JUST A HERO






 客間を少し覗いて戻ろうと思っていたのだが、その必要はなかった。
 閉じられた客間の襖の前、白く大きな塊がぽつんと落ちている。アキラが闇に慣れた目を凝らすと、冷たい廊下に腰を下ろし、身体をすっぽり毛布で包んで顔だけを出したヒカルがそれだった。
「進藤」
 思わず出してしまったアキラの声が、塊を跳ね上がらせる。
 ヒカルの首がアキラを振り返り、アキラだと気づくのに少し間はあったが、間違いないと判断したのか口に人差し指を立てた。
「バカ、声でかい。」
「あ……す、すまない」
 釣られて謝り、そしてまたアキラははっとする。
「何してるんだ、こんなところで!」
「しーっ、だから声でかいって! 社のイビキがうるさくて寝らんねーんだよ」
 ヒカルはしっかり小声でそう言うと、親指で背にある襖を指した。確かに、地の底から何か産まれ出るような低音が襖の中から響いてくる。
「それは……大変だな。部屋を変えるか?」
「んー、まあここでもいいよ。俺どこでも寝られるし」
 ヒカルは毛布の隙間からひらひら手を出して、なんでもないといったように振ってみせた。
 そんな無茶な、とアキラは眉尻を落とす。
 夜になって廊下はぐんと冷えが増し、パジャマ姿のアキラでもじっとしていれば肌寒さを感じるくらいだ。
 ヒカルといえば毛布を一枚身体に巻きつけているだけで、このまま眠れば間違いなく風邪をひく。
「だめだ、そんなところで。別の部屋を用意するから来い」
 立ち上がらせようとヒカルの手をとり、……その冷たさにアキラの動きが止まる。
「進藤……いつからここにいた?」
「ん? ……ついさっき」
「嘘だろう」
 手首が冷たすぎる。アキラはヒカルの手を握り締めた。指先も冷たい。そのまま腕を引いて、嫌がるヒカルを無理に立ち上がらせる。
 そうしてヒカルの身体を抱き寄せて、自分の腕ですっぽり包んだ。
「おい、塔矢! 何暴走してんだよ」
 ヒカルが小声で器用に怒鳴る。
「身体が冷えきってるじゃないか。こんなところにこんな格好でいるからだ。来い」
「分かったから離せって!」
「いいから来い」
 ヒカルを抱きかかえたままで非常に歩きにくいが、この冷め切った身体を離すことが躊躇われた。ヒカルも最初こそ抵抗していたものの、毛布ごとアキラに包まれてだんだん熱を吸収するようになったのか、暖かさに落ち着いてきたようだ。大分大人しくなったヒカルを引きずり、アキラは自分の部屋に戻ってきた。
 扉を開き、ヒカルを促すと、ヒカルは恐々部屋の中に入る。そこに敷かれた一組の布団、しかも誰かが抜け出たような跡の布団を見て、ヒカルはアキラを訝しげに振り返った。
「……ここ、何の部屋?」
「ボクの部屋」
 途端にヒカルの表情に警戒の二文字が浮かぶ。
「へ、変なことはしない!」
 アキラが慌てて首を横に振るが、ヒカルは疑いの眼差しを引っ込めようとしなかった。
「ここ布団一組しか敷けねーじゃん。まさかお前……」
「違う、その布団はキミが使え!」
「じゃあお前どこで寝るんだよ」
