cute or ? |
「ケン兄ちゃんっ!八戒っ!悟浄っ!俺も12歳になったんだよっ!」 突然勢いよくペットショップへ飛び込んできた悟空が、胸を張って意気揚々宣言した。 「おめでとう悟空っ!金蝉に預けておいたプレゼントは受け取ってくれたか〜?」 「悟空おめでとうございます。もう6年生ですかぁ…お兄ちゃんになってきましたねぇ」 「おーめっとさーん…の割には背ぇ伸びねーな」 「うにゃ〜んvvv」 その場に居合わせた大人と一匹がそれぞれ悟空へお祝いする。 「悟浄以外はありがとうっ!」 「オイコラ、俺以外ってのは何だよ?あぁ?」 「うっせぇよ。俺だって去年よりは1センチ伸びたんだよっ!」 「1センチなんか伸びたウチに入るかっ!オチビちゃんは…必死だねぇ?」 「チビってゆーなっ!!」 今にも掴み合いが始まりそうな雰囲気を、八戒が苦笑しながら制した。 側にいた捲簾も呆れた顔で溜息を零す。 「はいはい。こんなところでケンカしないの!悟浄、貴方も大人気ないですよ?」 「なーにムキになって小学生につっかかってんの。子供じゃねーんだから」 「だってコイツが!」 「悟浄が悪いんだろっ!」 「はいはいヤメロって。悟空の誕生日だろ?素直におめでとーでイイじゃねーか」 「そうですよぉ。あ、悟空。遅れてしまいますけど、今日仕事終わったらケーキ焼いて明日持っていきますね」 「八戒ありがとうっ!悟浄は?」 悟空はすかさず不機嫌そうな悟浄へ手を差し出した。 その手を勢いよく叩き落とす。 「あぁ?現金なヤツだな!何が欲しいんだよ?あんま高いのは買わねーぞ!」 何だかんだ憎まれ口を叩いても、悟浄はちゃんとお祝いしてくれるらしい。 さすがに歳が離れすぎて小学生が何を欲しいか分からないので(守備範囲外)、直接本人に欲しい物を確かめた。 「うぅ〜ん?」 悟空は腕を組んで考え込む。 ご馳走は金蝉が用意してくれるはず。 捲簾からは沢山のお菓子や携帯ゲーム機とソフトを貰った。 八戒はケーキをくれるらしいし。 真剣にあれこれ思案する悟空の目の前で。 「にゃっ!うにゃっ!!」 レジ横に座っていた猫のてんぽうが何やら前足で捏ねていた。 それはもう必死になってフワフワをギューギュー固めている。 「…てんぽう、何やってんの?」 「それって毛…ですよね?」 何故か猫は器用に前足を使って、自分の毛をタマにして丸めていた。 「にゃふ〜…」 どうやら完成したらしい3センチ大の毛玉を満足そうに眺めている。 それを。 「にゃっ!うにゃぁ〜っ!」 「悟空?何かてんぽうクンが呼んでますけど?」 「えっ!?俺?何?てんぽう??」 「にゃっ!」 きょとんと目を丸くする悟空の方へ、すすすー。と、猫が前足で毛玉を差し出した。 コロコロに丸めた毛のカタマリを差し出された悟空は小さく首を傾げる。 「えーっと。てんぽうの毛玉…だよね?」 固められた毛玉を手にとって指で摘むと、プニプニと摘んでみた。 「見た目だけだとチェーン付いてりゃキーホルダーでこんなのあるよなぁ」 「ああいうのはウサギの毛でしょう?それに固めている訳じゃありませんし」 レジ横で肘を付いている悟浄が呟くと、八戒が苦笑いを浮かべる。 それにしても、猫は何故悟空へ自分の毛玉を差し出したのか分からなかった。 指先の毛玉を転がして遊んでいる悟空の背後で、捲簾が曖昧な笑みを浮かべる。 「捲簾?何だよ??」 