甘い誓い |
シャッ! 「今日はイイお天気ですねぇ」 目覚ましが鳴る前にいつも通りの時間に起床した八戒は勢いよくカーテンを開け、窓を開放して大きく伸びをする。 ここ最近季節の変わり目のせいかずっと天気があまりよくなかったので、久々の晴天に気分も晴れやかな感じだ。 窓はそのままに八戒は隣のベッドを振り返る。 「悟浄は昨日帰って来なかったんですねぇ」 ここの家主兼同居人…兼恋人の悟浄は昨夜賭場へと出かけて帰ってこなかった様だ。 もぬけの殻のベッドは、昨日八戒がベッドメイクした状態の綺麗なままだった。 「さて、折角天気もいいことだし、洗濯でもしちゃいましょうかね〜」 てきぱきと素早く身繕いを終えると、八戒はリビングの方へと向かう。 ドアノブに手をかけて、ふと八戒の動作が止まった。 リビングに人の気配がしたからだ。 それは八戒もよく知っている… 「悟浄?帰っていたんですか」 声をかけながら八戒はリビングへのドアを開けた。 しかし、そこには悟浄の姿はない。 「あれ?気のせい…」 八戒は首を傾げながら室内へ入った。 部屋は空気も入れ換えられていたが、確かにそこに悟浄がいたようだ。 ハイライトの匂いが微かに残っている。 それに、何故かリビングと繋がったダイニングのテーブル上には1人分の朝食が用意してあった。 オープンサンドに、フルーツヨーグルト。 それに八戒の好きなアッサムのミルクティがきちんとティーポットで用意されている。 「一体どうしたんでしょう?」 首を傾げながらも、とりあえず悟浄を探して部屋を全て確認してみた。 それでも悟浄はいない。 すでに出かけてしまったのだろうか? こんなに朝早くから。 「どこへ行ってしまったんでしょうねぇ…悟浄は」 とりあえず悟浄が用意してくれたのだからと、八戒はテーブルについた。 ティーポットから紅茶をカップに注ぐと、茶葉のいい香りがふわっと広がる。 ボリュームのあるオープンサンドを手に取るとパクッと口にした。 「…おいしい」 八戒が来る前までは悟浄も一通りの家事はしていたので、料理もなかなかに上手い。 ただし、めんどくさがりなので、八戒が来てからは本当に気が向いた時にしかしなかった。 「それにしても、悟浄はドコに行っちゃったんでしょうかねぇ」 八戒はぼんやりと窓の方へと目をやる。 窓の外には洗濯物が風に揺れていた。 「あ…れ?悟浄ってば洗濯までしてたんですか!?」 ここまでくるとさすがに八戒の目が不敵に輝いてくる。 「全く…今度はどんなお痛をしたんでしょう。」 きっと何かやらかして、八戒のご機嫌伺いのつもりなのかもしれない。 「さて、どうしましょうか?」 八戒は苦笑しながら、優雅に朝食の時間を過ごした。 「悟浄っ!あっちだって!あっちの店のがおいしいんだよ〜♪」 悟空がぶんぶんと手を振りながら、後ろを歩く悟浄に向かって叫んだ。 「おいおい〜、そんな騒がなくったって逃げたりしねーっつーの」 大欠伸をしながら悟浄は暢気に歩いている。 明け方近くに賭場から帰ってきて殆ど眠っていないのだ。 ベッドに行くと寝入ってしまうと思い、リビングのソファで2時間ほど仮眠しただけだった。 「なに言ってんだよぉ〜!あの店のはすっげー人気あるから、早く行かねーとおいしいのはすぐ売り切れちゃうんだってばっ!!」 悟空はのほほんとしている悟浄に癇癪を起こして騒ぐ。 「ったく…わーったよ。小ザルちゃんは朝から元気だコト」 歩みを早めると悟浄は悟空へ追いついた。 何やらさっきから周りの視線が痛い。 