Reincarnation




*Prologue*



 轟音を遠ざけた岩陰は大気を覆う黒煙に纏わり付かれ、涼しさとは程遠い熱を孕んでいた。
 それでも預けた背中を熱いと厭うほどの触覚はすでに身体には残っておらず、気を抜けば落ちそうな意識の端を何とか手繰り寄せるのに必死で、風が運ぶ砂埃も噎せるような血の臭いも心に留める余裕はなかった。
 一声目は掠れた呼吸のなり損ないと生臭い血を吐き出したのみで、言葉になりはしなかった。
 感覚が薄れていく指先を鼓舞しながらまだ温かい身体を少しでも引き寄せると、腕の中で最愛の人が不規則な息と共に微かに笑ったのが伝わった。
「……最後の、最後、に……ヘマをした、な……」
 霞む目を奮い立たせ視線を下ろした。自分の左脇腹、そして兄の右脇腹。抉られた傷から臓腑が覗いている。微かに口角の上がった兄の口から滔々と赤黒い血が流れ、次に発しようとする声はなかなか音にはならなかった。
「……役、目は、全う、した……一足、先に……退く、か……」
 言い終わるか終わらないかでゴボッと血を吐き出した兄が頭を肩に凭れさせた。血に濡れた手で美しい髪を汚すのが忍びなかったが、最期の力を込めて抱き寄せた。
「……ごめん、な」
 ようやくまともに聞き取れる言葉を伝えると、兄が意図を尋ねるように少し身動ぎした。
「クリスマス……、ジンジャークッキー、焼けなく、なっちまった」
 ははっと兄が空気を震わせる。生まれた時から共にあった、大好きな笑い声だった。
「あっちで、いただくよ」
 穏やかに囁いたきり口を噤んだ兄を覗き込むと、青く澄んでいた瞳は澱んでぴくりとも動かなくなっていた。そして、それが自分にとっての最後の光景でもあった。