はじめに

 大層なお題がついていますが、主に「シルマリルの物語」に書かれた指輪世界の過去、エルフ族の歴史を、ごく簡単にまとめてみよう、というだけのことです。
 「シルマリルの物語」を年代順に追って、「指輪物語」との関係を理解し、ついでにおもしろそうなネタをひろって、気ままなおしゃべりもしていこうかな、と。
 「シルマリルの物語」を未読の方、私、簡単早分かりをめざしてはおりますが、勝手な解釈がまじりこんでいるおそれが多分にありますので、くれぐれもご用心ください。

 ところで、「シルマリルの物語」は、「指輪物語」の世界の過去の歴史を描いたもので、1977年、トールキン教授の没後、三男のクリストファ・トールキンの手で、刊行されました。
 神話物語風に書かれていて、それなりにおもしろいのですが、造語された固有名詞がそのままカタカナで頻出し、単数形と複数形があり、別名があり、なんだか似たよーな名前がいっぱいですし、頭の悪い私なぞは、「えーと、あの、マイアってなんのことだっけ? あー、それとこの人、前にも出てきたよーだけど、どんな人だったけ?」というよーに、頭の中がゴチャゴチャになりまして、年代順に歴史を掌握するのは至難の技でした。
 指輪世界の歴史を扱ったトールキン教授の著作には、他に、クリストファ・トールキンの手でまとめられた以下のような未訳草稿資料があり、「シルマリルの物語」と「指輪物語」の世界を補完しています。

「THE UNFINISHED TALES」 1巻
「THE HISTORY OF THE MIDDLE EARTH」12巻

草稿のまとめですから、訳書出版は望み薄でしょう。
私、郎女は、頭が悪い上にめんどくさがりーで、これを読んでいませんし、これから読む気もありません。
(こんな私が、自称にせよガラドリエルを名乗るのは、まったくもって「どーよ?」なんですが、まあー、それはそれ、名乗ってみたがりーなものでして、お許しくださいませ)
 しかし、なんとかわかりやすく全体像をつかみたい、ということで、原作「ホビットの冒険」「シルマリルの物語」「指輪物語」のほかに、以下の書籍を参照させていただいております。

「トールキン 指輪物語事典」(原書房発行)
デビッド・デイ著 仁保真佐子訳 ピーター・ミルワード監修

「中つ国歴史地図 トールキン世界のすべて」(評論社発行)
カレン・ウィン・フォンスタッド著 琴屋草訳

「中つ国歴史地図」は、なかなかのすぐれものでして、「指輪物語」以前の世界も詳細に地図で現されていますので、頭の悪い私は、これを見て、よーやくわかったことも多々あります。



指輪世界の歴史概略

 エルフのことを語る前に、指輪の世界の歴史と構成を、簡単にまとめてみます。
 なにやら、受験で世界史を勉強している気分です。
私、ナマケモノゆえに、高校生のみぎりにも、受験勉強はほとんどしませんでしたが、世界史だけは、簡易まとめ帳をつくったりしたものです。
 受験のためというよりも、当時から乱読していた歴史本や歴史小説の世界が、世界史のどのあたりに位置するのか、頭に入れておきたかったためです。
 なにしろ私、頭が悪いため、自ら要約してみないと全体像がつかめませんで、みなさまにもおつきあい願うような次第です。


まずはイルーヴァタアル(唯一の神なるエル)の天地創造。
最初にイルーヴァタアルが生んだのはアイヌア(神々)で、
アイヌアの歌声によって世界が生まれます。
この世界を地球ということもできますが、最初に創造された世界は球形ではなく、平らで、アルダと呼ばれました。

アルダに降り立ったアイヌアは、
!5人のヴァラール(多神教の天上の神々のような存在・上級神)と、
マイアール(地上の神々や精霊のような存在・下級神)にわかれました。
ヴァラールの王はマンウェ、女王はヴェルダです。
「指輪物語」にヴァラールは登場しませんが、少数ながら、マイア(マイアールの単数形)は活躍します。
その代表として、古い時代から中つ国にいるトム・ボンバディルと、その妻で川の乙女ゴールドベリ。
そして、後に中つ国にやってきたガンダルフとサルマンを、あげることができます。

 ヴァラールの1人で、王マンウェに匹敵する力をもっていたメルコールは、アルダを独り占めにしたいと思い、マンウェをはじめとする他のヴァラールと対立します。
 メルコールは、堕天使ルシファのような存在で、後には冥王モルゴス(世界の暗黒の敵)と呼ばれ、強大な闇の支配者となります。

 マイアールの中にも、冥王の側につくものは多くいました。
 バルログや大蜘蛛の長も、そもそもはマイアでしたし、冥王モルゴスの後を継いだサウロンは、「指輪物語」の時代にまで生き続けた強力な闇のマイアです。

 まあ、なんといいますか、このように見てきますと、指輪の世界は、キリスト教的な一神教の世界と、ギリシャ・ローマ神話や北欧神話、ケルト神話のような多神教の世界が融合して出来上がっているんですけれども、これは、そう不自然なことではないかもしれません。
 トールキン教授はカトリック教徒。
 カトリックの歴史の過去には、多神教の神々を取り込み、聖人として扱ってきた経緯があります。

 さて、アルダ創造から、指輪戦争が終結して太陽の第3紀が終わるまでの年数は、37063年。
その間の概略は、以下のようになります。

創造の時代 5000年 まだ世界が形になっていません。
イルヴァタールによる創造の時代です。
灯火の時代 5000年 ヴァラールが、中つ国を巨大な2本の灯火で照らして、住んでいました。
暗黒の時代 10000年 ヴァラールが西方ヴァリノールへと去り、中つ国は暗黒に閉ざされます。
星々の時代 10000年 中つ国に星々が輝き、エルフが目覚めました。
「シルマリルの物語」の主要なお話の幕開けは、この時代の末のことです。
太陽の第1紀 601年 太陽が中つ国を照らし、人間が目覚めました。
シルマリルという宝玉をめぐって、エルフと人間の王たちがくりひろげる「シルマリルの物語」は、この時代を中心に語られます。
太陽の第2紀 3441年 第1紀の終幕となった戦いで、中つ国の西部、エルフの王国のあった土地は海没します。
この時代の物語の中心は人間の王たちで、「指輪物語」の追補編で語られています。末期にまた地核変動があり、中つ国のある世界はまるくなります。
一つの指輪が作られ、「指輪物語」の冒険と戦いの因縁が生まれた時代です。
太陽の第3紀 3021年 中つ国の歴史に、ホビットが登場する時代です。
「ホビットの冒険」と「指輪物語」は、この時代の末のお話です。
太陽の第4紀 ????年 「指輪物語」の登場人物のその後が、追補編で語られています。

 ご覧のように、指輪世界の歴史区分は、世界を照らす明かりによります。
 中つ国の「暗黒の時代」と「星々の時代」の2万年間、西方ヴァリノールは、金銀の二本の木の輝きに照らされていて、「二本の木の時代」となっています。
 エルフが目覚める星々の時代より前の歴史を、もう少し詳しく述べますと、以下のようになります。

創造の時代
5000年
アルダ(世界)がまだ形にならないころに、メルコールによって、神々の最初の戦いが起こされました。
天上の大いなる精霊トゥルカスがヴァラール(神々)に味方し、結果、メルコールは遁走して、アルダに平和が訪れます。
灯火の時代
5000年
アルダは外周を海にとりまかれていましたが、その真ん中に中つ国がつくられました。
中つ国の照明のため、南北の二本の高い柱の上に巨大な灯火がともされ、中つ国は不変の昼間のように光りに満ちます。
緑が生い茂り、獣が現れ、その中心に、ヴァラールの宮殿がつくられました。
しかしやがて、メルコールがアルダに立ち戻り、北方にウツノムという巨大な地下砦を築き、勢力をたくわえます。
メルコールの力は増大し、再び戦いを仕掛けて、二つの灯火をうち倒しました。アルダは破壊の炎につつまれ、地形も激変し、水と陸の形状も損なわれます。ヴァラールの宮殿も破壊されました。
ヴァラールは、中つ国を出て、アルダの西の最果の陸地に、ヴァリノールと呼ばれる美しい国を樹立して住まいました。
ヴァリノールは、銀と金の二本の樹木から流れ出る光で満たされた、至福の地です。
暗黒の時代
10000年
ヴァラールの去った中つ国は、冥王メルコールの支配を受け、暗黒に閉ざされます。
バルログを代表として、邪悪な怪物や、恐ろしい力を持った物の怪が数多く育ち、後々までも中つ国の災いの種となりました。
冥王の配下で、もっとも力ある存在だったサウロンは、この時代にアングバンド(鉄の牢獄)と呼ばれる巨大な城郭の大将となりました。