タダでさえ目立つ容貌の2人なのに、さらにそのうちの1人が元気いっぱい騒いでいるのだ。 一体何事かと一斉に注目を浴びている様な気がする。 ひとまずは、悟空が大人しくなってさっさと通り過ぎれば問題ないだろう。 「あ、あそこ!あの店だよ」 嬉しそうに悟空が前方を指さした。 悟空の指した方向に目をやると、外観が木で出来た小さな店がある。 可愛い雰囲気の店構えで、いかにも女性客が好みそうなタイプだ。 間違っても悟浄とは普段縁のない店だった。 まだ早い時間のせいか人も並んではいない。 「よかった〜!いつもここ来るとすっげー人が並んでてさ、無くなっちゃったらどうしようってドキドキしながらケースの中見るんだよ」 悟空がニコニコと嬉しそうに笑う。 「何?お前そんなにしょっちゅう来てんのかよ?」 浮かれる悟空を悟浄は見下ろした。 もっともそう思ったからこそ悟空を連れてきたのだ。 この小ザルちゃんは自称保父さんの八戒にくっついて、割とよく来ているはず。 ということは必然的に八戒の嗜好も知っているだろうと、悟浄は踏んでいた。 生憎甘い物があまり得意でない悟浄には、八戒がどういう菓子が好きかなんてさっぱり分からない。 「ん?たまに八戒と来るよ。あと、三蔵が説法で出かけた時にお土産に買ってきてくれたり」 「あ〜?三蔵がわざわざここに来んのか?」 よく知っているいつも不機嫌そうな顔の男が、このチビ猿ちゃんのために… 想像するとどーにも笑いがこみ上げてくる。 『ま、もっとも俺も同じコトしてんだけどね〜』 内心で苦笑しながら悟浄は悟空の頭をポンポンと叩いた。 「へぇ、三蔵サマってばお優しいじゃん」 「ん?三蔵はいっつも優しいよ?」 「あ、そーですか」 無意識にノロケられたようだが、意味が分かってるのか?このお子様は。 何だか三蔵も大変そうだなと、悟浄はこっそりと同情する。 「悟浄、早くってばっ!」 先に店へと入った悟空が大声で悟浄を呼んだ。 「騒ぐんじゃねーっての!」 悟浄はブツブツいいながら店へと入る。 「そんで?どれだよ」 ショーケースにズラッと並んだ色とりどりのいかにも甘そうな菓子。 その店は街でも評判のケーキ屋だった。 甘い物に興味のない悟浄にはどれが旨いのかなど未知の世界。 そこで、アドバイザーとして悟空を八戒には内緒で呼んだのだ。 報酬はもちろんケーキということで。 「これっ!これ八戒が好きなヤツ〜♪」 ぺたっとショーケースに貼り付いて悟空が指さした。 白いクリームの上には鮮やかなフルーツと、雲の様にふわふわとした砂糖菓子が飾り付けてある。 「ねー、お姉さん。コレの切ってない丸いまんまのヤツってある?」 売り子の女性にニッコリと愛想よく頬笑みながら悟浄は尋ねた。 「…お姉さん?」 悟空は座り込んだままボソッと呟いて首を傾げる。 そこへ無言のまま悟浄はケリを入れた。 「いってぇ!なにすんだよっ!!」 尻を蹴られた悟空が痛そうに立ち上がる。 「お前、静かにしてねーとケーキ買ってやんねーぞ」 悟浄は今にも騒ぎ出しそうな悟空の口を掌で塞ぎ黙らせた。 「ばぁか、女は何歳になっても『お姉さん』って呼ばれれば気分いいモンなんだよ。その方が態度もやさしくなるもんなの。覚えとけよ」 確認するため店の奥に入っていた女性には聞こえない様、悟浄は声を潜めて悟空を諭す。 「ふぅん…そうなの?」 きょとんとしながら悟空は悟浄を見上げた。 「お待たせしました〜。カットしてない物もございますが…こちらで宜しいですか?」 女性店員が愛想よくケーキを持ってきて悟浄へと見せる。 「じゃ、それと…おい、悟空はどれがいいんだ?」 