花界
めぐみsama

 敖潤に呼び出された捲簾は胡乱な瞳で白い竜王を見つめた。
 「『花会』だぁ?」
 まったく、またかよ。
 どうせなら、博打のある宴会の方が好きなんだがな。さすがに、この『花会』にそんなもんはない。
 花を愛でながら、能を見たり、俳句を読んだりしながら酒を飲むというこの会に、なんで俺が招待されなきゃならないんだか…酒飲むしか楽しみねぇじゃん。後は綺麗な女官ぐらい? ってか、こんな場で飲む酒ぐらい不味いモンもないんですけど? どーせ、綺麗な女官が居たって口説けないし?
 思い浮かぶのは綺麗で賢い自分の副官である天蓬だ。肩書きは『元帥』。
 『立てば芍薬、座れば牡丹、歩く姿は百合の花』を体現している天蓬の実態は単なる物臭太郎なのだが…三郎の方が良いような気がするのはどうしてだか知らないが…。
 天蓬はもてる。そりゃあ、綺麗で、立ち居振舞いも優雅で、頭も切れて、中身を知らない上級神の方々にしてみれば、もてはやしたくなるのも分からないじゃない。そして、それは『花会』の主催者である天帝だって同じこと。天帝主催の大演習会で、なぜか天蓬の場所は戦う自分の隣ではなく、天帝の隣の席だったことからして知れる。
 副官なしで戦えっつーのはどうよ? 演習っつーからにはお遊びだっつーのは分かるが、だからって、俺のモンを勝手に取ってこうっつーその根性はどうな訳?
 大体、見境なしに勝手に引っ掛ける天蓬も悪いっ!!
 アノ大演習会で、それは、それは、お綺麗に微笑みやがってっ!! 知ってるか? お前の方をチラチラチラチラこれ見よがしに見ていた天帝のスケベ面をっ!!
 もちろん、天蓬が微笑みを送った相手は俺だっ!! 間違いなくっ!!
 あんの馬鹿、欲情してるような目で見やがって。アイツの場合、そういう顔がまたすっげー男の色気垂れ流し状態で撒き散らしなモンだから、天帝が真っ赤になってたじゃねぇかよ。
 お前、俺のモンっつー自覚あんのか? 引っ掛かる馬鹿が多いのが、またムカツクんだけどよ。
 絶対に言ってはやらないが、軍内での天蓬の人気はすごい。俺が嫌味をてんこ盛りに言われるぐらい。大体、目の前の竜王でさえが天蓬を狙ってるっつーんだから、ケッ! ってなもんだよな。
 そうして、一人で誘ってもなんだかんだとお断りされてきた主催者は俺をダシに使うことを覚えてきた。断れないのを知っていて。
 最初は断っていたんだ、俺だって。だって、花を愛でるのに、ジジィはあきらかに邪魔だろう?
 そうしたら、あんのクソジジィ共、敖潤を脅してきやがった。ここで、陰険だなぁと思うのが天蓬を理由にしないこと。理由は俺。そうなった場合、お咎めは俺な訳で、敖潤のターゲットも俺な訳よ。
 大好きな天蓬元帥にはご迷惑はお掛けしません。ってな感じなんだろうが、俺に迷惑掛けてんじゃねぇよっ!! で、俺が行くっつーと、天蓬も行くんだわ、これが。あー腹立つ!!
 敖潤への脅しが敖潤だけのモノで、俺が敖潤にちょこっと嫌味言われて、懲罰房にちょっこーっと入るっつーぐらいならいいんだけどね。西方軍全域に渡るっつーと、そうも言ってらんないし。だって、部下は関係ねぇじゃん。
 さすがに妖怪並に年取ったジジィはよっく心得ていらっしゃるよな。大人気ないとか思わねぇのか、アンタら。天蓬も引っ掛けるなら引っ掛けるで、もうちっと人畜無害なジジィにしてくれよ。惚れているのは丸分かりなのに、どうも乙女思考っぽく物陰からお前を見ている二郎神とかさ。あーゆーのはいいねぇ。被害がなくて。ま、せいぜい気持ち悪いぐらいで済むじゃん。俺が天蓬を抱き寄せたら嫌そうな顔するぐらいだし♪
 天帝や上級神の方々にしてみりゃ、いい餌が転がってたぐらいなんだろうがよ。ちなみに、妖怪ジジィ共は多少、俺と天蓬がくっついてようが一向に変わりゃしねぇ。一発チュ−でもぶちかましたろかいっ!! とか、た〜ま〜に思うよな。さすがに天帝の前でやりゃあ俺だけじゃなく天蓬にも咎めがあるだろうから、やんねぇけどさ。
 嫌そうに敖潤を見返すと深々と一礼する。
 「謹んでお受けいたします。」
 あ〜やだやだ。
 捲簾は一つ、溜息をついた。