「ボクは……キミを見てる」
 ヒカルは腐ったものでも飲み込んでしまったような顔になった。
 アキラも我ながらおかしなことを言ったと反省したが、
「いや……ちょっと違う……、キミが心配で……」
 心底本音で思ったのだ。
 ヒカルを一人にしてはいけない。
 今日のヒカルの瞳は例えるなら湖だった。ゆらゆら揺れて底が見えない、生き物の住めないヒカルだけの水の中。
 不安、怒り、恐れ、哀しみ……
 とても澄んで奥底まで見えるような気がするのに、表面を覗き込むと彼は湖底を覆ってしまう。
 一人になりたいと、彼の目は語る。
 一人にしたくないと、アキラは手を伸ばす。
 一人きりであの廊下で、じっと闇を睨んで何を考えていた?
「……なんだよ、心配って」
「いや……その、なんとなく……」
「なんとなく、なんだよ」
「……、……ともかく、キミはそこで寝ろ! ボクはキミがまたふらふら廊下に出ないように見張っている」
「なんだよそれ〜」
「いいから寝ろ」
 ヒカルに、アキラの不安を話しても理解してもらえるまい。
 ――どこかに行ってしまいそうだから、ボクの目の前からいなくなるな。なんて。
 そんな冷たい身体で、一人になろうとしないでほしい。避けないでほしい。逃げないでほしい。自分を、ヒカルの中から追い出さないでほしい。
 ヒカルは渋々といった感じだったが、言い出したらきかないアキラをヒカルもよく分かっているようで、抜け殻状態の布団に身体を潜らせた。
 さっきまで自分が寝ていた布団に入り込むヒカルを見て、アキラの頬が思わず熱くなる。暗闇で見えないのが救いだが、
「……お前、今ヘンなこと考えたろ」
「なっ! そんなことはない!」
「なんとなく分かるんだよなー、お前……」
 闇の中でもヒカルの視線が痛い。それでも、しばらく布団は干さないでおこうなんて思っているあたり、アキラも充分変態の仲間入りだ。
 無事に布団に入ったヒカルと、その傍らで正座する座敷童子……もといアキラ。おかしな様だったが、アキラは大真面目だった。
「……で、お前ずっとそこにいるの? お前こそ風邪引くんじゃねぇの」
「キミが眠ったら別の部屋で寝るよ」
「すげー眠りにくい……」
 もっともだとは思うが、アキラも意地になっていた。
「ボクのことは石か何かだと思ってくれていいから」
「こんな口うるせー石はないよな〜」
「進藤!」
「石のくせに怒鳴んなよ」
 何故だろう、ヒカルが軽口を叩くたびに不安になる。
 寂しいから哀しいから、そんな素振り見せないように振舞って、そうしてアキラを拒絶する。
 こっちに入ってくるなと。ここからは一人で行くからと。
 アキラが呼んでもヒカルはきっと振り返らない。友達以上恋人未満、でもそれだけの関係。ずっと一緒に碁を打ち続けようと、約束しただけの関係。
 心は何一つ結ばれてはいないのに、でしゃばりの自分に何ができる?
 きっとなーんにもできないのだけれど。
(行くな、進藤)
 そっち側に行くな。
 瞳に映る湖を揺らさないで。
 そう、まるであの時みたいな――