悟浄がキョロキョロとケーキを品定めしている悟空を即した。 「えっとぉ…コレとコレっ!あ、あとコレも食いたいなぁ〜、あとこっちのもっ!!」 「てめぇ…何個食う気だ」 悟空の注文を聞いているだけで胸焼けがしてくる。 「え?寺帰ってからおやつも食うから4つだけじゃん」 「だけ、じゃねーっつーの…」 呆れ返りながら悟浄は大きく溜息をついた。 「そんじゃ、丸いのと今コイツが言った4つね。あ、丸い方は箱別にしてくれる?」 注文を済ますと悟浄は梱包が済むまではと店外へと出る。 既にケーキの匂いだけでギブアップ気味だ。 悟空もトテトテと悟浄に付いて一緒に店外へ出てくる。 「なー、何でいきなり八戒にケーキなんて買うの?しかもあんなおっきなままで」 素朴な疑問を悟空は漏らす。 悟浄はどうしたものかと少し考えたが、ニッと笑うと悟空の顔を覗き込んだ。 「それは…大人のひみつぅ〜♪」 「何だよっ!悟浄のケチ!!」 悟浄の言いぐさに悟空がむっと膨れた。 「まー、そんなに知りたけりゃ明日にでも八戒に訊いてみな」 悟浄は知らん顔しながらタバコをふかしている。 「何で?今日じゃダメなの??」 じっと大きな目で悟空が伺う様に見上げてきた。 「そ。今日じゃダメなの」 わざと戯けながら悟浄はそっぽを向く。 悟空は訳が分からず首を捻りながら、少し赤くなった悟浄の横顔をじっと眺めた。 悟空と別れ、急いで家へ戻ると八戒は居なかった。 そこら辺は計算済。 今頃は買い物をするのに入れ違いで街へ出かけてるだろう。 だから鉢合わせしない様にとわざわざ回り道をして帰ってきたのだ。 悟浄はいったんケーキをキッチンへ置くと、慌ただしく納屋へと向かう。 「えっと…どこにしまったかなぁ〜。この辺にあったような気がするんだけど」 ごそごそと荷物を移動しながら何か探している様だ。 「あ、あったあった!」 悟浄が奥から引っ張り出した物はクーラーボックス。 ケーキを保管するために探していた。 冷蔵庫にしまえばすぐに八戒に気づかれてしまうだろう。 それじゃ、悟浄としては面白くない。 どうせなら八戒を驚かせたかった。 悟浄はクーラーボックスを抱えるとキッチンへと戻った。 汚れを拭って綺麗にすると、クーラーボックスの中へ袋に入れたままケーキの箱を置く。 その上から一緒に買ってきたロックアイスの袋を開けて、一杯になるまで氷を詰め込んだ。 「これでオッケ〜っと」 重くなったクーラーボックスを抱えると、悟浄はいそいそと寝室のクロゼットへと隠す。 「さってと〜、準備完了。とりあえず寝るかなぁ〜」 朝から止まらない欠伸をしながら悟浄は寝室へと行き、飛び込む様にベッドへと潜り込んだ。 下手に八戒と顔を合わせると、絶対に今日一連の行動を問い詰められるに決まってる。 悟浄は八戒に対してはどうにも物事を誤魔化すのがヘタだった。 それじゃ何のために苦手な朝から動いていたのか分からない。 それに…やっぱり八戒の驚く顔が見たいから。 きっとものすごく驚いて…その後嬉しそうに頬笑んでくれるはず。 だから、 後は夕飯が出来て八戒が起こしに来るまで眠っていればいい。 あっという間に悟浄は墜落する様に深い眠りについた。 「…何時の間に帰ってたんですか」 買い物から戻った八戒は、出がけに片づけたはずの灰皿に吸い殻を見つける。 リビングには居なかったので寝室を覗いてみると、それはそれは心地よさそうに悟浄が熟睡していた。 「全く…理由は分からないですけど、朝から慣れないことをしたんで眠くなっちゃったんでしょうね」 苦笑しながら八戒はすやすやと眠る悟浄にそっと近付く。 