親愛なるマイクロトフ
今私はグラスランドに入る直前の村にいる。 この後山越えを終えれば故郷に到着だ。準備の為に立ち寄った村だが落ち着いたいい雰囲気のところだ。 人々は穏やかだが活気がある。少し同盟軍での日々を思い出したよ。
お前は変わらず元気にやっているだろうか? 何かと面倒事を残して来てしまったがよろしく頼むよ。
この村にはもう1、2週間留まるつもりだ。天候を見て山を越えようと思う。 無事にグラスランド領内に入ったらまた手紙を書くよ。 それでは。
カミュー |
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カミュー
1、2週間村に留まるとのことだったが、この手紙は間に合うだろうか。 お前の手紙が届いてすぐ返事を書いているのだが、ひょっとしたらお前が受け取ることなく終わってしまうかもしれないな。
こちらではお前の出発前に話し合った人事が正式に任命された。思ったより混乱が少なく安心している。だが城下の人々からの要望も絶えることがなく、まだまだやることが多そうだ。 お前の抜けた分を新しい赤騎士団長が休みなく埋めているぞ。彼にも感謝したほうがいい。 こちらのことは心配するな。皆が力を合わせて頑張っている。
山越えの準備は整っただろうか? 気をつけて、油断することのないよう。無事に山を越えられることを祈る。 では、この手紙がお前に届くことを願って。
マイクロトフ |
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親愛なるマイクロトフ
手紙を有難う。 村を出るまさにその朝に受け取ることができた。私の寝坊が幸いしたな。
こちらは無事に山越えすることができたよ。 季節が落ち着いていたのでそれほど困難はなかった。予想より2日程早くグラスランド内に入ることができた。今は交易の盛んな街でこの手紙を書いている。
騎士団の様子も変わりないようで安心した。 彼らには本当に感謝している……お前から私の言葉として伝えてくれ。新しく生まれ変わった騎士団に幸多からんことを祈っていると。 そうそう、新しい赤騎士団長には酒の飲み過ぎに注意しろとつけ加えておいてくれ。
明日にはこの街を出発する。これから向かう街の住所を書いておくよ。 そこが私の故郷だ。 では、今回はこれで。
カミュー |
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カミュー
無事に手紙が届くだろうか。 お前に教えてもらった通りの住所に出してみたのだが。
この手紙を受け取る頃はお前も落ち着いているかと思う。縁りの人々には会うことができただろうか? そうだ、相変わらず寝坊の癖は直っていないようだな。起こす人間がいないと思ってたるんでいるぞ。
こちらはとうとう雪が降り始めた。まだ積もってはいないがあと一月もすればすっかり冬景色になるだろう。 早朝訓練の遅刻者も目立つようになってきた…少し引き締めなければ。 赤騎士団長にお前の言葉を伝えたら、肝に命じておくとの返事が返って来たぞ。だが酒をやめる気はないようだ。体を壊さなければいいが。
それから、たまにはマチルダのことを思い出してもらえるよう、お前の好きだったワインを共に送った。 故郷の地酒と飲み比べてみてくれ。
では、冬に向けてお前も体調には気をつけるよう。 また手紙を書く。
マイクロトフ |
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親愛なるマイクロトフ
無事にお前の手紙を受け取ったよ。ワインを有難う。 共に飲む相手が遠くにいるのは淋しいが、堪能させてもらったよ。 こちらもグラスランド産の酒を送った。お前の口に合うだろうか。
マチルダはもう雪の季節なんだな。白く染まったロックアックスの城が懐かしいよ。 ここは雪が降ることはないが大分冷え込んできた。 乾いた風に乗って流行り病が多発する時期だ。気をつけるよ。
今は実家に滞在している。 両親は元気にしていた。もうしばらくは親孝行に努めるつもりだ。
今夜は美しい満月だ。私の部屋の窓からよく見える。 空と月の距離がマチルダよりも近いんだ。 いつかお前にも見せてやりたい。
眠るのが勿体無いからもう少し眺めているつもりだ。 遠くの空からお前の健康を願っているよ。 またマチルダの近況を教えてくれると嬉しい。では、また。
カミュー |
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カミュー
酒を有難う。 飲むのが勿体なくてしばらく取って置いたのだが、今夜は美しい三日月が出ているので折角だから月見酒を楽しむことにした。グラスランドの月には劣るかもしれんがこちらもよい眺めだぞ。 この酒は不思議な香りがするな。今までに飲んだことのない味だ。 とめる相手がいないから少し悪酔いしてしまいそうだ。
マチルダはすっかり雪の中だ。今朝は恒例の早朝雪かきが行われた。 そうだ、これは特筆しておかねばな……ワルドが民家の屋根の雪下ろしを手伝っていて、落ちて捻挫をしてしまった。 どうやらそこの家に目当ての女性が住んでいたらしい。いい格好をしようとするからだ。
グラスランドの冬はどんな具合だろうか。 流行り病は無事やり過ごすことができたのか? ここでは見舞いにも行けないから気をつけてくれ。
俺はもう少し飲んでから眠ることにする。 御両親によろしく伝えて欲しい。それでは。
マイクロトフ |
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親愛なるマイクロトフ
そろそろマチルダの雪も溶けた頃だろうか? こちらは春の草が顔を出し始めているよ。もう少ししたら見渡す限りの大草原になる。 これはちっょとした風景なんだ。何度見ても言葉にするのが難しいくらいだ。
酒は気に入ってもらえたみたいでよかった。 本当なら一緒に杯を酌み交わしていろいろ説明をしたかったのだが……香りの正体は分かったか?
