Only One Attraction |
「僕、自分では結構一般よりは雑学って言うか、それなりの情報持ってる方だって思ってたんですけど…世の中って広くて複雑なんですねぇ」 八戒は一人頷きながらしみじみと呟いた。 ウイイィィーン… 照明を落とした室内で、モーターの機械音が止まることなく鳴っている。 「ん…っ…んんっ…ぅ」 艶やかで濡れた吐息が無機質な音に掻き消されそうな程微かに聞こえていた。 しっとり汗ばむ褐色の背中が不規則に波打つ。 「う…ん…ぐっ…んー…っ」 八戒が考え事をしている視界の端で、高々と突き上げられた腰が淫らに揺れていた。 朦朧としている悟浄の耳朶に小さな忍び笑いが滑り込む。 「さっきのとどっちが気持ちいい?」 「んんっ…く…う…」 囁かれる声に悟浄は厭がって首を左右に振った。 先程から鼓動が大きく胸から迫り上がり、口からはみ出そうだ。 後ろ手に縛り付けられた状態で布団へ突っ伏し、零れ落ちそうな嬌声を必死に堪えている。 熱い吐息と飲みきれない唾液、そして溢れ落ちる涙を枕へ擦りつけ、悟浄は体内で猛烈に渦巻く快楽からどうにか正気を繋ぎ止めていた。 それでも身体は与えられる快感に従順で、ダメだと分かっていても勝手に強請るよう蠢いてしまう。 肌は熱を上げて紅潮し、堪えきれずに突き出した腰を揺らめかせながら更なる行為を誘った。 悟浄の普段からは想像も出来ない媚態に、八戒の瞳が楽しげに眇められる。 「コレ、そんなに悦くないんですか?」 未だ一糸乱れもせずきっちり浴衣を着ている八戒は、小さく首を傾げたまま悟浄の双丘へと指を伸ばした。 大きく割り開かれたその最奥は、極限まで大きくクチを開けて異物を根元まで頬張っている。 異物から奇妙に伸びたコードの先には小さな箱状のリモコンが。 八戒の繊細な指先がコードを手繰り寄せ、リモコンに付いているバーをスライドさせた。 「ぃいっ!?ひゃああぁっ!!」 ビクンと悟浄の腰が跳ね上がり、汗を噴き出した身体が小刻みに痙攣する。 身悶えてのたうつ悟浄をじっくり眺めて、八戒が満足そうに頷いた。 「あ、ごめんなさい…あんな振動じゃ足りなかったんですねぇ。どうですか?とりあえず使える機能は全てオンにしたんですけどー?イボイボの先端が大きくスライドして突き上げる動き…してますか?」 八戒はリモコンを指先でクルクル回しながら、興味深げに取説を悟浄へ読んで聞かせる。 「はっ…んあっ…イッ…やぁ…あっ」 体内の奥深くを無機質な動きで犯していく異物に、悟浄は腰を捩って嬌声を上げた。 どれだけこうしているのか。 ずっとオモチャで弄られ続けた粘膜は柔らかく熟れ蕩け、どんな動きでも悦楽に捉えて卑しく貪ってしまう。 乱れた布団の上にきっちり正座している八戒の周りには、パッケージの開けられた所謂『大人の楽しむ玩具』が無造作にゴロゴロ転がっていた。 取説を真剣に眺めている八戒が、ふいに小さく唸る。 「こういうモノって僕は全然詳しくないから…とりあえず悟浄にはどれが合うか分からないんで全部買ってみたんですけど。どれもこれも悟浄には今ひとつ、みたいですねぇ」 全部買った? さり気なく白状した八戒の声に、悟浄は吃驚して瞠目する。 今更だけどココはラブホで。 当然と言えば当然だが、ただ場所を提供するだけではなく、如何にしてお客様に楽しんで利用してリピーターになって貰えるか、経営者もバラエティーに富んだ工夫を凝らしていた。 人の趣向も性癖も千差万別。 過渡気味のラブホ業界で勝ち組に居残るには、それなりの経営努力が必要になる。 