One on One



八戒は新聞を眺めつつ、リモコン片手にテレビチャンネルをザッピング中。
「この時間帯って、あんまり面白そうな番組やってませんねぇ〜」
リモコンを置くと、のんびりとお茶を啜った。
見るともなしに窓の外へと視線を向ける。
すると。
どこからともなく、もの凄い地鳴りがしてきた。
「…何だか土煙が上がってそうだなぁ」
八戒はクスッと笑いを零す。
その音がだんだんと家へと近付いてきた。
「はああぁぁっかいいいぃぃーーーっっ!!!」
走り込んできた勢いのまま、悟浄は思いっきり扉を蹴破る。
「おかえりなさーい♪」

パパンッ☆

悟浄に向かっていくつも紙テープが飛んできた。
据わりきった凶悪な目つきで、悟浄が睨み付けてくる。
しかし、頭からカラフルなテープをぶら下げた状態では、凄味も半減。
八戒に掴みかかろうと家に一歩入って、悟浄はピタリと止まった。
「寒かったでしょう〜ご飯の準備は出来てますよ〜♪」
穏やかに微笑んで、八戒が手招いている。
そこはいつものダイニングではなく。
「八戒…それ…」
「悟浄が欲しがっていた炬燵ですよ?」
「うわぁっ…コタツーッッvvv」
さっきまでの不機嫌さはどこへやら。
悟浄は瞳をキラキラと輝かせ、嬉しそうに飛んできた。
八戒の向かい側に入ると、ほぅっと溜息を吐く。
「あったけ〜♪やっぱ冬はコレだよなぁ」
フワフワの布団に腰を沈めて、悟浄はご満悦だ。
そして、視線の先には…土鍋。
グツグツと何かが煮えている。
「八戒。コレは何?」
「今日は…悟浄の大好きな鶏団子鍋にしました♪」
「うっそっ!マジ!?」
「ちゃ〜んと軟骨も入れましたからね」
「うわぁー…」
感激で悟浄の目が潤みだした。
部屋の暖かさで、頬もほんのり色付いてくる。
「モチロン、日本酒も用意しました。久保田の万寿ですよ〜♪」
「はっかいいぃぃ〜vvv」
悟浄は泣き出しそうな程感激していた。
さすが、八戒。
あっさりと悟浄は、目先の炬燵とご馳走に誤魔化されてしまう。
「いいお出汁出ますから、後でおじやかうどんにしましょうね」
コクコクと悟浄が嬉しそうに頷いた。
鍋から漏れる美味しそうな匂いが鼻腔を擽って、食欲を刺激する。
「…そろそろですかね」
八戒が鍋の蓋を取ると、真っ白い湯気が立ち込めた。
瞳を輝かせて、悟浄が鍋の中を覗き込む。
「取り分けますから、ちょっと待って下さいね」
「早く早くぅ〜っ!」
箸を取ってスタンバイオッケー。
悟浄は待ちきれずに、子供のように八戒を急かす。
「八戒っ!きのこもっと入れて!」
「はいはい」
八戒は苦笑しながら、きのこを器に盛りつけた。
「悟浄、どうぞ。熱いから気を付けて下さいね」
「いっただっきまぁ〜っす!」
器を受け取ると、悟浄は早速箸を付ける。
とりあえず大好物の鶏団子を口の中に放り込んだ。
「あっ…アチッ!でも旨ぁ〜い♪」
もごもごと口を蠢かせて、悟浄がニッコリ笑う。
「よかったです〜まだ具材もいっぱいありますからね、ほら」
「…ちょっといっか?」
「はい?何ですか??」
悟浄は一旦箸を置いて、皿に乗っている具材を指差す。
「やけに…きのこ多くねー?」
「…昨日はイイきのこ狩り日和でした」
何故だか視線を逸らして、八戒が遠くを見つめた。
悟浄の眉が顰められる。
「へー。八戒昨日きのこ狩りなんか行ったんだ〜」
「ワライダケなんか仕込んでませんよ?」
「当たり前だっ!!」
悟浄が思いっきり炬燵を叩いた。
「わっ!危ないじゃないですか〜もぅ!」
叩いた拍子に倒れそうになった酒瓶を、八戒が慌てて押さえる。
「大体今日のは何だったんだ?」
「今日の、と言いますと?」
「全部だよっ!朝っぱらから伝言ゲームに振り回されるわ…」
「悟浄って…随分と内緒事が多いですよねぇ」
恐ろしい程低い呟きに、悟浄の背筋が凍り付く。
八戒の背後に極寒ブリザードの幻影さえ見えてきた。
「いや…ゴホッ…それはとにかくっ!何だってバカ猿のところや、森ん中をグルグル歩かされなきゃいけない訳?」
「いい運動不足の解消になったでしょう?最近悟浄ってばゴロゴロしすぎですよ。身体に良くないです」
「そんなのっ!別に今日じゃなくたっていーだろう!?」