ワルドは相変わらずだな。 流石にもう怪我の具合はよくなっただろうか。程々にしておけと伝えて欲しい。 でも実は、私も少々病を貰ってしまったんだ。 今はよくなったが、なかなか熱が下がらなくて参ったよ。お前が看病してくれたのならすぐに直ったのだろうけど……。 そんな訳で手紙が遅くなってしまったことを許して欲しい。
いつどんな時でもお前の事を思っているよ。 また手紙を書く。
カミュー |
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カミュー
病を貰ったとあったが大丈夫なのか。 手紙を書くことができるのだから大分よくなったのだろうとは思うが……。 くれぐれも体には気をつけて欲しい。何事も無理はしないでくれ。
グラスランドの酒はすっかりなくなってしまった。欲張って一人で飲んでしまったのだが。 しかしお前と飲めたらもっと旨かったのだろうと思う。 お前の長いうんちくを聞きながらの酒は悪くないからな。
グラスランドはもう暖かくなっているようで羨ましい。こちらはまだ少し雪が残っている。 お前がマチルダにいる頃から話してくれたグラスランドの風景、一度見てみたいものだ。 いろいろと想像しているがきっと本物には適わないだろう。いつか眺めることができたらいいと思っている。
ロックアックスでは去年もめた式典が無事に行われた。 混乱もなく、現騎士団長達の努力が実ったようだ。 これで俺の肩の荷も下りた。お前も安心してほしい。
くどいようだがくれぐれも身体には気をつけてくれ。 次の便りを待つ。
マイクロトフ |
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親愛なるマイクロトフ
元気でやっているだろうか? 私のほうはすっかりだ。 お前に心配をかけてすまなかった。 それほど大変でもなかったんだ。今は何事もなく平穏に暮らしているよ。
こちらはもう夏に近づいている。 日に日に暑くなって私も大分陽に焼けてしまった。 しかしグラスランドは1年で夏が一番美しいところだ。 空と大地の青が混ざる素晴らしい時期だ。 この土地にお前が立っていたらさぞや絵になると思う。生きているうちにこの願いを叶えたいな。
マチルダもそろそろ温かくなっているだろう。 式典が無事に終了したことを伝えてくれて有難う。安心したよ。 お前の苦労も報われたことと思う。彼らにも感謝の言葉をかけてやって欲しい。
送った酒を気に入ってくれて嬉しいよ。こちらもお前からのワインを一人で飲んでしまったから、お前の事を笑えないな。 だが、マチルダのワインはやはりマチルダで飲むのが一番だと思ったよ。同じようにグラスランドの酒もグラスランドで飲むのが一番だと思う…… これはお前も同意してくれるだろう?
秋に向けて、そろそろこの場所を出る準備をしようと思う。 また手紙を書くよ。
カミュー |
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カミュー
元気そうで何よりだ。こちらも変わらずやっている。 マチルダもほぼ夏の天気だ。やはりノースウィンドウにいた頃よりは幾分楽だな。
騎士達も昔のような活気を取り戻してよくやっている。 俺もそろそろこの青い制服を脱いでもいい頃だと思っている。
お前の言うグラスランドの様子は目に浮かぶようだ。恐らく想像よりもずっと素晴らしいのだろうな。 きっと俺よりもお前の亜麻色の髪のほうがよく栄えると思うぞ。お前のお世辞は相変わらず極端だ。
酒に関しては全くお前の言う通りだ。酒に限らないことだとは思うが。 お前が望むならもう一度ワインを贈ろうかと思ったのだが、そんな訳でやめておいたぞ。 仕方がないから俺は今夜も一人でマチルダ産のワインを楽しむことにしよう。
今日は嬉しいことがあった。ダインに長女が産まれたのだ。 あの堅物が目尻を下げていたぞ。俺もお祝に伺ったが、元気な子だった。 この土地にも少しずつ明るい話題が増えて来ている気がする。 お前にも話したいことがたくさんあるが、ここでは書き切れないので少しずつ知らせることにする。 そのほうが楽しみも増えるだろう?
旅の準備は整ったのだろうか。 また、所在が決まったら知らせて欲しい。 道中気をつけて、無事を願う。
マイクロトフ |
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親愛なるマイクロトフ
こちらは大分涼しくなっている。 草木も色を変え始めているよ。
お前の手紙はいつも大切に読んでいる。 何度も読み替えしては情景を思い浮かべているよ。 ダインのことは本当に喜ばしいな。彼の子煩悩な様子はちょっと想像できないよ。 私からもお祝の言葉を伝えてくれ。健やかな子となるように、と。
私はお世辞など言わないよ。 なぜならお前は何処にいても光り輝くのだから。 グラスランドの大地も、マチルダの土地もお前にはよく似合うはずだ、マイクロトフ。 何処にいたって私はお前を見つけだす自信があるよ。これは過信なんかじゃない。
本当のことを言うと、お前を早く青の呪縛から自由にさせてやりたかった。 私達はもう称号は必要無い。あの時からずっとそう思っている。 だが心から実感するのは容易いことではなかっただろう? 離れている間、それが心配であり期待してもいたんだ。 お前が決意したことを私は誰よりも理解しているよ。
マイクロトフ、私は明日出発する。 全ての準備が整った。 何処の空の下にいてもお前のことを強く思っている。
愛を込めて カミュー |
……これが最後の手紙だった。
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