第1節.公債発行の現状
(1)公債とは
建設公債→公共事業を行うために発行
将来世代に便益がおよぶケースに発行
赤字公債→特例公債 人件費等の経常的経費を賄うために発行
財政法第4条「国の歳出は公債又は借入金以外の歳入を以て、その財源としなければならない。但し、公共事業費・・・の財源については、国会の議決を経た金額で公債を発行し又は借入金をなすことができる」。では禁止されている
(2)日本の財政運営と公債発行
p.179
1950年代から1960年代の前半まで 均衡予算原則
1965年の不況 均衡予算原則から離脱し、公債特例法にもとづき赤字国債を発行
1973年(昭和48年)秋 石油ショック インフレ
福祉元年 老人医療無料化
1974年(昭和49年) 戦後初のマイナス成長
税収ダウン(法人税29%減少)
所得税の大減税 2兆円減税(昭和49年度分1兆7,830億円、昭和50年度分1,860億円)
1975年(昭和50年) 昭和50年度の公債発行の特例に関する法律
公債発行額 約5兆3千億円(うち特例公債は約2.1兆円)
公債依存度 25.3%
1979年(昭和54年) 公債発行額 約13兆5千億円(うち特例公債は約6.3兆円)
公債依存度 34.7%
大平内閣 一般消費税導入構想が総選挙の敗北とともに挫折
1980年(昭和55年) 鈴木内閣 「56年度から毎年2兆円の国債減額を行い、59年度までに赤字公債の発行をゼロにする」
1981年(昭和56年3月) 第2次臨時行政調査会発足
増税なき財政再建→歳出削減
1982年 57年度予算 ゼロ・シーリング
1983年(58年8月) 「昭和65年度までの赤字国債依存の脱却」
マイナス・シーリング
昭和53年度以降58年度まで所得税減税を見送る
1990年から1993年(平成2年から5年) 赤字公債発行ゼロ
1994年(平成6年) 村山税制改革のもとでの所得税先行減税
1997年(平成9年) 消費税率5%
建設公債9兆2370億円 赤字公債7兆4700億円公債依存度 21.6%
1999年(平成11年) 景気対策としての定率減税+恒久減税
減税規模(平年度)
4.1兆円(国税 3.0兆円、地方税 1.1兆円
国債発行額 約37兆5000億円(実績)
公債依存度 42.1%
2001年(平成13年) 平成13年度補正後予算 公債発行額30兆円
(小泉内閣 30兆円枠)
(当初予算28兆3180億円)
2002年(平成14年) 平成14年度当初予算 公債発行額30兆円(赤字国債23.2兆円)
国債費は約17兆円
補正後 34兆9680億円 (赤字公債を約5兆円追加発行)
2003年(平成15年) 平成15年度当初予算 36兆5960億円
2005年(平成17年) 平成17年度当初予算 34兆3900億円 実績 31兆2690億円
2006年(平成18年) 平成18年度当初予算 29兆9730億円 補正後 27兆4700億円
2010年(平成22年) 平成22年当初予算 44兆3030億円 うち特例公債は37兆9500億円
2011年3月 東日本大震災 震災対策の大型補正予算で歳出総額100兆円突破
2020年 コロナ対策 一人当たり10万円の特別定額給付金
p.182 図11−3 国債残高の推移
2023年度末 約1068兆円
(3)国と地方の長期債務残高
p.184
表11−1 国及び地方の長期債務残高
2023年末
国・地方合計 1,280兆円 (対GDP比 224%)
第2節 公債の負担
(1)ケインズ派(新正統派の公債負担論
公債を発行してもマクロ的にみた負担は生じない
その時点で利用可能な資源は一定
内国債は、発行時点には民間部門の資金を公共部門に移転
償還時には公債保有者と非保有者間の所得分配
負担を将来世代に転嫁しているわけではない
→積極財政主義
(2)新古典派の公債負担論
(
ボーエン
公債の負担は「ある世代の生涯消費の減少」
公債の償還が自分が生きている間に行われなければ、負担を将来世代に転嫁できる。
モジリアーニ 公債の負担は「資本蓄積の減少」
家計にとっては貯蓄手段のひとつ
公債購入→金融機関貯蓄減少→投資減少→資本蓄積減少
(3)中立命題
リカードの等価定理
公債の償還が生存中の場合、公債発行と課税による財源調達は同じ経済効果を持つ
個人は生涯の予算制約のもとで効用を最大化するように消費を決定
ライフサイクル・モデルによる等価定理の説明
2期間モデル 青年期、老年期
[課税による財源調達]
第1期の個人の予算制約
C1=Y−S−T1 (1)
第2期の個人の予算制約
C2=(1+r)S−T2 (2)
第1期の政府の予算制約
G1=T1 (3)
第2期の政府の予算制約
G2=T2 (4)
(1)式より