『ごめん』

 碁を打たないと搾り出した、消え入りそうな声の後の謝罪。
 彼の空っぽの瞳の底、小さな湖がゆらゆら揺れていた。
 何も映らない、映さない水の中。

「おい……」
 ヒカルの声に我に返ると、無意識にアキラはヒカルの髪に触れていた。
「あ、す、すまない」
 慌てて手を引っ込めたが、別にヒカルは嫌がった様子ではなかった。ふうとため息のような吐息が聞こえて、それは寝床に落ち着いたときに思わず漏れたものに似ている。
「この布団、お前のニオイがする」
「えっ……、き、昨日干したばっかりだが」
「いや……変なニオイじゃなくてさ。お前のニオイ」
 アキラは何と答えたものか困ってしまった。自分のニオイは自分では分からない。思わず二の腕辺りに鼻を当てたが、やっぱりよく分からない。
「ちょっと落ち着くかも……」
 アキラの胸がギクリと跳ねる。
(ボクのニオイで落ち着くなんて、なんてとんでもないことを言い出すんだキミは!)
 身体の中で沸き起こる、甘い期待。青い身体は僅かな刺激で過敏に反応する。
(ダメだダメだダメだ!)
 今日のアキラはヒカルを守るのだ。
 ヒカルをこの世界に留めておくために、じっと見守るのだ。
 行かないでほしい、逃げないでほしい。そのためには自分の情けない欲を抑えるなんて些細なこと。
「なあ……塔矢」
「ん?」
 身体に力を入れて煩悩と戦っていたものだから、アキラはふいな呼びかけに鼻息荒く答えてしまう。ヒカルがヘンに思わないか心配だったが、特に気にする範疇でもなかったようだ。
「あのさあ……ゼッタイ変なことしないなら、こっち来いよ」
「えっ!?」
 声が裏返ってしまった。力を入れていた体が一気に緩み、別の何かが強張ろうとしている。
「その代わり、ゼッタイ、ゼッタイ! 変なことすんなよ」
「し、しんどう」
「この前みたいにいきなりベロチューとかしやがったら追い出すからな」
 それは、その狭い布団で二人で寝るということ?
 聞き返したいのに、怖くて聞けない。
 だって、もし頷かれたら、自分はどうなってしまうんだろう。
「来るのか、来ないのかどっちだよ」
 ぶっきらぼうな物言いだが、ヒカルがそっと布団の端をめくってアキラを待っているのが分かった。
 アキラは息を飲む。胸の内側で皮膚を叩く心臓がうるさくてたまらない。耳障りな呼吸が荒くなる。意識して押さえ込もうとすると、むせ込んでしまいそうだ。
「い、行く」
 相当我満している状態で、それでもアキラはヒカルの申し出を受けた。
 こんなオイシイシチュエーションが今後二度と訪れるかどうか、そんなことも勿論重要なポイントだったのだけれど、何より今のヒカルの言うことはなんでも聞いてあげたかった。
 暗闇で分からないけれど、きっと瞳はあのままで。
 アキラは恐る恐る布団に近づき、めくられた端から身体を滑り込ませる。横たわるヒカルの左側、脚を入れ、腰を潜らせ、ぎこちなくも胸まで入り込んだ身体にヒカルの腕が触れた。
 ビクつきそうな身体を必死で宥める。
 ――とても眠れそうにない!
 ヒカルと半身をぴったり合わせ、ひとつの布団で寝ているなんて。
 しかもシングルサイズのこの布団では、どちらかに寄ると必ずはみ出してしまう。いくらまだ子供っぽさが残るとはいえ、身体はほとんど大人の男だ。
 ヒカルはそんなアキラを知ってか知らずか、ヒカルは細い息をゆっくりと吸ったり吐いたり、静かに呼吸のリズムを掴もうとしている。眠ろうとしているのだとアキラにも分かったが、そこでようやく気づいた。
