いつでも君を見守っているから



澄んだ青空が広がり心地よいそよ風が爽やかな絶好のピクニック日和。
大切な1日を悟空と二人、長閑に過ごすはずだった。
…さっきまでは。

「なぁなぁ、金蝉?」
「………。」

悟空の小さな手が金蝉の袖口をクイクイ掴んだ。
それを一切無視して金蝉はそっぽを向く。

じっと。
じいいぃぃ〜っと。

悟空が興味津々瞳をキラキラ輝かせ注視しているその先には。

「ほら、天蓬…あーんvvv」
「あーん…んんっ!美味しいですぅ〜っ!さすが捲簾、このだし巻き卵の出汁加減がこれまた絶妙で…最高ですっ!」

そっと口元へ差し出される箸に食い付き、天蓬は口をモゴモゴさせて絶品料理に瞳を潤ませた。
喜びを素直に現す天蓬に、捲簾は満足げな笑みを浮かべている。
これ見よがしなピンク色の空気が渦を巻き、イチャつく二人の周囲で濃さを増幅させていた。
そんな二人を先程から悟空が観察している。

「金蝉金蝉っ!ケン兄ちゃんのやってるのっ!俺も金蝉とやりたいっ!してして〜vvv」
「いーからっ!アイツらの方なんか見てねーでさっさと弁当食えっ!!」

悟空は純粋で何にでも興味を持つお年頃。
しかも絶大な信頼を持って普段から懐いているお兄ちゃん達の言動を、良くも悪くもすぐ真似したがった。
一体何を言い出すかと金蝉は毎度毎度気が気じゃない。
そんな友人の過剰反応を面白がって悟空へ余計な知識を植え付ける天蓬と捲簾に、金蝉は律儀にも振り回されっぱなしだ。
今日も正にそう。
二人の狙い澄ましたかのような登場といい、わざとらしく見せつけるイチャつきっぷりといい、悟空を煽って天蓬と捲簾が面白がって弄んでいるのは明白だった。
それが分かっていながら、金蝉は無邪気な悟空のお強請り攻撃をギリギリの忍耐で堪える。

「今日はお前の好きなおかずばっか作って来たからな〜♪今度はどれ食いてぇ?」
「えっとえっと…コレ!ぷりっぷりのエビ寄せフライがいいですっ!」
「おー、ソースは特製トマトソースとタルタルソース…どっちがいい?」
「はうぅぅ〜悩みますぅ〜っ!捲簾のお手製ソースはどれもこれも絶品ですから。どーしましょう〜〜〜っっ!!」
「そっか?そんじゃ両方かける?」
「はいっ!両方頂きますvvv」
「んじゃちょっと待てな?」
「捲簾、捲簾っ!捲簾も食べましょう、ね?はい、あーん」
「あー…ん。んっ!さすが俺、旨い。完璧。魚と豆腐の割合も丁度良いな♪」
「ホント最高ですっ!このお魚とお豆腐のハンバーグ…ふわっとした食感だけど、ちゃんとお魚の旨味も出てて、ウットリですっ!」
「だろだろ?天蓬って割とあっさり目の料理が好きだろ?でも単純に塩分減らして誤魔化すとかじゃなくって素材の味がしっかり分かるのが好物だもんな〜」
「さすが捲簾っ!そんなに僕のこと理解してくれてるなんて…嬉しいですvvv」
「だって〜お前に『美味しい』って喜んで欲しいもぉ〜んvvv」
「………捲簾vvv」
「………天蓬vvv」
二人は歓喜で頬を染めながらウットリ見つめ合い、人目も憚らず、というか堂々と見せつけたいらしく、チュッチュと何度もキスを送り合う。
そんな至近距離だと言っても過言でない間近に居ながら、幼気な子供の目の前でスキンシップは次第に熱を増し濃密に変化し、挙げ句の果てには。