何だって誕生日に。
一人でずっと居なきゃなんねーんだよ。

悟浄は猛烈に拗ねていた。
まぁ、家の中悪癖総ざらいは、そのうちバレると思ってたけど。
自分を一人っきりにして、八戒のいいように振り回されて。
漸く八戒の居場所が分かって、どんなに安心したか。
家に戻ってきて八戒を見つけた時、どんなに嬉しかったか。
きっと、八戒は分かってないんだ。

突然押し黙って俯く悟浄に、八戒は双眸を和らげた。
そっと悟浄の掌を自分の手で包み込む。
「どうしても悟浄を驚かせたかったんですよ…」
「俺が…驚く?」
「そうですよ。だって悟浄炬燵…凄い欲しがってたでしょう?」
「…うん」
最近いきなり寒くなったから。
悟浄は八戒に炬燵を買おうと提案した。
が。
あっさりと却下されてしまう。
『ダメですっ!炬燵なんか買ったら、悟浄ますます動かなくなるじゃないですかぁ。』
『んなこと…ねーって』
『嘘ですね?どうせ寝っ転がった炬燵の周囲に必要なモノ置いて、ゴロゴロする気でしょう?』
『ゴロゴロするのが炬燵の醍醐味だろっ!』
『知りませんっ!それに掃除する時邪魔ですっ!』
『なぁ〜?はぁ〜っかいぃ〜』
『…そんな甘えた声出したってダメですよ』
『八戒のケチッ!意固地!』
『じゃぁ、毎日毎日悟浄が炬燵を上げて、掃除をして、炬燵布団をちゃんと日干ししてくれるなら買いましょう』
『八戒…実は俺のことがキライだな?』
『何でそこで「分かった片づける。」って言えないんですかっ!』
と、まぁ日々低レベルな諍いがあった。
悟浄は拗ねて駄々を捏ねまくっても無視されたので、渋々諦めた垂涎の一品。
その念願の炬燵が!
スリスリと布団に懐いて、悟浄が心底嬉しそうに笑う。
「それで、先週電気屋で炬燵を注文しまして。今日の配達をお願いしたら、午後になってしまうって言われたんですよ。悟浄が家にいたらビックリさせられないでしょ?」
「それにしたってよぉ〜何も探検ゴッコさせなくったっていーじゃん」
「簡単なことだとすぐ帰って来ちゃうじゃないですか。炬燵だけじゃないんですよ?買い物だってあったし、料理の準備も。とにかく、僕は悟浄を驚かせて…喜んで欲しかったんです」
八戒の穏やかな微笑みに、悟浄は顔を真っ赤に染めた。
嬉しいやら、恥ずかしいやら。
何だかむず痒くなって、そわそわと視線を泳がせる。
「………さんきゅ」
炬燵布団に顔を埋めると、悟浄が小さな声で呟いた。
八戒も満足そうに頷く。
「どういたしまして♪さぁ、お鍋いっぱい食べて下さいね」
「あ…あぁ」
改めて箸を持ち直すと、悟浄は食事を再開する。
大好物だけあって、あっという間に器は空になった。
「あ、取りますよ」
「いいって!八戒も食べろよ…一人で食ったってつまんねーだろ?」
「そうですか?それじゃぁ…」
八戒が腕を伸ばして、菜箸を取る。
ふと、悟浄がその違和感に気付いた。

と、言うよりも。
さっきから気付いていたが、何も言わないので敢えて突っ込まなかった。
でも、真正面に居る以上、どうしても視界に入る訳で。
悟浄としては、何事も無かったようにやり過ごしたいのだが。

「あのさぁ…八戒?」
「はい?何ですか悟浄??」
満面の笑みを向けられ、悟浄の口元が僅かに引き攣る。
「………その頭のリボンは何?」
何故か八戒の頭には、瞳の色に合わせたグリーンのサテンリボンが乗っかってた。

