素裸になって改めてヒカルを腕の中に抱き込むと、触れている部分全てに何の隔てもないという事実が胸を狂おしく突いた。 ヒカルが痛いと抵抗した夜、こんなふうにしっかりと抱き締めてあげたりしなかった。自分ばかり身勝手に腰を進めるだけで、身体を重ねるという意識があまりに小さかったことを今更恥じる。 ヒカルはアキラの腕の中で、辿々しくアキラの肩や鎖骨に口唇を寄せてくれた。小さな熱を肌にいくつも点されて、あまりの嬉しさになんだか泣きたくなってしまう。 アキラはヒカルの額に恭しくキスを落としてから、そっと抱いていた身体を放して立ち上がった。ヒカルが慌てて追おうとするのを微笑みで制し、机に近寄って引き出しを開く。 つい先ほど、ヒカルが来る前に忍ばせたオイルとコンドームを手にして、アキラはヒカルを振り返った。 「キミの身体の負担を減らすために。……今日は、ちゃんと用意したから」 「あ……」 ヒカルの頬が赤く染まる。どうやらアキラが何を持っているのか察したらしい。 アキラは必須アイテムと念押しされたそれらを手に、ヒカルの傍へと戻ってきた。 布団の脇にオイルの瓶とコンドームの箱を転がして、再びヒカルの肩に触れると、ヒカルは自ら布団に背中をついてアキラを誘う。 口唇をしつこいくらいに吸い上げて、ヒカルの肩に触れていた手のひらを胸の頂に、それから脇腹に、腰にと徐々に下ろして行き、太股を撫で下ろしてより奥へと指先を忍ばせた。 きゅっとヒカルの足の付け根に力が入るのが分かった。アキラは一旦指を逃がし、もう一度太股の上を彷徨わせる。 「進藤。怖かったら、言ってね。すぐやめるからね」 「だい、じょぶ……」 「進藤……」 アキラは今回で二度目となる侵入を試みた。 人差し指の腹で恐る恐る触れたその場所は、やはり固く入口を閉ざしていたが、根気良く撫で続けていると少しだけ肉の強張りが解かれたような気がする。 空いた手をオイルに伸ばしたアキラは、名残惜しげに離した指へとオイルを滴らせた。 指の股まで流れてくるオイルを指先に絡めるようにして、優しく肉襞に撫で付ける。冷たかったのか、ひゃっと小さな悲鳴がヒカルの口から漏れた。 円を描くように少しずつ指先を押し進めていくと、微かにひくひくと収縮を見せた襞がふわりと緩んだ瞬間があり、人差し指は吸い込まれるように第一関節まで頭を潜らせた。 「くぅ……ん」 まるで子犬のようなか細い声をあげ、ヒカルが顎を仰け反らせる。また口唇を噛んでしまっている。アキラは左手を伸ばして、シーツを握り締めているヒカルの手の甲を包んだ。 「進藤、力抜いて」 「……っ」 「息、吐いて。そうだよ。痛かったら言って……」 ゆっくりゆっくり指を進める。デリケートな内部を傷つけたりしないよう、短く切った爪を当てないように指の腹を外側に向けて。 狭い入口を根気強く広げ続けた。時々ヒカルの呼吸の加減でぎゅっと縮まるその場所を丹念に、途中でオイルを追加してより抵抗を減らしてから、指をもう一本増やしてみる。 ヒカルはアキラの左手をきつく握り締めて、もう片方の手で顔を覆っていた。見られるのが恥ずかしいのだろうか、手の下でスンスンと鼻を鳴らして健気に耐えている。 アキラは自分の脇からひたりと汗が滴ったのを感じた。 息を殺してその場所を解すことに集中していたせいで、先ほど燃え上がった熱はとうに収まってしまっている。 それでも僅かな苦痛をも取り除こうと、真剣にヒカルの可愛らしい窄まりを溶かしてやった。どのくらい時間をかけたのか、アキラ自身もよく分からない。 二本の指がスムーズに出し入れできるようになった頃、ふうとヒカルが細いため息をついた。