エルフの目覚め

 「エルフが目覚めた」「人間が目覚めた」という表現がこれまでに出てきましたが、どういうことかといいますと、エルフも人間も、天地を創造したイルーヴァタアル(唯一の神なるエル)によってつくられ、中つ国の東部で眠っていたわけです。
 エルフ(クエンディ)と人間(アタニ)は、イルヴァタールの子たちなので、エルフにとってのヴァラール(上級神)は、「主人というより長上、あるいは首長」なのだそうです。
 そしてエルフは、「地上の全生類のうち、もっとも美しき者。すべてのわが子らのうち、最も高き美を所有し、案出し、生み出す者」なんだそうですが。
 いやー、なんといいますか、さすがトールキン教授、唯美主義、耽美主義(あー、本来の意味の耽美です)の19世紀末に、青春を過ごした申し子でおられますね。

 さらにエルフは、アイヌア(下級神)に「力と身の丈では劣る」のですが、性質は似ていて、不死です。不死といっても、殺害されたり、悲嘆にかきくれて命果てる、ということはあるのですが、これは外見上の死で、ヴァリノール(西方浄土)に憩う場所があり、世界の消滅まで死ぬことはありません。
 そして、不死である、つまりずっとこの世にとどまり続けるからこそ、地球と全世界に対する彼らエルフの愛は痛切で、年月を経るにつれ、さらに悲しみが加わります。

 それにくらべて、人間は定命です。
 生きてこの世に住まうのはほんの短い間で、人間の心は「この世ではけっして安息を見出すことはない」のですが、しかしそれは、「この世に縛られることのない宿命からの自由」でもあり、イルヴァタールからの賜り物でした。
 しかし、冥王メルコールが、この賜り物(死)に、「暗い影を投げ、暗黒と混同させ、善なるものから禍を、望みから恐れを生じさせた」のだそうです。

  不死のエルフは、「星々の時代」に目覚め、定命の人間は、その次の「太陽の第1紀」に目覚めたわけですが、人間より早く、エルフと同じ星々の時代に目覚めた種族があります。
 ドワーフとエントです。
 この2種族は、イルヴァタールの直接の子ではありません。
 工人ドワーフは、ヴァラールの1人、匠(たくみ)の神アウレによってつくられ、木の牧人エントは、アウレの妻で、実りの女神ヤヴァンナの願いにより、つくられました。
 じゃあ、ホビットはどうなの? と聞きたくなるのですが、ホビットについては、なにもわかってないのです。「人間の親族」だそうですから、小人とはいっても、ドワーフとはかなりちがうことになります。

 とりあえず、エルフが目覚め、ドワーフとエントが目覚めた「星々の時代」の出来事を、かんたんにまとめてみます。

星々の時代 1000年
ヴァラールの女王であるヴェルダが、ヴァリノールを照らす銀の木の露で、新しく、中つ国を照らす明るい星々をつくります。
その星々の光を受けて、中つ国のはるか東部に眠っていたエルフたちが目覚めました。次いで、ドワーフとエントも目覚め、中つ国に、言葉を話す三種族がそろいます。
しかし、中つ国は、冥王メルコールの支配下にありました。メルコールは、さまよい出たエルフを捕らえ、本拠ウツノムで拷問を加えて、自らの配下のオークをつくりました。

エルフが目覚めたことを知ったヴァラールは、メルコールの手からエルフたちを救い出すため、中つ国に進軍して戦いを挑みます。
地形が変わるほどの激しい戦いの末、ウツノムは破壊され、メルコールは捕らえられて、ヴァリノールの獄につながれます。
しかしこのとき、サウロンは逃げおおせました。

長いメルコールの支配と戦いで、中つ国は荒れていましたし、星々の光しかありません。ヴァラールは、エルフたちを、自らの膝元、ヴァリノールの二本の木の光りに照らされた西方へと招きます。
招きに応じないものもありましたが、エルフたちの多くは3つの種族に別れ、まずは中つ国の西部へ、そしてさらに大海を越えて西方へと旅立ちます。この大いなる旅の途中で脱落し、中つ国に残ったエルフもたくさんいました。

残ったエルフのうちのシンダール(灰色)エルフは、中つ国西部のベルリアンドに、ドリアスという王国を築きます。
ドワーフは、この時代に、ベレリアンドの青の山脈にベレゴスト、ノグロド、そして東部霧降山脈にカサド=デュム(モリア)の三つの王国を築きました。このうちのベレゴストとノグロドのドワーフは、エルフたちと交易関係にありました。
メルコールが囚われていた間、中つ国には星の光しかありませんでしたが、平和で、エルフ、ドワーフ、エントにとって、輝かしい時代でした。

しかしメルコールは、裁きの場でヴァラールを騙し、自由を得て、西方のエルフたちの間に不和の種をまきます。
次いで、大蜘蛛ウンゴリアントと結託し、ヴァリノールを照らす銀金の二本の木を枯らせてしまったので、西方全土は闇に閉ざされました。
シルマリルは、西方に来たエルフの王族が、二本の木の光を閉じこめてつくった三つの宝玉でしたが、メルコールはこれを奪い、中つ国のアングバンドの廃墟に帰りました。
シルマリルをはめこんだ王冠をかぶったメルコールは、これ以降、モルゴスと呼ばれますが、西方エルフの一団・ノルドール族も、モルゴスとシルマリルを追って中つ国に帰り、以降、中つ国は争乱にゆれます。

ヴァラールは、再びモルゴスの脅威にさらされた中つ国を憂えて、枯れた二本の木に癒しの力をそそぎ、輝く銀の花と金の果実を得ます。さらに、銀の花、金の果実を
それぞれ容器に入れ、月と太陽をつくりました。
先に月が天空に昇り、次いで太陽が世界を輝かせ、星々の時代は終わりを告げました。



エルフの種族

 エルフはもともと、「もっとも美しき者。最も高き美を所有し、案出し、生み出す者」という高貴な種族なのですが、目覚めたときの中つ国は、冥王の支配下で、その後も長く荒れたままでした。美と高貴は、ヴァリノールの二本の木の輝きに照らされた西方の地にのみ、あったのです。
 したがって、西方にいったエルフは、その叡智と美への感性を磨くことができましたが、中つ国にとどまった者は、星明かりのみの太古の森の暮らしに順応し、野性的、排他的で、警戒心が強く、高貴さにおいて劣る、ということになるようです。
 エルフの種族をおおまかにわけると、以下のようになります。

