素肌をぴったりと密着させて、初めてお互いの身体がじんわり汗ばんでいることに気がついた。 ヒカルは物珍しげにアキラの背中に腕を回し、その肌を撫で擦る。 『この体勢は初めてだわ、俺。悪いけどマグロだぞ』 『ボクも男を組み敷いたのは初めてだ。うまくやれるか分からないが我慢してくれ』 しゃあしゃあとそんなことを言って、アキラは遠慮もなしにヒカルの片足首を掴んで持ち上げた。 突然脚を開かされたヒカルは、アキラの下で抗議する。 『いきなりかよ! お前ムードもくそもねえな!』 『だって、もうはちきれそうだから』 『こっちは下になってやってんだぞ! ちょっとくらいサービスしろよ!』 渋々頷いたアキラは足首から手を離し、ずいとヒカルの上に圧し掛かって鎖骨に口付けた。 出っ張った骨の輪郭を舌でなぞり、軽く甘噛みする。ヒカルがぶるりと肩を竦めた。 『……キミの肌、しょっぱい』 『汗、かいたからだろお……』 『そうかも……』 アキラはちゅっと音を立ててヒカルの肌に吸い付いて、少しずつ口唇を下へ下ろしていく。胸の上でちょこんと存在を主張している突起を口に含むと、「うおっ」と奇妙な悲鳴が漏れた。 『ちょ、ヤバ、気持ちイイ……』 『ほうは』 乳首を咥えたまま恐らく「そうか」と答えたアキラは、ヒカルの反応に気を良くしたのか、硬さを増す小さな粒をそれは丁寧に舐めて舐めて吸い上げた。 ヒカルはヤバイ、ヤバイと連発し、恐らく無意識にアキラの髪を鷲掴みにして白い喉を晒す。乱暴に髪を掴まれているはずのアキラだが、痛みがないはずもないだろうに、特に気にした様子もなくヒカルの肌を貪り続けていた。 乳首の弾力に飽きたら肋骨を辿り、脇腹に歯を立てて、ヒカルがくすぐったさに身を捩れば執拗にその場所を攻め立てる。臍に舌を潜らせた時、すでにアキラの顎には充分に勃ち上がったヒカルの分身の先端が掠っていた。 もういいだろう、とアキラが身体を起こした時、薄闇に唾液が光る胸を晒してヒカルはぐったりと横たわっていた。暗がりでよく見えないが、遠慮なしに吸ったため恐らく赤い斑点が散らばっているのだろう。 アキラは無造作に腕で自分の口元を拭って、お伺いを立てるようにヒカルの太股を撫で始めた。――すいません、抱えて広げてもいいでしょうか。そんなニュアンスが受け取れるよそよそしい触れ方にヒカルは焦れ、ついに自らがばっと脚を開いてみせた。 『もう、チマチマ触ってんなよ! くすぐってえだろ!』 『だって、さっきはいきなりだって怒るから』 『もういいって、ホラ、いいよ、ヤれ』 ムードがどうとか騒いだ割に、何の恥じらいも無く大股を開いたヒカルに対し、アキラはまるで不思議なものを見るような目でその中枢をまじまじと見つめ、物は試しとばかりに本来は出口であるはずの小さな入り口にえいと指を突き入れた。 『い! 痛!』 『あ、すまない』 『バカかお前! いきなり突っ込みやがって! 痛えだろ!』 『入れたのは指だぞ!』 『指でも痛えんだよ!』 じたばたと両足を暴れさせるヒカルを押さえ付け、アキラは今度はうかつに指を差し入れずに、入り口の弾力を確かめるようにゆるゆると指の腹を押し当ててみた。気持ちが悪いのか、「うえ」とヒカルが潰れたような声を漏らす。声が漏れる度にひくひくと入り口が収縮し、アキラは興味深くその動きを観察しているようだった。 やがて潤いが足りないと結論が出たのだろう、アキラはおもむろに自分の指を舐めて再びその場所に宛てがった。しかし指は数センチどころか数ミリ入った程度ですぐに乾いてしまい、肉襞はそれ以上の侵入を拒む。