気付いた悟浄がすかさず突っ込むと、わざとらしく視線を逸らすが。 「うにゃっ!」 毛玉を渡した猫はどうだ!言わんばかりに胸を張ってご機嫌に尻尾を揺らしていた。 「???」 ますます毛玉の意味が分からない。 こんなに冬毛が抜けてスッキリしているのか、それともイイ感じに丸められたことに満足しているのか。 しかも猫は何だか期待満面で悟空をじーっと見ていた。 視線も反らさず真っ直ぐ見据えられて、悟空は大きな目を瞬かせる。 「あ〜…その毛玉な?てんぽうから悟空へ誕生日プレゼントのつもり…らしい」 「……………は?」 「毛玉が…ですか?」 「…そうなの?」 「にゃっ!」 猫が元気よく鳴いて返事した。 「その…てんぽう的にはお腹と胸のフワフワな所の毛を厳選して、悟空の為に可愛らしく丸めてみました!ってなコトらしい」 「厳選素材…なんだ」 「毛繕いじゃなかったんですか…」 「うにゃんっ!」 捲簾の説明に猫はコクコク頷く。 誕生日プレゼントが…毛玉? 何となく微妙な空気がその場に漂った、が。 「そっかーっ!すっげ嬉しいっ!てんぽうありがとーな?」 「にゃぁ〜ん♪」 素直で純粋な少年は猫の心遣いに微笑んだ。 「きれーに丸まってるよな〜…何かマリモみてぇで面白い。帰ったら机んトコに飾ろーっと」 「にゃにゃっ!」 コロコロと両手で毛玉を転がす悟空を、猫が満足そうに見つめている。 「…悟空は本当にイイ子ですよねぇ」 「まぁ、よく考えれば猫が人間に誕生日プレゼント渡すってだけでもスゲェよな…毛玉だけど」 「ビックリ猫ちゃん特集とかでテレビに出れるんじゃないですかね?あぁっ!ビデオに撮っておけばよかったですっ!」 「どーせお前は賞金狙いだろ?」 「そ…そんなこと無いですよ?ヤダなぁ〜悟浄ってばっ!」 ヒソヒソとレジの奥で話している八戒と悟浄に、悟空が身を乗り出してきた。 「てんぽうだってプレゼントくれたんだぞ?悟浄は?」 「だーかーらー!何が欲しいか決まったのかよ?」 「決まったっ!」 「ふーん…じゃぁ後で買ってきてやっから。で?何がイイんだよ?」 悟浄が誕生日プレゼントのリクエストを訊ねると。 ぽっvvv 何故か悟空の頬が見る見る赤くなった。 服の裾を恥ずかしそうに弄ってモジモジし始める。 「悟空?どした〜?」 捲簾が不思議そうに声を掛けると、悟空は気合を入れてキュッと唇を噛んだ。 「俺っ!勝負パンツが欲しいっっ!!」 「はぁ???」 「勝負…パンツぅ〜っ!?」 「パンツ…ですか?」 「うにゃ?」 悟空は真っ赤な顔でレジ横へ突っ伏し、キャーキャーと身悶える。 「だってだってっ!あと1年じゃんっ!来年は中学生になるしっ!そしたら金蝉とセックスするだろ?やっぱ初めての時は気合入れたいじゃーんvvv」 「なっ!?セッ…ク…スッて、悟空何言ってるんですかっ!?」 「俺、中学生になったら金蝉とラブラブの恋人同士になるんだっ!」 「ラブラブはともかくっ!中学生でそんなコトはまだ早過ぎますっ!」 「だってケン兄ちゃんが中学生になったらエッチ解禁だって言ったもんっ!」 「そんな訳ないでしょうっ!」 とんでもない爆弾発言を連発する小さな悟空に八戒が絶叫した。 「………捲簾、逃げんなよ?」 「チッ!」 愛猫を抱えてそっと店から逃走しようとする捲簾を、悟浄が目敏く引き留める。 「ちょっと捲簾さんっ!貴方こんな小さな子に何教えてるんですかっ!」 