GLAMOROUS






「あ……ああ、う……ん」
 胸の上を滑る舌に、ヒカルは情けなくも翻弄されっぱなしだった。
 皮膚の薄い部分を重点的に舐められると、それだけで腰を浮かせてしまう。声は垂れ流し状態だ。
 アキラはシャワーを浴びる前に備えつけられていた自動販売機で購入した、女性用と思われるゼリーを手に滑らせ、ヒカルの身体の奥で先ほどからヒクついている入口をゆっくりと解していた。
 初めての頃に比べてずっと解れやすくなったその場所は、アキラの指を二本呑み込んでも尚余裕がありそうに見えた。
 差し込んだ人差し指と中指を、擦り合わせるように奥を広げると、時折ヒカルの腰が動きに合わせてビクリと揺れる。同時に、鼻を鳴らしたような引き攣った声がヒカルの口唇を渇かしていった。
 腹に向かって内壁をぐっと押し撫でると、ヒカルの全身が跳ねる。
「うあっ!」
 アキラは口唇を舐め、その場所を執拗に攻め始めた。
「ここ? ここがイイの、進藤?」
「あ、う……、ヤだ、そこやだ」
「ヤじゃないよね? イイんだよね?」
「あ、あん、ヤだ、とうや」
 ヒカルの中央で再び雄が勃ち上がる。触れられてもいないのに薄ら滴を溜めた先端を、アキラはきゅっと握り締めた。
「あー!」
「ダメ。まだイカせない」
 アキラは意地悪く囁くと、するりと指を抜いた。指を引き留めるようにヒカルの蕾がぎゅうっと締まる。
 枕元に置かれたコンドームに手を伸ばし、手早く封を切る。取り出したゴムの裏と表を軽く確かめて、自分のものに添えるアキラの手つきに、最初の時のようなもたつきは見られなかった。
 高く脚を掲げられて、折り畳まれるヒカルの身体に鈍い痛みが走る。ヒカルが更なる苦痛を覚悟した瞬間、その場所に熱い塊が押し入ってきた。
「……っ!」
 狭い入口をこじ開けられるその動きは、多少回数を重ねた今でもヒカルに確かな痛みを与えていた。しかし、一度痛みの波を越えてしまえば、辛かった刺激が反して身体の疼きを産むことに、ヒカルは少し前から気づいてしまっていた。
 ゆっくりとした動きでヒカルの中を満たしたアキラは、入ってきた時と同様、緩やかに腰を動かし始めた。苦しげに眉を寄せて、ヒカルは無意識に止めていた息をはっと吐き出す。
「ア、ア、」
 徐々に速度を増すアキラの腰に揺さぶられ、ヒカルは顎を仰け反らせて天を仰いだ。
 本来何かを受け入れるはずのない場所で、繋がれた二人の身体が熱く溶け出して行く。
 ヒカルの上で身体を揺らす、アキラの耳にかけた髪の房から、ばさばさと水滴が降り落ちてきた。ヒカルとアキラを濡らすものが汗なのかシャワーの湯なのか最早分からない。
「――!」
 声にならない声をあげてヒカルが顔を歪めた時、アキラもまた深く眉間に皺を刻んでくっと呻き声を漏らした。ひときわ強く突かれたヒカルの腰が跳ね上がった時、動きを止めたアキラがやや前屈みに肩で息をしていた。
 ヒカルは自分の中でビクビクと脈打つものに安堵しながらも、精を解放し損なった自分自身に僅かな物足りなさを感じる。ところが、アキラはそれをヒカルから引き抜かず、繋がったままヒカルの背中に腕を差し入れてきた。
「……? とうや?」
 半ば糸が切れたようにくたりとした身体を起こされて、座ったままヒカルはアキラに抱き抱えられる。しかし下が未だ繋がっているという奇妙な感触に、ヒカルは気恥ずかしそうに身を捩った。
「ダメだよ、寝かせない」
 耳元に響くアキラの低い声に、ぞわっと首筋が総毛立った。
「キミの望み通り、うんと愛してあげる」
 ぺろりと耳の中をくすぐった舌が、ヒカルをアキラの背にきつくしがみ付かせた。
 ヒカルの中で、再び熱い塊がむくむくと頭を擡げる。じわじわとした圧迫感に堪えきれず、ヒカルはアキラの肩に額を擦りつけた。
 硬く勃起したアキラの上に跨る格好で、ヒカルは直下から突き上げられる力に悲鳴を漏らした。上から貫かれる時より、身体にかかる重力のせいか奥が擦れて熱くてたまらない。
「あ、あっ、塔矢ッ」
 アキラの背に掴まる指が、濡れた肌のせいでつるつると滑る。ヒカルはついに広い背中に爪を立てた。
 アキラもヒカルも、すでに初めて肌を重ねた頃の身体ではなかった。苦痛と快楽に慣れ、更なる刺激を求めるようにどんどん進化し続けている。
「とうや、あっ、ダメだ、俺――!」
「進藤、……一緒に」
 息が苦しいほど抱き締められ、嬌声をあげ続ける口唇を塞がれ、ヒカルはきつく瞑った瞼の向こうに、優しく激しい獣の瞳を確かに見た。
「――!!」
 身体の内側から張り詰めた欲求が爆発した瞬間、ヒカルは鋭く立てた爪でアキラの背を切り裂いた。
 アキラが顎を反らせた。ヒカルから離れた口唇をぐっと噛む様は、痛みによるものか射精によるものか分からない。
 ヒカルは自分の意志では身体を起こしていられず、ぐったりアキラの胸に凭れかかった。そんなヒカルをアキラは優しく抱きとめて、まだしっとり濡れているヒカルの髪を撫でる。
 水滴が滴り落ちる濡れた身体は息苦しそうに上下し、ヒカルが頬を寄せたアキラの胸からは落ち着かない心臓が激しく鼓動していた。
 心地よい疲れに、ヒカルはもう目を開けることができなくなっていた。
 腕の中の温もりは、ヒカルの身体を燃え上がらせると共に、こんなに安らかな気持ちにもさせてくれる。
 ――美しい獣を手に入れた。
 ヒカルは微笑して、眠りに屈服する前にキスをねだろうと顎を持ち上げる。
 願い通りに口唇が柔らかく包まれた瞬間、ヒカルの意識は闇に落ちた。