エルダール
(中つ国東部のエルフ目覚めの地から西へ向かったもの)
アヴァリ
(応ぜざる者)
カラクウェンディ
(光のエルフ)
モリクウェンディ
(暗闇のエルフ)
ヴァンヤール族 ノルドール族 テレリ族 ■最初に、ヴァラールの誘いに応じず、中つ国東部のエルフ生誕地から旅立たなかったエルフを、アヴァリ(応ぜざる者)と呼ぶ。
■テレリ族、ノルドール族の一部であるらしい。
■金髪のエルフ
■イングウェ王に率いられて全員が海を越え、最初に至福の地ヴァリノールに渡り、そのまま安住。
■エルフの中で、もっとも尊崇を受けている種族。
物語にほとんど登場しない。
■ガラドリエルの祖母はイングウェ王の親族で、この種族。
■黒髪のエルフ
■フィンウエ王に率いられて海を越え、ヴァンヤール族とともに最初にヴァリノールに渡るが、王族とまとまった一団が中つ国に立ち戻る。
■工芸にすぐれた才を示し、宝玉シルマリルを造って、「シルマリルの物語」の主役となった。
■ガラドリエルはフィンウェ王の孫で、この種族。エルロンドも、フィンウエ王の血を引く。
■エルフの中でも最大の集団。髪の色不明。
■エルウェ(シンゴル)王に率いられ、ヴァンヤール、ノルドールの後を追って、旅立つ。
■霧降山脈を越える前に脱落した者も多く、後にシルヴァン(森の)エルフと呼ばれるようになる。
■エルウェ王が行方不明となり、さらに分裂。
エルウェの弟・オルウェ率いる一団が、西方へ渡り、光のエルフの仲間入りをする。
■海を渡らず、中つ国西部ベレリアンド(リンドン)に残ったテレリ族を、シンダール(灰色)エルフと呼ぶ。
光のテレリ シンダール シルヴァン
■オルウェ王に率いられ、海を越えて、至福の西方の地に渡ったテレリ族の一団。
■海を愛し、ヴァリノールの二本の木の光りに照らされた西方の地でも、好んで海辺にに住んだ。
■以降、中つ国に帰る者はなかったという。
■ガラドリエルの母はオルウェ王の娘で、この種族。
■シンゴル(エルウェ)王のもと、中つ国西部にとどまったテレリ族をシンダール(灰色)エルフと呼ぶ。
■海岸部に住み、船乗り・船造りとなったシンダールは、ファラスムと呼ばれた。船造りギアダンは、その王。
■ケレボルンはシンゴル王の親族で、この種族。エルロンドは、シンゴル王の血も引いている。
■シルヴァンエルフは、森のエルフとも呼ばれる。
■最初の旅で霧降山脈を越えなかったテレリ族で、ナンドール(引返したる者たち)と呼ばれた一団が森に住み、後世そう呼ばれた。
■ナンドールのうち、後から霧降山脈を越え、中つ国西部、オスシリアンドの森に住み着いた一団は、
ライクウェンディ(緑のエルフ)と呼ばれた。
■レゴラスの一族・闇の森のエルフと、ロスロリエンのエルフの大多数はこの種族。

 えーと、おおまかなはずが、なにやらややっこしい図ですねえ。
 大元の種族はといいますと、ヴァンヤール、ノルドール、テレリの三種族です。最初に、中つ国東部の目覚めの地から動かなかったアヴァリ(応ぜざる者)は別にして、三種族はまず、それぞれの代表者をヴァリノールに送ります。
 この代表者、イングウェ、フィンウェ、エルウェ(シンゴル)は、海を渡ってヴァリノールへ行き、金銀の二本の木が照らす至福の地を自ら確かめ、中つ国に帰って、西方へと一族を率います。

 ヴァンヤール族  イングウェ王
 ノルドール族   フィンウェ王
 テレリ族     エルウェ(シンゴル)王

 ということになるのですが。
 ヴァンヤール族、ノルドール族は、早々と中つ国西部に至り、順調に海を越え、ヴァリノールの住人となりますが、最大多数のテレリ族は、エルウェ(シンゴル)王自身が中つ国に残ることとなりまして、分裂をくりかえし、中つ国にとどまった者が多数いました。
 エルウェ(シンゴル)王とシンダールエルフのお話は、なかなかおもしろいので、次章であらためまして。
 テレリ族は、内陸では森を愛し、沿岸に至ると海を愛し、考えようによっては、もっとも妖精(フェアリー)のイメージに近いエルフです。
 中つ国でも、船造り、船乗りとなったりしますが、それは、海を越えても変わらず、ヴァリノールでも好んで海岸に住み、船造り、航海に長けていました。

 西方至福の地、ヴァリノールに住む3種族は、以下のようにも呼び分けられます。

 ヴァンヤール族  光のエルフ
 ノルドール族   地のエルフ
 テレリ族     海のエルフ


 まあ、なんといいますか、エルフにも階級があるようでして、ヴァンヤール族は、最上級エルフといえそうです。ヴァラールの王マンウェと女王ヴァルダにもっとも寵愛されている種族で、全員がヴァリノールへ渡り、中つ国へは帰りませんでしたので、まったくお話の種ともなっていません。
 しかし、ヴァリノールの地で、インウェ王の親族の娘がフィンウェ王(ノルドール族)の後妻となり、その血筋は、中つ国に立ち帰って、物語に登場することになります。

 ノルドール族は、知識欲が旺盛で、誇り高く、ヴァラールの1人、匠(たくみ)の神アウレに愛されました。アウレから匠の技を学び、宝玉シルマリルを造って、悲劇を背負います。
 シルマリルを盗んだモルゴスを追い、多数が中つ国に立ち帰って、「シルマリルの物語」の中心となるのですが、アウレに愛された種族だけに、アウレの申し子ドワーフとも、仲は悪くありませんでした。
 西方至福の地を踏み、なおかつ中つ国へ帰ってきたのはノルドール族だけですので、中つ国で「上のエルフ」と呼ばれるのは、この種族です。
 また、中つ国の人間からはノーム(知恵者)とも呼ばれますが、ヨーロッパの妖精伝説におけるノームは、ドワーフとともに地の精です。

 ところで、「指輪物語」の時代、太陽の第3紀において、ガラドリエルは、「中つ国にとどまったすべてのエルフたちの中で、最も力ある者であり、最も美しい者」でしたが、それもそのはず、星々の時代のヴァリノールで生まれ、二本の木の明かりを見たノルドールの王族なんですね。7000歳ははるかに越えているわけでして、10000歳近いかと思われます。
 ヴァンヤールの王族である祖母から金髪を受け継いでいて、母親は光のテレリの王族ですし、とにもかくにも、すごい血筋なわけです。
 えらそーなばーさん、なわけです。
 ちなみに、夫のケレボルンは、エルウェ(シンゴル)王の血縁になるシンダールエルフで、「上のエルフ」ではなく、ガラドリエルよりも格が下がります。
 この二人が君臨するロスロリエンのその他大勢のエルフは、闇の森の一族と同じく、シルヴァンエルフです。

 裂け谷のエルロンドは、ガラドリエルの従兄弟にあたるノルドールの王族の血と、エルウェ(シンゴル)王の血を引く半エルフです。エルフの中でも、三族の最初の王の血筋は特別なようでして、エルロンドも、抜きん出た存在なわけです。
 配下のエルフは、大多数がシンダールで、ノルドール族も多少、まじっているかと思われます。

 太陽の第3紀、中つ国にとどまっていたエルフの中で、もっとも年長だったのは、灰色港の船造りキアダンだと思われます。
 彼は、エルウェ(シンゴル)王が消えた後、中つ国の海のマイア(下級神)、オスセに懇願されて、ファラス(ベレリアンドの西の海辺)に住み着き、船造り、船乗りになったテレリ族、ファスリムの王です。
 王といっても、シンゴル王の配下となるので、諸侯とでもいった方がいいかもしれませんが、ともかく、エルフの目覚めのときからずっと、中つ国にとどまり続けたわけです。

 最後に、レゴラスの父で、闇の森のエルフの王であるスランドゥイルなのですが、闇の森のエルフたちはシルヴァンエルフです。しかし、王であるスランドゥイルは、シンダールエルフのようなのです。これにつきましては、「愛しのレゴラス」の方で、詳しく見当する予定です。



あぶないエルフ王の愛

 さて、 ヴァンヤール族のイングウェ王、ノルドール族のフィンウェ王、テレリ族のエルウェ(シンゴル)王のうち、イングウェ王にはなんの物語もないのですが、フィンウェ王とエルウェ(シンゴル)王の生涯は波瀾万丈で、二人とも殺害されています。
 テレリ族のエルウェ王は、シンゴル(灰色マント)王と呼ばれ、そちらの名の方がひろまりましたので、以降、シンゴル王で統一します。