ただ場所を提供するだけなら、直ぐに飽きられて客足は遠のいてしまう。 こんな場所へやってくるカップルは現実など求めない。 如何に非日常的な、いつもとは違う空間で互いにケダモノに成り下がって遊べるか。 現実から離れれば離れる程、お客は充分満足してまた刺激的な時間を求めて利用してくれる。 ある意味こうした性風俗業界の方が、時代の欲求を先取りしていた。 それが趣向の細分化。 万民に指示されるものでは無く、ある程度射程範囲を狭めてよりコアな客層を取り込む。 ここはそうして運営しているラブホテルだった。 より現実感から離れ、あたかも自分を空想の世界の住人に置き換えられる場と雰囲気を提供する。 現実には出来ないけど、こういうことをシテみたい、なりたいを閉鎖した室内で実現出来る場所。 そういう妄想を実体験できるこの『イメクラ』ホテルは、目論見が当たってオープン以来大盛況だった。 その飽くなき性の妄想を更に高めるオプションが、このホテルでは殊の外充実している。 それが八戒の周りに散乱している玩具類だった。 各部屋ごとのイメージに合わせ、多種多様な玩具や道具がアダルトショップと変わらない値段で提供されている。 極力他人と顔を合わせないよう配慮されたホテルでは、自販機で気軽に購入できるシステムになっていて、この遊郭部屋では格子戸を開けたショーケースに陳列される状態で販売していた。 コレを見つけた八戒は興味津々で瞳をキラッキラ輝かせる。 普段淫蕩の限りを尽くしている従兄から無駄に情報だけは聞かされていたが、実際目にしたり使用したことなど一度もなかった。 だからといって興味が全くなかった訳ではない。 いや、正確に言えば『ごく最近』になって興味が湧いてきた。 それもこれも悟浄という伴侶を得たからだ。 はっきりとは言わないし敢えて訊いてもいないが、悟浄はそれはもう腰のフットワークが軽い遊び人だった。 誘われれば蝶々宜しく、熟れて蜜の甘いお姉さんからお姉さんの上を手当たり次第飛び回っていたらしい。 そして自分は経験らしい経験も片手で余る程度しかなかった。 しかも至って平凡で、ありふれた行為のみ。 お世辞にも相手を身も世もなく悶え狂わせた経験など皆無だ。 側にいた従兄が従兄なので、セックスに対して『愛するヒトと心だけではなく身体まで深く結び合う行為』など夢見がちな幻想など物心つく少年の頃から持っていなかったが、悟浄と付き合いだしてから俄然認識が変わった。 『身も心も結び合う』行為も勿論大切だが、何よりも八戒に湧き上がるのは焦燥感だ。 悟浄と違って経験の浅い自分の行為などたかが知れている。 ただ触れ合って与え合うだけじゃ、いつか悟浄が飽きて離れてしまうかも。 愛する悟浄をじっと自分へ繋ぎ止めて溺れさせ、自分から離れさせないようするにはどうすればいいか。 八戒は人知れず、ずっとずっと真剣に考えた。 その時脳裏に浮かんだのは、現在進行形でずっと迷惑を掛けられ続けている従兄の姿。 今では悟浄の兄という伴侶を得て真っ当な(違う意味で)お付き合いをしているが、性癖まで変わった訳ではないらしい。 その証拠に従兄の天蓬は、八戒が訊いてもいないのに悟浄の兄捲簾との性生活がどれほど充実していて素晴らしかを事細かに惚気てくる。 当初は八戒も顔を顰めたり遠慮無く淫猥な行為をべらべら話して聞かせる天蓬に、『聞きたくなんかありませんよっ!』とキレたりしていたのだが。 よくよく考えたら、これは貴重な情報じゃないだろうか。 