アキラは顔を顰め、もう一度舐めた指を入れた。少し進む距離は増えたが、やはりすぐに乾いてしまう。 股の間で難しい顔をした男に尻の穴を弄くられながら、ヒカルは今まで感じたことのない奇妙な感触にうんうんと唸っていた。 長い指が出たり入ったり、繰り返される圧迫感と開放感は当然だが一度も経験のないもので、その気持ち良いような気持ち悪いような何とも言えない落ち着かない動きに自然と表情が渋くなる。 不幸にもそこで我に返ることなく脚を開き続けていたヒカルだったが、突然アキラががばっと股間に顔を埋めて来た時にはさすがに驚いたらしく、容赦なくその頭頂部にかかとを落とした。 『痛い!』 『痛いじゃねえ! ケツ舐めんな!』 『だって指が滑らないんだ!』 『仕方ねえだろ、女じゃねえんだから!』 大声で怒鳴ったヒカルは気分を害したのか、ぱたんと脚を閉じてから頬を膨らませ、ぷいと顔を逸らす。 それから腕組みをして、相変わらずの据わった目でじろりとアキラを睨み付け、 『女じゃねえぞ、俺。それでもヤりたいのかよ』 刺々しい低い声で吐き捨てるように尋ねた。 しかしアキラは怯むどころか全く動じず、素直に首を縦に振ってみせた。 『ああ。キミとしてみたい』 きっぱりと言い放ったアキラにヒカルは少し目を丸くして、確認するように首を傾げてみせた。 『キミに欲情しているんだ、物凄く。今日はずっとキミに見蕩れていた。キスしたらもっとしたくなった、ボクは普段こんなことを他の誰かに言ったことはない』 ヒカルはしばらくきょとんとしていたが、数秒後には何かのスイッチが入ったようににこっと歯を見せて笑い、「じゃあいいや」と再び脚を開いてみせた。 『俺も、こんなことしたことねえんだからな。お前だけだぞ、ケツの穴まで見せるのなんて』 『ああ。分かってる』 『お前とエッチしたいけど、俺ヤられたことねえから慣れねえんだよ。あんまり凄えことすんな』 『分かった、努力する』 仕切り直し、とヒカルが軽く頭を擡げると、アキラは頭を下げてキスで応える。軽く吸い合うだけのキスが徐々に濃厚になってきた頃、アキラは大分動きに慣れて来たのかヒカルの力が抜けたところを見計らって、先ほどから格闘していたその場所にぐっと指を差し入れた。 ヒカルの身体が少し強張ったが、先ほどから執拗に解していたのがようやく功を奏したか、指は唾液の力を借りてずるりと第二関節まで潜り込んだ。きゅ、と指を締め付けてくるのは苦しいからだろうか、なるべく乱暴にしないように肉を押し広げるように指を動かしてやると、ヒカルの切な気な吐息が聴こえて来た。 『なんか……ヘンになりそう……』 『気持ち良いのか?』 『分かんねえ。ヘン』 『そうか。ちょっと指より太いから苦しいかもしれないが、我慢してくれ』 平然と宣告したアキラは指を引き抜いて、いざ腰のものを侵入させんとヒカルの脚を抱え直した。 ヒカルも覚悟を決めたのか、ぎゅっと目を瞑って口唇を噛み締めている。 アキラは自分の分身に指を添えて狭い入り口に誘導した後、えいっとばかりに先端を突き入れた。 『! い、痛え!』 『まだ痛いか?』 『痛いって、もっと優しくしろよお! 初めてだっつってんだろお!』 『分かってる、悪かった。だからあまり締め付けないでくれ』 分かったと言いながらも確実に尻の中を前進してくるアキラのものに、ヒカルは顔をくしゃくしゃにして耐える。ぎゅうっとシーツを握りしめる拳は真っ白で、ぶるぶると震えていた。