 このシンゴル王なのですが、いや、もう、なんといいますか、あきれ果てるようなお方です。
 最大多数のテレリ族は、まとまりも悪く、一番最後に旅立ったわけなのですが、シンゴル王は、しきりにみなを急き立てます。
 これがなぜかといえば、まあ、彼は代表としてヴァリノールへ出かけていますから、美しい至福の地に早く行きたい、というのもあったそうなのですが、もう一つの理由がふるってます。
 ノルドール族と離れたくなかったのだそうです。なぜならば、シンゴル王は、ノルドール族のフィンウェ王に、「強い友情を懐いていた」のだそうで。
 「おいおい、ほんとに友情かい?」と、いいたくなります記述が、さらに続きます。

 心急くシンゴル王に率いられ、霧降山脈を越えたテレリ族の一団は、エリアドール(後世ホビット庄ができる地域)の広大な土地を横断し、青の山脈を越え、ベレリアンド(後世大部分が海没)の東部に入り、滞留します。
 その西の森には、ノルドール族が宿営していて、シンゴル王は単身で、たびたび、フィンウェ王のもとを訪れていたというのです。
 供もつれずに、いったい、なにをしに行っていたのでしょう。
 星々の時代、常時星明かりしかなかったころの中つ国です。
 なにやら、あやしげなシンゴル王の行動、ではありませんか。
 「強い友情」ねえ。
 「強い友情」で、王さまがこっそりただ1人、星明かりの広大な森をぬけ、多種族の王さまのもとへ、通いつめますかねえ。

 しかし、シンゴル王のフィンウェ王への熱い行動は、思わぬことで中断されました。
 シンゴル王がフィンウェ王のもとへかよう途中の森に、マイア(下級神)のメリアンがいました。
 メリアンは、もともとはヴァラール(神々)のイルモ(願望を司る神)の庭、ロリエンに住んでいましたが、小夜啼鳥(ローメリンディ)たちを連れて、中つ国に渡ってきていたんですね。
 彼女は、美しく、賢く、心をとろかす歌に長じていました。
  シンゴル王は、小夜啼鳥とメリアンの美しくも妖しい歌声に惑い、フィンウェ王のことも、自分の民のことも忘れ果て、メリアンの魔法にかかって、愛の虜になった、というのですが。

 マイアであるメリアンは、シンゴル王より格上。力も勝ります。
 これは、どう考えても、メリアンの一目惚れでしょう。
「まああああっ、こんなきれいな青年エルフ王が、ホモではいけないわ。子供をつくらなくちゃ! 唾つけたっと」などという下品な独り言は、たぶん、つぶやかなかったと思いますが、まあ、あれです、メリアンの方がシンゴル王に目をつけ、魔法をかけて捕まえたわけではありそうです。

 まあ、いいんですが。たしかに、フィンウェ王一筋より、生産的かもしれませんが。
 それにしても、メリアンの魔法で、二人はそのまま、「あまたたび頭上をめぐる星々が幾年かを数える間じっと立ちつくしていた」というのは、どうでしょ。
 妄想をたくましくしますと、シンゴル王の心から、フィンウェ王の面影を消すには、メリアンといえども、それだけの歳月を必要とした、わけなのかもしれません。

 しかし、それにいたしましても。
 はた迷惑なのは、シンゴル王が率いていたテレリ族たちです。
 フィンウェ王のもとに通いつめていた自分たちの王が、突然、森で消えてしまったのです。
 さがしても、さがしても見つかりません。
 そのうち、西方至福の地、ヴァリノールからの迎えが来て、、ヴァンヤール族もノルドール族も、みーんな海を越えて行ってしまいました。

 さてさて、長い歳月の後、ヴァリノールの地で、中つ国に取り残されたテレリ族を心配し、迎えを出して呼び寄せることを願ったのは、ノルドール族のフィンウェ王です。
 まあ、その、なんといいますか、妄想をたくましくすれば、シンゴル王の片思いではなかったんでしょう。フィンウェ王は、責任感が強いので、シンゴル王の行方不明を気にかけつつも、一族を率いる身、海を渡るしかなく、しかしどーにも忘れられなくて、恋しくて、懇願してみたりーと、考えられたりもするわけなのですよね。
 しかし、いま一度ヴァラールの迎えが中つ国に来たとき、シンゴル王は、まだまだメリアンの魔法の虜になったまま、森の中に恍惚状態で立ちつくしていました。
 そんなわけで、シンゴル王の弟、オルウェ王がテレリ族を率い、海を渡ったのですが、このとき、中つ国に残ったテレリ族も多数ありました。
 シンゴル王の友人縁者たちと、船造りキアダンを王とするファスリムがそうです。

 ようやく姿を現したシンゴル王は、マイアのメリアンに愛されて、以前よりもなお美しく、気高くなっていたそうなんですが、どうなんでしょ。
 女の魔法にかかって、民も責任も忘れたなんて聞かされた後では、ただのお間抜けに見えてしまうんですが。
 ともかく、です。メリアンの魔法は、すさまじかったようです。
 シンゴル王は、メリアンと結ばれ、中つ国にとどまることになり、ベレリアンド全土のエルフの王となります。
 シンゴル王とメリアンの間には、ルシアンという美しい娘が生まれ、その血は、裂け谷の半エルフ・エルロンドに受け継がれます。
 
 さて、一方のフィンウェ王です。
 彼は、ヴァリノールの地で、同じノルドール族のミーリエルと結ばれ、長男のフェアノールが生まれるのですが、ミーリエルは出産で心身を消耗し尽くし、「形の上での死」に至るのですね。
 妙といえば、妙なお話ですよね。至福の不死の地で、エルフが、マタニィティーブルーで、死に至るとは。
 ここでも、妄想をうごめかすことが、可能です。
 フィンウェ王の心は、中つ国で行方不明のままのシンゴル王のもとにあり、実は、妻の出産にも上の空だったりなんかしまして、感受性の強いミーリエルは、夫の上の空状態に気づき、「私がこんな大変な思いをしているときにっ! こんなホモ、もうっーいや!」と悲嘆のあまり、死に至っちゃたんだとか。

 えー、フィンウェ王は再婚します。
 今度の妻インディスは、最上級エルフ・ヴァンヤール族のイングウェ王の近い親族です。
 ここでまた、妄想です。
 フィンウェ王は、はるか離れた中つ国で、シンゴル王が、マイア(下級神)のメリアンにとっつかまっていることを、知ったんじゃないでしょうか。
「妻を失うほど心配し、焦がれていたシンゴルが、実は、女にとっつかまって、のほほーんとすべてを忘れていただけとは。あいつ、私のことも忘れていたんだっ!」
 と、フィンウェ王は怒りにかられ、メリアンへの妙な対抗意識を持ち、しかし、後妻にマイアは無理だったので、格上のヴァンヤール族から迎えた、とか、どうでしょ?

