*Epilogue* 飾られたクリスマスツリーの隣に立ち、窓の外の夜空から降り続く雪をぼんやり目で追っていたエドガーに、台所から現れたマッシュがトレイを手にして声をかける。 「兄貴、ジンジャークッキー焼けたよ」 振り返ったエドガーは、マッシュが持つトレイに乗せられた可愛らしいジンジャーマンを見て楽しげに微笑んだ。 「いい匂いだ」 「自信作だよ。焼き立てを召し上がれ」 歯を見せて笑ったマッシュの勧めを受け、エドガーはまだ暖かいクッキーを一枚手にして口に運ぶ。カリッと小気味良い音を立てて齧られたクッキーを咀嚼し、満足そうに目を細めたエドガーの眉が僅かに下がり、美しい青い瞳がじわりと水に覆われた。 ぎょっとしたマッシュが慌ててトレイをテーブルに置き、エドガーの肩を抱いて顔を覗き込む。 「ど、どうした? 熱かった? ま、不味かったか?」 「いや……、とても美味しい……、でも、分からない、何故だか……」 泣きたくなる、と呟いたエドガーの瞳の端からころりと水滴が零れ落ちた。動揺するマッシュを見上げたエドガーは、その胸に縋るように手を置き身を寄せる。 「……傍にいてくれ、マッシュ……。ずっと、一緒に……」 絞り出すような声を受け入れ、マッシュはエドガーの涙の理由が分からないまま、愛する人が望むようにその身体を強く抱き締めた。 「ずっと、一緒だよ。この先も、ずっと……」 エドガーを胸に収め、窓の外でチラつく白い輝きに気づいたマッシュは、その耳元で優しく囁きかける。 「この雪が溶けたら、二人であの山を越えよう。一緒に、見つけに行こうな……」 頷いたエドガーは頭をマッシュの胸に預けて目を閉じた。 ジンジャーの香りが漂う古びたアパートの狭い部屋で、二人だけのささやかなクリスマスの夜は更けていく。 |