事件簿 <ファイルNo.SS001−B>
レストシティ市立図書館の資料室で、テーブルの上に積み上げた資料を前にブラウンとラックは行き詰まっていた。目当ての情報がなかなか見付からないのである。
「あ〜しんど。全然見つからんのぉ」
ラックは眉間にしわを寄せて、下がってきた制服の袖を腕まくりした。ブラウンはラックの大声についびくびくしてしまう。そんなブラウンは、自分で緊張をほぐそうと、思い切って話題を変えようとした。
「なかなか見付かりませんね。・・・ところで、ラックさんの趣味は何ですか?」
「おう! 『さん』付けはよしてくれ。ラックでたのまぁ! 趣味か! 趣味はギャンブルかな! スロットやパチンコは勿論のこと、レース類もたまんねぇぜ!! これがなんと言っても・・・!!」
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−30分経過−
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ブラウンは、話題を振ったことを後悔していた。ずーっとギャンブルの話を聞かされ続けているのだ。ブラウンの顔に疲れの色が伺える。
そんな中、不意に資料室のドアが開いた。三つ編みを揺らしながら、帳簿を手にしたリディがドアからこちらを覗き込む。
「ラック、ここにいたんですね。受付に来ないから心配しましたよ。もう少ししたら終業だから、後お願いしますね」
リディの言葉に、ラックが了解とばかりに胸を叩く。リディはブラウンに軽く会釈すると去って行ったが、すぐに入れ替わるようにライが入ってきた。ブラウンの顔がパーっと明るくなる。
「お帰りなさい!」
「ただいま。成果はどうだい?」
ライの言葉に、二人は首を横に振った。
「全然見付からんな〜。すまねぇのぉ」
ラックは頭を掻いた。もともとセットなどしてなかった髪が、ぼさぼさになる。ラックはテーブル下から不意にイスを取り出すと、強引にライに持たせた。
「見付からないお詫びだ。こいつぁ、おいらが作った事務所用イスだ。長時間座っても疲れにくいぜ!」
ライが何か言おうとするが、かまわずブラウンに向き直り、続けて制服のポケットからドライバーセットを取り出す。
「わしゃ〜、あんたが気に入った! これをやる! 使いやすいぞ! 携帯にも便利だ!」
ラックの押しに、ブラウンは口をぱくぱくさせながら、そのドライバーセットを受け取った。ドライバーセットを開けると、中にはボールペン程の大きさのプラス・マイナス1本ずつが箱の中を寂しそうに転がっている。・・・明らかに余り物である。
ラックの奔放さにライは苦笑いすると、腕時計で時間を確認した。
「もうこんな時間だな。後少しだけ調べさせてもらってかまわないかラック?」
「おう! もちろんだぜぇ。そう言えばさっきブラウンから聞いたが、ジープの暖房が壊れたままなんだって? 金に困ったら俺にまかさんかい! 今夜あたりカジノでも行くか!?」
そう言うラックの少々色黒な顔は、見て分かる程に輝いていた。
◆ ◆ ◆
「金槌なんて持つのは久しぶりだな」
その頃、市街地にある一軒家のさやかの自宅で、トニーは窓ガラスを防犯用の強化ガラスに変えたり、ドアに複数の鍵を設置していた。
冷たい風に吹かれ、細身のトニーは重いガラスを持ち運ぶのにヨロヨロしていたが、設置は器用にこなしている。
「先生、はい。お疲れ様」
背後から声がし、トニーが振り向くと、暖かいティーを差し出しているさやかがいた。
「ありがとうございます、さやかお嬢さん。それから、その・・・『先生』というのは止めてください。自分は教師等したことがないし・・・」
トニーは少し照れくさそうにそう言った。
「そうですか? 父がよくトニーさんをそう呼んでたものですから」
さやかは、トニーにホットティーを渡しながらそう応えた。トニーは受け取るとゆっくりと飲み干す。体が暖まり一息付くと、最後に扉に付けた鍵のネジを締め上げて、工具を片付け始めた。