 この再婚で、フィンゴルフィン、フィナルフィンという二人の男の子が生まれます。
 兄のフィンゴルフィンの孫娘は、裂け谷の半エルフ・エルロンドの祖母です。
 弟のフィナルフィンの方は、シンゴル王の弟・オルウェ王の娘を妻とし、四人の男の子と、そしてガラドリエルをもうけます。
 えー、そうなんです。エルロンドとガラドリエルは、かなり世代がちがいます。
 もちろん、ガラドリエルの方がばあさんです。
 エルロンドの曾祖父がガラドリエルの従兄弟、ということになります。

 フィンウェ王の長男、フェアノールにしてみれば、父の再婚がおもしろかろうはずもなく、異母弟たちにも、親しめませんでした。
 このことが、ノルドール族の悲劇の遠因となるわけでして、邪モードで考えますと、つくづく、お間抜けなシンゴル王は、罪つくりなお方です。

 ノルドール族の悲劇を、はしょってお話しますと、フェアノールは、非常に匠の技にすぐれ、自分の生まれた至福の地を照らす2本の木の輝きを、三つの宝玉に閉じこめることに成功します。
 これが、シルマリルです。
 シルマリルは不思議な力を持ち、見る者を魅了しますが、死すべき命の者や、悪しき意図の持ち主がこれに手を触れると、かならず火傷を負います。

 そのころ、自由を得てヴァリノールにいた冥王メルコールは、シリマリルに魅せられ、なんとかこれを自分のものにしようと、フィンウェ王の異母兄弟間に不和の種をまき、そしてノルドール族の間にヴァラール(神々)への反抗心を植えつけます。
 しかし、フェアノールは、メルコールのシルマリルへの執着を見ぬき、手ひどくはねつけました。
 これを恨んだメルコールは、大蜘蛛ウンゴリアントと結んで、ヴァリノールの輝きの源、銀金の二本の木を枯らしてしまいます。
 さらに、自ら至福の地に招いた暗黒の中で、フィンウェ王を殺し、
シルマリルを奪って、中つ国へと遁走するのです。
 愛する父を殺され、シルマリルを奪われたフェアノールは、狂おしいまでに怒り悲しみ、メルコールを、モルゴス(この世の黒き敵)と罵ります。以降、メルコールは、冥王モルゴスと呼ばれるようになるわけなのですが。

 復讐に燃えたフェアノールは、ヴァリノールをおおった暗闇の中で演説し、ヴァラールに逆らい、モルゴスを追って中つ国へ立ち戻るよう、ノルドール族を説得します。
 ファアノールの7人の子供たちは、父に習って「シルマリルを奪う者、手許におく者、所有する者は、だれであれ、この世の果てまで、復讐と憎悪を持って追跡する」と誓いました。

 フェアノールの異母弟、フィンゴルフィン、フィナルフィンは、もちろん、これに賛同しませんでしたが、その子供たちの間では、意見が分かれました。
 フイナルフィンの娘ガラドリエルは、復讐の誓いには同調しませんでしたが、まだ見たことのない中つ国に、心引かれました。
 このとき、「彼女は無防備の広大な地をその目で見て、その地で自分の思い通りに統治する王国が欲しいと切に望んだ」のだそうですから、ガラばあさん、若いころから、すっごい野心家で、支配欲が強かったわけですね。

 結局ノルドール族は、王族とともに、大多数が中つ国へ立ち戻ることになったわけなのですが、それには船がいります。
 船造りと航海の技に長け、船を持っているのは、オルウェ王率いるテレリ族だけです。
 しかし、ヴァラールの意向に逆らっての復讐の船出に、テレリ族は同調せず、オルウェ王はフェアノールを諫めて、ともに行くことも、船を貸すことも拒みます。
 復讐の鬼となったフェアノールは、力づくで船を奪い、戦いとなりました。多くのテレリ族が殺され、至福の地が、同族殺しの血で汚されたのです。

 ガラドリエルの母、フィナルフィンの妻は、オルウェ王の娘です。フィナルフィンは、ついに引き返す決心をし、自らの民を引き連れ、ヴァラールの許しを乞いました。
 しかし、ガラドリエルをはじめとするフイナルフィンの子供たちは、別です。
 母の一族が父の一族に殺される悲劇が起こったにもかかわらず、伯父のフィンゴルフィンやその子どもたちとともに、中つ国への旅を続行しました。

 ところが、船の数は少なく、異母弟一族を信用していなかったフェアノールは、異母弟フィンゴルフィンの一行を置き去りにします。
 当時はまだ、中つ国とヴァリノールが、極北の地でつながっていました。
 フィンゴルフィンの一行は、不屈の精神で、極寒の地に足を踏み入れ、氷の山々を越え、多くの死亡者を出しながら、中つ国にたどりつき、そのとき、最初の月が、中つ国の空に輝いたのです。
 ガラドリエルは、この一行の指導者の1人でした。
 つくづく、すさまじいおばはんです。

 フェアノールは、中つ国に渡ってすぐ、冥王モルゴスに戦いを挑み、バルログの首領ゴスモグに襲われ、中つ国に輝く月と太陽を見る前に命を落とし、復讐を子供たちに託しましたました。
 シルマリルを造り、シルマリルに縛られ、ノルードール族に悲劇を背負わせた、火のような生涯でした。



エルフの時代の終焉

 いよいよ、月がのぼり、太陽がのぼりました。
 星々の時代に続いて、「シルマリルの物語」が展開された太陽の第1紀の出来事を、以下にまとめてみました。

太陽の第1紀 601年
太陽が中つ国を照らし、人間が目覚めました。
「シルマリルの物語」は、この時代を中心に語られます。

星々の時代から中つ国に栄えたシンダールエルフの王国、ドリアスは、健在でした。
冥王モルゴスを追って中つ国に帰ってきたノルドール族も、冥王の砦アングバンドを見張るようにエルフの王国を築きます。
宿命を背負って帰ってきたノルドール族と、冥王が奪ったノルドール族の至宝シルマリルの存在は、シンダール族をはじめとする他のエルフや人間をも巻き込み、中つ国に激動を巻き起こします。

目覚めた人間のうち、エルフの王国の領域に最初に足を踏み入れたものは、エダインと呼ばれ、すぐれた力を持っていました。
エルフとともにシルマリルの物語を織りなすのは、このエダインで、その血筋はエルフと交わり、「指輪物語」の半エルフ・エルロンドの一族、および第2紀のヌメノールの王族、つまりは「指輪物語」のアラゴルンに受け継がれます。
東方の人間は、その多くが、冥王モルゴスの配下となりました。

第1紀56年に起こった冥王モルゴスとノルドール族の戦いは、ノルドール族の完璧な勝利に終わり、平和が到来しました。
しかし冥王はひそかに力を蓄え、456年には攻勢に出ました。
この戦いは、「俄に焔流るる合戦」(タゴ−ル・ブラゴルラッハ)と呼ばれ、ノルドール族を中心とするエルフ、そしてエルフと同盟関係にあった人間のエダインは、大きな打撃を受けました。
それから18年後の473年、ノルドール族は、エルフと人間、そしてドワーフを加えた連合軍を結成し、反撃に出ますが、裏切りもあり、結局、壊滅的な敗北を喫します。この戦いは、「数え尽くせぬ涙の合戦」(ニアナイス・アルノイディアド)と呼ばれました。
シンダールエルフは、この戦いには加わりませんでしたので、その王国であるドリアスは無事でしたが、20数年の後、シルマリルをめぐる争いで、王がドワーフに殺され、これも滅亡します。
511年には、ノルドール族の最後の隠された都・ゴンドリンが、裏切りによって陥落します。

冥王モルゴスの支配下に入った中つ国で、生き残ったエルフとエダインは、シルマリルをめぐって内紛を起こし、希望の持てない状態でした。
エルフとエダインの血を引く半エルフ・エアレンディルと、その妻で、シンダールエルフの王女・エルウィングは、シルマリルをたずさえて、ヴァリノールへ助けを求めに、西海の彼方を目指します。
601年、ヴァラールは、エルフとエダインの願いに応え、モルゴスに対する三度目で最後の戦いのため、中つ国に進軍しました。この戦いには、もちろん、中つ国のエルフとエダインも加わり、エアレンディルはモルゴスの手先の黒竜を殺します。
モルゴスは捕まり、ヴァラールの手で虚空に放逐され、二度と立ち直ることはありませんでした。
しかしこのとき、サウロンは逃げおおせます。
この戦いは、「怒りの戦い」と呼ばれました。


 さて、シンゴル王です。
 シンゴル王は、フィンウェ王の子や孫たちが中つ国へ帰って来たことを、あまり歓迎しませんでした。
 まあ、帰って来た事情が事情ですから、手放しで歓迎できないのも無理はありませんが。
 若いころに愛したフィンウェ王の死に、感慨はなかったんでしょうか。
 メリアンの魔法は、なかなかたいしたものでは、あります。
 シンゴル王が、自分の宮殿への出入りを許したノルドール族は、弟オルウェの娘の子たち、つまり、フィナルフィンの子供たちのみでした。