 目覚めた時、すぐ目の前に穏やかな瞳でじいっとヒカルを見つめるアキラの顔があった。
 その優しい光に、ヒカルもまだ夢から覚め切っていない表情のまま微笑む。
「……おはよう、進藤」
「……オハヨ」
 何時かは分からなかったが、とりあえずの挨拶を交わして、ヒカルはそっと手を伸ばす。
 アキラの頬に指で触れ、そっと目尻を滑り、アキラがゆっくりと閉じた瞼に触れた。長い睫毛を指で弾いて、ふふっと笑う。
 綺麗な顔だと心底思う。でも、こうして目を閉じている時より、黒い瞳を輝かせてヒカルを見つめている時のほうがずっと好きだった。
「塔矢、目、開けて」
 指を離してヒカルが囁くと、アキラは軽く瞬きしてその目を開く。
 今は眠る雄の獣。
 ヒカルは微笑んだまま、ぼんやりとその優しい眼差しを見つめていた。
「俺、お前のエロい目……好き」
 アキラは眉を顰めて苦笑する。
「エロい目?」
「うん。……でも」
 未だ眠気の残る身体をゆったりベッドに任せて、ヒカルは夢を見ているようにうっとりと呟いた。
「今の、優しい目も、好き……」
 逆らえない。
 静かに瞼を下ろしたヒカルに、アキラはふっと苦笑混じりのため息を漏らしながら、その瞼に口唇を寄せた。
「ボクも、キミの挑発的な目……好きだよ」
 たまには、こんな夜遊びも悪くない。
 アキラはすやすやと寝息を立てるヒカルを抱き寄せて、その暖かさに目を細める。
「責任は、とるよ。これから先もずっと」
 アキラもまた、ヒカルの中に棲まう獣を見たのだった。







ギャ−オチなしです。
でもこれで「HONKY〜」につながるアキラさんの修行も
一通り完結しました。(相変わらず早いけどね!)
たぶんこれが16〜17歳コンテンツの最後の裏要素です。
アキラ、スピード成長だなあ。つうかヒカルもか……

このお話のイメージイラストをいただいてしまいました!
ゲーセンでの夜遊びヒカルですv
とっても素敵なイラストはこちらから
(2007.02.02追記)
(BGM:GLAMOROUS/BUCK-TICK)