「え〜?だぁ〜って〜俺は中1で解禁だったし?」 「うにゃっ!」 「あ、俺も!」 「悟浄っ!何ですってーーーっっ!?」 「ぐえええぇぇええっ!!」 「バカ…悟浄」 捲簾に釣られて白状してしまった悟浄に八戒が激怒して首を締め上げた。 騒がしく揉め始める二人を眺めながら、捲簾は猫の頭をペシッと叩く。 「お前は黙ってろ。悟浄がバカだからサラッと聞き流されたけどな」 「…にゃふ」 猫は失言を誤魔化すように前足で顔を洗った。 「なーなーっ!悟浄っ!いいだろ〜?プレゼントで勝負パンツちょーだいっ!」 「悟空ダメですよっ!」 「まぁまぁ、八戒落ち着けって。別に買ったっていーんじゃね?マジで中学になった途端悟空が必要になって穿くとは限らねぇしさ」 「そうそう。だって相手はあのセンセーよ?」 「……………確かに。金蝉センセーって相当奥手っぽいですよね」 「だろ?だから〜…持ってるぐらいは別にいいんじゃねーの?」 「まぁ…下着には変わりありませんしねぇ」 捲簾と悟浄からさも尤もらしい説得(?)されてしまった八戒は、不承不承頷いた。 「んで?どんなパンツがいーんだよ?」 「金蝉がムラムラするヤツ!」 元気よく即答する悟空に、捲簾と悟浄は楽しげに口端を上げる。 「下着…ただの下着ですから」 「金蝉がねぇ?アイツ以外とムッツリだよな?正統派で可愛い感じのがいーんじゃね?どーよ?てんぽう」 「うにゃっ!」 「女の下着なら定番は総レースのTバックとかだけどな〜」 「僕もですっ!」 「お前何時んなパンツ穿いたよっ!?」 「あれ?僕は毎晩勝負してますけど?悟浄気付いてなかったんですか?」 「知らねーよっっ!!」 真っ赤になって絶叫する悟浄の肩を捲簾が叩いて宥めた。 「はいはい。今はお前らの趣向じゃなくって金蝉の!」 「ちなみに捲簾さんは?」 「俺?ノーパン」 「………っっ!?」 あっさり問題発言する捲簾に八戒と悟浄が絶句する。 しかし捲簾が言うと妙に納得してしまう。 「勝負ん時は…穿かねーんだ」 「天蓬が大喜びすっから」 「うにゃvvv」 「…猫ちゃんの方じゃないですよね?」 「そっかぁケン兄ちゃんスゴイなぁ…やっぱ穿かない方が金蝉も喜ぶかな?」 「いやっ!それは特殊な例だからっ!!」 そのまま捲簾の話を鵜呑みにして実行しかねない悟空を、悟浄が慌てて否定した。 さすがに中学生でソレはマズイだろう。 「まぁ、一般的に考えてですけど。中学生がお色気全開な下着付けてても返って退きません?」 「なるほど…それはあるな」 「相手が金蝉だし…いつもとちょっと違って可愛い?ぐらいで丁度イイんじゃねー?」 「そうなの?」 悟空が小首を傾げると、大人達(と猫)は一斉に頷いた。 「よしよし。んじゃ清純路線系で決定!」 で。 結局悟浄が贈ったプレゼントは。 「悟浄…悟空へどんな下着買ってあげたんですか?」 「ん?純白のスケスケベビードール」 「ベビードール…ですかぁ〜…」 「俺は着ねぇぞっっ!!」 「………チッ!」 悟空は悟浄から貰った勝負下着ワンセットを来たるべく日に想いを馳せながら恋心を募らせる。 後日、そのタンスの中に洗濯物を仕舞おうとしてベビードールを発見した金蝉は。 「………。」 何も見なかったことにして速攻タンスを閉めた。 |
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