しーん… しーん…… しーん、しーん、しーん……… 不自然な静寂。 「チッ、どこ行きやがったんだ」 慣れとは恐ろしいモノである。 普段は煩わしく思っていても、いざ無くなると不安になるのである。 『金蝉パパのコザル子育て奮闘記A〜油断大敵〜』 「……チッ」 本日、もう何度目になるか分からない舌打ちをこの部屋の主は繰り返していた。 昨日までさんざん手の掛かる養い子を構ってやったので、やらねばならない書類は山積み。 幸いその手の掛かる子供は今は不在。 このチャンスを逃す手は無いのだが、普段は煩いと思うモノも、無くなると何とも言えない気分になる。 そしてそれが愛し子なら尚更だ。 ましてたった一人にして、最愛の愛し子が朝から姿も見せないとくれば。 朝、普段通りに目を覚ましたはずだった。 しかし、いつもは幸せそうな顔をして眠っているはずの悟空の姿がなかった。 不審に思って、隣に手を彷徨わせてみてもあるのは冷え切ったシーツのみ。 腹でも減らして先に起きたのだろうかとも思ったが、すぐにそれは否定された。 何かあれば、必ず自分に言うはずだ。 金蝉はこれを決して自惚れだと思っていない。 例え、空腹だったとしても直ぐに隣に居る自分を起こすはずだ。 遠慮も無しに。 それが悟空の良いところであり、また悪いところでもあり…。 いつでも本音でぶつかってきてくれる、と思う。 だからあんなに澄んだ瞳(め)をしているのだろう。 腐りきった天界人よりよっぽどマシだ。 いくら不浄だと言われても何事にも、誰にも屈しないそんな強い意志(め)。 逆に言えば素直すぎて思ったことは何でも言うので、「空腹」「退屈」などの不満を悪びれもせず言うのだが。 考えていても仕方がないので、取りあえず行動に移すことにした。 身支度を整えて寝室を出る。 侍女からの挨拶を適当に返すと、その女が用意したであろう朝食が目に留まった。 一人分だけ。 しかも、量からしてあの朝からよく食べるコザル用ではなく自分用だ。 居場所を訊こうかとも思ったが、この女に分かるはず無いので止めた。 悟空のことを誰よりも理解している、と純粋に思っているから。 あらかた食べ終えたので、「執務室へ行く」と口実を作って部屋を出た。 誰に聞かせる口実なのかはこの金髪美人にも分からない。 わざわざ回り道をして執務室へと向かう。 悟空の居ることが多い庭先や、お気に入りの場所だという大きな木、一面の花畑、更には「オレだけの秘密基地だから金蝉にだけ教えてあげる」と言い、少し前に行った林を抜けたところにある開けた地にも行った。 けれど悟空の姿は見あたらない。 何かあった、とは考えにくいと思う。 何かあったのなら、あのコザルは全身で助けを求めるだろうから。 だから余計に腹が立つ。 自分に気づかれないように、よっぽどの注意を払って出ていったのだろう。 悟空は起きるのに、金蝉が起きない、そんな何かがあるはず無いのだから。 悟空が意図的に起きたとしか考えられない。 自分にバレてはまずいことなのか、あるいは言えないようなことなのか…。 そして場面は冒頭へと戻る。 昼もおやつの時間にも帰ってこなかった。 今までこんなことがあっただろうか? 些か金蝉とて不安を覚える。 「あんのバカ猿……」 仕事を何とか終えた金蝉は自室へと引き返す道中も悪態をつく。 と言っても、変に集中できなかった所為で内容も理解していない仕事だが。 額に青筋を浮かべながら回路を歩く金蝉の姿に誰もが「またあの子供が何かやらかした」という目で見ている。 それは、あの子供だからできるのだろうと嬉しくも思うし、火の粉が自分にかからないことを祈るというのも忘れない。 金蝉の周りの者たちは、悟空とふれあったり見ている時間が他よりは幾分長いためか比較的高位の奴等より悟空をよく思っている。 そして、その者たちには決まってこう映るのだ、「金蝉童子に感情を与えた子供」不機嫌一色でしかなかった彼に、新しい感情をプラスさせたのだ。 尤も、怒以外のそれにお目にかかれるのは滅多にないが。 夕食時…あのコザルは未だに帰ってこない。 大分冷めてきている夕食を前に金蝉は頬杖を突きながら反対の手の人差し指でテーブルを叩く。 「……遅ぇ…」 やはり何かあったのではないかと、心配し始めたその時… 「ただいまぁ〜〜〜」 呑気なコザルが帰って来た。 「バカ猿っ!今何時だと思ってやがるっ!!」 金蝉は椅子をひっくり返すような勢いで立ち上がると、悟空の頭を両手の拳でぐりぐりとする。 