WORKING MAN







 最悪だ。
 最悪の日だ。
 思えば朝からついてなかった。
 珍しく寝坊してしまったうえ賞味期限の切れた牛乳を飲んでしまうし、していこうと思ったネクタイが見つからずマンションを出ようとして足を踏み外して階段から落ちてしまった。
 会社では普段なら考えられない凡ミスを繰り返し、うんざりして帰宅しようとした頃に彼女からの呼び出しのコール。
(…行かなきゃよかった)
 そうだ、行かなければよかったのだ。
 今日のパターンからいってロクな話ではないだろうと大体の予測がついていたにも拘わらず。
 案の定、というか寝耳に水、というか。
 正直な話、ショックだった。
 あまりにも追い討ちが厳しすぎやしないだろうか…?

 がっくり肩を落としてとぼとぼと歩く青年・マイクロトフは。そんなことを考えながらため息をついてばかりいた。
 悪い事は重なるもので、彼もまた例外ではなかったらしい。
 彼女と話し込んでいたせいで終電に乗り遅れ、不運なことにタクシーも全く捕まらず、仕方なく徒歩での帰宅を余儀無くされていた時だった。
 ふいにタイヤと地面の激しい摩擦音が聴こえたかと思うと、高級マンション街から赤いスポーツカーが物凄い勢いで飛び出して来た。
「!!」
 咄嗟のことでマイクロトフは動けない。
 思わずきつく目を瞑った瞬間、キキキー!と鋭い金属的な音が耳を劈いた。
 何か起こったのか判らず固まっていると、バン!と車のドアの開閉音がして誰かがつかつかと近寄ってくる。
 はっと目をあけた瞬間、乱暴に胸倉を掴まれ、目の前には端正な造形を怒りに歪めた青年の顔があった。
「何をフラフラと歩いてるんだ! 轢き殺すぞ!」
 綺麗な顔とは程遠い台詞を一方的に吐かれて、マイクロトフもカッと頭に血が昇る。
 同じくらいの背丈の彼の胸倉を掴み返し、
「ふざけるな! あんな運転をしておいてよくもそんなことが言えたな! お前こそいつか死ぬぞ!」
 マイクロトフの剣幕に男は一瞬怯んだが、すぐに体勢を立て直す。
「私はちゃんと車道を走っていたんだ、そっちの不注意でこちらまで犯罪者になったらどうしてくれる!?」
「歩行者優先という言葉を知らんのか、お前は教習所で何を習ってきたんだ!? お前のような自分勝手な奴は一度刑務所にでも入って根性をたたき直してもらえ!」
「お前みたいな人間だと判っていたら轢き殺しておくべきだった!」
「何を、俺だって慰謝料でも請求したっていいくらいだ!」
 お互い握った胸倉を離そうとせず、ギリギリと喉元を締め付ける服にだんだん呼吸が苦しくなってきた。
「おい…手を離せ。」
「お前が先に掴んだんだろう…!」
 ちっと青年は舌打ちをして、仕方なしに手を離した。
 つられてマイクロトフも手を離すが、思ったよりも体重が彼の締め付けていた部分に重点を置いていたらしく、バランスが一気に崩れる。
 ぐらりと身体が後ろに仰け反った。
「う…わっ…」
「おいっ…」
 咄嗟に何か掴もうと腕を伸ばすが、空しく探ったのは宙だった、と理解する前に、後頭部に鈍い痛みが訪れた。
 -----真っ暗だ。

 やはり今日はついてない。
 最悪だ。
 最悪の日だ…







やってみたかったリーマン。
ってこれじゃリーマンかどうかわからないー!
カミューさんにしては口が悪いなア。
お次はカミュー語りですよ。