 桜の季節になると、捲簾は地上への派遣を喜ぶ。地上で咲き誇る桜の花は、天界のソレよりも尚一層見事で美しいのだと。
 「戦いに明け暮れて、美しいも何もないでしょうに。」
 よくもまぁ、あの中で花の美しさを愛でる暇があるものだ。なんとなく、たかが『花』ごときに、捲簾を奪われたような気にさせられて気分が悪い。そして、この頃になって何かと煩わしいのは、それだけではなかった。
 「『花会』? まったく、常春気候な天界において、『花会』なんてする意味なんてないでしょうに。」
 とはいえ、もろもろの事情もあって無視なんてできない。
 招待状の宛名は西方軍。招待者は天帝。出席しろとの名指しは敖潤と自分と捲簾。当初は自分と敖潤だけで、しかも個別に送られてきていた。軍など関係なしに。なのに、あの時以来、捲簾の名前が出席者に加わり、それに伴って西方軍宛に招待状は届くようになった。
 天帝が実は密かに捲簾のファンだなんて恐ろしいことは口が裂けても捲簾には言えない。
 当の捲簾は知らないが、実は捲簾は天界のアイドルである。
 「軍のアイドルだってだけで腹が煮えたぎるっていうのに、天界のアイドルですって? 腹ただしいを通り越して、いっそ褒めてあげたいぐらいですよ。」
 思い起こせば、天帝主催の大演習会で、見事にあの男は全員の注目を集めてくださったのだ。自分を含めて出席者全員が捲簾の動きから目を離せなかった。
 綺麗でシャープな身のこなし、長い軍服が風にはためき翻るさまが美しく、華麗な剣舞といっていいほどの刀を振るう姿はその場にいた全ての者を魅了した。
 もともと、ざっくばらんで部下思いな捲簾は西方軍で人気が高かったし、もといた東方軍での人気もうなぎのぼりなのは知っていた。上司の奥方を寝取ったというが、実はそれだって夫の暴力に耐えていた可哀相な人妻を逃がしてやったというものだ。しっかり、かっきり上司に鉄拳食らわしての西方軍入りは、あまりに見事で、そりゃあファンも増えるだろう。その後のコレである。
 上級神の方々は、さすがに『暴れん坊(下半身含む)』と定評のある捲簾を表立って可愛がる訳にはいかないとの頭がまがりなりにも備わっている。が、その裏にあるいかがわしい思いなんて同類である天蓬にはお見通しだった。
 飄々とした態度で、無邪気に楽しげに戦う捲簾が、一瞬見せた顔。恍惚とした表情は艶っぽく色っぽい。
 そりゃあ、思う存分暴れ回って気持ち良かったんでしょうよっ!! 分からないじゃないですけどね!! あんな顔を見せられて、何人がトイレに駆け込んだと思ってんですか!! 貴方はっ!!
 その後も不味かった。あの場に自分もいたのも不味かったし、自分がいた場所がまた不味かった。
 天蓬のいた場所というのが天帝の横だったのだ。
 天帝は、そう最初は天蓬がお気に入りだったのである。確かに自分は綺麗だとか、秀麗だとかの褒め言葉は履いて捨てるほどいただいてきた訳だが、まさか、それが、こんなことにまで波状するなんて誰が思うものか。
 捲簾さえ側にいてくれるなら、捲簾にそんなとんでもないような邪まな思いを持つ輩が現れないなら、自分がどんな目で見られようが一向に構わなかったし、自分に目を向けておけば捲簾にはいかないかもしれないといううぬぼれも少しはあったのだけれど、甘かったですよね。捲簾に邪まな思いを持つのは僕だけで十分だっていうのにっ!!
 ふわりと自分に向けられた微笑み。あの優しさと愛おしさを称えた微笑みに鼻血を吹き出しそうになった自分の横で、真っ赤になった天帝がどう思ったかなんて聞くまでもない。
 知ってますか? 貴方?
 なんと貴方は敖潤閣下まで誑かしたんですよ? あの一瞬でっ!!
 絶対、言いませんけどね。なにがなんでも言う気なんて、これっぽっちもないですけどね、二郎神君までもが狙ってるだなんて、絶対、言いませんよ、僕はねっ!!
 はぁ。
 天蓬の溜息は深い。



 そして、当日出くわした上官と副官は眩暈を起こしそうになった。捲簾は黒の礼服。天蓬は白の礼服。どちらもデザインも生地も同じもの。どちらも天帝からの賜りものであった。
 とても、陽気に「わぁ、ペアルックv」などと二人には言えはしなかった。まさか、二人こみで天界のアイドルとは露ほども思っていない二人である。
 二人の苦悩は尽きない…。

                                         ちゃんちゃん。


うわぁ〜い♪めぐみさんに5万hitお祝いに天捲小説頂きましたよ〜♪♪(くるくる〜)
しっかし…お互いオトコ殺しっつーのが大爆笑!
ん?オヤジ殺し?(笑)
さぞかし花会の夜は二人とも夜のオカズに…いやいや、コホン。
元帥と大将の隠し撮り写真が地下で高額取引されていることでしょうな〜。
で?白と黒の礼服でアイドルユニット結成?(爆笑)
しかも天帝公認となっ!わっはっはっ〜!!
…どんなところだよ天界軍。
めぐみさん、ありがと〜♪で?八浄の方も気になるんですがね??(キラリッ☆)