鉄槌を下しているという……冷静に考えたら結構ヘンな人、不気味な人なんですよね(笑)
 要するに、ティム・バートン版バットマンはその不気味さを表現するために、敢えて「暗い」バットマン像を提示したわけです。何も「コミックっぽさ」を抑えて「映画っぽさ」を出そうと表面的な部分に手をいれたわけではなしに、あくまでも原作の本来の精神に忠実であろうとした結果が、あのダークな雰囲気だったのではないでしょうか。
 ……まぁ何と言いますか、バットマン以後のアメコミ映画化作品って割とダークな作品が多かったので(「クロウ」とか「SPAWN」とか)、バットマン的な手法が目立っていたのかも知れませんけどね。
 例えば「X‐メン」なんかは、物語がさほどダークサイドな内容だというわけでもないのに、コミックっぽさを抑えたモノトーンの画づくりがなされてました。これは要するに、「映画っぽさ」を出すための表面的な変更なのではないか、とASD的には感じられます。公開当時のインタビューでキャスト・スタッフが口を揃えて「コミックの映画化だからと馬鹿にしてほしくない」みたいな事を言ってましたし、「原作をそのまま映画にしてもロクな事にはならないので、映画は映画で独自に頑張ってみました」という事なんでしょうかね(爆)



 ……さて、それを踏まえた上で「スパイダーマン」でございます。
 まずぱっと見た印象として、この映画ってものすごくカラフルなんですよねぇ。
 スパイダーマンのコスチュームもチャチっぽくないように巧みにアレンジされているようには思いますが、赤と青のカラーリングが結構眩しかったりします。
 相対する宿敵グリーン・ゴブリンもその名前の通り目に鮮やかな緑色をしておりますし、何より彼らが縦横無尽に駆け巡るニューヨークの街が、とても色味にあふれているのですよ。何げに、これまでのアメコミ映画化の定石であったモノトーンとは、一線を画する新鮮な印象でした。
 ……でもこれって一歩間違えると、いかにもマンガっぽく見える、という事ですよねぇ(汗) 実際のところ映像はCGのオンパレードで、ほとんどCGアニメーション映画か!てなものであります。CGとしてはリアルでも、「CGである」という事実そのものがチャチっぽく感じられるフシもあるわけで……ううむ、それは何げに難儀ですねぇ。
 そこで振り返ってみると、実は画づくりだけではなくて、その内容も結構チャチと言いますか、B級ちっくな部分もないわけではないです。
 例えば見た人の多くがツッコんだと思われる、スパイダーマン誕生のくだりですが……遺伝子操作されたクモって、そりゃ一体なんじゃいと思っちまいますよねぇ(笑) 「クモに噛まれたからスパイダーマンになった」という、実に誤解の余地のない理由で我らがヒーローは誕生したわけです。……あたらめてツッコむのもどうか、という感じですね(笑)
 対するグリーン・ゴブリンの誕生のいきさつも……なんかお粗末ですよねぇ。人体実験の失敗つうのも定番ちっくですし……。
 うーむ……この映画が面白くなかったという人の大半は、ここまでの部分が受け入れられなかったからでは、という気がします。確かに表面的には、こういう杜撰な設定の元でとにかく特撮に目いっぱいお金をかけて、それで全てをうやむやにしようとしているかのような……そんなニュアンスも感じられないような気もします。そこで終わってたら、ASDさんも立腹してたんじゃないッスかね(笑)