 アキラに触れている、ヒカルの半身からアキラの熱が奪われていく。
「……」
 アキラは少し身を捩った。まだ随分ヒカルの身体が冷たいのだ。
「進藤……寒くないか?」
「俺? ちょっと寒いかも」
「布団、もう少し持ってくるか?」
「んー……、いや、いいや。」
 曖昧な返事をして、ヒカルは再び細く長い呼吸を繰り返す。
 アキラはどうしたものか迷っていたが、どうするかの答えを出す前に再び口を開いたのはヒカルだった。
「塔矢さあ……」
「ん? な、何?」
「お前、兄弟いないだろ。小さい頃、一人ぼっちの時ってどうやって遊んでた?」
「……?」
 脈絡のない質問に、アキラは素直に首を傾げる。
 確かに自分は一人っ子だが、どうやって遊んでいたかと考えると、……いつも自分の傍には碁石があったような気がする。
 自分としては遊んでいるつもりはなかったが、周囲から見れば充分子供の遊びだったのだろう。
『アキラは碁が好きなんだね』
 碁石さえ与えておけば機嫌が治る――
 だから、気にしたことがなかった。
 その時自分は一人ぼっちだったのだろうか?
「……碁を打ってた」
 その回答を聞いて、ヒカルが微かに笑ったようだった。
「お前ってホント碁バカ」
 むっとするが、本当のことなので言い返せない。
「俺も一人っ子だからさ、結構一人で遊んでたはずなんだ。だけど何やってたか全っ然思い出せない。一人の時間をどうやって使ってたのか……俺、どうやって一人でいたのかな」
「……進藤?」
「一人でいられたはずなんだ。寝る時も、一人で寝るの早かったんだぜ。小学校上がる前から一人で寝れたの、俺。なんでも一人でできたの。」
 凄いだろ、とふざけた調子の声にも、アキラは笑えない。
「だけど、なんでかな、その時の気持ちが思い出せない」
「……」
「俺、一人でいられたはずなんだ。」
 もう一度繰り返された言葉は、自分に言い聞かせているようにゆっくりとしていた。
 一人でいられたはず。……では今は?
 アキラが問いかけても、きっとヒカルは答えてくれないだろう。
 だってヒカルの身体は冷たいままで、アキラを置いていこうとしている。
 アキラの熱を振り切って、冷たい身体のまま、瞳の底に広がる湖へ。
 一人で行こうとする。
 そのくせ、一人でいる方法を思い出せずにいる。
 アキラは堪えきれずに、押し殺したような声で呟いた。
「……キミは一人じゃなかったんじゃないのか」
「え?」
「思い出せないのは、キミが一人じゃなかったから。キミの周りにはきっと常に誰かがいた」
 家族かもしれない、友達かもしれない、それとももっと別の人。アキラの知らない誰かが。
 ヒカルは気づいていないだけで、みんなヒカルを守ろうとしていた。それが当たり前のように傍にあったから、ヒカルは気づいていないだけなのでは?
 本当は一人になったことなんてないから、一人の時間を思い出せるはずがない。
「……じゃあ、俺どうやって一人でいたらいいんだ?」
 ヒカルの囁きにアキラは目を閉じる。
 ――一人になんかさせるものか!
 そう言いたくても、言えなかった。ヒカルはそんなふうにアキラを必要としているわけじゃない。ヒカルが欲しいのは碁打ちのアキラなのだ。
 でも、言わずにいられない。一人でいたくないくせに一人になろうとしている、この不器用な男を守りたい。