もの凄くイヤな予感…と言うより確信。

「それに、何でそんなに薄着なんだ?つーより、何も着てねーんだよ?見てる方が寒いんだけど」
悟浄が思いっきり胡乱な視線を向けた。
悟浄のためにご馳走を作っていたのだから、エプロンをしていても何ら可笑しくはない。
可笑しくはないが。
ハダカにエプロン姿は、どう考えたって不自然だろう。
悟浄がじーっと八戒を見つめると、頬を染めて視線を逸らした。
「だって…炬燵はあくまでもオプションプレゼントですから」
「へぇ?んじゃメインプレゼントは??」
「えっ?モチロン…僕、ですvvv」

やっぱりそう来たか。

あまりにも分かりやすくて、悟浄は盛大に溜息を零した。
呆れ返っている悟浄へ、八戒はチラッと上目遣いに視線を寄越す。
「イヤ…ですかぁ?」
瞳を潤ませて、八戒が寂しそうに呟いた。
「いや、っつーか…そのっ」
頬を紅潮させながら、悟浄が渋面で唸る。
難しい顔で煩悶していると、八戒が小首を傾げた。
「悟浄が裸エプロン好きだって言うから…してみたんですけど?」

ぷち。

悟浄の何処かが、小さくキレた。
何だか視線も虚ろだ。

騙されるな〜俺っ!
こんな美味しいコトがある訳がない。
八戒のことだから、ぜぇーったいっ!何か裏があるに決まってるっ!!
『それじゃぁ〜vvv』なぁーんて調子こいて手なんか出したら…出したら…。
うわーんっ!八戒のオニ!悪魔!腹黒おおおぉぉっ!!

何もされないうちから、悟浄は涙目になって警戒している。
悟浄の反応を伺いつつ、八戒は内心で『…チッ!』と舌打ちした。

うーん…お馬鹿さんも少しは学習してますね?余計なことを。
まぁ、悟浄の抵抗なんてたかが知れてますけどね♪

俯いて頭を抱えてる悟浄は、八戒の凶悪なほくそ笑みに気付かない。
「…そうですか」
小さく聞こえてきた涙声に、悟浄の触覚がピクリと動いた。
悟浄は恐る恐る視線を上げる。
「何か…バカみたいですよね、僕」
グスンと八戒が鼻を啜った。
「はっ…かい?」
手の甲で涙を拭うと、八戒は無理に笑みを作る。
「あ…すみません。僕着替えてきますね」
「わあああぁぁっ!ちょっ…待ってっっ!!!」
炬燵から這い出した悟浄が、立ち上がろうとする八戒の肩を慌てて掴んだ。
「え…あの…悟浄?」
八戒が不思議そうに見上げてくる。

白い肌理の細かい滑らかな肌。
片手で掴めてしまう、細い肩。

悟浄は思わずゴクリと喉を鳴らした。
冗談かと思ったが、本当に何も着ていない。
エプロンと何故か靴下は穿いていた。
その辺り、悟浄的には結構ポイントが高い。
ついムラムラと見惚れていると、八戒が悟浄の手に触れてきた。
「悟浄?ごじょー??」
呼んでも返事を返さないので、ポンポンと悟浄の掌を叩く。
「………八戒」
「はい?何でしょう」
「プレゼント…くれるんだよな!?」
「え?あ…モチロンです。受け取ってくれますか?」
熱っぽい視線で悟浄を見上げると、途端に顔を真っ赤にして何度も頷いた。
「そうですか♪」

あれ?

突然ぐるんと視界が回る。
「僕のプレゼント『朝までご奉仕サービス』貰ってくれるんですねvvv」
「んなっ…なにぃ〜っっ!?」

朝まで?
ご奉仕サービスぅ??

「あ、モチロン延長サービスも受け付けますからね♪」
仰向けに倒れ込んだ悟浄にしなだれかかりながら、八戒が蠱惑の笑みを浮かべる。
「も〜悟浄のココが綺麗サッパリ空っ欠になるまで、僕頑張ってご奉仕しますからね〜vvv」
「その…ご奉仕…ていうのはぁ〜」
「今日は悟浄マグロさんでもイイですよ〜?ぜ〜んぶ僕がシテあげます♪悟浄が満足して気絶するまで」
「△☆×●▽◎★□◆※○っっ!?」
悟浄の顔色がサーッと真っ青に変わり、口端が思いっきり引き攣った。
瞳も大きく見開いたまま、あまりの衝撃に声も出ない。
見上げた先には悪魔の微笑み。
八戒は有言実行のオトコ。
ヤルと言ったからには、必ずヤル。
決して大袈裟でも何でもなく。
日々、身を以て思い知らされてる悟浄は、ただただ絶句した。
気が動転しながらも、逃げる算段を考える。
もちろん、そんなコトを考えたって無駄に決まっていた。
過去に逃げ切れた実績はゼロ。
それでも悟浄は往生際悪く、必死になって思案する。
しかし。

うわーんっ!どうすんだ俺っっ!?