身体の硬直も随分マシになって、精神的にも怯えが薄らいだようだ。 そろそろだろうか、とアキラは指を引き抜いた。名残惜しげに吸い付いてくる肉の壁から抜かれた指先は、オイルでぬらぬらと光り、すっかりふやけてしまっていた。 濡れた指もそのままに、コンドームの箱を手に取る。包装を破いてひとつ取り出したはいいものの、指が滑ってうまくビニールを裂くことができない。 指をシーツで拭き拭きなんとかゴムを摘み出したが、今度はそれを腹の下のものに被せるのに苦戦した。 少々インターバルが長かったせいで、硬度が足りないそれにゴムを装着させようとしてもなかなかうまくいかない。おまけにコンドームをつけるなんて産まれて初めてで、原理は分かっていても手際よくできるものではなかった。 もたついていると、ヒカルがむくりと身体を起こす気配がする。 しまった、白けさせただろうか――アキラがどっと汗を背負った瞬間、ヒカルの手が股間で苦戦するアキラの指を掴んだ。 あっと思う間もなく指を外されて、少し縮んだものを手の中に包まれる。それだけでぴくんと反応した分身を、ヒカルはなおもゆるゆると扱いた。 アキラの指にオイルがついていたせいで、硬くなったものもヌルついている。ヒカルに擦られる度にぬるぬるとした感触が無性に気持ちよく、アキラは思わず歯を食い縛った。 ヒカルは先端にちょこんと乗っかっていたゴムを摘み、パッケージの説明書きを横目で確認しながらぎこちなくアキラのものに被せていった。 ゆっくりと根元まで被せられたそれは、ピンとゴムを張って薄い緑色に包まれていた。 ヒカルが上目遣いにアキラを見上げ、はにかんだ。その悪戯っぽい笑顔があんまり愛しくて、飛びつくようにヒカルを抱き締める。 キスをしながら転がって、アキラはヒカルの脚を優しく開かせた。ヒカルもアキラの二の腕を掴み、覚悟を決めたようにきゅっと目を瞑る。 探り当てた脚の付け根に、アキラはゆっくりと腰を押し付けていった。 「……っ……」 ヒカルの爪が腕に刺さる。 アキラも眉を寄せた。さすがに指のようにすんなりとは入らない。先端を無理に押し込むと裂けてしまうのではないかと不安になって、これ以上進めることが躊躇われた。 よくもこんな狭い場所に、何も考えずに欲望を満たすことができたものだ。あれだけ慣らしてもまだ肉の抵抗は強く、初めてのときにヒカルがどれだけ激痛を感じただろうと申し訳なくて仕方がない。 やはり最後までは無理では、とアキラが腰を引きかけると、ヒカルの手が留めるようにアキラの腕を揺さぶった。 「だいじょぶ、だから」 「進藤……」 「ちょっと痛いくらいなら、平気。だから、やめるなよぉ……」 「でも、辛そうだ」 「辛くない。前とは違う……今はちゃんと、お前のこと信じてるから、だいじょぶ」 「進藤」 「お、俺、ちゃんとお前としたい。お前が、俺のこと大事にしてくれてるの、分かってるから……」 潤んだ瞳の懇願を受けてもなお紳士的でいられるほど、アキラは大人ではなかった。 ごめん、と一言呟いて、後退しかかっていた腰をぐっと突き出した。 開いたヒカルの両脚が縮む。それでも突っ張った腕はアキラに縋ったまま離れない。 表情は苦痛そのものだというのにヒカルは黙って堪えている。アキラはもう一度ごめんねと口にして、更に奥へと腰を進めた。 「ぅあっ」 ヒカルの悲鳴と、根元まで呑み込まれたのとは同時だった。 先端の凹凸部分を過ぎた後は意外にすんなり入ってしまったようだ。ほっとしたのも束の間、圧迫感が辛いのだろう、ヒカルが顔にも身体にもぎゅうっと力を込めてしまい、アキラも腹の下のものを搾り取られるような感覚に呻いた。 