Eight Special Day



「はぁ〜ぴばぁ〜すで〜つ〜みぃ〜♪はーっぴばーっすで〜つぅ〜みいいぃぃ♪はああぁ〜っぴばぁ〜すで〜でぃあ!ぼぉーくぅー………ふぅ」

揺れるロウソクの炎を見つめながら八戒は憂いを帯びた溜息を零した。
すると。

「ごめんなさいごめんなさいごめんなさーいっ!俺が悪かったっ!悪かったからっっ!!」

どうやら泣いているらしい悟浄が、喉を詰まらせたような声で必死に謝っている。
八戒は肩越しに一瞥すると、大きく息を吸い込んだ。

「っはーっぴばーすでーつーみいいぃぃいい〜〜〜〜♪」
「頼むからっ!真っ暗闇の中でちっこいイチゴショートケーキにロウソク歳の数だけ挿してボンボン燃やしたり、パーティーの招待客代わりのぬいぐるみをちゃぶ台周りに座らせたり、お前お手製の真っ赤なテディーベアに『悟浄』って名札点けた挙げ句に何百本も針刺すんなよぉ〜っ!やめてぇ〜っ!コワイってっっ!!」
「何百本なんて大袈裟な。百本しか刺してませんよ」
「刺してるのがコワイんだってんだようっ!!」
「悟浄はさっきからうるさいですよ。今誰もお祝いしてくれない僕の誕生日を僕が一生懸命盛り立ててお祝いしてる最中なんですから黙っててください」
そう言うと八戒は、ちゃぶ台の周りにちょこんと座らせたぬいぐるみの数だけ用意したグラスに、この日のために買っておいたとっておきのドンペリゴールドを注いでいく。

「みんな…今日は僕のためにお祝いしてくれてありがとう…貴方たちが居てくれなかったら、今日は僕一人で寂しく涙のバースディに…ううう。あ、ごめんなさい。せっかくの誕生日に僕ってばっ!それじゃ〜かんぱーい♪」
「うわああぁぁあああっっ!!ホンッとマジでゴメンッ!お前の誕生日だって忘れてた訳じゃ…」
「………じゃぁ、誕生日プレゼントは?」
「うっ!?」
真っ暗闇の中、シャンパングラスを掲げた八戒が、顎の下から懐中電灯で顔を照らしながら悟浄を睨み付けた。
その視線を思いっきり険呑に据わり切っている。

そう。
今日は八戒の誕生日だ。
…正確には30分前まで。

あと数十分で日付を越える夜半頃、悟浄は突然大勝ちしていた賭場でそのことを思い出した。
当然全身から血の気が退いて顔面蒼白。
カードを持つ手が恐怖でプルプル震えた。
何が何でも今日中に帰らなくてはっ!
慌てて席を立ち上がった悟浄を酔っぱらい達が勝ち逃げする気かと執拗に引き留めたが、無理矢理振り払って賭場を飛び出した。

しかも今は夜中。

プレゼントを買って帰る店も開いてなければ、仮に店が開いてたとしても買って帰る余裕なんか無い。
とにかく悟浄はひたすら走った。
走って走って走って。
背筋を駆け上がる恐怖心が悟浄を必死に走らせる、が。

悟浄の努力は哀しいかな報われなかった。

どうにか辿り着いた家の前で時間を確認すれば、既に時間は22日に変わっている。
「や…ヤバッ…どーしよ…っ」
この扉の向こうには想像を絶する恐ろしい報復が待ち構えているに違いない。
悟浄は震える身体を撫でさすって宥めると、大きく深呼吸した。
深呼吸…深呼吸。
あまりの恐ろしさに身体が竦んで、深呼吸は10分間続く。

「帰らない訳にいかねーよなぁー…はぁ」

このまま回れ右して街へ戻る方が、報復のグレードは倍々で酷くなるはず。
自分を叱咤して励ました悟浄が意を決して扉を開けた途端。

悟浄の顔面に鉄アレイが飛んできた。






「ぃ…っ…てぇ」
昏倒してたらしい悟浄が気がつけば、真っ暗闇のリビングに転がされていた。
目が慣れないせいか部屋の様子が分からない。
分からないが前方から凄まじい噴気がひしひし伝わってきた。
確実に間違いなく、八戒が側に居る。
そのまま気絶しておけば良かったと後悔するが、今更誤魔化したところで八戒が見逃すはずがない。
悟浄が意識を取り戻して目覚めたのもバレているだろう。
とりあえず先手必勝。
土下座して謝っちゃえ!と起き上がろうとしたが、何故か起き上がれなかった。
手も足も動かすどころか身動ぎさえ出来ない。
「あ…れ?」
真っ暗闇の中、悟浄は気持ちを落ち着けて冷静に自分の状況を顧みる。
両手両足は後ろへ、しかも腰が無理矢理反り返っていた。
「………。」
悟浄は腰の後ろで手足を拘束されているらしい。
しかも何だか細いモノが身体のあちこち規則正しく食い込んでいた。
漸く暗闇になれて、自由に動かせる首で自分の身体を眺め下ろしてみれば。
「………やっぱり」
八戒の華麗なる絞め技で、悟浄は真っ赤なロープに梱包されちゃっていた。

「マジでゴメンッ!許してっ!!」
「さ〜て。そろそろみんなから頂いたプレゼントを開けましょうか♪」
八戒はぬいぐるみ達にニッコリ微笑むと、ゆっくりちゃぶ台の前で立ち上がった。
ロープでギチギチに拘束されて転がっている悟浄の側で仁王立ちする。
双眸を眇めてじっと見下ろしてくる八戒を、悟浄は恐怖で身体を縮こまらせた。
「八戒いぃぃ〜っっ!!」
「みんなから貰ったプレゼントはうるさいですねぇ。早く開けて悲鳴も掠れて出ないほどジックリ堪能させて貰いましょうか」
「あの…はっかい?」
恐る恐る涙目で見上げてくる悟浄へ、八戒は極上の笑みを浮かべる。

「…今晩は啼こうが喚こうが聞きませんからね?悟浄の穴っちゅー穴全部塞いでドロドロのグッチャグチャに犯して上げます」
「ひっ!い〜〜〜〜〜やああああ・あ・あ・あ・あーーーっっ!?」

グイッと乱暴にロープの結び目に指をかけた八戒が、そのままズルズルと悟浄を寝室へ引きずっていった。



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