「これで防犯強化はひとまず終わりました。明日は探偵事務所からボディガードが来るでしょうから、その時にでも護身用の銃を買いに行きましょう」
片付けが終わった頃、日が傾き周囲は既に暗くなり始めていた。トニーは寒さから逃れるように車に乗り込む。
「それでは、自分はこれで失礼します。何かあれば連絡ください。すぐに参りますので」
そう言うと、トニーは車のエンジンを掛けた。さやかは、風に流される黒髪を直しながら、礼を言う。
そしてトニーを見送ると、さやかは足早に部屋に戻って行った。
◆ ◆ ◆
「ちぇっ。カジノ行かねぇのか・・・」
ラックは残念そうに呟くと、大きな欠伸をした。あれからライ達が資料を調べ始めて更に30分以上が経過していた。
ライは腕時計で時間を確認すると、今日の成果が無かったことにため息をつく。
「そろそろ終わりにしようか・・・」
そう言い終わる瞬間、ライの表情がこわばった。ブラウンは、ライの変化にいぶかる。
「どうしたんです、ラ・・・」
「悲鳴だ!」
ブラウンの言葉を遮るようにライは叫ぶと、扉を開けて資料室を飛び出した! ブラウンは状況を理解しようとするが、混乱したままの頭で慌ててライを追いかける。
「え〜なんて?」とラックが眠そうな顔を上げた時には、既に二人は部屋を飛び出した後だった。
外に出ると既に日は落ち、辺りは暗くなっていた。人影も見えない。疎らにある外灯だけが、闇に抵抗している。
ライは悲鳴の聞こえた方向を絞り込むように、周囲の闇に集中した。また悲鳴だ! 今度はハッキリと聞こえる。ライは、インサイド・ホルスターから愛用のオートピストルを抜くと、セイフティを解除しながら悲鳴のした方へ走り出した。銃等持っていないブラウンは一瞬躊躇したが、すぐにライの後を追って走り出す。
「お、おい! 待ってぇな!」
後から来たラックは、慌てて銃を出しながら、どたどたとライ達を追いかけていく。
ライ達が走っていく先の駐車場の影で、折り重なるように二つの影がもつれ合っていた!
「やめろっ!」
ライは怒鳴り、銃を構える・・・が、一つの影は素早い動きで闇の中に消えて行った。警戒しながら残されたもう一つの影に近付くと、その倒れている人物を確認して驚いた!
「リディ!? しっかりしろ! 大丈夫か!?」
リディが多量の血を流し、うめいている。暗がりで、出血箇所が確認できない!
「ラーック! 救急車を頼む!!」
◆ ◆ ◆
普段は静かな夜の図書館と違い、周囲は騒然としていた。救急車やパトカーの回転灯が野次馬を惹き付けている。
「カードゲームで勝ち逃げして、逆恨みでもされたか?」
ラックは携帯電話をポケットに仕舞いながら、独り言のように呟く。だが、その目は怒りに満ちていた。
ブラウンの応急手当により、救急車が来るまでリディの出血はかろうじて抑えられていたが、非常に危険な状態であることは誰の目にも明らかである。救急隊員の素早い処置により、意識のないリディは近くのマッカス病院へ運ばれて行った。
初日からハードな探偵の仕事に大分疲れの色が見えるブラウンは、事情聴取の後、駐車場にある縁石に腰を下ろしていた。ふと、事情聴取を済ませたライと、現場にやってきたジョンソンが何やら話しをしているのが目にとまったが、疲れの為かなかなか腰が上がらない。
「ジョンソン、今回は、例の連続殺人と関係あると思うか?」
ライの問いに、ジョンソンは少し考える。
「・・・彼女の傷口から考えるに、似通った凶器だろうということは分かるが、何とも言えないな。例の連続殺人関係なら、彼女が初めての犯行失敗となるが・・・」
「そうか。しかし、お前の顔は、今回の犯人も連続殺人犯だと言ってるぜ?」
ライの問い詰めに、ジョンソンは軽く笑う。
「まぁ、彼女の意識が戻ったら、何か分かるだろう。無事回復してくれればいいが・・・」
そう言うとジョンソンは、救急車が去って行った方向を眺めた。二人の会話が途切れた頃、やっと重い腰を上げたブラウンがやってくる。
「ライさん、そろそろ事務所に戻った方がいいんじゃないですか? 事務所の皆さんが心配してるかもしれませんよ」
