IN MY DREAM






 リビングに戻ると、ヒカルは先程と変わらない格好でソファに座っていた。
 アキラがドアを開けた音を聞き付けたのだろう、ヒカルは軽く振り返る。
「飯は?」
 夕飯はどうする、という意味だろう。
 アキラは表情を変えず、一言だけ答えた。
「キミ」
「は?」
「キミが食べたい」
 途端にヒカルの顔が苦いものを口に入れたかのように歪む。
「お前な、俺腹減ってんだぞ」
「ボクもだ」
 呆れ顔のヒカルに構わず、アキラはずんずんとヒカルに近付いてソファの正面に回り込んだ。
 ソファに膝をかけ、ヒカルの肩を掴んでその身体を背凭れに押し付ける。
「おい、塔矢」
 苦情を塞ごうと口唇を寄せる。僅かにヒカルの腕がアキラの胸を押し返そうと突っ張るが、本気で力を入れていない隔たりなどアキラがひょいと腕に触れれば呆気無く外れてしまった。
 上口唇を押し当てて、薄く開いた口唇の隙間からちろりと覗いた舌がヒカルの下口唇を撫でた。
 ぴくりと揺れる肩を直に手のひらで感じたアキラは、その反応に気をよくして深く口唇を合わせる。
「――……」
 ため息のようなヒカルの鼻息がアキラの鼻をくすぐった。
 肩から首筋へ、うなじへと指を滑らせ、後頭部を支えてアキラはヒカルを押さえ付けるように口付ける。息苦しいのか、絡む口唇の隙間からヒカルは時折吐息を漏らした。
 力の抜けたヒカルの身体がずる、と斜めに倒れて行く。そのままソファへと横たわるヒカルの上にのしかかるが、さすがに身体の大きな二人が寝転ぶにはソファ程度の面積には荷が重い。アキラは一度身体を起こし、ヒカルの腕を引いてソファから立ち上がらせた。
 ヒカルも観念したのか、アキラが誘うがままに後をついて来る。ぼりぼりと頭を掻く仕種には多少面倒臭そうな様子が見て取れなくもないが、構わずにアキラはヒカルを寝室へ招き入れた。
 先に寝室に足を踏み入れたヒカルを、後ろから抱き締める。
 首筋を撫で上げるように口唇で辿ると、ヒカルは自らその部分を露にするように首を軽く傾けた。
 ぴたりと身体を密着させたまま、アキラの手のひらがヒカルの脇から差し込まれ、確かな意志を持って胸を這った。裾から服の中へ潜り込んだ指先は、腹を辿り胸の先端を探る。
 ヒカルは仰け反るように顎を上げ、後頭部をとんとアキラの肩に置いた。そうしておもむろに伸ばした腕でアキラの頭を包み、振り向くように顔を寄せて口唇を開いてみせる。
 アキラはその口唇に噛み付くようなキスをした。
 体勢が苦しくなったのか、ヒカルはキスに応えながら身体を反転させ、アキラの首に腕を絡めてくる。その動きで一度はヒカルの肌から離れたアキラの手のひらだったが、すぐに彼の滑らかな背中を撫で回し始めた。肩甲骨、背骨を丁寧になぞり、ジーンズの上から尾骨の辺りをくすぐると、合わせたままのヒカルの口唇が震えたのが伝わって来る。
 アキラは薄ら目を開いて口付けている目の前の相手を見つめた。苦し気に眉を寄せていたヒカルは、気配でも察したのかアキラに次いで目を開く。細めた瞳で見つめ合う二人は、ちゅ、ちゅ、と音を漏らしながらお互いの口唇を啄んだ。
 ヒカルの手がアキラの服を掴む。引っ張る仕種は脱げ、と命令しているのだろう。ヒカルの肌に触れつつもするりと名残惜しく手を離したアキラは、シャツのボタンを素早く外し始めた。ヒカルも腕を交差させてシャツの裾に手をかけ、えいっと勢い良くシャツを脱ぐ。
 晒された肌が眼前にあり、アキラは堪え切れずに脱ぎ途中でその胸に口唇を当てた。
「横着、すんな」
 頭の上からヒカルの声が降って来る。
 ヒカルは胸に顔を埋めるアキラのシャツを引っ張って、無理矢理に肩から落とすことに成功させた。
 上半身裸になった二人はしばらく立ったままそうして絡み合っていたが、やがてヒカルがアキラの髪を一束掴んで自己主張した。
「寝ろ」
 顎をしゃくるヒカルに言われるがまま、アキラはベッドに横たわる。枕に黒髪が散らばる様を見つめていたヒカルは、ベッドに膝を乗せてひらりとアキラの太股に跨がった。
 ベルトに手をかけるヒカルを、アキラは頭を擡げて眺めていた。
「もう充分じゃねえの? スケベ」