「進藤、……息、止めちゃダメだ」 「……ふっ……」 「……そう……、ゆっくり……吐いて……」 乱れてはいるが少しずつ呼吸を意識し始め、がっちりと爪を立てていたヒカルの指からじわじわ力が抜けて行く。 痛いくらいアキラを締め付けていた付け根もふわりと緩み、吸い付くような暖かい湿り気が純粋にアキラへ快楽を促す。アキラもまた切ない吐息を漏らした。 繋がっている、と確かに実感できた。その場所は酷く熱かった。 あまりにきつく目を瞑っていたからだろうか、薄らと開いたヒカルの目尻に水滴が溜まり、アキラを見上げた拍子にころりと滑り落ちた。 そのくせ照れくさそうににこりと笑ったヒカルを見つめて、アキラは何だか微笑みたいのに泣きたくなってしまった。 「進藤っ」 「あっ」 腰を動かし始めると、再びヒカルの眉根が寄る。しかし痛いばかりの反応ではない、とアキラは思いたかった。 実際二度目のセックスで快楽まで導けたかと問われるとアキラのスキルでは無理な相談だっただろうが、一度走り出した欲望はもう止まる術を知らなかった。 夢中で腰を振るアキラに、ヒカルが手を伸ばす。 て、と喘ぎの合間に哀願され、訳も分からぬままにヒカルの手を握った。 アキラの手をきつく握り返し、ヒカルがほっと安堵したように口元を綻ばせた。 苦痛を滲ませながらも無理に笑うヒカルがいじらしくて、アキラもまた繋いだ手に力を込める。 「……あっ、しんど、……っ」 「あ、ああ、と、や……!」 身体の中央に集まった熱が四方に弾けるようだった。 がくりと首を垂らしたアキラは、自分の重い身体を支え切れずにヒカルの上に崩れ落ちる。 汗に濡れた背中を、ヒカルは嫌がりもせずに抱いてくれた。至近距離で眼差しを寄せ、小さく微笑みかけてくれたヒカルに釣られるように微笑したアキラは、ありったけの想いを込めて優しい優しいキスをした。 *** 『オーちゃんへ キラです。 いろいろアドバイスありがとうございました。 彼ととても素敵な時間を過ごすことができました。 まだまだ勉強不足ですが、これからは彼と一緒に学んで行こうと思います。 今まで、本当にありがとうございました。 もしまた困ったことがあったらメールしても良いでしょうか? その時はよろしくお願いします。』 これが最後だとメールを送った晴れやかな朝。 昨日の余韻に浸りながら、アキラは足取り軽く棋院へ向かっていた。 セックスの後もしばらく抱き合って、汗が引いた頃にようやく身体を起こして二人で風呂場に行って。 そこでも少しじゃれあって、何度も何度もキスをした。 まだ日が落ちる前から睦み合ってしまったため、風呂から上がってもそれほど遅い時間にはなっていなくて、明日も早いからと名残惜し気にヒカルを帰して。ヒカルもまた帰りたくはなさそうだったけれど、仕事を持つ社会人としてお互いに我が儘を堪え、代わりに別れ際には長い間飽きもせずに口唇を合わせていた。 夜は興奮で眠れないのではないかとも思ったが、身体がしっかり疲れていたせいか意外に深く眠りにつき、今朝はすっきりと目が覚めた。心身共に爽やかな目覚めだった。 『今日、来て良かった……俺、すげえ幸せ……』 夢見心地のヒカルの呟きを思い起こす度に顔が緩んで仕方がない。 今日もヒカルの対局が終わったら逢う約束をしている。なんとかそれまで顔を引き締めておかなくては――しかしそれも思うだけで、数歩歩けば顔はすぐ元通りにふにゃりと蕩ける。 ダメだダメだと事務室の前で頬をぺちぺち叩いたアキラは、せめて書類を提出するまでは頑張ろうと眉に力を込めた。 事務室のドアを開けて中へ顔を覗き込ませると、二、三人ほどがある人物を囲んで談笑していた。