 フィナルフィンの娘であるガラドリエルは、ドリアスに住みました。
 というのも、シンゴル王の血縁者、ケレボルンに惚れたんですね。
 「メリアンと共に住んで、彼女から、中つ国に関するすぐれた知識や知恵を学んだ」といいますから、怖ろしいことです。
 「すぐれた知識や知恵」って、あれじゃないですか、いかにぽーっとした夫を操縦し、領国を支配するかを、学んだんじゃないんでしょうか。
 後にガラドリエルは、ロスロリエンの女王となるわけですが、ロリエンはそもそも、メリアンがヴァリノールで住んでいた園の名前なわけですし、ドリアスの地下宮殿、メネグロス(千洞宮)は、ロリエンの園の美しさを再現するものであったのです。
 いかにガラドリエルが、メリアンの影響を受けたかが、これでうかがえます。

 ところで、この時代に目覚めた人間のうちで、初めて青の山脈を越え、エルフの国の領域、ベレリアンドに入ったのは、族長ベオルとその一族でした。
 そして、ベレリアンドで初めてこの人間たちに気づき、教え導いたのは、ガラドリエルの兄、フィンロド・フェラグンドでした。
 シンゴル王は、人間たちに警戒心を抱いていましたし、シンダールエルフは親しみを持ちませんでしたが、フィンロドを筆頭に、ノルドール族の公子たちは、人間たちを迎え入れ、共に冥王モルゴスと戦うことになったのです。

 しかしすでに、エルフの黄金時代は終焉に近づき、エルフと人間とのまじわりは、宿命だったのです。
 シンゴル王とメリアンの愛娘、ルシアンは、ベオルの子孫、ベレンに恋をします。
 愛娘と有限の命の人間の恋に、激怒したシンゴル王は、「モルゴスの冠からシルマリルを奪ってこい」という、無理難題をベレンに課します。
 しかし、ルシアンの献身的な助けを得たベレンは、それを成し遂げるのです。
 モルゴスの冠の三つのシルマリルのうち、ベレンは一つをもぎとり、シンゴル王の元に持ち帰って、ルシアンとの結婚を許されます。
 この二人の歌物語を、「指輪物語」でアラゴルンが愛唱しています。アラゴルンとアルウェンの愛は、はるか祖先のベレンとルシアンの愛に重ねられるわけです。

 シルマリルの魔力は、シンゴル王とドリアスに不幸をもたらしました。
 冥王モルゴスと、ノルドール族と人間たちの壮絶な戦いに、一線を画して国を守っていたシンゴル王は、ドワーフの名品、ナウグラミアという首飾りを手に入れ、これにシルマリルをはめ込もうと、ノグロドのドワーフの細工師を招きます。
 しかし、シルマリルの魔力はドワーフたちをも捕らえ、これを自分たちのものにしたくなり、「ナウグラミアはドワーフのもの」と難癖をつけます。
 怒ったシンゴル王は、ドワーフたちを侮辱し、細工代も払わず、追い払おうとします。
 ドワーフたちは、その場でシンゴル王を殺害して逃げようとし、逃げのびた者が、「報酬を惜しんだシンゴル王が仲間を殺した」と、ノグロドに帰って告げます。

 メリアンは、ただただ、シンゴル王1人を愛していたのでしょう。
 シンゴル王亡き後、二人の領国になんの興味も持てず、すべてを放って、ヴァリノールのロリエンの園に帰りました。
 メリアンの魔法で守られていたドリアスは無防備となり、王宮メネグロスはノグロドのドワーフ軍に攻め滅ぼされ、シルマリルは略奪されます。
 そのとき、ルシアンとベレンは、息子のディオルとともに、オスシリアンドの緑のエルフのもとにいましたが、知らせを受けたベレンとディオルは、緑のエルフの加勢を得て、ドワーフ軍を急襲し、全滅させて、シルマリルも取り戻しました。

 エルフとドワーフの不仲には、これだけの因縁があるんですね。
 ただ、ノルドール族はこの事件とは関係ありませんし、もともと、匠(たくみ)の神アウレに愛されたノルドール族と、アウレの申し子ドワーフは、友好関係にありました。
 ガラドリエルはノルドール族ですから、シンゴル王の血縁であるケレボルンほど、ドワーフに対する不信感を育てようがなかったでしょうし、ギムリを養護して当然、ではあったわけです。

 ルシアンとベレンの息子、ディオルの娘がエルウィングです。
 シンダールエルフの王女エルウィングは、やはり人間とノルドールの王族の血を引くエアレンディルと結ばれ、裂け谷の半エルフ・エルロンドと、その双子の兄弟で、アラゴルンの祖先であるエルロスが生まれます。
 中つ国へ立ち戻ったノルドールの王族は、ほぼ全員が、この時代の戦いや争いで命を落とし、ガラドリエルの兄たちも、例外ではありませんでした。



「指輪」誕生とサウロン

 ヴァラール(神々)が中つ国にかかわった最後の戦いで、太陽の第1紀は終わりを告げ、太陽の第2紀が幕を開けます。
 太陽の第2紀は、地核変動の時代です。第1紀の幕を閉じた戦いで、中つ国の地図は大きく変わりますが、さらにこの時代の末期には、平らだった世界がまるくなる、という大変動が起こります。
 エルフは物語の主役の座を降り、エダイン(人間)が中心となります。
 それに対する闇の勢力も、太陽の第1紀で滅びたモルゴスに代わり、サウロンが冥王となります。
 中つ国では、力の指輪がつくられ、「指輪物語」の因縁が生まれました。

太陽の第2紀 3441年
第1紀の終幕となった「怒りの戦い」で、ヴァラールはモルゴスの領土を消滅させましたが、それにともなって地殻変動が起こり、中つ国の西部、ベレリアンドは海中に没します。
エルフの王国のあった土地は、そのほとんどが消滅したわけで、ノルドール族とシンダール族のエルフの大多数は、大海を越えて西方へと向かい、中つ国を永遠に後にしました。

しかし、ベレリアンド海没のとき、高地に避難し、後に東部へ逃れたエルフもいましたし、中つ国を去りがたく、残ったエルフもいました。
シンダールエルフの中には、東部へ行き、森林地帯にいたシルヴァンエルフといっしょになったものもあり、レゴラスの父、スランドウィルがそうです。
西部沿岸地帯にとどまったエルフは、ノルドール族の王ギル=ガラド(ガラドリエルの従兄弟の子)のいる西リンドンと、港のエルフ王、船造りキアダンのいる南リンドンに集まりました。
エアレンディルとエルウィングの息子で、「指輪物語」の裂け谷(イムラドリス)の主・エルロンドは、ギル=ガラドのもとにおりましたし、後にロスロリエンの主となったガラドリエルとケレボルンは、キアダンのもとにおりました。

ノルドールの王族ケレブリンボール(フェアノールの孫)は、しばらくリンドンにいた後、同族の工人を多く連れて東の内陸へと向かい、750年、霧降山脈の西の山裾にあるエレギオンに着き、都オスト・イン・エジルをつくりました。エレギオンは人間の言葉でホリン(柊郷)。指輪の旅の仲間が、モリアの西門へ向かうときに通った場所です。
実は、地核の変動で、星々の時代から青の山脈にあったドワーフの王国、ベレゴスト、ノグロドは崩壊し、ドワーフたちは、東部、霧降山脈にあったカサド=デュム(モリア)に集結し、栄えて、ミスリルを発見していたのです。
偉大な名工だったケレブリンボールは、それを聞き、カサド=デュムの近くに居を定めたわけです。
ノルドール族とドワーフの仲は親密で、エレギオンとカサド=デュムには、頻繁な行き来がありました。
ガラドリエルは、エレギオン創建に参加しましたので、盛時のカサド=デュムを実見していたのです。