「あっ!金蝉〜金蝉ってば〜っ!」
何やら興奮気味に悟空が腕を引っ張ってきた。
頑なに視線を逸らしていた金蝉が、厭そうに視線を戻す。
「天ちゃんとケン兄ちゃん、ご飯口で渡してるよー?何かお母さん鳥がヒナにご飯あげてるみたいだよね?」
「あぁ?何言ってんだ?」
「だって、ホラホラッ!天ちゃんもケン兄ちゃんも口くっつけてクチャクチャご飯食ってるもんっ!」
「クチャクチャ食ってる…だと?」
悟空の目撃談に物凄く厭な予感がして、金蝉は拒絶しようとする首を無理矢理横へ向けた。
その視線の先で見たモノは。

「んもぉ〜捲簾ってば。そんなイヤラシく舌絡ませたりして〜vvv」
「天蓬のベロチューだって、すっげぇエッチ〜♪口ん中舐め回してさ〜。ゴクゴク嬉しそうに俺の唾液飲むなよぉ〜vvv」
「おや?それならもっと違うモノ飲ませてくれるんですか?」
「えぇ〜?こんなトコじゃ恥ずかしいじゃーん」
「そんなこと言って…ココ膨らんじゃってますよ?ほらほら〜vvv」
「あんっ!もぅ天蓬ってば〜vvv」

たかが10m先。
二人がナニをやらかそうとしているかなんて、クッキリハッキリシッカリバッチリ分かってしまった。
仲睦まじい二人をじーっと観察している悟空の目を、金蝉が慌てて掌で塞ぐ。

「テメェらっ!こんなとこでナニしようとしてやがるっっ!!」

真っ赤な顔で激昂した金蝉は大声で怒鳴りつけた。
幼気な子供の前で淫ら極まりない行為をし続ける厚顔無恥なバカップルに、とうとう堪忍袋の緒が切れる。
しかし抱き合ってイチャつく二人は全く動じなかった。
天蓬の太腿に跨って大胆に股間を擦りつけている捲簾は、ニンマリと口端を上げる。
天蓬は天蓬で捲簾の腰を引き寄せ、やっぱりもぞもぞ妖しげに蠢いていた。
「まったまた〜知ってるクセに。お前らだっていつもヤッてるコトでしょー?」
「そうですよ〜。こんなコトよりもーっと淫らな真似純真な悟空相手にしちゃってるんでしょう?」
「貴様みたいな猥褻物と一緒にすんなっ!!」
金蝉が憤然と言い放てば、天蓬と捲簾はきょとんと顔を見合わせ。


「へぇ〜?」
「なるほど、ねぇ?」

二人して意地の悪い全開笑顔を向けてくる。
金蝉の背筋にゾクゾクと悪寒が走った。
「おーい、悟空〜♪」
「あれ?なぁに〜ケン兄ちゃん?」
「あっ!バカ猿っ!!」
捲簾の猫撫で声に呼ばれて、悟空は目を塞いでいた金蝉の手を簡単に引き剥がす。
パチパチと大きな瞳を瞬かせる悟空に、天蓬と捲簾がニコニコ微笑みかけた。
為す術もなく金蝉は内心オロオロ動揺する。
離れた二人の目の前で、捲簾が乗っていた天蓬の太腿からするりと滑り降りた。
捲簾の人差し指がビシッ!と立てられ、その指先がある一点を指し示す。
離れたところで見ていた悟空はパチクリ瞳を瞬かせた。
捲簾が満面の笑顔を浮かべながら、見ろとばかりにつんつん指を動かす。

「…天ちゃんの脚の間?」

意味が分からず悟空は小首を傾げた。
すると、またもや捲簾の指先が意味深に動く。

「えーっと?天ちゃんの服…ズボン脱がせるの?」

捲簾は親指を立てて、悟空へ頷いた。
どうやら当たっていたらしい。
嬉しそうに悟空が頷くと、捲簾が更に行動した。

「そんでー…チャック下ろして?ん?ケン兄ちゃん何やってんだ?え?天ちゃんの出しちゃうの?それから握って…ケン兄ちゃんが顔近づけ…ああっ!そっか分かったぁ〜♪」
「分かったじゃねーよっ!!!」

