第9章 公債論
1.公債発行の現状
(1)公債とは
  建設公債→公共事業を行うために発行
       将来世代に便益がおよぶケースに発行
  赤字公債→特例公債 人件費等の経常的経費を賄うために発行
財政法第4条「国の歳出は公債又は借入金以外の歳入を以て、その財源としなければならない。但し、公共事業費・・・の財源については、国会の議決を経た金額で公債を発行し又は借入金をなすことができる」。では禁止されている

(2)日本の財政運営と公債発行

図 歳出総額、税収総計、国債発行額の推移(単位:億円)

公債発行額の推移
(注)12年度までは決算、13年度は2次補正後、14年度予算。
出所:財務省ホームページhttp://www.mof.go.jp/jouhou/syukei/sy014.htm

1950年代から1960年代の前半まで  均衡予算原則
1965年の不況                均衡予算原則から離脱し、財政特例法にもとづき赤字国債を発行
1973年(昭和48年)秋           石油ショック  インフレ
                         福祉元年  老人医療無料化
1974年(昭和49年)            戦後初のマイナス成長
                           税収ダウン(法人税29%減少)
                           所得税の大減税 2兆円減税(昭和49年度分1兆7,830億円、昭和50年度分1,860億円)
1975年(昭和50年)           昭和50年度の公債発行の特例に関する法律
                         公債発行額 約5兆3千億円(うち特例公債は約2兆3千億円)
                        公債依存度 25.3%
1979年(昭和54年)           公債発行額 約13兆5千億円(うち特例公債は約6兆9千億円)
                         公債依存度 34.7%
                         大平内閣 一般消費税導入構想が総選挙の敗北とともに挫折
1980年(昭和55年)           鈴木内閣 「56年度から毎年2兆円の国債減額を行い、59年度までに赤字公債の発行をゼロにする」
1981年(昭和56年3月)         第2次臨時行政調査会発足
                           増税なき財政再建→歳出削減
1982年                     57年度予算   ゼロ・シーリング
1983年(58年8月)            「昭和65年度までの赤字国債依存の脱却」
                          マイナス・シーリング
                          昭和53年度以降58年度まで所得税減税を見送る

1990年から1993年(平成2年から5年)  赤字公債発行ゼロ

1994年(平成6年)                     村山税制改革のもとでの所得税先行減税
1997年(平成9年)                     消費税率5%
                                 建設公債9兆2370億円 赤字公債7兆4700億円公債依存度 21.6%
1999年(平成11年)               景気対策としての定率減税+恒久減税
                            減税規模(平年度) 4.1兆円(国税 3.0兆円、地方税 1.1兆円
                                  国債発行額 約37兆5000億円
                                  公債依存度 42.1%
2001年(平成13年)              平成13年度補正後予算 公債発行額30兆円
2002年(平成14年)               平成14年度当初予算  公債発行額30兆円(赤字国債23.2兆円)
                                           国債費は約17兆円

(注)1

.公債残高は各年度の3月末現在額。ただし、13年度、14年度は見込み(13年度は、14年度借換国債の13年度における発行予定額(約7兆円)を含む)。
.特例公債残高は、国鉄長期債務、国有林野累積債務等の一般会計承継による借換国債を含む。

出所:財務省ホームページhttp://www.mof.go.jp/jouhou/syukei/sy014.htm

(3)国と地方の長期債務残高

(単位:兆円)
  4年度末
(1992年度末)
<実績>
9年度末
(1997年度末)
<実績>
12年度末
(2000度末)
<実績>
13年度末
(2001年度末)
<2次補正後>
14年度末
(2002年度末)
<予算>
224程度 357程度 491程度 513程度 528程度
  普通国債残高 178程度 258程度 368程度 395程度 414程度
地  方 79程度 150程度 181程度 190程度 195程度
国と地方の重複分 ▲ 2程度 ▲15程度 ▲26程度 ▲29程度 ▲30程度
国・地方合計 301程度 492程度 646程度 675程度 693程度
対GDP比 62.2% 94.6% 125.9% 134.8% 139.6%

(注)1

.GDPは、13年度は実績見込み、14年度は政府見通し。
.13年度末の普通国債残高は、14年度借換国債の13年度における発行予定額(約7兆円)を含む。
.このほか14年度末の財政融資資金特別会計国債残高は78兆円程度。

