NEW YEARS DAY |
今年ももう少しで終わり。 「早いもんですねぇ…」 感慨深く呟きながら、台所で八戒が蕎麦を茹で始めた。 正月用の料理の下拵えも既に準備万端。 外からは微かに除夜の鐘の音が聞こえてきた。 三蔵の寺院だろうか。 寺では今頃三蔵が血管ブチ切れ寸前の不機嫌な状態で、訪問客や雑事で動き回っているに違いない。 当初は仕事が忙しくて構えないからと三蔵から悟空を預かる約束をしていたのだが、当の本人悟空が寺院に居ると頑として言い張った。 たとえ構ってもらえなくても悟空は三蔵の側に居て、一緒に年を越したかったのだろう。 必死に言い縋る悟空の健気さが、八戒にはとても微笑ましく思えた。 駄々を捏ねる悟空に眉を潜めながら説教を始めた三蔵を、八戒が得意の口八丁でどうにか宥め透かす。 渋々承諾した三蔵は仕事があると先に帰り、八戒は悟空とお昼ごはんを食べ、蕎麦とおせち料理のお裾分けを渡して送り帰したのが昨日。 今頃悟空は寺院の部屋で、同じ鐘の音を聞いているだろう。 眠い目を擦りながら三蔵が戻るのを待って。 外れてはいないだろう想像に八戒は微笑を零した。 「さて、もうそろそろですかね」 湯の中で踊る蕎麦を箸で1本掬うと、茹で具合を確認する。 蕎麦の硬さに八戒は頷くと火を止め、用意したざるの中に茹で上がった蕎麦をあけた。 「悟浄、お蕎麦冷たいのと温かいのどちらがいいですか…おや?」 八戒がキッチンからリビングへ顔を出すと、ソファにはだらしなく寝そべる悟浄がいる。 ぐったりと疲れきってぼんやりと天井を見上げていた。 「悟浄?寝てしまってるんですか」 八戒が近づくと、悟浄が視線だけ向ける。 「寝てねーよ…誰かさんが昼間散々コキ使うもんだから、動けねーの〜」 恨めしそうに眉を顰めながら悟浄がぼやいた。 八戒は朝も早くから布団の中でごねる悟浄に気孔砲を1発ブチかまして無理矢理叩き起こし、家中の掃除を手伝わせたり買出しで荷物持ちをさせ街中を散々引きずり回したらしい。 「あれぐらいで何言ってるんですか?今年の垢は今年中に落とすのは当たり前でしょう?それに買出しだって必要なものを買ったんですよ。悟浄は正月にひもじい思いがしたいんですか?」 ニッコリ笑顔で八戒は理路整然と畳み掛けた。 「…降参。でも疲れてんのはホントなんだけど?」 「僕も悟浄と同じだけ働いて、なおかつ明日の準備やらでさっきから動きっぱなしなんですけどねぇ」 本当のことなので悟浄も反論ができない。 悟浄にしてみれば年越しぐらいのんびり過ごしてもいいんじゃねーか?と思うのだが、八戒はかいがいしく1日動きっぱなしだ。 その辺は悟浄も言ったのだが、 「新年をゆっくり過ごすために、今働くんですよ」 と爽やかに微笑みながら却下されてしまった。 そして、そんな八戒に悟浄も1日中付き合わされて。 「そんなに疲れてるのでしたら、後でマッサージでもしてあげますよ…全身念入りにvvv」 「…ドコのマッサージするつもりだ、コラ」 ガックリと項垂れながら悟浄がソファへと突っ伏す。 コイツはホントになぁ…何考えてるんだか分かり易すぎだっての。 確信できるほど思い知らされている悟浄は、八戒の下心に泣きたくなった。 八戒と抱き合うのがイヤな訳ではないが、物事には許容出来る限度っていうものがある。 フルマラソンと八戒との濃厚なセックス、どっちが体力を消耗するかといえば、悟浄は即答でセックスだと断言するだろう。 散々働いて疲れ切ってる時に、そんな無謀なチャレンジャーがいる訳無い。 ジットリと悟浄は八戒を睨みつけた。 悟浄の鋭い視線を物ともせず、八戒は小さく首を傾げる。 「おや?もしかして僕は期待されてるんですかねぇ?」 「違うだろっ!ばかっ!!」 悟浄は顔面蒼白になりながら突っ込み返す。 「そんな照れなくてもいいのに」 楽しげに微笑む八戒の顔が悟浄には悪魔に見えた。 