S=Y−C1−T1 (1)’
(1)’を(2)に代入
C2=(1+r)(Y−C1−T1)−T2
両辺を(1+r)で割ると
C2/(1+r)=Y−C1−T1−T2/(1+r)
C1+C2/(1+r)=Y−T1−T2/(1+r)
C1+C2/(1+r)=Y−(G1+G2/(1+r))
生涯消費 生涯所得
[公債発行による財源調達]
第1期の個人の予算制約
C1=Y−S−D (1)
第2期の個人の予算制約
C2=(1+r)(S+D)−T2 (2)
第1期の政府の予算制約
G1=D (3)
第2期の政府の予算制約
G2=T2−(1+r)D (4)
(1)式より
S=Y−C1−D (1)’
(1)’を(2)に代入
C2=(1+r){(Y−C−D)+D}−T2
両辺を(1+r)で割ると
C2/(1+r)=Y−C1−T2/(1+r)
C1+C2/(1+r)=Y−T2/(1+r)
(5)
(4)式より
T2=G2−(1+r)D (4)’
(3)式を代入
T2=G2−(1+r)G1 (4)''
(4)''を(5)に代入
C1+C2/(1+r)=Y−(G1+G2/(1+r))
課税による調達も公債による調達の予算制約は同一
バローの中立命題
公債の発行と償還が別の世代にまたがっておこなわれるときは「リカードの中立命題」は成立しない。
バローによると発行と償還が世代にまたがっておこなわれるとしても、親の世代が子どもの世代の効用に関心を持つ場合には「中立命題」が成立する。
例:公債の発行による財源調達が子どもの世代でおこなわれる場合、親は子どものことを考え、遺産を残そうとする。
(3)中立命題の前提条件
@人々が政府の予算制約を正しく認識していること
A政府支出のパターンが一定であること
B家計は単一の代表的家計によってモデル化されること
C資本市場が完全であること
D生存期間に不確実性がないこと
第3節.財政再建への取り組み
(1)公債発行の問題点
公債発行残高が膨大だが、金利は低位で安定→財政破綻を心配する必要はない?
・赤字財政による景気対策は、非効率的な産業構造を温存
・世代間の不公平を生じる
(2)近年における財政再建への取り組み
平成9年11月28日 財政構造改革の推進に関する特別措置法成立
→ 財政赤字対GDP比3%以下及び特例公債脱却は2003年を目標
平成10年5月29日 財政構造改革の推進に関する特別措置法改正法成立
→財政健全化目標の達成年次を2005年度まで延長
11年度当初予算の社会保障関係費の量的縮減目標を「おおむね2%」から「極力抑制」へ
平成12月11日 財政構造改革の推進に関する特別措置法停止法成立
→ 財政構造改革法全体の施行を当分の間停止
平成18年7月 閣議決定「経済財政運営と構造改革に関する基本方針2006」 歳出歳入一体改革
●財政健全化第I期(2001〜06年度):小泉内閣における改革
●財政健全化第II期(2007年度〜2010年代初頭)
・財政健全化の第一歩である基礎的財政収支黒字化を確実に実現
−第T期と同程度の財政健全化努力を継続し、2011年度には国・地方の基礎的財政収支を確実に黒字化する。
−財政状況の厳しい国の基礎的財政収支についても、できる限り早期に均衡を回復させることを目指し国・地方間のバランスを確保しつつ、財政再建を進める。
●財政健全化第III期(2010年代初頭〜2010年代半ば)
・債務残高GDP比の発散を止め、安定的引き下げへ
−国・地方の基礎的財政収支の一定の黒字幅を確保する。
−国についても、債務残高GDP比の発散を止め、安定的に引き下げることを目指す。
2007年度〜2010年代初頭における歳出改革
目標:2011年度に国・地方の基礎的財政収支の黒字化
要対応額:16.5兆円程度(目標を達成するために必要となる対応額)→うち、▲14.3兆円〜▲11.4兆円を歳出削減によって対応。
平成22年( 2010 年)6 月22 日に閣議決定された「財政運営戦略」によると国の財政健全化目標は、
@国・地方の基礎的財政収支(プライマリー・バランス)
・遅くとも2015 年度までに赤字対GDP 比を2010 年度から半減
・遅くとも2020 年度までに黒字化
A国の基礎的財政収支:上記と同様の目標
B2021 年度以降も、財政健全化努力を継続
2021 年度以降において国・地方の公債等残高の対GDP 比を安定的に低下させる
*プライマリーバランスとは
歳入から公債収入、歳出から国債費を取り除いた収支
「社会保障・税一体改革大綱」(平成24年2月閣議決定)
2014年4月 消費税率8% (国 6.3% 地方消費税1.7%)
2015年10月 消費税率10% (国7.8% 地方消費税%)
→税率引き上げは安倍政権下で2度延期され、2019年10月から実施