家庭の事情 |
White by ハクナオヤ様 as 微温湯 |
可愛い息子がふたり居て、愛する人が側にいて。 不満なんて何一つない。 そう、何一つない・・・・はず。 「てんぽ・・・・」 うっとりと呼ばれる声の艶めかしさに、天蓬は双眼にトロンと膜を張った。 愛しい人。その存在全てが愛しい人。 そう思える相手に一言名前を呼ばれ、そしてその中に含まれる欲望を感じ取った天蓬がすることなど、たった一つだ。 「愛してます、僕の捲簾。たっぷりと、あなたをください」 「・・・好きなだけ食えよ」 許可を出すと、座っている天蓬に乗り上げる。 下半身といわず、身体中に渦巻く熱が、たったひとりの男を求めていた。 天蓬の手が、捲簾の背中を這う。 パジャマの裾から直接入り込み、しなやかで鍛え上げられている筋肉を丹念に辿る。 「捲簾・・・」 ちゅうっと喉元を吸い上げられ、くすぐったさに捲簾は眼を細めた。 クスクスと笑っていると、空いている天蓬の手が、スルリと下半身を撫で上げる。 「ホント・・・イヤらしい身体・・・」 「お前がそうしたんじゃねーか・・・・」 「そうでした」 本心のわかっている言葉遊びを繰り返し、互いの熱を煽っていく。 吐き出す息が荒く、深い深いキスを繰り返し・・・ている時に、捲簾の背中がバンバンと叩かれた。 「いだっ!」 「捲簾っ、後ろっ後ろっ!」 珍しく焦る天蓬の声に促され、捲簾が肩越しに振りかえる。 丁度彼の背中に位置してある扉は、先ほどまでしっかりと閉まっていたはずだった。 がしかし、今は僅かに開いている。 そして、その隙間から覗いているのは・・・・。 「うわぁぁっ!テンッ、ケンッどうしたっ!?」 乗り上げていた天蓬からすぐさま降り、つぶらな瞳で見つめてくる愛息達に歩み寄る捲簾は、かなり前屈みであった。 息子達は、薄ボンヤリとしている。 どうやらハッキリと起きてはいないらしく、まだ半分オネムの状態らしい。 丸い手で、目元をコシコシと擦る仕草は、なんとも愛らしいが。 「・・・・・い、いつから見てた?」 問うママに、二匹はハテ?と首(?)を傾げる。 いつもなにも、ついさっき眼を覚ましたら、パパもママも居なくてちょっと寂しくなった。 ソコへ、微かな声が隣から聞こえてきたのだ。 いつもいつも二匹は不思議だった。 毎晩、大きいベットで家族四人で眠っているのに、どうして隣のお部屋にもベットがあるのだろう?と。 そして今夜、そのお部屋から声がしたので、ちょっと覗いてみたのだ。 開けた途端、なんかピンク色の靄が出てきたけどソレを振り払い覗いたのだが、すぐに見つかってしまった。 だから、いつと聞かれても、ハテ?としか思えない二匹である。 「だ、大丈夫ですよ、たぶん、見られてません・・・」 ヨタヨタと歩いてくる天蓬も、やっぱり前屈みだ。 二匹は、常ならぬふたりの様子にビクッとした。 こんなに弱々しいふたりは、一度も見たことがない。 (もしやっ、びょうきっ!?) 思い当たったふたりは、瞳をウルウル〜とさせ、両親に擦り寄る。 「どうした?怖い夢でも見たか?」 「怖くない怖くない」 捲簾と天蓬が優しく慰めるが、二匹は離れようとしない。 ただ必死に病気らしい両親を心配する。 そんな二匹の胸中など、両親が判るはずもなく。 ふたりは怖がっているような子供をそのままになんて出来ないので、お互いちょっと黄昏れつつ、『四人用』ベットへと戻らざるをえなかった。 こんな事、実は日常茶飯事であったりする。 愛らしいスキンシップは、なんの引け目もなく、思う存分子供達の前で披露する。 だって、両親が仲良しだということを見せるのは、子供にとっては嬉しいことだ。 だから手を繋いだり、ぎゅーしたり、ほっぺにちゅってしたり。 ソレを見て子供達は、自分たちもと両手を伸ばし、抱っこしたりちゅうしたりするのであるが。 いかんせん、両親は大人なのである。 可愛らしくなく、むしろ男らしいスキンシップを望む時、問題は持ち上がった。 常日頃、イチャイチャを見せているのが良くなかったのか。 ちょっとでもピンク色の雰囲気を放とうモノなら、ソレを察知した息子達がポテポテとやってきて、『パパとママ、なかよしっ!?』と観察しに来るのである。 確かに仲良しだけれど、まさか濃厚スキンシップを見せるなんて出来ない。 パパとママは、軽いスキンシップで日々過ごさねばならなくなったのである。 溜まって溜まってもう限界。 大将は、執務机の下で、貧乏揺すりをしっぱなしである。 (どっかから出るっ・・・マジで出るっ・・・) なんて事を本気で思うぐらい、身体がイッパイイッパイだ。 