アキラも眉間に皺を深く刻み、苦しそうに息をつきながらじわじわと腰を進め、押し戻そうとする肉襞を貫いた。 アキラが満足するところまで侵入を果たした時、ヒカルは尻に立派なものを咥えこんで小さな嗚咽を漏らしていた。 苦痛と、もうひとつ訳の分からない感情の振れが涙腺を刺激したらしい。足を踏み入れたことのない場所に飛び込んでしまった、そんな背徳感に胸が浸されて感傷的になったようだ。 アキラはそんなヒカルの髪に手を伸ばして、優しく金色の前髪を撫でた。 『泣かないで。綺麗だよ、凄く』 『ど、どこが……』 『キミの全部。どうしてだろう、凄く愛しい。キミを好きになりそうだ』 『す、きだからエッチすんじゃねえのかよ……!』 『たまには順番を間違えることもある』 アキラが腰を動かし始める。ア、とヒカルは顔を引き攣らせて声を上げた。 アキラに揺さぶられ、強烈に感じる痛みと腸の内壁を刺激する奇妙な感覚が堪え切れず、悲鳴混じりの喘ぎ声がヒカルの口から止めどなく漏れた。ヒカルは縋りつくようにアキラの背中に手を伸ばし、その爪を広い肌へぎりりと刺す。 アキラが少しだけ顔を顰めたが、最早背中の痛みにまで集中力を分け切れないらしく、より高くヒカルの脚を掲げて深く叩き付けた。 『あーっ! 塔矢、痛い!』 『ごめん』 『もう、このバカ、責任、とれよっ……! 俺の身体、好き勝手しやがって……!』 『いいよ。責任、とるよ。どうしたらいい?』 荒い呼吸混じりのアキラの囁きは掠れ、その声にヒカルはぞくりと身を竦ませた。 『俺のこと……ちゃんと、好きに、なれ……ッ!』 左手は背中に爪を立てたまま、右手でアキラの頭を掻き抱き、ヒカルは涙声を絞り出す。 『そしたら、俺も、お前のこと……好きになってやるっ……』 『……うん……分かった……』 アキラはヒカルの耳をべろりと舐めて、腰の動きを速めて行った。大きく開いたヒカルの脚の爪先がバレリーナのように硬く曲がり、動きに合わせてがくがくと揺れる。 涙に濡れながらぎゅっと瞑っていたヒカルの目が、ふいにぱちっと見開かれた。 アキラがヒカルの下腹部で勃ち上がっているものを掴み、扱き始めたためだった。 『うあっ……、や、アッ……!』 『好きに……なるよ。だから、キミもボクのこと好きになって』 『ア、塔矢、ああ、あん、ア、』 『好きだよ、進藤、好き。キミが好き』 『アア、俺も、お前のこと、好きに……アッ、なっちゃ……!』 進藤、進藤、しんどう…… 塔矢、塔矢、とうやぁ…… *** どのくらい硬直していただろうか。 二人は額にびっしり汗を掻き、真っ赤に火照った情けない顔で、しかし目の前の相手から目を逸らすことさえできずに呆然と正座を続けていた。 鮮明に甦った会話、表情、そして感情。 いっそ思い出さないほうが、と身悶えるほどの恥ずかしさ極まりない行為の数々。 ひょっとして、記憶を飛ばしたと思い込んでいたのは、無意識のうちの防御本能だったのではないだろうか? 思わずそんなことを考えてしまうほど、昨夜の出来事は二人にとって衝撃的で刺激的だった。 恐らく向かい合う相手も同じように記憶を取り戻している。――そう思うと、アキラもヒカルも何を話しかけたら良いか分からず、困惑と羞恥に歪む顔を気まずく突き合わせることしかできなかった。 どちらが誘ったか、無理矢理だったのかなんて論外である。 合意も合意、どっちもどっちではないか。 悪いも悪くないもない。今胸に吹き荒れているのは罪悪感ではない、ひたすらな羞恥心と微かなときめきだった。 だって、アキラは思い出してしまったのだ。 