「こんなに近付いているのに起きないんですね…警戒心なさすぎですよ」 八戒はそれだけ悟浄から信頼されているのだと実感する。 覗き込んだままそっと顔を伏せると、八戒は悟浄に唇を重ねた。 それは誓い、の様な口付け。 『僕は貴男を悲しませたりしない…絶対に』 八戒はそっと悟浄から離れる。 「夕食が出来たら呼びに来ますから」 返事をしない悟浄に微笑みながら八戒は静かにドアを閉めた。 夕食が終わり、八戒がキッチンで食器を片づけているのを確認すると、悟浄はこそっとダイニングを出た。 寝室からクーラーボックスを持ってくると、音を立てない様に中からケーキを取り出す。 「よし、冷えたままだから大丈夫だな」 悟浄は箱を外してケーキをテーブルの真ん中へと置いた。 そしてなに喰わぬ顔で椅子に座ると、タバコに火を点け一服し始める。 内心は悪戯を仕掛けて、誰か引っかかるのをソワソワと待っている子供の様だ。 やがて、洗い物が終わったのかキッチンの水音が止まる。 「悟浄、コーヒーでも飲みますか――――」 エプロンで手を拭きながらダイニングへ戻ってきた八戒の声が途切れた。 片づけて何もなかったはずのテーブルには大きなケーキ。 しかもそれは八戒も良く知っている店の、一番好きなケーキだ。 「悟浄…これどうしたんですか?どこから…」 あまりに突然のことなので、八戒にしては珍しく狼狽えてしまう。 悟浄は何でもない様な顔でちらっと八戒を見ると、小さく―――本当に聞き逃しそうな程小さな声で呟いた。 「今日、八戒の誕生日だろ…」 それだけ言うと悟浄は八戒から顔を背けて窓の方を向く。 しかし、俯いて髪から覗いた耳は、髪の色に負けないくらい真っ赤になっていた。 「悟浄…覚えていてくれたんですか」 自分でさえ忘れていたのに、悟浄は覚えていてくれた。 きっと朝から八戒を驚かせようと思って、色々考えながら行動していたのだろう。 「ちょっと…こういうのは反則ですよ」 八戒は溜息混じりに小さく呟いた。 「…っ!何だよ…迷惑だって…」 自分の思惑とは全く逆の八戒の反応に、悟浄は傷ついた様な瞳で振り返る。 「いえ、違いますよ。ものすごく幸せすぎて…倒れそうです」 八戒は本当に幸せそうな、鮮やかな笑顔を悟浄へと見せた。 悟浄の頬が一気に恥ずかしさで紅潮する。 「ったく…ケーキぐらいでそこまで喜ぶなよ。チビ猿と変わんねーぞ、それ」 照れ隠しなのか悟浄は乱暴な口調でぼそぼそと呟いた。 「もちろんケーキも嬉しいんですけどね。悟浄が僕の誕生日を覚えていて、こうしてお祝いしてくれるのが何より嬉しいんです。それにこのケーキも僕の好物だって分かって買ってきてくれたんでしょう?」 柔らかい笑みを浮かべながら、八戒は悟浄を真っ直ぐ見つめる。 「俺…甘い物のことなんか全然分かんねーから、悟空に八戒の好きなモン訊いたんだよ」 じっと見つめられて恥ずかしいのか、悟浄が早口で手の内を明かした。 八戒は散々照れまくる悟浄に苦笑しながら、ゆっくり近付いて椅子ごと悟浄を抱き締める。 腕の中で悟浄が小さく震えた。 「それでも…僕の好きな物を用意したいから、悟空に訊いてくれたんですよね?」 八戒は小さく笑いながら悟浄の耳元で囁く。 そのまま嬉しそうに悟浄の耳元へいくつも口付けを落とした。 「んっ…そうだよ…っ!折角買うんだから、八戒が喜ぶ顔が見てぇに決まってんだろーっ!!」 ゾクゾクと背筋を這い上がり始めた快感を誤魔化す様に、大声で叫んで八戒の腕を押し返す。 