「〜〜う゛〜〜痛いのぉーー!やめてこんぜーん!!」 やっと解放された悟空は、蹲り頭を両手で押さえ涙目で見上げる。 (ズキューン 可愛い…v) などと思ってしまった時点でマズかった。 今日一日、悟空が「視界の中にいなかった」、また「触れられることがなかった」という事実は今ので「悟空を抱きたい」という欲求に変わった。 (ヤバイ…) とは思っても時すでに遅し…。 確かな欲求を確認してしまった金蝉の理性は簡単に崩れ去った。 「悟空……」 どこか甘さを含んだ声に、悟空は本能で感じる。 マズイ… 「ごっ…ゴメンね…こんぜん…あのね、あのっ」 必死に何か言い訳しようとしているようだが、今の金蝉にはおどおどして不安げに揺れるその瞳から益々目が離せなくなるだけ。 近づいてくる金蝉に逃げようとする悟空。 が、こういうときだけ金蝉も素早かったりする。 あっという間に両の手首を捕まれてしまった。 「なんで逃げるんだ?」 腰を折り、悟空と同じ目線で話す彼の瞳からは明らかに『欲情』の色が映っている。 悟空はこの色を見ると動けなくたってしまう。 いつもそう。 怖いわけじゃない。 金蝉がする事に対して恐怖は感じない。 只、いつもの不機嫌な眼差しとは違い自分のすべてを見透かすような強い視線で射抜かれるような気がする。 自分の中のものを洗いざらい出されるような気がする。 そのときの眼は、闇と月を溶かしたようなそんな色。 この色が嫌いなわけではないけれど、この眼に射竦められると動けなくなってしまい、結局朝まで離してもらえない…。 「えぇーと…あの…」 しどろもどろ何か訴えようとしている悟空に、金蝉は優しく口付ける。 これもいつものこと。 この眼のときは、はじめは優しい。 けれど、あまりの甘さに流されてしまうと嫌という程求められる。 求められることは嫌ではないけれど、でも手加減はして欲しい…それが悟空の切実なる願い。 優しい口付けを繰り返していたが、やがてするりと舌が進入してくる。 あっ!っと思ってももう離れることは出来ないし、第一離してもらえない。 舌を甘噛みされ、濃厚な口付けに思わず流されそうになる。 が、しかし今回ばかりは悟空も流されるわけにはいかなかった。 両腕を必死に突っ張って、彼を押し返す。 そして、ほんの少し出来た隙間からやっとの思いで言葉を紡ぐ。 「…っ〜〜いやぁなのーー!」 そして金蝉の不意を付いて腕から逃れる。 いつものように思い通りにならない愛し子に対して、様々な感情が交差する。 “戸惑い”“不安”“苛立ち”“愛しさ”…それから… しかし、取りあえず何故今日一日姿を見せなかったか問わなければならない。 「悟空、今日一日どこへ行っていた」 努めて、保護者の態度で、口調で、オーラで話す。 そうでなければ今にも悟空を押し倒しそうだったら。 うん?っと零れそうな瞳を金蝉に向けてから、花が咲くように笑って話し出す悟空。 「あのね観音のおねーちゃんのトコ、行ってた」 観世音菩薩、甥っ子をいびって遊ぶ高神。 そして悟空が大のお気に入りらしく何かにつけて、私邸へと呼ぶ。 「何しに行ってたんだ」 俺に黙って…とは言わない。 「うんと、ぷーるっていうの作ったから遊びにおいでって。んで、朝早くの方が冷たくて気持ちいいぞってゆったから」 「プール?」 眉をひそめて、鸚鵡返しに問う。 (あぁ、そう言えば下界では暑いときそんなモノに入るらしいが…) いつだったか、下界へと出陣していた捲簾達がそんな話を手土産に遊びに、もとい悟空と金蝉を冷やかしに来たことがあったか、などと考える。 そのプールに入るときは薄着で、男女とも下着のような格好で入るらしく捲簾は喜んでいたが… しかし、別に天界では暑くもないだろうに、ましてや暦はもう秋。 多少の残暑は残るものの、木陰にでも居れば十分涼しいはずだが。 (確かに今日は日差しが強かったがな。それにしたって…) そう、それにしたって「朝早く」というところに疑念を感じる。 どうかんがえても、あの観世音菩薩が甥っ子の反応を楽しむためにわざと朝早くから悟空を出かけさせたのであって。 その際おそらく、「金蝉のヤツは寝起きが悪ぃからな、見つかると遊びに来れねぇぞ」とでも言い含めたのだろう。 だから悟空はこっそり抜け出したのだ。 そして金蝉は一日中不機嫌。 すべて菩薩の手の上で踊らされていたのだ。 そう考えると、つくづく腹が立ってくる。 しかし、今あのコトの仕掛け人に怒りをぶつけるより悟空を抱きたい、と言う欲望の方が金蝉の中でまさった。 