天蓬や捲簾程じゃないにしろ、悟浄だって相当淫蕩の限りを尽くしてきたのだろう。 認めたくはないが自分と出逢う前なので仕方がない。 だったら悟浄は恋人である八戒だからこそ、今まで経験してきた以上の快楽を求めているはず。 こ…こここここれは悟浄のためにっ!頑張って勉強しなくてなりませんっ! 根が真面目すぎる八戒のベクトルは悟浄の意思を確認することもなく、天蓬や捲簾のおかげで間違った方向へ突進していった。 だからこそ今の悟浄の現況なのだが。 花魁衣装らしい安っぽい着物は身体の下ですっかりもみくちゃ状態。 後ろ手に細い縄で括られ、どうやっても脚が閉じられない状態で身動ぎできるのは、縛られていない腰と顔だけ。 はだけた真っ赤な長襦袢ごと変形亀甲縛り(天蓬オリジナル)にされ、汗の吹き出る肌へキリキリ縄が食い込んでいる。 またソレが絶妙な場所に這わされていて、少し動いただけで散々弄られプックリ充血した乳首が挟み込むよう擦られ、じんわり湧き上がる淫蕩な熱に性器がビクンと跳ね上がった。 そんな状態で秘口には歪な形の太い玩具が挿入され、身体の中でグニグニと敏感な粘膜を擦って蠢いている。 それもはしゃぐ八戒にアレもコレもととっかえひっかえ挿れたり出したり、どれだけの玩具で弄られたか既に数さえ覚えてなかった。 勃起した性器は未だ決定的な快感を与えて貰えず、ダラダラ先奔りだけをひっきりなしに垂れ流して、長襦袢の裾を滴る程に濡らしている。 早く溜まりに溜まった燻る熱を吐き出したくて仕方ないのに、勃起したまま吐精することもままならない。 不自由に拘束された手で性器を扱くことさえできないので、悟浄は腰を動かして真っ赤に熟れた先端を布団へ擦りつけていた。 そんな刺激ぐらいで今更達けるはずもなく、過ぎる快感も限界になればただただ苦痛で。 悟浄は恥も外聞もなく身悶え、八戒へ達かせて欲しいと懇願していた。 「もっ…イキ…てぇっ!八戒ぃっ…早っ…イカせろっ…よぉっ!」 「で?玩具でイケないんですか?」 咽び泣く悟浄の切願に八戒はきょとんと目を丸くする。 こんなに悦さそうに悶えているのに? さっきからずっと玩具を咥え込んで、アソコからいやらしくお漏らししちゃってるのに? 快感に打ち震える悟浄が何で達けないのかが八戒には分からなかった。 本気で不思議そうに見つめてくる八戒に、悟浄の顔がクシャッと涙で歪む。 それに驚いたのは八戒のだ。 「え?ええっ?悟浄どうしました?」 「ばかっ!ばかばかばかばかぁっ!!八戒なんか大っ嫌いだーっっ!!」 癇癪を起こした子供のように泣き喚く悟浄に、八戒が慌てふためいた。 とりあえず落ち着かせようと背中から抱き締め、濡れた髪を掻き上げながらしゃくり上げる悟浄を優しく撫であやす。 「落ち着いて悟浄…」 「イキてぇって言ってんのに…っ…何でなんもしねーんだよぉっ!」 「え?だって…玩具気持ち悦いんですよね?」 「悦く…ねぇっ!こんなのでイケるわきゃっ…ね…よっ」 「そうなんですか?あれ?でも天ちゃんが捲簾さんは玩具で弄っただけで何度もイッちゃうって…」 「俺を百戦錬磨の淫乱兄貴と一緒にすんなーっっ!!」 「ごっ…ごめんなさいっ!」 真っ赤な顔で絶叫する悟浄に、八戒は思わず勢いで謝った。 ぎゅっと覆い被さるように抱き締めると、少し落ち着いたらしい悟浄がグズグズ鼻を啜る。 覗き込んで悟浄を窺ってくる八戒の頬へ、涙に濡れた頬を擦り寄せた。 「お前…何かすっげ勘違いしてる」 「そー、なんですか?」 「そーなのっ!