1000年ころ、サウロンは中つ国に姿を現し、モンドールに本拠をかまえ、ケレブリンボールに近づきました。サウロンの知識はひろかったので、匠の技に役立つことも多く、エレギオンの細工師は、力の指輪をつくるために、サウロンの手を貸りました。
サウロンは、ひそかに、すべての力の指輪を支配し、従属させることができる一つの指輪をつくります。
これに気づいたケレブリンボールは、最大の力を持った三つの指輪を救い出し、隠しました。この三つの指輪は、サウロンには関係なく、ケレブリンボール自身の手でつくられたものです。

1695年、サウロンは、三つの指輪を得るために、エレギオンを急襲します。エルロンドの救援は間に合わず、ケレブリンボールは捕らえられ、2年後、拷問のため死にます。
エルロンドは、サウロン軍と戦い、窮地に陥りますが、カサド=デュム(モリア)のドワーフ軍に助けられます。このとき、裂け谷(イムラドリス)に避難所と城塞がつくられました。
中つ国では、モンドールを拠点としたサウロンの力が増大し、暗黒の時代となりました。
多くのエルフたちが、西方に旅立ち、二度と帰りませんでした。

ところで、エルロンドとその双子の兄弟エルロスは、エルフの王族とエダイン(人間)の王族の血がまじった半エルフですが、エルロンドはエルフであることを選び、エルロスは人間であることを選びます。
エルロス王とその民エダインに、ヴァラール(神々)は、西海のエレンナ大島を与えました。死すべき定めの人間は、至福のヴァリノールの地は踏めませんが、その人間に許された西の最果ての地でした。
エダインたちは、ここにヌメノール王国を築いて栄えました。

1700年、ギル=ガラドの要請にこたえ、ヌメノールの援軍が中つ国に到着し、エルフと人間の同盟軍は、サウロン軍を全滅させます。サウロンはモンドールに逃げ帰り、中つ国に平和が到来しました。
一方、最盛期を迎え、栄華に酔ったたヌメノール人は、死すべき人間の定めに不満を抱き、ヴァラールへの反発心を育てます。同時にヌメノール人は、中つ国の沿岸部に巨大な植民地を築き、サウロンの警戒心をかきたてます。

サウロンは、モルドールで再び力を蓄え、力の指輪をつかい、指輪の幽鬼(ナズグル)を配下として策動します。
ヌメノール最後の王、アル・ファラゾーンは、植民地を襲うサウロンを駆逐しようと戦いを挑み、中つ国に軍勢を進めて、サウロンを捕らえました。
しかし、捕虜となったサウロンは、狡猾に王に取り入り、ヴァラール(神々)への反逆をそそのかします。

3319年、ヌメノール人は、禁じられた西海へと軍船を進め、ついにアル・ファラゾーン王は、至福の地を踏みました。
このとき、ヴァラールの王マンウェは、イルヴァタール(唯一の創造神)にすべてをゆだね、世界は変えられました。
ヌメノールの軍勢はすべて大海に呑まれ、ヌメノールの国土は海中に没し、至福の地はこの世の圏外に移され、中つ国の属する平らだった世界は、まるくなりました。
(ヌメノールは大西洋に沈んだ伝説のアトランティスという想定です)

ヌメノール王家の始祖、エルロンドの双子の兄弟エルロスの血をひくエレンディルは、アル・ファラゾーン王に同調せず、イシルデゥア、アナリオンという二人の息子とともに、中つ国への逃亡を準備していましたので、海没の惨害からまぬがれました。
エレンディルの船は、リンドンに流れ着き、ノルドール族のエルフ王・ギル=ガラドに助けられて、彼らはエリアドール(後にホビット庄のできる地域)に、北方アリノール王国を築きます。
イシルドゥアとアナリオンの船は、モンドールに近い南部沿岸に着き、二人は、モンドールに対峙する形で、ゴンドール王国を築きます。
 
サウロンは、ヌメノールの海没で肉体を失いましたが、その魂はモンドールに帰り、おぞましい姿の冥王となります。
 3429年、サウロンはゴンドールに攻め込み、「最後の同盟」戦争がはじまります。
「最後の同盟」とは、エルフと人間の最後の同盟ということです。
同盟軍には、シルヴァン(森の)エルフや、カサド=デュム(モリア)のドワーフも加わり、サウロンは破れてモンドールに立てこもります。
長い包囲戦の末、3441年、ギル=ガラドとエレンディルは、サウロンと直接戦い、相打ちとなって、命を落とします。
イシルドゥアがサウロンの手から、一つの指輪を切り落とし、この時代は終わりをつげました。
サウロンの魂はまたも逃れて、中つ国の荒れ地にひそみました。


 この時代の「最後の同盟」戦争は、映画でも描かれています。
 「指輪物語」の主題となる力の指輪は、先の時代のシルマリルと同じく、エルフの細工師、ノルドール族によって、つくられていたんですね。

三つの指輪は、空の下なるエルフの王に。
七つの指輪は、岩の館のドワーフの君に。
九つは、死すべき定めの人の子に。
一つは、暗き御座の冥王のため、影横たわるモンドールの国に。
一つの指輪は、すべてを統べ、
一つの指輪は、すべてを見つけ、
一つの指輪は、すべてを捕らえて、
くらやみのなかにつなぎとめる。影横たわるモンドールの国に。

(J.R.R.トールキン著 瀬田貞二訳 評論社刊「指輪物語」より)

 「指輪物語」冒頭の詩句ですが、エルフの三つの指輪は、サウロンから隠されました。
 これを所有する者は「時による身の衰えを防ぎ、生への倦怠を遅らせる」ことができ、次の時代のエルフたちの希望の輝きとなります。

エルフの三つの指輪

性質 素材 持ち主
ナルヤ(Narya) 火の指輪 紅玉(ルビー)
地金の記述なし
キアダンからガンダルフへ
ネンヤ(Nenya) 水の指輪 金剛石(アダマント)
地金はミスリル
ガラドリエル
ヴィルヤ(Vilya) 風の指輪 青玉(サファイヤ)
地金は金
ギル=ガラドからエルロンドへ

 サウロンは、エレリギオンでつくられた力の指輪のうち、7つの指輪をドワーフに与えましたが、ドワーフは頑固で、サウロンの思うままにはならず、4つは竜の火で消滅し、3つはサウロンが取り戻しました。
 しかし、サウロンが人間に与えた9つの指輪は、効力を発揮しました。指輪を用いた人間は、強大な力を持ち、富と栄華を得ますが、やがてサウロンの奴隷、幽鬼となりました。
 これが、サウロンの恐るべき召使い、指輪の幽鬼、ナズグルなのです。



エルフの最後の戦い

 まるい地球となった中つ国では、ますます人間の数が増え、エルフは辺境にひそむ時代、太陽の第3紀がはじまりました。
 ホビットが中つ国の歴史の中に登場します。
 エルフと人間は疎遠になっていきますが、まだまだ、不思議も魔法も存在し、再び中つ国をおおった冥王サウロンの影との戦いに、エルフたちは立ち上がるのです。

太陽の第3紀 3021年
イシルドゥアは、エルロンドとキアダンの忠告を無視し、一つの指輪を、モンドールの滅びの山で消滅させず、自分のものにしました。指輪の魔力です。
2年、イシルドゥアは、南方王国ゴンドールを、最後の同盟戦争で戦死した弟・アナリオンの息子にゆだね、父エレンディルの跡を継ぐため、一族郎党を引き連れ、北方アリノール王国へと向かいます。
しかし、霧降山脈で待ち伏せていたオークに襲われ、一行は全滅し、イシルドゥアも命を落とします。
一つの指輪は、大河の底に沈みました。

イシルドゥアの息子のうち、裂け谷にいたヴァランディルのみが生き延び、アリノールの王となります。
しかし、うち続いた戦いでドゥネダイン(ヌメノール人)の数は減っていて、勢力を保てず、10代王の死後には継承争いが起こり、三国に分裂します。
三国の争いがくり返された上、1300年代には、北方に、指輪の幽鬼の首領が王となったアングマール魔国が出現し、三国を脅かしました。
ゴンドールとの同盟も試みられましたが、1974年、アルノールの最後の王国は終焉をむかえます。
ただ、イシルドゥアの血を引く王家の血筋は、ドゥネダインの族長として残ります。そして、その族長の家系から、この時代の終末に、ゴンドールの王に復帰するアラゴルンが生まれるのです。