ヒカルを抱き締めて、酷く甘い汗の香りを嗅いで、湧き起こる狂おしさに我を忘れてしまったこと。 心も身体も煽られて、誘惑に諍うことなく手を伸ばした肌にはなんの柔らかさもなかったのに、飲みながら何度となく感じたもどかしくも切ない想いがすっかり満たされてしまったこと。 かつて感じた事ないほど凶暴で、そのくせ優しい気持ちに包まれたこと…… そして、ヒカルも思い出してしまった。 アキラの腕の中で、慣れない体勢に苦痛を感じながらも、熱い息で愛を囁く掠れた声にすっかりまいってしまったこと。 荒々しい動きに揺さぶられて泣くほど痛かったのに、自分の上で必死になって腰を振る男がやけにいじらしく見えて、カワイイなんて思ってしまったこと。 痛みとは裏腹に、フワフワした妙に暖かな気持ちが胸の中いっぱいに溢れていたこと…… 二人は赤く染まった顔を隠すこともできず、ただただ自分の心と身体に起こった変化に翻弄された。 背負う汗の暑苦しさ。どくどくと速度を上げる忙しない心臓の拍動。実は少しだけ震えている握り締めた拳と、乾いた口唇をそっと舐める度に思い出す柔らかなあの感触。 ――今までのような関係に戻れないのは嫌だから、原因を追求しようと言ったけれど。 原因が判明したせいで、余計に今までの関係に戻れなくなってしまった。 ひょっとしたら封印され続けたかも知れない、甘く危険な感情の揺らぎを思い出してしまった。 いや、いつかはぽろりと零れてしまうものだったのかもしれないけれど。それほどまでに、唐突で鮮やかな覚醒だったのだから。 ああ、でももうそんなことどうでもいい。 気づいてしまったのだから、仕方ない。 この先どうするのかは自分たち次第だ。 慌てて後ずさりするか、更なる一歩を踏み出してしまうのか―― どうする? ……どうしよう? 壁の時計が刻む秒針の音など耳に入らないほど、頭の中ではひっきりなしに夕べの嬌声が響きまくっている。 邪念に支配され、冷静な判断を下せるとは思えないことを理解していながら、アキラとヒカルは決断した。 顔どころか耳も首も真っ赤に染めて、ごくりと喉を上下させ、羞恥と欲に潤んだ対面の瞳に映る自分の姿をしっかりと見つめた。 あそこまでとんでもないことをやっておきながら、今更恥ずかしがったってどうしようもない―― 躊躇う口唇を開いたのはほぼ同時だった。 しばらく酒は飲むまい、と心に堅く誓いながら。 |
30万HIT感謝祭リクエスト内容(原文のまま):
「ある日の朝、アキラさんの横でハダカのヒカルが寝ています。
男同士なのに、しっかり情の跡が(笑)
お互いなかった事にしよう…といいますが気になって仕方ない…。
気がつくと恋におちてた…。といった感じのラブコメが読みたいです〜。
シチュはアオバさまにおまかせで(*^_^*)
ってなんか、9時10時のドラマみたいな設定ですね。」
月9玉砕……!こんなドラマはない!
とんでもない話にしてしまってすいません……!
そしてとんでもないところで終わってしまった……
ところで8話目の後書きで「パルプンテ」と書きましたが、
ご存じない方もいらっしゃったみたいで補足説明。
ドラ●エのシリーズ7までに出て来る呪文の名前です。
効果は「何が起こるか分からない」です……
(味方が即死魔法を突然唱え出して全滅した苦い思い出が)
こんなお話にしってしまってすいません〜!
リクエスト有難うございました!
この話のイメージイラストをいただいてしまいました!
とっても素敵なイラストはこちらから
(2007.5.9追記)
(BGM:リリス/山下久美子)