 しかしながら、実はこの作品の見所というのは、別のところにあるように思いました。
 クモに噛まれて特殊能力を得たピーター少年ですが、実際のところ彼はそんなにすんなりと、その力を生かして「スパイダーマン」になろうとしたわけではありません。手に入れた力を何に使うのか、どういう理由でそういう事に使おうと思ったのか……本作では、こういった部分を何げに丹念に描いていたりするのですね。
 詳しいことは長くなるのでここには書きませんが(映画をみてくださいな)、彼は自分の不注意から育ての親である叔父を死なせてしまいます。能力を持っているのに、それを必要とされる局面で適切に使う事が出来なかった……その後悔や罪悪感が、彼を正義の味方へと駆り立てているのですね。
 対するグリーン・ゴブリンも、科学実験の失敗で生まれた悪役という出自自体はかなりありきたりですが(笑) その実験の副作用として、科学者は自分の中の悪が具現化したもうひとつの人格=グリーン・ゴブリンを持ってしまい、その事に苦悩しながらも結局は悪の道を歩んでしまう事になるわけです。
 そういう、自分の中の悪に忠実に悪事を重ねるグリーン・ゴブリンと、自分の中の悪=弱さを律するために、正義の味方としての道を選んだスパイダーマン。……そう、この映画はヒーローと悪の戦いを描いた娯楽作品であると同時に、二人の人物の内面を描いた、優秀なドラマでもあるわけです。
 ……と言うと、ちょっと言い過ぎかも知れませんけどね(笑)
 ともあれ、本作で重要視されているのは、「ヒーローがいかにして生まれたのか」という部分ではないのです。そこで言う理由ってのはあくまでも、ヒーローが作品世界に存在するための理由付け以上のものではありません。本作でそれよりも重視されるのは、世に誕生したそのヒーローが、その後いかにしてヒーローとしての生き方を選んでいくのか、という部分なのですね。
 これは悪役も同じで、どうして悪役になったのか、よりも、悪役としてどう悪を貫いていくのか、に焦点があるように思います。
 ですから、逆にそのドラマを強調するために、出自の説明に関しては、極力シンプルに描かれてるのではないでしょうか。そこはアメコミですから、マンガ的であって悪いことはないでしょうし(笑)



 そういう事情からかどうかは知りませんが、確かに本作はマンガちっくで、かつB級っぽいノリです。そこで「リアルっぽさ」にこだわって原作の魅力をスポイルすることよりも、あくまでも「原作の精神」に忠実であろうとしたのではないでしょうか。
 事実、ホントに細部に至るまで原作に忠実なのかというと、実はそうでも無かったりしますし。スパイダーマンが手から繰り出すスパイダーネットは、原作では科学オタクのピーターがその明晰な頭脳で開発した武器、という事になっていますが、映画では超能力のひとつ、という事になっています。あくまでもスパイダーマン=普通の少年という図式を強調するための変更なのですが……まぁどっちもどっちですよねぇ。
 確かにそんな武器を開発出来るというのは嘘くさい感じですが、腕から直接糸が出るのもやっぱり嘘くさい感じですし(笑) 
 結局は、よりテーマに沿った設定の方を取った、という事なのでしょう。確かに表面的には大きな差異だと思いますが、テーマ的にはより原作の精神に忠実になっているように思われます。



 ……まぁ、繰り返しになりますがASDは別にスパイダーマンマニアではありませんので(笑)、原作や原作の精神にどこまで忠実かどうか指摘できるものでもありませんし、実際どう違うのかはどうでもよかったりするんですけど(笑)
 ただ、本作のサム・ライミにしろ「バットマン」のティム・バートンにしろ……肝心なのは、映画が表面的な部分での再現性にこだわっているのではなく、「ヒーローの物語」として、バットマンとかスパイダーマンという名を冠するに相応しい作品になっているかどうか、という事なのではないでしょうか。
 極端な話、CGで描かれたスパイダーマンが縦横無尽にビルの谷間をかけ巡っているカッコいい画さえあれば、本来は「コミックの映画化」作品としての意義、あるいはSFX超大作としての意義は果たしていると言えるハズなのです。そこを一歩踏み込んで、「スパイダーマン」として、キチンとヒーローを描いた映画を作ろうとしたサム・ライミの心意気こそが、この映画の一番の見どころだったんじゃないのかなぁ、と……そんな事を思ってしまったASDでありました。



