ドラクエWSS(その1)
「まったく〜。なーんでこのマーニャちゃんが暗くてジメジメなところに行かなきゃなんないのよ〜」
ちょっときわどい衣装を身に着けている彼女、マーニャは洞窟に入るたびにやれ汚いとか、はやく風呂に入りたいとか文句を言う。宝箱が見つかると目の色変えて飛びついてくるのだが。
「すまないな、マーニャ。今回はみんなそれぞれ事情があってついてこれなくて、このパーティーが一番バランスが良いんだ。だから我慢してくれ」
なるべく機嫌を損ねないようにフォローをするこの男こそが伝説の勇者。個性的過ぎる仲間をまとめあげ続けて旅をしていることがすでに伝説的だが。
「姉さん、あまり勇者さんを困らせないように。ただでさえお世話になっているのに・・・
それに私は好きですよ、薄暗くて静かなところ。勇者さんはどう思います?」
「え?ま、まぁ…ははは・・・」
曖昧に返事をする勇者。
『私は思いっきり根暗です』な意見を述べているのがミネア。
マーニャとは当然姉妹になるので顔立ちは似ているがいかんせん性格が正反対である。
「ブーブー」
妹にも説得されたので文句を言いつつもついてくるマーニャ。
さて、勇者率いるパーティーは、4人外に出てモンスター相手に戦うのが基本的戦術である。
で、今回ついてきている残りの一人だが…
「さあ!どっからでもかかってなさい!わたしは逃げも隠れもしないわよ。まだ見ぬモンスター達!!」
グッっと無意味に握りこぶし、無意味にでかい声。
その一撃は時に最強の防御力を誇るをいわれるメタル系のモンスターでさえ葬り去る。
サントハイムのお姫様、
「こらこらアリーナ、そんな声だしたらモンスターに気づかれるだろ?」
「なーに言っているのよ。せっかく見知らぬ洞窟を見つけたのよ?
ここでモンスターと戦わなければ武道大会優勝者の名がすたるわ。」
「だから、姫だろ、アリーナは」
彼は激しく思った。
今回のパーティ編成は失敗したかな、と。
ある町の祭壇に天から降り注いだ光によって大きな穴が開いた。
そんな、噂話を聞いて勇者たちは真相を確かめるべくその問題の町へ赴くと、確かに大きな穴が開いていた。そのときの勇者一向は不幸のエルフを救うべくあるものを探し、世界中を飛び回っていたのでここも一応調べてみようという結論に達した。
問題は誰がこの怪しい穴に突入するかということで話し合いが行なわれた。
とりあえず有無言わさず勇者は決定になってしまい、リーダーってなんだろう?と疑問に思いつつも彼は皆の意見ををまとめあげた。
高所恐怖症のクリフトはすでに穴を見ているだけで青ざめた顔をしているので問題外。ブライは最近の無理な旅がたたってか腰痛でゆっくり温泉につかりたいとのこと。トルネコはいいかげんカオスと化している道具の整理をしたいと言っている。
ということで、回復呪文担当のミネア、攻撃呪文担当のマーニャは決定。ここで勇者はこういうことに経験豊富なライアンを連れて行きたかったのだが
「勇者殿、申し訳ございませんが私は無理ですな」
困った顔つきで例の穴の方向を見ると
「なにやってんのよ!早く行きましょ!」
やる気満々のアリーナが手を振っている。
「だー!わかったから一人で行くな!
しかたがない、じゃぁ行って来ますのでライアンさん後のことお願いします」
「はっはっは、勇者殿も大変ですな。がんばってきてくだされ。」
肩を叩きつつ励ますライアン。勇者はため息をつきつつその漆黒の闇へ足を運んだ。
「どこか具合でも悪いのですか?」
「え?」
見ると心配そうな顔をしているミネア。
「ったくも〜、せっかくこーんな美女3人がいっしょにいるのに何辛気臭い顔してんのよ。
大体、今の状況両手どころか全身に花なのよ?」
「いや、ごめん。ちょっと考え事をしていただけさ」
「ふーん、そう?ならいいんだけど」
思わず笑いがこぼれてしまう勇者。
「?」
2人とも首をかしげる。
「いや、悪い。ずいぶんと対照的な気遣う言葉だなって」
「うっさいわね」
「はは・・・」
勇者の顔が笑みから一変する。
その顔の意味をすばやく読み取る。
「敵、ですか」
静かにミネアは言う。
「ああ」
さっきまで数メートル先を暴走していたアリーナもいつのまにか近くに戻ってきていた。
「気配が近くに感じるわ・・・距離は…あと数秒・・・」
誰からでもなく、それぞれ背を向かい合わせにして静止する。視界の悪い場所では死角をなくすことが重要である。どこから攻撃がきても判断が遅れないように。
一瞬の静寂。
ヒュンッ!
暗闇から突然ものすごい勢いで何か長いものが地を這ってくる!
もちろんすぐさま反応した4人はそれぞれ攻撃範囲外へ飛びのく。
「アリーナは俺と今攻撃してきた奴を叩く。ミネア、マーニャは上に隠れている奴を」
瞬時に状況を判断、理解した勇者の的確な命令。
アリーナは無言でうなずき気配がするほうへ走りだす。
「わかりました、勇者さん」
ミネアは懐から水晶を取り出す。
「とういわけで、隠れていても無駄よモンスターちゃん。うちの勇者の感覚をなめちゃダメよ?」
不適な笑みを浮かべ、マーニャは勇者が指を向けた方向に視線をおくる。
戦闘開始、である。