「ああ、そうだな。ブラウン君も疲れただろう。そろそろ戻ろうか」
ライはそう言うと、向こうでぼーっと立っているラックに声を掛けた。
「ラック、今日は大変だったな。帰ってゆっくり休んだ方がいいぞ」
声を掛けられ我に返ったラックは、ライに詰め寄る。
「犯人は誰だ?」
「い、いや、まだ分からないよ。警察もリディに関する捜査はこれからだからな・・・」
ライの答えを聞いて、ラックは歯ぎしりをした。
「そうか、何か分かったらすぐに教えてくれぃ。わしゃ〜、一度家に戻るが、リディの容態が心配やけ、後で病院に行くとするわ」
そう言うと、ラックは図書館の戸締まりをする為、館内へ戻って行った。
その館内に入っていくラックを見送ると、ライとブラウンは駐車場に止めてあったジープに乗り込む。冷め切ったエンジンを掛けると、静けさを取り戻し始めた図書館を後に事務所へ向けて走り出した。
そのエンジン音が遠ざかる中、館内に戻ったラックは受付で佇んでいた。誰もいない受付を見て、一人呟く。
「絶対に犯人を捕まえてやるけん」
その決意にも似たラックの独り言は、誰にも聞こえることは無かった。
◆ ◆ ◆
夜になってすっかり気温の下がった中、ライとブラウンが事務所に戻ると、ボブが食事を済ませたところだった。
「やっと帰ってきたか。悪いが先に食事させてもらったぜ。で、仕事の成果はどうだった?」
ボブの問いに、先程までのことをライが説明する。
「・・・ということだ。ところでカンナはもう帰ったのか?」
「ああ、食事の用意した後、すぐに帰ったぜ。そうか、そんなことがあったのか。ラックのヤツも大変だったな。明日からのボディガードは気合いを入れていかないとな」
そう言うとボブは、ホルスターに収めている【デヴィル】を確認する。
「じゃ、俺はそろそろ帰るぜ。また明日も頑張れよ、期待してるぜブラウン!」
ボブはニカッと笑うと、事務所を出て行く。間もなくしてガレージからボブの愛車フェラーリF40のエンジン音が聞こえたかと思うと、タイヤを軋ませながら去って行った。
ボブが帰った後、ライとブラウンはテーブルに向かい合って座り、カンナが用意してくれていた夕食を取り始める。食事をしながら、ブラウンは連続殺人の事について考えていた。ふとブラウンは疑問を口にする。
「あの、さっきの事が連続殺人関係だとしたら、次は誰が襲われると思いますか?」
「そうだなぁ・・・。被害者は二十代前後の女性ばかりのようだから、次もそうだろうな」
サラダを取り皿に取りながら、ライは答えた。その言葉に、ブラウンは頭に浮かんだ人物の名前を挙げる。
「じゃあ、カンナさんとか? 大丈夫でしょうか」
「カンナが? そんな心配はいらないよ」
そのライの素っ気ない言葉に、ブラウンは意外だった。ライはブラウンの視線に気付いてか、話を変える。
「初日からハードだったな。食べたら帰っていいよ。ゆっくり休むといい」
「はい。あの、ライさんは?」
「ああ、俺はここに住み込んでるんだ」
そう言いながら、ライは皿に残ったライスをかき込んだ。
「それで、何故カンナさんは心配いらないんですか?」
ブラウンは興味津々といった顔で話を戻した。ライがライスを吹き出しそうになる。
水でライスを押し流し、やっと飲み込んだライは、答えを探すように目が泳ぐのだった。
「あー。カンナは、ああ見えても多少の護身術は身に付けてる。怒らすと怖いよ〜」
そう言うと、ライはニヤッと笑った。ブラウンはライの動揺が気になったが、回答に納得がいったようだった。
そして男二人の食事が終わり、ブラウンは帰り支度をするが、ふと何かを思い出して立ち止まる。
「あの、ところでライさんは携帯電話とか持ってますか? 電話番号とか教えていただければ・・・」
「持ってるよ。探偵として連絡手段を用意しておくことは良いことだ。それから着信音とかは出ないようにしとくんだ。尾行中とかに鳴ったら洒落にもならないからな」
そう言って、ライはブラウンに連絡用の電話番号を教えた。
「じゃあ、また明日よろしく頼む」
ポンとライに肩を叩かれると、ブラウンは元気良く返事をする。そして、ブラウンは初日の仕事を終え、帰って行った。