なまじ軽いスキンシップを繰り返しているせいで、身体の熱は治まるどころか常に放出状態だ。 本当はママで居なくちゃいけないのかもしれない。 だけど、ママであると同時に、愛する人を求める男でもあるのだ。 どっちかだけなんて出来ない。両方ちゃんと満たされないと、どっちも出来ない。 最早身体だけでなく、精神の方がやばい状態にあった。 愛しい男に触れたい。触れて欲しい。──心も身体も満たされたい。 「・・・捲簾大将、お顔の色が優れませんが・・・」 部下のひとりが気遣うが、捲簾は曖昧に笑ってみせるだけだ。 だが、今話しかけてきた部下の環境を思い出し、指先でチョイチョイと近づくよう呼び寄せる。 「大将?」 側に寄った部下が首を傾げた。 「聞きたい事、あんだけど」 「はぁ・・・?」 捲簾は、一度コホンと咳払いをして。 「お前子供居たよな?その・・・夜の生活どうしてる?」 「夜・・・あぁ・・・テンとケンですか・・・・」 それ以上は告げず部下は口を閉ざした。 そして、そっと大将の耳元へ口を寄せる。 「実は、ですね・・・」 しばし話を聞いていて捲簾大将は、次の瞬間、執務室を飛び出した。 今までいろんな厄介事を持ち込まれてきたけれど。 これ以上の事ってあっただろうか? 竜王は、己の机に乗せられているけったいな生き物を見て、記憶を辿っていた。 知らなかったワケではない。 捲簾大将と天蓬元帥が子供を作り、それがなんかヒヨコっぽいという噂は、あっという間に西方軍に伝わり、事実竜王の耳にも入っていた。 だからといって、ソレで彼らの仕事ぶりが悪くなるということではなく、むしろ無駄を省いてテキパキと手際良くなったので、特に気にすることもなかった。 元々大抵のことは、あのふたりに関しては放置。と決めていたので、結局子供のことも、放置状態だったのだけれど。 さすがに目の前(しかも机の上)に突きつけられては、放置するわけにもいかなかった。 「捲簾大将・・・天蓬元帥・・・、説明を求める・・・」 紅い眼をつぶらな瞳に向けたまま、竜王が口を開いた。 「えっとですね、その子達は僕らの子供です。僕らに似て可愛らしいでしょう?」 「俺に似てるのがケンで、天蓬に似てるのがテン。大人しくてイイコだから、迷惑かけねぇよ」 「・・・・・・・誰に迷惑?」 「いやだなぁ、あなたにですよ」 はい?と思う竜王は、今ひとつ理解が乏しく、ふたりの説明の続きを待った。 が、ふたりは説明なんてせず、机に乗せられている二匹の頭を撫でる。 「いいか?パパとママは、これから誰にも言えない大事なお仕事に行ってくる」 「その間、心苦しいですが、この方にお世話になってるんですよ」 自分を指している天蓬元帥の指先を見つめ、竜王は首を捻った。 世話ってなに? ポカンとしている竜王の前で、二匹は不安そうに瞳を揺らす。 「大丈夫、怖くなんかねぇ。この人はな、パパとママの上にいる人なんだぞ」 「そう、パパやママの面倒を見てくれている人、つまりパパとママの『パパ』なんです」 「だからお前達にとっては、『おじいちゃん』だ」 そうだったのっ!? 二匹は急にキラキラした眼で竜王、いやおじいちゃんを見つめた。 おじいちゃんがいるなんて、全然全然知らなかったけれど。 だけど、パパとママの『パパ』なら、自分たちには『おじいちゃん』だ。うん、間違いない。 「てっ、天蓬元帥っ、捲簾大将っ、なんだっ、なにがおじいちゃんなんだっ!?」 天蓬はヒラヒラと手を振る。 「いやですよ、閣下の事に決まってるじゃありませんか〜」 「孫は可愛いぞ〜!」 そりゃ、自分の孫は可愛いかもしれないけれども。 目の前にいるのは孫じゃないし、ましてヒヨコっぽいし。 竜王は紅い眼を、息子夫婦(今そうなった)と孫(今そうなった)の間を激しく行き来させる。 「それじゃ、頼みました」 「2時間・・・いや3時間ぐらいかな?とにかく、一段落したら迎えに来るから」 「先ほどお付きの方に、この子達のおやつとおもちゃを渡しておきましたから、ご安心を」 えっ、なにに安心っ!?立ち上がり、話の通じない馬鹿夫婦を呼び止めようとするが。 「それじゃ、行ってくるっ!」 「待っててくださいね〜!」 なぜかお仕事に行くはずのふたりは手を繋ぎ、ルンタッタと執務室を出て行ってしまった。 伸ばされた竜王の手は、なにも掴むことなく、しばしそのままであった。 すっきり艶々した顔で、天蓬は扉を叩いた。 久々の充実した時間を過ごし、身も心も大満足だ。 ちょっと捲簾はベットと仲良しになっちゃったけれど、本人は文句を言うこともなかったので、やはり満足したのだろう。 