(行くな、進藤)
 ボクがいるから。
 本当はボクではダメなのかもしれないけど。
 ボクはずっとここにいるから、キミが一人で行く必要はない。
(進藤、行くな)
 守りたい、守りたい、守りたい。
(ボクの独りよがりでも)
 せめてこの冷たい身体を暖めて、何も考えずに眠らせてあげたい。
 進藤、キミはどんな気持ちで大将を申し出た? 及ばないと分かっていてそれでも何故挑みたくなった?
 何がキミを駆り立てる? 何がキミを焦らせる?
 ……キミが背負っているものは何だ?
(ボクはいつまで待てばいい?)
 一人になる方法なんて探させたくない。

 アキラは力強くヒカルを抱き締めた。背中まで包むように、頭から掻き抱くように。腕の強さはあっても、なるべく優しく、壊れないように、壊さないように。
 そのふいうちの行動にヒカルの身体が強張る。
「バカ、変なことすんなって……!」
「しない、何もしない! キミを抱き締めてるだけだ!」
「しないって、もうヘンなことになってんじゃねーか!」
 ヒカルの腰辺り、アキラの中央部分で元気になりかかっているものが当たるらしい。
「ほっとけば治まるから!」
 アキラは正直な自分の身体を呪いながらも、ヒカルを抱く腕を緩めなかった。
 ヒカルを暖めるのだ。冷たい身体を暖めて、今夜はもう眠らせてあげたいのだ。
 そのためには理性と本能が激しく争うことになるが、この勝負は理性が必ず勝たなければならない。勝負がかかるとアキラは強い。本当は出だしからへこたれそうだったけれど、気力で勝利をもぎ取ってみせる。
 アキラの腕の中、最初こそ這い出ようともがいたヒカルも、アキラの馬鹿力に抵抗を諦めた。本当に何もしないというのを信用してくれたのだろうか、ヒカルはふうとため息ひとつ漏らしてアキラの胸に額を押し付ける。
(静まれ心臓!)
 きっとアキラのうるさい心臓のリズムはヒカルにも届いているだろう。でもヒカルは何も言わず、黙ってアキラに身を任せている。
「お前、……あったけーな」
 ヒカルがぽつりと呟いた。
 ヒカルも本当は寒いのだ。暖かいところが好きなはずだ。一人でいたいなんて思ってもいないはずなのだ。
(違うよ、本当に暖かいのはキミだ)
 太陽みたいな笑顔で、気づけば周囲の人を惹きつける。それはヒカルが暖かいからだ。優しい熱に人々は引き寄せられる。
(元の世界に帰ろう、進藤)
 アキラは少しだけ腕の力を緩め、目の前のヒカルと視線を合わせるように覗き込む。暗闇に慣れた目が、ぱちぱちと瞬きするヒカルの瞼を捕らえる。
「進藤、キスしてもいいか」
「はぁ!?」
「変なキスはしない! 触るだけだ!」
「触るだけも何も、キスはキスなんだろうがよっ!」
「約束する、絶対舌は入れない! 触るだけだから!」
 微妙に噛みあっていない攻防、先に折れたのはヒカルだった。
 一回も二回も何回でも同じだと開き直ったのだろうか。
「ほんっとーにヘンなキスはなしな」
「うん」
「触るだけだぞ」
「うん」
 そしてヒカルが大人しくなった。アキラはごくりと唾を飲み込んでから、小さく深呼吸する。
 約束通り、変なキスはしない。今夜の自分はヒカルを暖めるためにいるのだから。
 優しいキスを。恋人にするキスじゃなくて、大切な人に大切な思いを伝えるような、そんなキスを。
 ――一度口付けてしまえば、お前の脆い理性なんてあっという間に吹っ飛ぶさ。
 心の悪魔が囁く。
 いいや!
 耐えてみせる!
 ボクの決意はそんなに弱いものじゃない!
 アキラは恐る恐るヒカルに顔を近づけた。キスされることが分かっているせいか、ヒカルは律儀にも少しだけ顎を上げ、やってくるだろう口唇を待って目を閉じている。
 アキラは胸のざわめきを無理やりに押さえつけた。大丈夫、大丈夫。今ヒカルにするキスはこれまでのキスとは違う。
 そっと、口唇の先がヒカルのそれに触れた。頭から背中に見えない電流が走る。その柔らかさが、アキラをどこにでも連れて行きそうになる。
(しっかりしろ、塔矢アキラ!)
 吹き飛ばされそうだった理性をしっかり握り締め、アキラは優しくヒカルの口唇を包む。
 優しいキス。
 触れて、熱を分け与えるように。
 おやすみのキスのように、柔らかくて愛しい、親が子に与えるような。
 眠っていいんだよ。怖がらないでいいんだよ。
(大丈夫、耐えられる)
 だってこれは自分のためじゃなくて、ヒカルのためだけのキス。
 ヒカルを安心させるためだけの、大切なキスなのだから。
 だから、くだらない情欲なんか自分の奥底に封じ込めてしまえる。
 眠って。
 眠って。
 ボクがここにいるから、眠って。
(ああ……そうか)
 今頃気づいた。
 すでにこれは恋なんかじゃない。
 ヒカルが愛しくて愛しくてたまらない。
(アイシテル、のか)
 自分の気持ちなんか二の次になってしまうくらいに。


 やがて、アキラの腕の中で、ヒカルは静かな寝息を立てた。





 ***




 結局、合宿中にアキラがヒカルと眠ったのは、その夜一度きりだった。
 翌日以降のヒカルは、まだ少し不自然さは残るものの、社に不審がられない程度にはいつも通りに装っていた。
 アキラは覚悟を決めていた。
 ここまで来たのだから、とことん待とう。
『いつかお前には話すかもしれない』
 ひょっとしたらヒカル自身も忘れてしまったかもしれないあの言葉、それを胸に常にヒカルと共に歩む。
 まずは目の前の北斗杯。
 彼は全力で挑むだろう。ならば彼の前に立つ自分は絶対に負ける訳にいかない。
 勝負は明日――
 アキラは口唇を引き締めた。
 三日間の合宿が終わる。





ああなんかまた暴走しましたね。
ヒカルもフツーに慣れてきたあたり微妙。
実はアキラが心配するほどヒカルはドツボには
ハマっていないんですが、
それはこの話のヒカルver.でどうぞ。
(BGM:JUST A HERO/BOΦWY)