漸く意味が分かり、喜んで叫ぶ悟空の頭を金蝉が思いっきり殴りつける。
「いっ…てぇー!何でぶつんだよぉっ!?」
「アイツらなんか放っておけっ!」
「えー?何で?」
「何でもだっ!」
真っ赤な顔で憤慨する金蝉を、悟空がきょとんと見上げた。
離れたところから天蓬が悟空を呼ぶ。

「悟空〜?今の捲簾が何してたか分かりましたかー?」
「うんっ!天ちゃんのチンチン舐めたんだろ?」
「おや?悟空はしたことあるんですかー?」
「あるよ〜。だって金蝉好きだもっ…むぐっ!?」
天蓬の誘導尋問にあっさり引っかかる悟空の口を、金蝉は後ろから慌てて塞いだが時既に遅し。

「ギャッハッハッハッ!やっぱシテんじゃーんっ!」
「聞きました?捲簾っ!金蝉ってば、悟空におしゃぶりされるのが大好きなんですって!」
「純粋培養のお坊ちゃまだと思ってたけどヤルなぁ〜」
「いやいや、ああいうヒトに限って結構マニアックなプレイなんかが好きなんですよ」
「え?じゃぁ悟空にブッかけちゃったり?」
「間違いなく顔射はしてますねっ!と言うか全身?」
「うっわーケモノくせぇっ!」
「勝手なこと言ってんじゃねーっっ!!!」

息を切らせて喚き散らす金蝉を眺め、天蓬と捲簾は薄ら笑いを浮かべた。
「だってシテんだろ?」
「わー、金蝉ってばヘンターイ」
「他の誰よりもお前らだけには言われたくねぇっ!」
「だって僕らは大人ですもーん」
「そうそう、だから色んなコトしちゃってるに決まってんでしょー?」
「い…色んなコトだと?」
色事の経験が浅くその手の知識に疎い金蝉は、つい馬鹿正直に聞き返してしまう。
頬を赤らめ憮然としながらも何やらドキドキしている様子に、天蓬と捲簾は訳知り顔で頷いた。
「なるほど。悟空の為にも今後バリエーションは必要ですよね。近いうち僕が厳選した本を貸してあげますよ」
「別に本なんか読まなくったって、観音当たりに相談すりゃー張り切ってレクチャーしてくれるんじゃねーの?」
捲簾はさっきから遠くで反射している光の方向へ視線を向ける。
庭の主はきっと面白がってこの状況を見物しているに違いない。
「捲簾…貴方観音のレクチャー通り実践出来る自信あります?」
「…俺らでも無理か」
「???」
話が見えずに金蝉が顔を顰めた。
「ま、貴方に経験を求めるのは無理ですから、せめて『世の中の恋人同士はこーんなことしちゃってます』程度の知識ぐらいはあった方がいいでしょう、ってことで」
「でもよ〜お前の本棚にあるエロ小説って緊縛調教モノに近親相姦愛憎劇だろ?他にレズとか監禁陵辱とか〜」
「捲簾…何でそんなに詳しく知ってるんですか?」
「お前女教師物が結構好きだろ?」
「今は僕のことじゃなくって金蝉でしょうっ!」
「…今度女教師イメクラでもすっか?」
「是非お願いしますっ!!」
天蓬が興奮気味に頬を紅潮させてガクガク頷く。
「女教師…イメクラ?」
金蝉には二人の会話が全く理解できないが、天蓬の気色悪い喜びように悪寒が走った。
こんな二人に関わらないのが賢明だと金蝉は今までで充分学習している。
無視して顔を背けると、突然捲簾が大声を上げた。
「金蝉っ!悟空っ!」
「あ?」
「う…っ」
悟空の小さな顔を両手で塞いでしまい、窒息しかけてグッタリしている。
慌てて手を外した金蝉の身体へと悟空が倒れ込んできた。
「ふぁ…こんぜ…くるし…かった…あ」
「す…すまん」
悟空を抱き留め背中をさすって申し訳なさそうに宥める金蝉を、天蓬と捲簾はバツわるそうに顔を見合わせる。
「ちょーっと調子に乗りすぎたか」
「今日は特別な日でしたよねぇ」
二人は小さく笑うと、手際よく荷物をまとめ片付けた。
先に天蓬が金蝉と悟空の元へ近づいて、その場にしゃがみ込む。
「悟空?大丈夫ですか?」
「んー、もう平気〜」
「天ちゃん達はお仕事がありますから、帰りますね?」
「え?帰っちゃうの?」
金蝉に寄りかかっていた悟空は驚いて身体を起こした。
捲簾も天蓬の後ろで微笑んでいる。
「後は金蝉と仲良く遊んでもらえよ?」
「でも金蝉お仕事…」
悟空は寂しそうにチラッと金蝉を振り返った。
こうして金蝉と昼間一緒に居られるのは食事とおやつの時間だけ。
いつだって金蝉は仕事で忙しかった。
もの凄く寂しいけど、疲れている金蝉にわがままは言えない。
悟空が俯くと、天蓬が優しく頭を撫でた。
「今日はね?金蝉は悟空とずーっと一緒に居てくれますよ…そうですよね?」
「………あぁ」
「ほんと?金蝉今日は一緒にいてくれるのっ!?」
「今日はもう仕事入れてねーからな」
悟空は嬉しそうに瞳を輝かせ、金蝉へと抱きつく。
「だから、いーっぱい甘えろよ?」
「ケン兄ちゃん分かったっ!俺いっぱい金蝉に甘えるっ!」
「それじゃお邪魔虫は消えましょうかね?」
「だな〜」
立ち上がる天蓬と連れ立って捲簾が踵を返す、と。
「おい、捲簾」
「ん?何だよ?」
声をかけられ振り返れば、金蝉は悟空へ持ってきた白い箱を持って小さく頭を下げる。
捲簾と天蓬が口元を僅かに和らげた。
何だかお互い照れ臭い。
「じゃーな」
二人は手を振ると、軍棟の方へと戻っていった。
「おい、悟空。捲簾が持ってきた箱…開けてみろ」
「え?この箱開けていーの?」
金蝉に即され、悟空は貰った箱を手に取る。
そっと箱の蓋を持ち上げると。