 ヒカルは下着の下ですでに形を変えているものをじとりと見下ろし、指先で弾いた。その刺激にアキラは一瞬眉を寄せつつも、にやりと口角を釣り上げる。
「足りないよ。して」
 ヒカルはわざとらしく顔を顰めて舌を出し、それでもアキラのスラックスを下着ごとずり下ろし始めた。足を引き抜くところまでは下ろさず、中途半端に衣服が膝に絡まった状態は端から見ると間抜けだが、下手に苦情を告げてヒカルに放り出されるのはもっと困る。
 ヒカルは勃ち上がりかかっているものを手のひらで包み、ゆるゆると擦りあげる。その硬さを手の中で確かめながら覗き込むように顔を近付けていたヒカルは、おもむろに開いた口の中へその先端を招き入れた。
「……っ」
 アキラが持ち上げていた頭をぱたりと枕に落とした。
 温かい口内に包まれて、下腹部のものが不規則にどくどくと脈打ち始める。
 寝転がったままぼんやり天井を見上げて、口唇と舌でもたらされる快感にアキラはうっとりと目を細めた。
 口調の割には丁寧に舐め上げるヒカルの舌は、的確に気持ち良いポイントを辿って来る。
 あまり長くはもたない、とアキラは肘に力を込め、上半身をゆっくり起こした。腹の下に蹲るヒカルの頭を見下ろして、その髪にそっと触れる。
 髪を指に絡めて、指先で柔らかい感触をしばし楽しみながら。
「……うっ」
 一気に奥まで深く咥え込まれて、アキラは思わずヒカルの髪をぐっと掴む。
「……もう、いいよ」
 吐息と共に吐き出した声の限界が分かったのだろう、ヒカルは奥まで呑み込んだものをなぞり上げるようにゆっくり口唇を離し、上目遣いにアキラを覗き込む。まだ唾液が下腹部から糸を引くその口唇に、アキラは乱暴に口付けた。
 勢いそのままにヒカルの身体を仰向けに倒し、もどかしくベルトを探る。キスの合間にヒカルが笑いながら言った。
「おい、枕、逆だぞ」
 構わずにベルトを外し、ジーンズを引き降ろす。ヒカルも僅かに腰を上げてその手伝いをしてくれた。
 最後はアキラの足で下着共々蹴り下ろされ、余裕のない愛撫を受けながらアキラの下でヒカルが喘ぐ。
「ヒカル」
 この名前には魔力が宿っている。
 囁けば、口にした自分のほうが彼の中に捕われて逃げられなくなってしまうのだ。
「ヒカル」
 呼べば呼ぶほど、その存在の愛しさが溢れて来て泣きたくなる。
 愛しているという言葉だけでは足りない時、アキラは決まってヒカルの名前を何度も何度も呼び続けた。
「ヒカル」
 求めれば抵抗なく身体を開いてくれる。
 優しいキスも微笑みも惜しみなく与えてくれる。
 二人でいるこの場所では、ヒカルの全てがアキラのものになるというのに。
「ヒカル」
 時折感じるヒカルの哀し気な瞳の理由が分からない。
「ヒカル……」
 うんと深く口付けて、その身体の一番奥で強く熱く繋がれて、混じりあう体液と呼吸に心を任せて何も考えられなくなりたい。
 ここから引きずり出さないで欲しい。
 この場所から何処へも行きたくない。
 ヒカルがいればいい。ヒカルだけでいい。他の物は何もいらなくて、意味なんかなくて、ただ二人だけの狭い空間が全てであればいい。
 この腕の中に閉じ込めて、大切に大切に守ってあげるから。
 だから。
「……アキラ」
 アキラの下で、荒い息をつくヒカルが微かに笑ったように見えた。
 ヒカルが手を伸ばす。アキラの頬に触れ、優しく撫でて滑り落ちた。
「アキラ……」
 優しい呼び掛けはアキラの胸の奥底に響く。



 だから笑って。
 外の世界に行かないで。
 同じ場所で同じ空気を吸い、同じ時間を過ごすことを喜んで欲しいのに。


 優しい微笑みに隠れて哀しい光がちらちら揺れる、ヒカルの瞳の理由が分からない。







久しぶりのえっちなのに何でこんな薄ら寒いんだろう……
ていうかこのパターンばっかり。ヤリ部屋かここは。
でもヒカはこんなアキラさんが可愛くて仕方ないんです。不憫。
こんな時でも早漏なアキラさんにちょっとほっとします。

このお話のイメージイラストをいただいてしまいました!
ラストシーンと併せて是非ご覧下さい。
とっても素敵なイラストはこちらから!
(2007.03.03追記)
(BGM:IN MY DREAM/LUNA SEA)