一方のゴンドールは、当初、ヌメノールの盛時を思わせるほどに栄えますが、王家の寿命は短くなり、疫病などの災害が起こり、国力が衰えてきます。
31代王の時世、北方王国から援軍を求められますが、すぐには応じられず、1975年、世継ぎのエアルヌアが指揮するゴンドールの艦隊がリンドンの港に着いたときには、北方王国は滅びていました。
しかし、リンドンのエルフ王、船造りキアダンが、配下のエルフたち、生き残った王国のドゥネダインはじめ、戦える者を集め、さらに裂け谷のエルロンドのもとからも軍勢が繰り出され、アングマール魔国を攻めました。
このフォルノストの戦いには、ホビットの弓の名手も参加したと、ホビット庄では伝承されています。

アングマール魔国は滅びますが、指輪の幽鬼の首領はモンドールへ遁走し、幽鬼たちを呼び集めます。32代ゴンドール王となったエアルヌアは、2050年、モンドールの策謀にはめられ殺されました。
王には世継ぎがなく、ゴンドール王家の血筋は、ここで絶えます。
以降、ゴンドールはモンドールと対峙し、絶え間ない戦いに明け暮れながら、執政家によって守られました。執政家は、ヌメノール人の血筋ですが、王家の血は引いていませんでした。
ボロミアは、この執政家の末裔です。

ホビットが霧降山脈を越え、エリアドールに移動を開始したのは、1000年ころと推測されます。
多数のホビットが、アルノール王国の領域に入ったのですが、ドゥネダインの人口は少なくなっていて、領土は荒廃し、ホビットが定住する余地は十分にありました。
1601年、ドゥネダインの王より正式に土地を与えられ、ホビットは王の主権を認めつつ、自らの族長たちによって自治を行っていました。
そんなわけでホビットは、1975年のフォルノストの戦いにはせ参じたわけですし、指輪戦争の後の太陽の第4紀、ゴンドールの王となったアラゴルンの主権は、喜んでホビット庄で受け入れられます。

ところで、前の時代(太陽の第2紀)にエレギオンが滅びた後も、霧降山脈のドワーフの都、カサド=デュム(モリア)は守りが堅く、冥王をよせつけることなく続いていました。
しかし、この時代の1980年、ドワーフは坑道を深く掘りすぎて、バルログを目覚めさせてしまいます。
バルログは、太陽の第1紀の終わりに、モルゴスの本拠サンゴロドリムが崩壊したとき、この地に逃げ込み、5000年以上も地の底に隠れ潜んでいたのです。
カサド=デュム(モリア)のドワーフの王で、ギムリの祖先、ドゥリン6世と息子のナイン一世は、バルログに殺され、星々の時代から営々と続いてきたドワーフの栄光の都、カサド=デュム(モリア)は、こうして滅びました。

実のところ、前の時代の末、冥王サウロンはうち倒されたのですが、この時代の1050年ころ、緑森大森林の南で、サウロンの影が、再び形をとりはじめたのです。
緑森大森林には、シルヴァンエルフがいて、レゴラスの父、スランドゥイルがその王だったのですが、邪悪な生き物が南部を徘徊しはじめ、やがて闇の森と呼ばれるようになります。
スランドゥイルとシルヴァンエルフは北上し、砦となる宮殿を築いて、守りを固めました。

闇の森南部のサウロンの拠点は、ドル・グルドゥアと呼ばれましたが、中つ国の禍の中心は、すべてここから発していたわけです。
そして、ちょうどこの1050年ころ、ガンダルフとサルマンを含む5人のイスタリ(魔法使い)が、中つ国に姿を現しました。
彼らは、ヴァリノールから来たマイア(下級神)であったと、推測されます。

この時代、第3紀を通じて、エルロンドは裂け谷(イムラドリス)にあり、その所持する風の指輪ヴィルヤの力で、裂け谷はエルフの避難所となっていました。
ギル=ガラドの遺臣、ノルドール族は、多くここにいました。
またエルロンドは、双子の兄弟エルロスの子孫にあたるアルノール王国の末裔を養護し続け、ドゥネダインの族長は代々ここで養育されました。

ロスロリエンについては、実のところ、その歴史がはっきりとわかっていません。
ただ、第2紀からなのか、あるいはこの第3紀からか、ガラドリエルとケレボルンが、この地のシルヴァンエルフたちを治めるようになります。
「指輪物語」のレゴラスの歌に、1981年、モリアでバルログが目覚めた直後のロスロリエンのエルフの悲恋が出てきますが、このころのロスロリエンの王は、アムロスとなっています。
アムロスがケレボルンの血縁のシンダールエルフで、アムロスに跡継ぎがなく、ケレボルンとガラドリエルが入った、という憶測は成り立ち得るかもしれません。
(アムロスはシンダールエルフのアムディアの息子であるという設定と、がケレボルンとガラドリエルの息子であるという設定と、二つあるそうです。レゴラスの歌からすれば、前者をとりたいところです)
ともかく、おそらくは、この第3紀の1981年以降、ロスロリエンはガラドリエルの水の指輪ネンヤの力に守られ、秘められたエルフの都となります。

リンドンの灰色港には、船造りキアダンが健在で、ここには、シンダールエルフの他、ギル=ガラドの遺臣もいました。
キアダンは、火の指輪ナルヤを持っていましたが、深い予見を持って、ガンダルフにそれを託しました。

 この時代の後半には、エルフと人間はすっかり疎遠なものとなっているのですが、そんな中で、サウロンの一つの指輪をめぐって中つ国の歴史は展開し、「ホビットの冒険」「指輪物語」へと流れこんでいきます。

 細かなことを一つだけつけ加えますと、1975年、北方アルノール王国の遺臣とエルフ、そしてゴンドール救援軍が、アングマール魔国と戦ったフォルノストの戦いで、裂け谷のエルフたちを率いていたのは、グロールフィンデルでした。
 このときグロールフィンデルは、敵の魔王、指輪の幽鬼ナズグルの首領の運命を、こう予言します。
「彼は人間の男の手では討たれぬだろう」
 そして1000年以上の歳月の後、「指輪物語」の「王の帰還」、ベレノール野の合戦において、この予言は実現されるのです。
 ナズグルの首領を倒したのは、ロヒリムの乙女、ローハン国のエオウィン姫と、ホビットのメリーでした。
 グロールフィンデルは、「旅の仲間」で、フロドを指輪の幽鬼から守り、裂け谷に導きます。映画では、アルウェンがこの役を務め、グロールフィンデルは消されているのですが、これは、歓迎できない改変です。
 フォルノストの戦いは、はじめてホビットが、冥王サウロンとの戦いに参加したと伝えられるものですし、そこでともに戦い、ナズグルの首領の運命を予言したグロールフィンデルが、ナズグルからホビットのフロドを救援する場面は、因縁をふまえたものなのです。
 しかも、その予言者グロールフィンデルにとってかえて、アルウェンを出してくるのは、なんとも無神経じゃないでしょうか。
 予言を実現するエオウィン姫は、アラゴルンにかなわぬ恋をして、いわばアルウェンは、その恋敵なのですから。

 エルフの三つの指輪は、冥王サウロンに汚されてはいませんでしたが、一つの指輪の束縛から自由でもありませんでした。
 一つの指輪が滅ぼされるとき、三つの指輪の力も失われ、指輪によって保たれてきたものはすべて、消えていくしかないのです。
 太陽の第3紀の終末、「指輪物語」に語られるように、一つの指輪は小さな人、ホビットに担われて、モンドールの滅びの山で消滅し、そしてエルフたちは、黄昏の世界に入りました。
 続く太陽の第4紀は、人間の支配の時代で、多くのエルフたちは西海の果てへと永遠に旅立ち、中つ国にわずかに残ったエルフたちの影は薄れ、人の子に忘れ去られ、遠い伝説となっていくのです。




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