「う…わぁーっ!すっげ旨そうなケーキだよっ!」

箱の中からはふわふわのクリームに沢山のフルーツで飾られたケーキが現れた。
その真ん中にはロウソクが立てられ、優しい二人からのメッセージが。
「あ…コレ…金蝉っ!」

悟空、たんじょうびおめでとう!

「アイツらがお前を祝いたくって今日わざわざ持ってきたんだ」
「そっか…そうだったんだぁ」
悟空はケーキに書かれた二人からのお祝いの言葉を見つめる。
いつも遊んでくれる、いっぱい勉強も教えてくれる大好きなヒトが、自分の産まれた日を喜んでくれていた。
嬉しくて嬉しくて、何だか胸がギュッと熱くなって。

「バカ…何泣いてんだ」
「こんぜん…っ」

金蝉が抱き寄せると、悟空は泣きながらしがみ付いた。
どこも痛くなんかないし辛いこともない。
寂しくもないのに涙が止まらなかった。
「天蓬も捲簾も…あのババァも此処にいる女官達も、みんなお前の産まれた今日を祝ってるんだ」
「…こんぜんは?」
悟空が心配そうに顔を上げると、金蝉は優しい笑みを浮かべる。
「俺が一番祝ってるに決まってんだろーが」
「うんっ!俺も一番嬉しいっ!」
悟空は涙で濡れた瞳を輝かせ、嬉しそうに金蝉へ抱きついた。















「なぁ…金蝉?」
「何だ?」
「あのさ、さっき天ちゃんとケン兄ちゃんがしてたみたいの…シテいい?」
「…部屋に戻ったらいくらでもしてやる」



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