「あ、忘れそうになったじゃないですか。お蕎麦が茹で上がったんですよ」 そういえば食欲を刺激するようないい匂いが、キッチンから漂ってきている。 「ふーん…そんじゃ俺温かいほうが食いたい」 「温かいのですね。それじゃ今持ってきますから、ちょっと待ってて下さいね」 八戒は素早く悟浄の額に口付けると、キッチンへと戻っていった。 あまりの早業に、悟浄は何も言い返せずぽかんとしてしまう。 掌を持ち上げるとそっと額を押さえた。 「…ほんっとに恥ずかしいヤツだな」 照れくさそうに頬を紅潮させながら、クスクスと笑いを零す。 「ま、たまにだったら悪くねーけどさ」 悟浄は穏やかな幸福感に目を閉じた。 ゴーン… 厳かな鐘の音が静謐な闇夜に溶け込む。 山門から本堂の方は夜中にもかかわらず、多くの信者や檀家の人で賑わっていた。 三蔵の私室は別棟の一番奥に位置するので、主の居ない部屋には人が訪れることもなく静かだ。 室内は暖房で暖められ、部屋の一角には炬燵もある。 先日、三蔵の誕生日に八戒と悟浄が贈った物だ。 「山は冬場冷え込んで寒いですからねぇ。あまりの寒さに三蔵が腰を痛めては大変ですし♪」 と、ほのぼの笑顔で毒を吐く八戒に、三蔵は爪の先程もありがたいと思わなかったが。 悟空の方はぬくぬくと暖かい炬燵がえらく気に入ったらしい。 雨が降って外で遊べない日や三蔵が仕事を終えて帰ってくるのを、悟空は炬燵に入りながら過ごすようになった。 今日も悟空は炬燵に入りながら三蔵の帰りを待つ。 炬燵には八戒から貰った蜜柑とちいさな片手鍋が置いてあった。 鍋の中身は三蔵の好物である粒餡が炊いてある。 三蔵が戻ってきたらストーブで暖めてぜんざいにしようと悟空が準備した物だ。 もちろん餡を用意したのは八戒だったけど。 「三蔵まだかなぁ…」 炬燵に頬杖付きながら、悟空はぼんやりと窓の外を眺める。 今日は空気が冷えて寒い為、星が綺麗に輝いて見えた。 ふと気が付くと、先程まで聞こえていた鐘の音が止んでいる。 「終わったのかな?三蔵もう帰ってくるかな…」 きっと冷え性な三蔵のことだから、掌や頬が冷たくなっているかも知れない。 帰ってきたらすぐに熱いお茶を入れてあげようと、ストーブの上で大分軽くなっているやかんに水を足す為立ち上がった。 すると、こちらへ足早に近付いてくる足音が聞こえる。 扉の向こうの姿は見えないが気配で分かった。 悟空の瞳が嬉しさで輝く。 「おい、猿!起きてるか」 「さんぞー、お帰りっ!!」 悟空は勢いよく三蔵へと抱きついた。 「お帰りじゃねーよ、お出かけすんだよ」 口端で苦笑しながら悟空の頭をポンと叩く。 悟空は意味が分からず、腰へと抱きついたままポカンと三蔵を見上げた。 「服は…はんてん着てるからいいか。外は寒ぃから帽子とマフラーしてこい」 「え…どっか行くの?」 こんな時間に何処へ出かけると言うんだろう。 悟空は突然すぎて訳が分からず首を傾げた。 「いいから早く準備しろ!時間ねーんだよ」 イライラと悟空を即す三蔵に、悟空は眉を顰める。 「…別にトラブルがあった訳じゃねーよ」 悟空の考えていたことが分かったのか、三蔵は鼻で笑った。 ゴソゴソと懐を探ると煙草を取り出して火を点ける。 「オラ、さっさと帽子とマフラー持ってこい」 旨そうに煙を吸い込む三蔵を見て、悟空の不安も無くなった。 とりたてて緊急事態が起こった訳ではなさそうだ。 悟空は自分の部屋へと走っていく。 タンスを開けると毛糸の帽子とマフラーを取り出して、三蔵の元へと急いで戻った。 「さんぞ〜お待たせっ!」 悟空が不器用にマフラーを巻き付けてると、三蔵は帽子を取り上げて悟空へと被せる。 「行くぞ…」 三蔵について悟空が外に出ると、あまりの空気の冷たさに驚いた。 暖かい部屋と炬燵で暖まっていた身体が、急激に体温を下げる。 吐く息は白く、闇夜に溶けていった。 