俺はさ…確かに八戒と逢うまではオンナとそれなりに遊んでたけど…っ…別にスッゲェ事しまくってた訳じゃねぇし。どっちかって言えばオナニーの延長みたいな程度で」 「何ですかそれ??」 「自分でスルよりオンナ抱いた方が気持ち悦いからセックスしてただけで…本当に惚れて…自分からセックスしたくてしたくて…欲しくなったのなんか八戒だけなんだぞ?」 「ほっ…ホントですかっ!?」 悟浄の告白は八戒にとって嬉しい誤算だった。 幸せすぎてじんわりと心が熱くなる…ついでに股間も。 「ホント…だから、ゆっくり八戒のこと抱きた…」 「何ですって?」 「ああんっ!」 悟浄の失言を見逃さず、八戒は埋め込まれたままの玩具でグリッ!と粘膜を掻き回す。 「だっ…だからっ!普通に抱き合いてぇの!八戒で満たされたいのに…こんな玩具でイカされるのなんかヤなんだよぉっ!」 「ごじょー…vvv」 随分と初心で可愛らしい要求に、八戒は感極まって抱き締めた。 汗の滲んだ褐色の肌を指先が滑り、埋め込まれた玩具へ指を掛けると、慎重に悟浄の体内から抜き出す。 「んっ!んぅ…っ」 粘膜を擦って抜け落ちる感触に、悟浄はビクビクと腰を震わせた。 ズルリ、と体内から太い異物が取り除かれ、悟浄は肩から布団へ突っ伏す。 浅く荒い呼吸を繰り返していると、玩具で蕩け解された秘口へ今度は別のモノが押し付けられるのを感じた。 それは先程の玩具と違って、熱くドクドクと脈動している。 「あ…っ」 ソレが何か分かった悟浄の頬が無意識に歓喜で紅潮した。 待ち望んでいたモノを与えて貰える期待で、自然と腰が揺らめいてしまう。 しかし。 「八戒ぃー…早くコレ解けよぉ」 玩具は取り除かれても、未だにきっちり縛られたまま身体の拘束は解かれていなかった。 早く手足を自由に動かして、思う存分八戒に抱きつきたい。 ところが八戒は。 「そ…そんなの無理ですっ!教わったばかりなんで、結ぶのも解くのも時間が掛かってしまうんですよ」 何だか八戒の声音が切羽詰まって聞こえた。 別に時間が掛かろうが外して貰えるなら、八戒の手際が悪かろうが悟浄は気にしない。 だけど八戒にはその手際の悪さが弱点だった。 「ごめんなさいっ!もう僕っ…我慢できないんですっ!」 「へ?」 八戒の上擦った声と同時にガッチリ腰を抱え上げられ。 脳天を突き抜ける程の物凄い質量がズンッ!と悟浄の襞を掻き分けて一気に侵入してきた。 あまりにも強引すぎて抵抗する間もない。 熟れた粘膜を擦りながら深々と挿入され、沸騰した快感に限界を超えた悟浄の性器が白濁を撒き散らして弾けた。 「ひい…いいいーーーっっ!?」 「うんっ!はぁー…悟浄のナカ…すっごい締め付けて…ヌルヌルで熱いですっvvv」 痛みも覚えずあっさり八戒のモノを受け容れてしまった悟浄は、吐精の余韻に浸る間もなく最奥でジクジク疼く快感に性器をプルンと震わせてしまう。 それは八戒も同じだった。 悟浄の粘膜にキュウキュウ締め付けられ、今にも暴発しそうな勢いだ。 腰を掴んだ状態でグッと前のめりに身体を押し付けると、より一層結合が深まり悟浄が嬌声を上げる。 「あ…んっ…はっか…いぃっ…ダメ…って…奥っ…深過ぎ…いっ」 不慣れな体勢での交わりに、悟浄は全身を興奮で紅潮させ身悶えた。 悟浄がっ!すっごいエッチに悦んでくれてますっ!! 俄然気合いも入り、八戒も一気に欲情する。 スコーンとたがが外れた八戒は掴み締めた腰を闇雲に揺すって、激しい注挿を繰り返し始めた。 |
Back Next |