Unchained
「ふざけんじゃねーっ!ぜってー、ヤダッ!!」
捲簾が断末魔の叫び声を上げた、その時。

「天ちゃ〜ん、あそぼーっっ!!」
いきなり現れた悟空が天蓬の腰に勢い良く抱きついた。
「あ……」

パシャッ!

抱きつかれた拍子に瓶が天蓬の手からすり抜け、中味の液体全てを悟空が被ってしまう。
「ふぇ?」
嗅覚がおかしくなるぐらいの強烈な花の香りが部屋中に充満した。
「うえぇぇぇぇっ!くさい〜っっ!!」
頭から被ってしまった悟空は慌てて払い落とそうとするが、既に髪へとしっかり染み込んでいる。
「うっ…うわあぁぁぁんっっ!こんぜ〜んっっ!!」
大泣きしながら悟空はバタバタと天蓬の部屋を逃げ出してしまった。
「あーあ…ヤッちまったよ」
捲簾は被害を受けた悟空を気の毒に思うが、自分の危機はとりあえず脱出できたのでほっと胸を撫で下ろす。
「かわいそうなコトしちゃいましたねぇ…もっともこれからですけど。金蝉がムチャしなければいいんですが」
「お前が言うなよ!」
捲簾は天蓬の言いぐさに憤慨しながら、もっともなツッコミを入れた。
極限の緊張で渇いてしまった喉を潤そうと、捲簾は残っていたお茶を一気に飲み干す。
「あっ…」
小さく天蓬が声を上げた。
「…?何だよ??」
捲簾は眉間に皺を寄せながら天蓬を見上げる。
「そのお茶…さっき悟空が被ったときに、媚薬入りましたよ?」
「――――っっ!?」
驚愕のあまり捲簾は声も出ない。
「あ!ちなみに、ちょ〜即効性ですから」
ニッコリと微笑みながら天蓬は捲簾の股間を撫で上げた。
「うっ…?」
捲簾はビクッと身体を震わせる。
「ああ、やっぱり…もう効いてきたんですね」
捲簾の股間は窮屈そうに軍服の布地を持ち上げていた。
その形が分かるように天蓬の指が辿っていく。
「や…めろっ!」
捲簾は慌てて天蓬の腕を掴んだ。
しかし力の入らなくなった手では天蓬の動きを止めるどころか、強請るように腕に添えられた状態でしかない。
天蓬は殊更ゆっくりとファスナーを下ろしながら、捲簾の熱く潤み始めた瞳を覗き込んだ。
「心配しなくてもいいですよ?ちゃんと薬が抜けるまで可愛がってあげますからねvvv」
『いーやーだーーーっっ!!』
捲簾は心の中で悲鳴を上げる。
ふるふると首を振りながら天蓬を見つめるが、
「…捲簾、そんな目で見ないでください。僕の方が止まらなくなりそうですよ」
苦笑しながら天蓬は強引に捲簾をソファへ押し倒した。
そのまま唇を塞がれ、深く口腔を犯される。
『お前の方が先に薬飲んでんじゃねーのかっ!?』
グイッと股間に押しつけられた天蓬の熱い雄を感じながら、捲簾は今更為す術もないのでとっとと諦める。
小さく溜息をつくと、天蓬の首へと腕を回した。
―――合掌。




「そういえば、悟空はどうしたんでしょうかね?あれから遊びに来ないし、最近見かけませんねぇ」
ホレ薬騒動から1週間。
結局捲簾は薬が切れるまで3日間、天蓬に拘束されあらゆる方法でヤラれ続けた。
思い出すと自己嫌悪に陥るのでさっさと忘れようとしているのに、天蓬は分かっていながら話を蒸し返す。
「…あいつはガキだからな。金蝉に可愛がられすぎてオーバーヒートしてんじゃねーの?」
人ごとではないので捲簾は心の底から同情した。
「それはありえますね…お菓子でも持ってお見舞いに行きましょうか」
天蓬はくすくす笑いながら捲簾を見つめる。
どーもあの時の自分の痴態と、今の悟空の状態を照らし合わせてるような天蓬の物言いに、カッと顔が火照った。
「なに笑ってんだよ」
むっとしながら捲簾は天蓬の視線を避けるように顔を逸らす。
天蓬は微笑みを深くして、捲簾の背後から腕を回した。
「…んだよ」
捲簾も天蓬に抱きつかれたままじっとしている。
「どうやら薬が効きすぎたのは僕のほうですね」
捲簾は目を見開いて、背後の天蓬を振り返った。
天蓬は愛おしげに捲簾を見つめている。
急に天蓬の視線が恥ずかしくなって捲簾は俯いた。
『なんつー目で見てんだよっ!』
心なしか捲簾の心拍数が上がってくる。
「捲簾って媚薬に酔いしれたのは僕のほうですから」
俯いて見えないが、天蓬の声音が渇いたように哀しく聞こえた。
まるで、自分だけが…と思ってるような。
何だかムカついて捲簾はキッと天蓬を睨み付ける。
しかし天蓬の表情を見て捲簾は驚いた。
『なに泣きそうな顔してやがんだ、コイツ』
急に心臓が締め付けられるような甘い痛みが走る。
「…あのなぁ、いくら薬のせいだからって、俺は誰にでもヤラせるようなマネしねーぞ、っつーか男相手にヤラせるかっつーの!カッコ悪ぃ!!」
「あの…捲簾?」
天蓬は捲簾の突然の剣幕に訳が分からず呆然とした。
「お前、頭良いんだから考えりゃわかるだろーが」
プイッと捲簾は視線を外す。
『もしかして…捲簾拗ねているんですか?』
天蓬は自分の都合のいい考えを否定しようと思うが、顔を逸らした捲簾の耳朶や首筋が真っ赤に染まってるのを見ると、どうしようもなく浮かれそうになる。
「捲簾…」
「あぁ?」
捲簾が不機嫌そうにチラッと視線を戻すと、天蓬がコツンと額を当ててきた。
「僕の優秀な頭脳でも、捲簾のコトだけは予測不可能なんですよ」
先程とは違う鮮やかな笑みを天蓬は零す。
「…そうじゃなきゃ、つまんねーだろ?」
つられるように捲簾も楽しげに笑った。
しばらくそのまま2人して笑いあう。
「ねぇ、捲簾。僕だってたまには捲簾の心の中が知りたいんですけどねぇ」
天蓬の言葉にしばし捲簾は考え込むが、
「やーだね!」
簡潔に捲簾は答えた。
あまりにもあっけない捲簾の態度に天蓬の表情がスッ変わる。
再びいやぁ〜な予感に襲われ、捲簾がビクッと硬直した。
「実は…例の呪術士さんにもう一つ違う薬も貰ったんですよねぇ」
じりじりと後ずさる捲簾をじわじわと天蓬が追い込む。
「な…なにを?」
ひきつったままの表情で捲簾は恐る恐る訊き返した。
「これが、自白剤なんですよvvv」
楽しげな天蓬の右手にはまたしても瓶が…。
「いやだあぁぁぁ〜っっ!!」
天蓬の部屋からは捲簾の悲鳴と逃げ回る喧噪がしばらく続いたらしい。