出所:財務省ホームページhttp://www.mof.go.jp/jouhou/syukei/sy014.htm

 
2.公債の負担
(1)新正統派の議論(ケインズ派の公債負担論)
  公債を発行してもマクロ的にみた負担は生じない
   その時点で利用可能な資源は一定
内国債は、発行時点には民間部門の資金を公共部門に移転
       償還時には公債保有者と非保有者間の所得分配
 負担を将来世代に転嫁しているわけではない
 →積極財政主義
(2)ブキャナンの公債負担論
 負担は個人のレベルで
 負担=「個人が効用あるいは利用可能な資源を強制的に減少させられること」
 発行時点:自発的購入は内国債・外国債にかかわらず効用を損なわない
 将来時点:償還、利払いのために税を強制的に徴収
(3)ボーエン・デービス・コップの議論
 公債の負担は「ある世代の生涯消費の減少」
 公債の償還が自分が生きている間に行われなければ、負担を将来世代に転嫁できる。

3.中立命題
(1)リカードの等価定理
 公債の償還が生存中の場合、公債発行と課税による財源調達は同じ経済効果を持つ
 個人は生涯の予算制約のもとで効用を最大化するように消費を決定
ライフサイクル・モデルによる等価定理の説明
 2期間モデル 青年期、老年期
[課税による財源調達]
 第1期の個人の予算制約 
C1=Y−S−T1 (1)
 第2期の個人の予算制約 
    C2=(1+r)S−T2 (2)
 第1期の政府の予算制約
    G1=T1                (3)
 第2期の政府の予算制約
    G2=T2                (4)
(1)式より
   S=Y−C1−T1      (1)’
(1)’を(2)に代入
   C2=(1+r)(Y−C1−T1)−T2
両辺を(1+r)で割ると
   C2/(1+r)=Y−C1−T1−T2/(1+r)
  C1+C2/(1+r)=Y−T1−T2/(1+r)
  C1+C2/(1+r)=Y−(G1+G2/(1+r))
  生涯消費 生涯所得
[公債発行による財源調達]
 第1期の個人の予算制約 
C1=Y−S−D (1)
 第2期の個人の予算制約 
    C2=(1+r)(S+D)−T2 (2)
 第1期の政府の予算制約
    G1=D                (3)
 第2期の政府の予算制約
    G2=T2−(1+r)D           (4)
(1)式より
   S=Y−C1−D      (1)’
(1)’を(2)に代入
   C2=(1+r){(Y−C−D)+D}−T2
両辺を(1+r)で割ると
   C2/(1+r)=Y−C1−T2/(1+r)
   C1+C2/(1+r)=Y−T2/(1+r) (5)

(4)式より
    T2=G2−(1+r)D           (4)’
(3)式を代入
    T2=G2−(1+r)G1           (4)''
(4)''を(5)に代入
  C1+C2/(1+r)=Y−(G1+G2/(1+r))

課税による調達も公債による調達の予算制約は同一

(2)バローの中立命題 
 公債の発行と償還が別の世代にまたがっておこなわれるときは「リカードの中立命題」は成立しない。

 バローによると発行と償還が世代にまたがっておこなわれるとしても、親の世代が子どもの世代の効用に関心を持つ場合には「中立命題」が成立する。
例:公債の発行による財源調達が子どもの世代でおこなわれる場合、親は子どものことを考え、遺産を残そうとする。

(3)中立命題の前提条件
@人々が政府の予算制約を正しく認識していること
A政府支出のパターンが一定であること
B家計は単一の代表的家計によってモデル化されること
C資本市場が完全であること
D生存期間に不確実性がないこと

4.財政再建への取り組み
平成9年11月28日 財政構造改革の推進に関する特別措置法成立
              → 財政赤字対GDP比3%以下及び特例公債脱却は2003年を目標
              
平成10年5月29日 財政構造改革の推進に関する特別措置法改正法成立
            →財政健全化目標の達成年次を2005年度まで延長
              11年度当初予算の社会保障関係費の量的縮減目標を「おおむね2%」から「極力抑制」へ
平成12月11日    財政構造改革の推進に関する特別措置法停止法成立
             → 財政構造改革法全体の施行を当分の間停止


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