The Road Home



遠くの方で微かな喧噪が聞こえてくる。
祭囃子の楽しげな音色と、夜空には大輪の花。

「なぁ…花火…キレーだよな…っ」
「え?そーです…ねぇ」

悟浄は霞む瞳で天上を見上げた。
不安定な姿勢でいるせいか、先程から足場が滑ってバランスを崩す。
木の幹にしがみ付いていないと、そのまま地面に顔から突っ伏しそうだ。

俺ら祭りに来てるんだよな。
そんでもって八戒がどうしても花火が見たいって言うから。
人混みで面倒くせぇって俺がごねたら、綺麗に見える場所を知ってるから大丈夫だって。
八戒に手を引かれて、花火会場へ向かう人並みから二人で離れてココに来たはず。
なのに。

何で俺ら花火見ねーで、セックスなんかしてるんだよ?

花火会場から離れた神社の裏で、悟浄は八戒に揺さ振られていた。
「…暑ぃー」
八戒が嬉しそうにお揃いで用意した浴衣もすっかり着乱れ、帯で腰からぶら下がってる状態。汗と吐き出した精液で、下肢から足許までグチャグチャに汚れている。
濡れてしまった下駄が滑って、足に力が入らない。
後から深く繋がった体勢で、何度も何度も突き上げられ掻き回され。
くぐもった嬌声を喉で無理矢理飲み込んだ。

生温い気温と。
自分と八戒の体温で逆上せそうになる。
辺りに立ちこめる夏草と自分の体液の青臭い匂いに目眩がした。

身体の奥深くで、八戒の肉塊が大きく膨張する。
「オラッ…もーイッとけ…っ!」
慣れた仕草で、悟浄が咥え込んでいる八戒の雄を誘うように締め付けた。
「あ…まだ…ヤ…ですっ!」
汗で濡れた髪を乱して、八戒が悟浄の肩口に噛みつく。
皮膚を食い破ると、口腔に錆びた味が広がっていく。
滲み出る血を舌で舐め取り啜り上げれば、繋がっている部位がヒクヒク蠢いた。
「…気持ち悦いんですか?」
「ちょっと…キテっかも…っ?」
背後を振り返り、悟浄がニッと口端を上げて笑う。
八戒は大きく深く突き上げながら、剥き出しの背中に何度も噛みついた。
「んぁっ…ちょ…ヤバ…悦すぎー…って」
呼吸を大きく乱して、悟浄も激しく腰を揺らす。

静かな木々の間で聞こえるのは、肉の交わる音と卑猥な吐息だけ。
周りの喧噪も虫の声さえ耳には入らない。

悟浄は前のめりになりながら木の幹へ体重を掛け、湧き上がる快楽に身体を震わせた。
八戒の雄を体内へ受け入れて、もう何度達かされたか覚えていない。
その間一度も性器には触れられていなかった。
ただ八戒にナカを侵され支配されているというだけで、勝手に肉芯は勃ち上がり吐精する。
「ひぁっ…あ…も…出せってぇ…花火…見れね…っ」
「見えてるじゃないですか…ほら…凄い綺麗…ですよ?」
「バカッ!気持ち悦すぎで…んな余裕…ねーんだ…よぉっ!」
悟浄が掠れた声音を吐き出し、後ろ足で八戒の脛を蹴り付けた。
勢い余って脱げた下駄が、カラコロ石畳を転がっていく。
限界が近いのか、悟浄の腰が大きく痙攣した。
ナカの粘膜も今まで以上に肉芯へ絡みつき、奥へ奥へと誘い込む。
「早っ…も…イケッて…なぁ…っ」
「んっ…ナカに出しても…い…ですか?」
「テメッ…調子コキ過ぎ…っ」

こんな場所で冗談じゃない。
中出しされた違和感のまま、家まで歩くのは滅茶苦茶厭すぎる。
だけど。
八戒が素直に『分かりました』なんて素直に納得した試しもなかった。
どんなに厭がっても怒鳴りつけても罵っても。

「僕…悟浄のナカじゃなきゃ…イヤなんです」

ホラ、そうやって泣きそうな顔するから。
悟浄はいつものように一つ溜息を零して、腰を八戒へ押し付けた。
「…出したら速攻帰っからなっ!」
プイッと視線を逸らせて、悟浄が小さく呟く。
一瞬八戒は目を丸くして。
すぐに蕩けそうな笑顔で悟浄を抱き締めた。






「…お前ぇ、ちょっと浮かれ過ぎ」
「…すいません」
草むらに腰を落として、悟浄はゼーゼー深呼吸を繰り返す。
乱れた浴衣を直す気力も起きないで、そのまま大の字に転がった。

「………あ」

悟浄が天上を見上げたまま声を漏らす。
つられて八戒も視線を上げた。

大輪の花が空で花弁を撒き散らす。
降り落ちる火の粉がやがて闇夜に溶けて無くなった。

「…終わっちゃいましたね」
「まぁ…締めのデッカイのは見れたな」

悟浄は身体を起こすと、乱れた前髪を整える。
八戒に手渡された手拭いで適当に下肢を清めると、ゆっくりと立ち上がった。
もう祭囃子も聞こえてこない。

「悟浄…大丈夫ですか?」
さすがにヤリすぎたと自覚があるのか、八戒が心配そうに悟浄を見つめる。
悟浄は少し首を傾げてから、ガシッと八戒の肩に腕を回した。
「生ビールでチャラにしてやる」
「え?」
「祭り来たからには満喫しねーとな。生ビールと焼きトウモロコシと〜たこ焼き買って?」
「…そんなに食べれるんですか?」
「つまみだろ?んで家に持って帰って〜さっきの続き」
「えっ!?」
「テメェが1発で気ぃ済む訳ねーじゃん?俺もぜ〜んぜん喰い足りねーし?」
「悟浄っ!早く戻らないと屋台終わっちゃいますよっ!!」
現金な八戒は真剣な顔で悟浄の手を掴んだ。
そのまま大慌てで石段を駆け下りる。
余裕のない八戒の態度に、悟浄が楽しそうに喉で笑った。

もうすぐ夏も終わる。



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