八戒が驚いて悟浄を見下ろすと、真っ赤な顔をして涙目で睨み返していた。 「ケーキ…溶けちまうだろーがっ!」 悟浄がむっとしながら八戒を非難する。 『やれやれ…本当に悟浄は照れ屋さんですねぇ。そこがまたものすごく可愛いんですけど』 内心でこっそり苦笑しながら、八戒は悟浄を腕の中から解放した。 「そうですね。折角悟浄が用意してくれたんですから、おいしいうちに頂かないと。悟浄も少しなら食べますよね?」 ニッコリと微笑みながら八戒は悟浄のご機嫌を伺いながら尋ねる。 「一緒に食わねーと祝ったコトになんねーじゃん」 当たり前の様に悟浄はあっさりと即答した。 「それじゃ、お皿と…ケーキだから紅茶の方がいいですよね。すぐに用意しますから」 八戒は素早く悟浄の頬にキスすると、さっさとキッチンへと戻って行く。 あまりの早業にポカンと見送ってしまったが、はっと我に返ると悟浄は今まで以上に顔を紅潮させる。 「はっ…恥ずかしいことすんじゃねーっっ!!」 ダイニングから上がる悟浄の叫び声を聞いて、八戒は本当に楽しそうに笑った。 それから悟浄は小さく切り分けて貰ったケーキを八戒と一緒に食べた。 八戒は嬉しそうに2切れを食べる。 「んー?やっぱり食いきれなかったなぁ…ま、丸いままだから当たり前か」 「え?僕まだ食べますよ〜♪」 悟浄はぎょっとして八戒をまじまじと見つめる。 「マジ?全部じゃないにしても…よくこんな甘いのたくさん食えるよなぁ」 胸焼けしねーの?と悟浄は八戒に聞き返した。 比較的甘さは控えてあるみたいだが、それだって限度がある。 いっぱい食べれば甘い物は甘いのだ。 「だって、悟浄から頂いた物を残すなんて…さすがに全部は無理ですけどね」 ニコニコしながら八戒は答える。 そう言いながらフォークはそのままに、優雅にお茶を飲んでいた。 「…別に無理することねーぞ?」 悟浄は八戒が気を遣っているんだと思った。 しかし、八戒は、 「いいえ〜、思う存分頂きますよ…このままじゃ同じ甘さで飽きてしまうでしょうけど、悟浄と一緒に食べれば違った甘さで絶対美味しいと思いますしね〜♪」 上機嫌で八戒は微笑んだ 「は?俺もう食えねーけど??」 悟浄は先程の甘さを思い出して、眉を顰める。 「違いますってば♪悟浄と僕がケーキを一緒に食べるんじゃなくて、僕が悟浄とケーキを一緒に食べるんですってばvvv」 「………は?」 悟浄の背中を冷たい汗が伝い落ちる。 「それって…もしかして…」 「ケーキ味の悟浄…すっごく美味しそうvvv」 悟浄が勢いよく椅子から立ち上がった。 そのまま逃げようと脚を一歩踏み出したところへ、素早く伸びた八戒の腕が悟浄の腰を思いっきり掬う。 力強く引き寄せると自分の膝上に悟浄を乗せて拘束した。 「は…はっかいさん〜」 「今日は僕の誕生日なんですよ?この後も悟浄はモチロンお祝いしてくれるんですよねぇ…ベッドで」 八戒は優しげな声でとんでもなく恐ろしいことを口にする。 誕生日にかこつけて、一体どんな無茶なことを言われるか。 それでも、八戒の熱い掌が触れてくると、どうでもよくなってきた。 悟浄だって期待してたから。 でもそれを知られるのは、もの凄く癪な気がして… 「ったく…こーんなに俺が優しいのは今日だけだからなっ!」 あくまでも八戒の我が儘を訊いてやるよ、と仕方ない振り。 「その代わり…悟浄の誕生日には、僕がうんと優しくしてあげますよ」 「…いや、少しでいいです」 ぼそっと本音を漏らす悟浄を愛し気に見つめて、八戒は幸せそうに笑った。 Happy Birthday!! |