冷えつつある掌を擦りながら悟空は息を吹きかける。 手袋も持ってくれば良かったかなぁ、と後悔していると、 ぎゅっ… 「さんぞ…」 悟空の掌を包むように三蔵が握り締めた。 そのまま引き寄せると袖の中へと引き寄せる。 「三蔵の手…冷たいよ」 「クソ寒ぃ本殿にずっと居たからな」 「そっかぁ…」 悟空は指を絡めて三蔵の掌を握り返した。 「んじゃ、こうしてれば寒くないよな?」 照れくさそうに微笑みながら、悟空は三蔵を見上げる。 「…子供の体温は高いからな」 「もぅっ!またそうやってガキ扱いする!!」 プクッと頬を膨らませて悟空が拗ねた。 「そうやってムキになるところがガキだって言うんだよ」 意地悪そうに三蔵が銜え煙草のまま口端で笑う。 むーっと悟空が悔しそうに三蔵を睨んだ。 「じゃ、三蔵が子供の俺に、あーんなにエッチなこといっぱいすんのはいいのかよ?」 「げほげほっ!!」 虚を突かれて三蔵が派手に噎せ返る。 ちょこっと仕返しが出来て悟空はこっそり微笑んだ。 「ったく…誰にんなこと吹き込まれたんだか…下世話なこと言ってんじゃねーよ。言っておくが、俺は子供がキライだ」 あのエロゴキぶっ殺す!と勝手に決めつけ、三蔵は悟空を見下ろす。 不安げに瞳を揺らしながら、悟空が懸命に三蔵を見つめていた。 ったく…こんなにもこの金色に捕らわれている。 出逢ってから、 いや、自分の心を鷲掴んで離さない、ずっと聞き続けていた声さえも。 それなら… 捕まえたら二度と離さない。 死ぬまで…死んでもなお手放してやったりしない。 三蔵は握り締めた指に力を込める。 その昏い想いさえも伝えるように。 すると悟空の指にも力が籠もる。 全てを見透かす純粋な瞳。 「お前は別だ…第一子供には―――――」 突然悟空の視界が綺麗な金色で覆われる。 その後、冷たい…でも暖かい唇の感触。 「子供にはこんなことしねーからな」 ニヤッと意地悪く微笑むいつもの三蔵。 悟空は真っ赤になって三蔵を睨んだ。 そして、 「さんぞーのえっち…」 恥ずかしさを誤魔化すように三蔵の背中へ顔を伏せた。 三蔵に引かれて辿り着いたのは大きなつり鐘の前。 先程まで賑わっていた人達も今は引き払い、静寂に包まれていた。 悟空の手を握り締めたまま、三蔵はスタスタと鐘の前まで歩んでいく。 握り締めた手をそのまま、目の前にぶら下がる縄へと導いて握らせた。 「除夜の鐘、突きたかったんだろ?」 悟空は大きな瞳を更に見開く。 「さんぞ…覚えてたの?」 まだ幼かった頃は、除夜の鐘を突く人を遠目に眺めて面白そうに思えた。 何度も『俺もやってみたい!』と懇願したのだが、当の三蔵には『あんな鐘突きどこが面白いんだ』とすげなく却下される。 それに寺の坊主にも忌み嫌われていたので、神聖な鐘を妖怪ごときに触れさせる訳にはいかないと睨まれた。 自分の我が儘で三蔵を困らせたくないと、いつしか鐘のことは言わなくなったのだ。 「でも…いいの?」 三蔵に迷惑かからねー? 悟空の瞳が困惑で揺れる。 昔程ではないにしても、未だ悟空をよく思っていない僧侶も居る。 「増正には了解取ってある。それにてめぇが突かねーと、除夜の鐘になんねーんだよ」 「俺が…何で?」 悟空は不思議そうに三蔵を見つめる。 「まだ107回しか突いてねーんだよ。除夜の鐘つったら108回つかねーと意味ねーからな」 三蔵が煙草を銜えながら傍らの柵へと凭れ掛かった。 「何で108回なの?」 「人間の煩悩は108つ有るって言われている。それを新年迎える前に鐘の音で浄化するんだよ」 「ふぅ〜ん」 三蔵の説明でもよく意味が分からない。 「ま、そんなことで禊ぎできりゃ苦労しねぇだろうがな。とりあえず鐘突いとけ」 三蔵自身は全く興味が無いらしい。 これで誰もが尊ぶ最高僧サマなんだから、世の中って分からないモンだ。 「んじゃ、折角だからすっげー気合い入れて突こ〜っと!」 