あまり広いとは言えない事務所だが、一人となると流石に広く感じる。ライは戸締まりの確認の為、一人事務所内を見回っていた。一日の仕事を締めくくる日課である。
ライは事務所内を見回りながら、先程ブラウンに聞かれたことを考えていた。何故自分は、カンナは心配いらないと答えたのだろうか。ライは、自分自身でもよく分からずにいた。
ふと、窓辺にある空の植木鉢が目にとまった。趣味で花を育てたこともあったが、いつの間にか花を枯らせてしまったのだ。また花を育てようと思って植木鉢だけ取ってあったが、まだそんな気分になれない。
ライは空の植木鉢を見つめると、花屋でのカンナとのやりとりを思い出していた。
・ ・ ・
「ねえ、ライ。このペチュニアの花にしない?」
明るい日差しの中、花屋の前で、ライとカンナが花を眺めていた。
「ペチュニアか。けど、こっちのダリアやカトレアも捨てがたいなあ」
ライがそう呟くと、カンナは花を眺めているライを覗き込んだ。
「ねえ、ライ。『花言葉』って知ってる?」
「花言葉?」
赤いショートヘアを揺らせ、突然アップになったカンナの顔に、少し戸惑いを感じながらライは繰り返した。
「いや、あまり知らないなあ」
「えぇ〜っ! こおんなに花が好きなライが、花言葉ぐらい知らないなんて意外だわ〜!」
悪戯っぽくカンナが微笑む。ライは少しムッとして逆に質問をした。
「じゃあ、当然カンナは知っているんだろうな?」
カンナは、待ってましたとばかりに説明を始める。
「ダリアの花言葉は『華麗・移り気』、カトレアは『優美な貴婦人』って言うのよ!」
カンナはそう言いながら、ライをつんつんと人差し指で突く。
「ねえ、ライ! このペチュニアにしましょうよ。この赤に白い縁どりの色が、とても明るくて綺麗でいいじゃない。ねっ?」
カンナは、ライにねだる様に言う。ライは一瞬考えたが、結局そうすることにした。
その帰り道、ライはビニール袋に入った鉢を両手で抱えながら歩いていた。隣を上機嫌で歩いているカンナを見て、不意にある事が気になる。
「ところで、カンナ。このペチュニアの花言葉って、何なんだ?」
「ペチュニアの花言葉はね・・・」
カンナは一度空を見上げ、そしてライの目を見詰めて言葉を続けた。
「『あなたといると心が安まる』って言うのよ」
カンナは少し照れたように、ライに微笑み掛ける。
その時の、明るい日差しに照らされたカンナの笑顔が、ライの瞼に焼き付いていた。
・ ・ ・
ふと現実に戻ったライは、受話器を手にしていた。電話を掛けようとする指がとまどうように止まる。ライは小さくため息をすると、受話器を無造作に戻して、ソファーに腰を下ろした。
目を閉じると海辺の方から、波の音だけが聞こえてくる。静かな夜が余計に寒さを感じさせていた。
◆ ◆ ◆
翌朝、さやかは朝食を済ませると自宅のパソコンに向かい、原稿の読み返しや仕事の成果を確認していた。間もなくして、低いエンジン音が自宅の前で止まり、玄関の呼び鈴が鳴る。
さやかは玄関の確認窓から訪問者を確認すると、扉を開けた。
「GoodMorning! 今日からボディガード役のボブ・アンダーソンです」
さやかに対して、ボブは角刈りの頭を深々と下げて挨拶をした。
「おはようございます。もう少ししたらトニーが来ますので、それまでお茶でもいかがですか?」
さやかはにこやかにそう言うと、ボブを招き入れた。ボブは案内されてテーブルに着くと、部屋の中を見回す。小綺麗に物が片付けられており、落ち着いた雰囲気の内装であった。
「日本茶がありますが、コーヒーの方がいいですよね?」
そう言いながら、さやかは食器棚からコーヒーカップを出す。
「ええ、ブラックで! ところで、アーネストさんはここに? よく週刊ポスジムを読むもんで」
「こちらに一緒に住んでますが、でも父は忙しい人で、出張等でほとんどここにはいませんわ」
少し残念そうなボブに、さやかはコーヒーを差し出しながらにこやかに答えた。朝日を受けてか、さやかの黒髪と透き通るような青い瞳に、ボブは息をのんだ。