名案が浮かぶ訳もなく。
とりあえず藻掻いてみるが、どっしりと腰にのし掛かられていて動けない。
力づくで振り払おうと思えば出来ないこともないが、後の報復を考えると恐ろしくって出来なかった。
とりあえず、ココは八戒の良心に訴えかけてみる。
「はっか…苦しっ…げほっっ!」
苦痛に顔を顰めて、悟浄は咳き込んだ。
悟浄の上でくつろいだまま、八戒は首を傾げる。
「あ、つい嬉しくって…重かったですよね?」
八戒が身体を浮かせた。

今だっ!

身体を反転して逃げようとした悟浄の鼻先で、八戒の足が振り下ろされた。

バンッッッ!!!

「―――――っっ!?」
「…何処に行くんですかぁ〜?悟浄ぉ?」
八戒が壮絶な笑みを浮かべて、悟浄の顔の上に仁王立ち。
「うわあああぁぁっ!八戒っ!具がっ!具が丸見えだっっ!!!」
しかもナニが勃ってるのが恐ろしい。
「あっ、ヤダなぁ…そんなじっくり見つめないで下さいよぉ〜vvv嬉しくって漏れちゃいそうです♪」
「ぎゃーっ!!放尿プレイは勘弁っっ!!!」
「…漏れるのはソッチじゃないです」
「ぐえっ!」
額に青筋を浮かべた笑顔で、八戒がドスンと悟浄の胸元に腰を下ろした。
「はぁ〜い♪悟浄のだぁ〜い好きなモノですよ〜vvv」
八戒が動けない悟浄の顔前で、エプロンの裾をススス〜っと捲り上げる。
「わぁーご立派。俺としてはもうちょっと恥じらいのあるナニの方が…」
「もぅっ!悟浄ってば照れ屋さんですねvvv」
「ぐうっ!??」
いきなり八戒は滾りまくった雄を、悟浄の口に捻り込んだ。
喉奥まで突き立てて、ガンガン腰を振る。
「あっ…そんな!慌てなくってもちゃんと出してあげますってばvvvそんなに強く吸わないで下さいよぉ〜」

ぐっ…ぐるし…っ!俺は酸素が吸いたいんで、てめぇのナニを吸いたいんじゃねーっっ!!

悟浄が睨み付けても、必死の訴えは八戒に届かず。
届いても無視されるだろうが。
ウットリと陶酔しきった瞳で、八戒は悟浄の口腔に膨れ上がった自身で掻き回す。
さっさと八戒を達かさないことには、満足に呼吸もできそうもなくって。
悟浄は諦めて、暴れる雄に舌を絡め吸い上げる。
「あ…っ…イイ…ですっ…ごじょ…っ」
八戒が満足げに熱い溜息を漏らし、腰を震わせる。
喉奥で更に八戒のモノが大きく脈打った。

俺の誕生日なのに…何でだよぉ!

「後で、下の可愛いおクチにもいっぱいご馳走しますからね…ふふふvvv」
「んんんぅっ!!!」

…やっぱりなぁ。
ソコソコ、だったら気持ち悦くっていーんだけど。
コイツの場合、限度がねぇから…はぁ。
ま、しょーがねーか。
念願の裸エプロンだし。
主旨が大分違ってるけどな。

悟浄は喉で弾けた熱いモノを、喉を鳴らして飲み下す。
「はぁ…はっかいぃ〜?」
「あ…何ですか…っ」
ぺたりと悟浄の胸で呼吸を整えてた八戒が、覗き込んできた。
悟浄の腕が伸ばされる。
「プレゼントはキッチリ貰ってやっから〜、とりあえずメシ食わせろ」
「えぇ〜?僕は早く悟浄が食べたいですっ!」
「ヤダ。腹減って途中でギブしてもいーのか?」
「冷めてしまいましたねっ!今暖め直しますからっ!!」
八戒は悟浄の上から退くと、いそいそテーブルコンロに点火する。

ま、いーんだけどさ。

炬燵に入り直して、悟浄はコッソリと笑いを噛み殺した。

幸せ、だからいっか。



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