「やっぱり狭いね……」 肌蹴たシャツの隙間から素肌を合わせ、アキラの手はヒカルの下肢に触れていた。 膝の上まで中途半端に下ろされたヒカルのジーパンが邪魔だった。アキラは何度も脚をサイドブレーキにぶつけている。 焦らしはしなかった。トランクスの下で起き上がりかかっているヒカルの中心に迷わずアキラは手を伸ばし、先端の凹凸を優しく擦る。ヒカルが細く吐き出した息が耳にかかり、熱い。 アキラはもどかしくヒカルの膝を拘束する布切れを足首まで蹴り下ろし、ヒカルの左足をその塊から引き抜いた。そのまま最後に残った下着に手をかける。 下半身が外気に晒され、ヒカルは少し身じろぎした。自由になった片脚を持ち上げられて小さく呻く。アキラの目に、ヒカルの中央で存在を主張するものの輪郭が映る。 アキラは身を屈めながら、それを口唇で包んだ。ヒカルの身体がぎゅうっと縮む。 深く飲み込むように口内に熱を押し込み、口の中に圧力をかけてやると、ヒカルの吐息混じりの呼吸に確かに嬌声が含まれた。アキラの口内でみるみる緊張していく筋を、そっと舌の先でなぞってやる。 「……アッ……」 ヒカルの指がアキラの髪を掴んだ。構わずにアキラは舌を動かす。 むずむずと動きを見せるヒカルの腰が少し重力に逆らった。浮いた腰と掲げた左足の奥で震えるその入口に、ヒカルの中央を咥えたまま、アキラの指が辿り着く。 「ア!」 びくりとヒカルの身体が震えた。 アキラの上顎が勃ち上がったヒカルの象徴を撫で、尖らせた舌がピンと緊張した筋をなぞる。指の腹がゆっくりと最奥の入口で円を描くように押し入ってきて、それでも決して奥までは進めず、焦れるような動きを繰り返した。 ヒカルは苦しげに首をゆるゆると振った。下半身に絡みつくアキラの頭をしっかり掴み、荒れた呼吸を整えようと必死で乾いた口唇を舐める。 アキラの指が、流れ落ちる唾液でずぶ濡れになった入口にぐっと潜り込んだ。ヒカルは思わず脚を閉じる。 「やめ……!」 アキラはその声を聞かず、関節を緩く曲げた指で念入りに敏感な場所をまさぐった。ヒカルの腰が揺れる。アキラはヒカルの両脚に頭を挟まれたまま、強く口と指を動かし続ける。 「アキ、ラ、も……ダメ、」 その声に、アキラはヒカルの中心を包む口に力を入れ、強く舌と口唇で扱きあげた。指を動かす速度が増し、卑猥な水音をたてて出入りする指先は微妙な一点を突き続ける。 ヒカルの呼吸が更に速さを増し、最後にアッ、と大きく声を上げて全身が硬直する。 アキラの喉の奥に、青臭い液体がへばりついた。 ゆっくりと喉のものを飲み下し、ヒカルの先端に残ったものを舌先でキレイに舐め取ってから、アキラはようやく口唇を離し、ずるりと指を引き抜いた。 肩で息をするヒカルが、ぐったりシートに凭れていた。 「……お前、なんか、今日……キチクっぽい」 アキラは軽く身体を起こし、額にへばりついた前髪を掻き上げる。 「初めてだからかな。カーセックス」 「お前が言うとすげぇえっちくせえ……」 「褒め言葉だと思うことにするよ」 艶然と微笑むアキラは、そっと顔を寄せてヒカルに口付けた。 ヒカルは目を閉じる。キスひとつでまた身体に熱が生まれてくる。 「キミのここ、もうグズグズだよ……。何も用意してきてないけど、このまま入れていい……?」 ちょん、と入り口に触れるアキラの指の動きにぴくぴくと身体を引き攣らせながら、ヒカルは少しだけ首を横に振った。 「ん……、待、て……」 ヒカルは両腕を伸ばしてアキラの肩を覆うシャツに手をかける。そっとシャツを下ろし、闇に浮かび上がるアキラの身体のラインをどこかぼうっとした目で見つめた。 手のひらでアキラの胸に触れる。微かに汗ばんでいる。首を伸ばし、胸の突起に口唇を当てた。舌で触れ、軽く歯を立てる。アキラの手のひらがヒカルの頭を優しく撫でた。 ヒカルはアキラの身体を引き寄せた。アキラはヒカルの太股をまたぐように膝立ちになり、ヒカルは目の前のベルトに手をかける。 「……ここ、すげぇきつそう。早く出せってさ」 ヒカルが乱れた呼吸の合間に笑う。 「……キミの下も、欲しがってる」 掠れたアキラの声は、ヒカルの肌を煽るのに充分だった。 ヒカルはファスナーを下ろす手つきももどかしく、震える指を急がせて、アキラの中心をくつろげた。外に誘い出されたものはすでに充分な角度を保っていたが、ヒカルは身体を屈めてそれを口の中へと導いた。 アキラの腹が僅かに震えた。ヒカルは目を閉じ、口内を占領した熱を必死で慰める。 先端から根本まで、舌を走らせて。上顎に擦りつけるようにそれを吸い上げた。アキラがヒカルの頭の上で息を詰まらせる。 ヒカルが更に舌を滑らせようとした時、アキラが強くヒカルの肩を掴んだ。ぐいっとシートに引き戻され、ヒカルの口とアキラの中心の間に糸が引く。 「ヒカル、 もういい、」 アキラの余裕のない声がそのままヒカルの口に被さってきた。 