そのボブの視線に気付いたさやかは、くすっと笑う。
「祖母がアメリカ人で、クォーターなんです。それで目が青いんですよ」
ボブは、なるほどとうなずいた。さやかは話を続ける。
「そのぉ・・・、ボブさんはボディーガードとして、どんな事ができるんですか? そういう訓練とかは受けたりするんでしょうか?」
さやかの素朴な疑問に、ボブは力強く答える。
「おう! 訓練はアカデミーで受けたけど、後は実際の経験だな! ボディガードは、・・・あー。心配いらないよ! 大丈夫! ガハハハ!」
ボブの泳いでいる目に、さやかは、本当に大丈夫かしら?と不安になるが、不思議と緊張感は無かった。
そんな会話の後、間もなくしてトニーがやってきた。
「遅れてすいません、車を取りに行ってたもので。おはようございます。ボブさん、よろしくお願いします」
「こちらこそ!」
トニーとボブは軽く握手をする。ふとボブはトニーの格好に目を引かれた。ポケットに催涙スプレー、腰のホルスターには大小の拳銃が二挺収まっている。
「随分と、重装備だな。そんなに気負いしてると、すぐバテるぜ?」
「はは。自分はこうしてないと何だか不安で・・・。さやかお嬢さん、護身用拳銃の購入ですが、ボブさんには?」
トニーの拳銃購入の言葉に、ボブが目を輝かせた。
「銃を買いにいくのかい? それなら俺が良い所を知ってるぜ!」
◆ ◆ ◆
メインストリートを逸れ、脇道をしばらく行った所にその店はあった。古びた看板に【コンバットロード銃工屋】と書かれてある。ボブの行きつけの店で、ボブの困難な注文に応えてくれる数少ない店であった。
中に入ると、鍵の掛かった商品棚には、様々な銃が陳列されており、火薬や金属の独特な匂いが漂ってくる。
「いらっしゃいませ!」
ボーイッシュな女の子が、レジカウンターから元気の良い声を掛けてくる。この店の看板娘であるシンディーだ。ボブはニカッと笑うと、奥を覗きながら言う。
「やあ、シンディー! おやっさんは奥かい?」
「はい! 呼んでくるから、ちょっと待っててね」
そう言うと、シンディーは奥の扉を開け、店主を呼びに行った。間もなくしてビール樽の様に腹の出た中年の男性が出てきた。このガン・スミスの名はジェイク・ダグラス。少しこ難しいところのある人物だ。
「おう、ボブ。【デヴィル】の調子はどうだい?」
「絶好調さ! ところで頼みがあるんだが、彼女にお勧めの銃を一つ選んでもらえないか?」
ボブの紹介したさやかを見て、ジェイクは顎ヒゲを撫でた。
「ボーブ。お前はそんなに器用なヤツじゃぁないと思ってたが、なかなかやるじゃねぇか! メイちゃんには黙っといてやるからな」
「ち、違うぜおやっさん! 彼女は仕事での客なんだ。か、勘弁してよ〜」
何故かしどろもどろのボブであった。過去に美妹に酷い目にあったのだろうか。ジェイクはニヤリと笑うと、さやかに向き直った。
「さて、どんな銃がお好みだい? 破壊力のあるヤツ? 連射のきくヤツ?」
「い、いえ、護身用に小型の銃がいいんですが・・・」
ふむとジェイクはうなずくと、棚から一つの銃を取り出した。
「25口径のオートマチックだ。少し練習すれば、素人でもすぐに使えるようになるだろう」
「あ、ありがとうございます」
さやかは恐々と銃を見た。ふと棚にある別の小型の銃が目に入る。
「あのぉ。あれ、22口径っていうのがありますが、あれは・・・」
さやかの指さすショートオートマチックを見て、ボブが答える。
「あの22口径の弾は、リムファイヤなんだ。センターファイヤ、つまり炸薬が弾の後端部表面にあるのと違って縁にあるから、オートピストルでは、暴発やジャムの危険性が高いんだ。だから小さいけど護身用には向かないんだぜ」
ボブが嬉々として説明するが、さやかはよく分からないという表情だ。
「まあ、銃の扱い方は、ボブに手取り足取り教えてもらいな」
ジェイクはニヤリと顎ヒゲを撫でる。
「だから勘弁してよ〜!」
ボブの哀願に、ジェイクは樽の様な腹を震わせて笑った。
▼ 継続 ▼
Update:2003.07/23