オススメ度:☆☆☆☆




2002.7.16 連作短編映画

「パルプ・フィクション」

監督・脚本:クエンティン・タランティーノ
主演:ジョン・トラボルタ、サミュエル・L・ジャクソン、ユマ・サーマン、ブルース・ウィリス、他

鑑賞日:2002.5.10


 パンプキン(ティム・ロス)とハニー・バニー(アマンダ・プラマー)のカップル。ある日レストランで雑談をしているうちに、とある事を思いつく。
 ヴィンセント・ベガ(ジョン・トラボルタ)は、ボスであるマーセルスの妻ミア(ユマ・サーマン)と食事に出かける事になる。「退屈しないように相手をしてやってくれ」というボスの命令なのだったが、彼女にちょっかい出した男は不運な末路を辿るという、まことしやかな噂があった。
 そのヴィンセントの相棒ジュールズ(サミュエル・L・ジャクソン)。二人で出かけていった仕事でのとある体験から、彼は新たな自分に目覚める。
 落ち目のボクサー・ブッチ(ブルース・ウィリス)は、マフィアのマーセルス・ウォレス(ビング・ライムズ)から八百長試合を持ちかけられるが、約束を破って試合に勝利する。追われる身だというのに、大事な時計をアパートに置き忘れてしまって――。


    *    *    *


 とまぁ、エピソードを列挙してみました。オムニバスというほど完全に独立しているわけでもないのですが、まぁ一本の長編というよりは、短編連作といった趣きの作品です。
 1994年の作品ですから、もうだいぶ古いですよねぇ……ASDさんが映画にはまりまくってた若かりし日に、大ハマリしてしまった傑作であります。
 前にガイ・リッチー監督の「スナッチ」を取り上げたさいに、シナリオのトリッキーさからついつい比較してしまったのですが……先日DVDを購入、久々に見る機会がありましたので、感想行ってみたいと思います。
 って、実はこれともう一本、同じ監督の「ジャッキー・ブラウン」も観ているのですが……ひとつ言えるのは、タランティーノは長い映画よりも短い、短編みたいな作品の方がキレがいい、という事でしょうか。
 ま、彼の監督作3本はどれも長編映画なんですけど(笑)、小説を映画化した「ジャッキー・ブラウン」以外の2作品はどちらも時間軸を行ったり来たりして、細々としたエピソードを描いている作品で、厳密には連作短編(そんなジャンルが映画にあるのかないのか知りませんが)的な持ち味の作品になっているんじゃないかと思います。
 例えば、作中で描かれている各エピソードは、必ずしも時間軸どおりに並んでいるわけではありません。各エピソードは複雑に絡み合いますが、そこで謎解き的なトリッキーな秘密が浮かび上がってくるわけでもなくて、あくまでも「連係しあっているだけ」なのですね。登場人物が重複しているとか。
 その点、サスペンスというか、活劇としての見せ方は、ガイ・リッチーの方が格段にうまかったりします。タランティーノ作品も結構バイオレンスなシーンもありますが……基本的にアクション映画じゃないですしね(笑)
 もうひとつの大きな特徴は、とにかく「ヨタ話」が大好きなんですよ(笑)
 あらすじからある程度窺い知れるでしょうが、登場人物がマフィアとか強盗とかそんなんばっかなのに、具体的に何か大きな犯罪のたくらみごとがあるとか、巨悪がうごめいているとか、そういうのは一切ナシ。
 ボスのカミさんとデートに行ってどこまで親密になってしかるべきかを思い悩んだり、物騒な仕事へ行く途中で「女性に足のマッサージをするのはエッチな意味があるのか無いのか」を割と熱心に論議したり、どうでもよさげなヨーロッパのファーストフード事情に対して延々語ってみせたり、おおよそ「物語」的にはものすごい瑣末な事柄に、延々とこだわってみせるのですよ。むしろ、そういう瑣末事を積み重ねるという部分に映画的興味が集中しているようにも思われます。
 本来ならば、劇映画としては大きなお話の流れを踏まえた上で、その流れにいかに決着を付けるのかが大事になるのではないかと思いますが……タランティーノの場合、その途中にある細々としたエピソードをいかに魅力的にみせるのかに、ものすごく腐心しているように思われました。
 ですので、ストーリー上の起承転結にはあんまり興味がないのでしょう、やっぱ(笑) それゆえに、時間軸を行ったり来たり……そういうのにこだわっているというよりは、むしろ無頓着なのかも知れませんな(笑)
 いやもちろん、全部通した上での「オチ」みたいなものも無いわけじゃないんですけどね。



 ちなみにこの映画で高い評価を得たタランティーノですけど、その後「ジャッキー・ブラウン」を撮った後、ずっと新作のないままだったりします……今頃は何をしているんでしょうねぇ(笑)



おすすめ度:☆☆☆☆



 


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