囲まれる白いスーツ姿の背中を見て、ああ久しぶりだな、とアキラも近寄って行く。 「緒方さん」 声をかけると緒方がちらりと後ろを振り返り、軽く眉を持ち上げた。 「アキラか。久しぶりだな」 「ええ、本当ですね。楽しそうに何を話してらっしゃるんです?」 普段ならこうまでにこやかに兄弟子に話しかけたりしないのだが、今のアキラは頭に花が咲いた幸せ真っ盛りである。楽し気に会話を交わしている輪の中に思わず首を突っ込んでしまっても本人としてはおかしなことではなかった。 「ああ、一昨日まで名古屋にいたんでな。その土産を渡すついでにちょっと無駄話をな」 「へえ、名古屋にいらしたんです、か……」 ――名古屋? どこかで聞いた覚えがあるような。 首を傾げかけたアキラは、改めてアキラに向き直った緒方の顔を見て仰天した。 「お、緒方さん……その、傷」 「これか? ま、あまり大きな声では言えんがな。ちょっとした猫に引っ掻かれたんだ」 緒方の左頬、明らかな引っ掻き傷が斜に頬を横切っていた。緒方と談笑していた職員たちも、聞かぬふりとばかりに白々しく視線を逸らしている。 しかしアキラはその傷から目が離せなかった。 ――アタシ、この前派手にネコ娘に引っ掻かれちゃって―― 「アキラ?」 緒方の呼び掛けにも応えず、アキラの頭だけがカタカタと何やら分析を始める。 緒方……オガタ……OGATA……O……オー…… 「……!!」 アキラが一歩後ずさる。 緒方は怪訝に眉を寄せ、後退するアキラにどうしたと近寄ってきた。 アキラは見てしまった。踏み出した緒方の膝が内側を向いたのを―― 「ぼっ……ボク、急用を思い出しました!!」 事務室の人間全員が振り返る大声でそう叫んだアキラは、脱兎のごとく事務室から緒方から逃げ出した。 いやでもまさかそんな。 考えるな。考えるな。 ボクは何も見ていない。何も知らない、いい思い出として終わらせるんだ…… 全速力で走りながら、もう二度とオーちゃんにメールを送ることはないのだろうな……と一抹の淋しさを感じるアキラだった。 |
30万HIT感謝祭リクエスト内容(原文のまま):
「エロで!(すみません/笑)
念願叶ってヒカルと身も心も結ばれたアキラだが、ヒカルが今ひとつ
行為に乗り気じゃない(痛いからイヤだとか、手でいいじゃん、とか)のが不満。
どうにかヒカルをその気にさせて感じさせようと悪戦苦闘する。
尻込みしていたヒカルも一生懸命なアキラにほだされているうちに、
イヤだと思っていた行為も好きだからこそ気持ちいいのだと目覚める。
・・・みたいな感じでいかがでしょう?」
何よりもまずオチについて。
名前の時点ですぐバレんだろなと思ったら案の定で、
後半怒濤のように戴いた「まさか……」のコメントに
本気でどうやってレスしようか弱ってました……(笑)
さすがに「そうです」とは書けないので苦しくごまかしてますが
どんどんバリエーションなくなってきて哀れなことに。
そしてリクエスト内容ですが、こういう地道な努力型のお話は
とっても難しくて、ただでさえだらだら書く癖がついていたので
話を進めるために助っ人使わせて頂きました。
このアキラさんが自力でここまで来るためには何十話必要なんだ!
更にエロご所望だったので長く書くのが苦手な私にしては
頑張ってみたんですが……状況説明から抜けだせん!
可愛く色っぽくを目指したのに自分が恥ずかしいだけに!
うおー力不足ですいませんでした!
リクエスト有難うございました〜!
この話のイメージイラストをいただいてしまいました!
とっても素敵なイラストはこちらからv
(2007.07.23追記)
(BGM:恋をしようよ/河村隆一)