深く舌を絡ませながら、ヒカルは自ら両足を広げた。アキラの手がヒカルの腰を掴み、その場所を探るように、最初はゆっくりと、熱を帯びたものがヒカルの最奥に触れる。 確かな窪みを探り当てたそれが、柔らかく崩れた場所へ頭を潜らせた。ヒカルの眉が寄り、閉じられた目が歪む。 アキラは腰を深く差し入れた。 「あ――……!」 一度口を開けば、後は揺さぶられるがままに嬌声が漏れた。 僅かな痛みを伴って、熱はヒカルの身体の中心を突き立てる。 狭い車内に響く二人の荒い息、いつしか窓はすっかり蒸気で曇っていた。 ヒカルはアキラの背中に手を回し、その汗ばんだ肌に縋りつく。 乱れた呼吸の合間に繰り返されるキスのせいで、濡れた頬が汗のせいなのか唾液のせいなのか分からない。 攻め立てられ、身体の中の熱に浮かされたようにアキラの名前を呼び、ヒカルの力の入った脚の指先が車内の空を切る。 カーラジオのスイッチが蹴られ、ふいに音楽が流れた。 名前も知らない異国の曲。 アキラの顎の先から汗の滴が落ちる。 「――あ、アッ……!」 ヒカルが身体にこもった熱を再び解放したすぐ後、アキラの端正な顔が甘い痛みに歪んだ。 ずるりとヒカルの身体の奥からアキラの分身が引き抜かれ、間を置かずに腹の上に熱い液が迸る。 アキラの上半身がぐったりとヒカルを覆い、ヒカルは弱弱しくその身体を抱きとめた。 呼吸が元に戻るまで、そうして身じろぎせずに二人は目を閉じていた。 冷えた汗に肌寒さを思い出した頃、知らない音楽だけが二人の空間を支配していた。 ひとしきり燃えた後、余韻はちょっとだけ虚しい。 「あーも〜、ティッシュくらい積んどきゃよかった〜」 ヒカルはアキラが所持していたなけなしのポケットティッシュから一枚だけ取り出して、腹に溜まった粘りのある液体を拭き取る。 助手席でアキラが小さくくしゃみをした。 「エアコン入れていいか? 考えたらもう十一月だったよ」 運動している間は暑いくらいだったけど。 ヒカルは足元や後部座席に散らばった服を掻き集め、僅かな灯りに照らして所有者を分けている。 皺くちゃのシャツを着込み、ヒーターの風が車内に行き渡る頃、ようやく二人の身体は温まってきた。 「買ったばかりの車汚しやがって、スケベ」 ヒカルが横目でアキラを見ながら毒づくが、アキラはしれっとしている。 「キミも乗り気だったくせに」 「そおかあ?」 「一ヶ月以上もおあずけ食らわされたんだ。これくらいいいだろう?」 悪びれないアキラにヒカルは肩を竦めた。 アキラは気にせずにつらつらと続ける。 「でもやっぱり狭すぎるな。いつもとちょっと違う場所だから妙に興奮はしたけど。ベッドの上が一番落ち着く」 「ハイハイ、そうですか〜」 「その点新しい部屋は防音完備だから、安心して」 にっこり微笑むアキラを見て、ヒカルはげんなりする。 ――こいつ、それが目的で一人暮らしするんじゃないだろうな。 ヒカルは来月からのアキラの新生活を想像して身震いした。一緒に暮らさなくても、ずっと引っ張り込まれそうな気がする。 「とりあえず来月、引越し手伝ってね」 「はああ?」 「キミも車が手に入ったことだし」 まじかよ、俺の車も荷物運びに使うわけ? ヒカルのブーイングをものともせず、アキラは鼻歌を歌いながらラジオのチャンネルを変えた。 一昔前のロックが車内に流れる。 「ああ、もうこんな時間か。そろそろ帰ろうか」 「そうだな。つーか腰痛え。マトモに運転できないかも」 冗談めいたヒカルの言葉に、アキラの耳が反応した。鋭くヒカルを振り向いたアキラの顔は本気で青くなっている。 「……無事に帰れるんだろうな」 「さあ〜?」 「……決めた。ボクもすぐに免許を取る。明日からでも通う。キミ、この車、キミ以外にも保険きくようにしておけよ」 「ええ、お前自分で車買えよ〜!」 「新しいマンションに駐車場の契約をお願いしておく」 「だから自分で買えって!」 ぎゃあぎゃあと言い合いながら、車はなんとか発進した。 非常にスリルを伴う死のドライブではあったが、狭い車内で作り出す二人だけの空間は暖かかった。 ひとつひとつ、大人に向かって歩き始めている。 目指す場所は同じ。……同じはず。 やがて来る新しい日々に胸を高鳴らせて―― あまり待たせないで済むかもしれない。塔矢。 ハンドルを握るヒカルの心は、穏やかに澄んでいた。 |
あらら、ぬるかったっすね。すんません……
ちゅうかヒカル、どんだけ慣らされてんだ。
最後から二行目、本当は「あまり待たせないで済みそうだ」だったんですが
「いや、結構待たせんじゃねぇ?」と思い直して修正。
しかしアキラさん、17歳でこんなエッチなんかイヤですね。
追記:これじゃヒカルにタマがないと指摘され、そういやそうだと修正しました……
ホントその通りでした恥ずかしい!(2006.10.29)
(BGM:ホンキー・トンキー・クレイジー/BOΦWY)