「失礼します、大変お世話になり・・・・」 言いつつ、天蓬は眼をパチパチとさせる。 執務室の窓側に、竜王はペタリと座っていた。 その正面には、愛息達も座っている。 「ほぉ、そのピースを繋げられたか?賢いな」 竜王は、ケンの頭を撫でていた。 「ん、テンは模様が完成してるな。お前も賢いぞ」 竜王は、テンの頭も撫でていた。 「か・・・・・閣下・・・・?」 「あぁ、天蓬元帥か・・・。ほら、お前達。お迎えだ」 クルリと向きを変えた愛息達は、パパの顔を認めると、大急ぎで歩み寄ってくる。 そんな二匹を待ちながら、天蓬は自分が見ている光景に驚きを隠せない。 面倒を見てくれるとは思っていた。 か弱いモノや小さい生き物が見過ごせない性分を持っていることを、実はちゃんと知っていたから。 だけど、ココまでとは。 愛息達が、つい先ほどまで竜王と座っていた場所には、1ピースが大きいパズルが置いてある。 他にも部屋のあちこちには、自分たちが持たせた覚えのないおもちゃが転がっていたのだ。 しかも執務机の上には、明らかに多いだろうソレと思われるお菓子の山。 天蓬は震える膝を叱咤し、両足を踏ん張る。 ようやくパパに到着した息子達は、その踏ん張っている足にスリスリと顔を寄せた。 ソレを竜王は寂しげに眼を細めて見ている。 (ま・・・まさか・・・・) 天蓬の額に、冷たい汗がツツッと流れ落ちた。 嫌がらせだったのだ。本当はちょっと意地悪しちゃったのだ。 いつも頭の固そうな竜王殿を、預けるついでにからかっちゃえと思っただけなのだ。 だけど、もしや。 「用事は済んだのか?」 「は・・・はい・・・お陰様で・・・。お手数をおかけしました・・・」 「いや・・・」 天蓬に歩み寄りながら、竜王は微かに微笑んで見せた。 「楽しかった。・・・また、お前達が手が空かない時は・・・連れてきて構わん・・・」 「っ!!」 息を飲む天蓬を余所に、竜王はそっと膝を折った。 嬉しげにパパにまとわりつく二匹の頭を、そっと撫でる。 「お前達も、暇な時は何時でも来い。・・・おじいちゃんが遊んでやろう」 「っっ!!!!!!!」 胸中で捲簾の名を絶叫している天蓬に気づかない息子達は、『いいの?いいの?』とおじいちゃんを見た。 おじいちゃんが力強く一度頷くと、二匹は嬉しげに揺れる。 「おおおおおおお世話になりましたっ!」 揺れる二匹をがしっと抱き上げ、天蓬は執務室から転がり出た。 そのまま回廊を一気に走り続ける。 「捲簾捲簾捲簾っけーーーんーーーれーーーーんーーーーーーっ!!!!!」 現実を受け止めきれない天蓬は、愛しい人の名を叫ぶことで、なんとか理性を保たせていた。 しかし抱かれている二匹は。 (おじいちゃんってやさしいv) (またあそびにいこうねv) なんて思っているのである。 静かになってしまった執務室で、竜王は溜息を吐いた。 部屋に広がっているおもちゃをひとつひとつ手に取り片付け、机に乗っているお菓子の一つを口に入れる。 妙に甘くて、だけど口の中からなくなってしまうと、ちょっと寂しくて。 まさにあの二匹と同じだ。 「孫は・・・・良いな・・・・」 誰も聞いていないのに、恥ずかしそうに頬を染める竜王の目尻は、思い切り下がりっぱなしであった。 思わぬ所で託児所が出来てしまったパパとママにとって、ソレは喜ばしいことだ。 コレでいざという時、安心して、息子達を預けることが出来るのだから。 しかし、自分たちが押しつけたモノの、本当におじいちゃんのポジションを受け入れてしまった竜王にどう接して良いモノか判らず、苦悶する日々がしばし続いたという。 そんな両親を余所に、二匹はパパとママがお仕事で忙しい時は、勝手におじいちゃんの元へと通うのだった。 終幕 |
ふーふーふーふー。 ハクさんから念願のピヨ子育て寝室ではコッソリね編(勝手に命名)頂きましたよっ!! もうねっ!ピヨ連載読んでいてずーーーっと気になってたのっ!!「パパとママは一体どうやって夫婦生活を?」と…そんなこと気にしてるのは私ぐらいだろうが、そこはあえて突っ込まないように。 で、ハクさんが「お祝いなど欲しいヒトはリク受け付けますよ〜」と口を滑らせたのを見逃しません。誕生日?過ぎたけどまだ1ヶ月と1週間前だし許容範囲だよねっ!!と強引にリクしてみました、あははは〜。 感無量です。謎が解けて大満足…つーかピヨには「おじいちゃん」まで家族が増えましたか、ヨカッタヨカッタ(笑)。ハクさん、ありがとうございました〜。 |
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