悟空が縄を掴んで思いっきり腕を振り上げる。 「そりゃあああああああぁぁぁっっ!!」 絶叫と共に渾身の力を込めて、悟空が腕を勢いよく振り下ろした。 ごおおおおおおおおお〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜んんんんっっ!!! もの凄い破壊的な大音響に三蔵と、鐘を突いた張本人の悟空が耳を塞いでひっくり返る。 鐘の残響音はなかなか治まることなく、ぐわんぐわん響きまくる。 「うううぅぅ…うるせー」 悟空は耳を塞ぎながらその場でごろごろ転がって唸った。 どうにか音が小さくなると、三蔵がフラリと立ち上がる。 その額には血管がクッキリ浮かび上がって… バッシイイィィーンッ!!! 「うぎゃっ!」 脳天に思いっきりハリセンが炸裂する。 「てっめぇは何考えてやがんだ…あぁ!?」 究極に不機嫌丸出しで、三蔵が転がったままの悟空を仁王立ちで見下ろした。 「だ…だってっ!あんなでっけぇ音出るなんて知らなくって…」 悟空はごにょごにょと言い訳をするが、三蔵に通用する訳もなく、 「…お仕置き決定」 悟空のはんてんの襟首をガシッと掴むと、ズルズルと引きずっていく。 「うっそぉ!何でだよぉっ!!」 「うるせーっ!!」 じたばたと暴れる悟空にまたもやハリセンの連打。 ぐったりとした悟空を眺め、三蔵は心底楽しげな笑いを漏らしながら、自室へと引き上げていった。 丁度その頃。 「何か、すっごい除夜の鐘でしたねぇ…最後の」 窓の方へ目を向けて、八戒が呟いた。 寺院からは大分離れた悟浄宅にも大音響の鐘の音が届いたらしい。 「でも、何で最後の鐘だけあんなに大きかったんでしょうか?相当な力がないとあそこまでの音は出せませんよねぇ。もしかして悟空が突いたんですかね?どう思います、悟浄…おや?」 視線を落とすと、そこにはグッタリと力尽きた悟浄がマグロ状態になっていた。 「おや?じゃねーよっ…いきなり…っ…」 荒い呼吸を繰り返しながら、悟浄が思いっきり八戒を睨み付ける。 「ああっ!僕鐘の音につられて思いっきり突き上げてしまいましたね♪」 全く悪びれずニッコリと八戒が微笑んだ。 悟浄はガックリと項垂れる。 「んなもんにつられてんじゃねーってのっ!」 「でも、悟浄相当悦かったんじゃないですか?挿れてから大して動いてないのに…即発しちゃって」 視線を下ろすと、悟浄の腹部には白濁が派手に飛び散っていた。 指摘されて悟浄は頬を紅潮させ、八戒から視線を逸らす。 そんな悟浄を八戒は愛おしそうに微笑んだ。 「そんなに恥ずかしがることないのに…それだけ僕を感じてくれたってことでしょう?」 八戒は身体を屈め、悟浄の瞳を覗き込む。 綺麗な翡翠の瞳に映る自分の浅ましい姿。 それが更なる悟浄の羞恥心を煽った。 「おい…いつまで突っ込んでる気だよ?」 恥ずかしさを誤魔化すように、悟浄は八戒を睨む。 「そうですねぇ…先程ので去年の煩悩は落とせたと思いますよ?と、言うことで」 八戒ががばっと悟浄の両足を抱え上げた。 そのまま思いっきりその長い脚を左右へ開く。 「うわっ!てめっ…何すんだよ!!」 悟浄は焦って腰を捩るが、未だ八戒の雄を咥えたまま。 「うあっ…」 ついつい甘い嬌声を上げてしまい、慌てて手で口を塞いだ。 「まぁ、僕の煩悩なんて108つどころじゃないんですけどね」 ズッと腰を引くと、わざと焦らしながら緩慢な動作で突き上げる。 「やっ…うぁ…あ…はっか…いぃ」 焦れったい快感に悟浄は強請るような瞳を向けた。 「とりあえず新年の姫初めは基本ですよねvvv」 嬉しそうに微笑む八戒の瞳は欲に濡れていて… 「…も、好きにしろよ」 抵抗しようが何を言おうが今まで状況が変わったことはなくて。 初日の出が窓に差し込むまで、悟浄の悲鳴が途切れることはなかった。 HAPPY NEW YEAR ! |