そして悟空に近づく。 「だが悟空。無断で外に出るなとはいつも言っているな?」 そう、このとてもとても過保護な恋人、否今はあえて保護者は無断外出を許さないのだ。 「え…うん…そうだけど…えっと…」 じりじりと寄ってくる金蝉に最早逃げ腰である悟空。 「約束を破ったらどうするんだった?」 と、金蝉は楽しげに言う。 【約束を破ったら…】 「やぶったら…」 悟空はひらがなで逃げながら問い返す。 「破ったヤツにはお仕置きだろう?」 「えっ…ちょっと待った!タンマだってばっ!!こんぜんっ!」 と、あれよあれよと抱え上げられた悟空。 向かうはひとつ、寝室のみ。 「やぁー今日はやぁなのぉー」 何故、今日がダメなのかこの後金蝉は直ぐに知ることになった。 嫌がる悟空を宥めようと、寝台に横たえ静かに話しかける。 「何故ダメなんだ?悟空…」 溢れんばかりの涙と共に必死に嫌がる子供。 益々金蝉は煽られる。 ぎゅぅ…っと抱きしめたそのとき、悲劇は起こった。 「ぎゃぁぁぁーーーーーっ!!!」 ともすれば、天界中に響くかと言うほどの声で悟空が叫んだのだ。 これには金蝉とて驚愕の表情を浮かべる。 そして、悟空はと言えばついにポロポロと泣き出してしまったのだ。 「う゛〜〜いやだってゆったのにぃーー」 一体なんだというのか、と金蝉が悟空の服を脱がせると。 成る程、【日焼け】だ。 真夏の間の水浴びは、日焼け止めをこれでもかと言うほど塗らせたり、日差しの強くない時間帯を選んだり、長時間になりすぎないようにしていた。 が、今はもう初秋。 観世音菩薩も油断していたのだろう。 もしかすると、こうなることを予測済みだったのかもしれないが。 今日の朝からこの時間まで外で薄着のまま水遊び、とくれば。 そこにはうっすらとだが、赤くなった肩からうなじ。 夏の間に日焼けをしなかった悟空としてはそれは見た目以上に痛かったのだろう。 「こんぜーん…」 そこには何とも頼りない顔をして、耳が付いていれば間違いなくしゅんと垂らしたような悟空がいて。 その顔にあろう事か保護者の仮面は剥がれ落ちた。 常ならば、冷やすとかそう言った対処をしたであろう金蝉も。 男となれば話は別で。 鳴かせたい…と思ってしまった。 笑顔で花が綻ぶ悟空はたまらなく愛しいが。 涙を流しながら許しを請う悟空にはたまらなく興奮して、欲情して。 「悟空…」 「なに?」 もう痛くて痛くてそれどころでは無かった悟空だが。 金蝉の 「始めるぞ」 の台詞には顔を青ざめた。 そんな悟空などお構いなしに、つーと舌先で肩をなぞる。 「いやぁーーー!」 叫んだところでもう遅い。 なにせ、菩薩の甥っ子ともなる高神なわけで。 当然、部屋は彼の趣味で装飾品こそ無いが。 防音設備は完璧であった。 ……暗転…… 翌日、なにやら機嫌の良い金髪美人と やたらと着込んでいるコザルの姿がありましたとさ。 一方、観世音菩薩言えば。 「ククククッ…いやぁ〜ついにあいつも犯罪者だなぁ。さぁーてと、次はどうすっかなぁ〜〜」 などと言いながら、一人新しい罠を開発中で。 それを見て、本気で転職を考え始めた初老の爺がいましたとさ。 おわれ!(爆) |
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☆★☆★あとがきと書いて遺書と読む★☆★☆ あぁ〜…、園生サマごめんなさい。(謝るなら送るなよ)何ですかねぇ…(ズズズズ/お茶啜り)もっと修行します(汗)しかし、もう10月。ちょっと厳しいですね。 書き始めたのが確か8月の終わり。うーん、相変わらずの亀並執筆ペースだ。しかも、一番書きたかった暗転少し前当たりの盛り上がりに欠けますね。許可が下りれば「暗転」部分も個人的に書きたいです。(誰も読みたくねぇよ)それでは、見捨てないでくださいマシ?! |
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ほほほほ…ついに金蝉犯罪者(爆笑)。 プリ悟空目の前に余裕のなさが正にツボですよ!ぐぐ〜っと!! それにしても…悟空痛そうだ>日焼け(ホロリ)。 でもっ!大丈夫、ノープロブレムよっ!!だってバックなら…ぐはっ!(殴☆) それにしてもよく抜け出せたな、悟空ってば…絶対金蝉に羽交い締めにされて寝てるだろうと園生は踏んでいるんですがね、ハッハッハッ。 いやいや、お忙しいところをありがとうございました♪ はい?暗転部分ですか!?ぜひぜひ!!(鼻息荒) |