ひとつひとつ、たどたどしく目の前のボタンを外すヒカルの指が、肌蹴られたアキラの胸元に触れた。 探るように胸を滑り、小さな飾りに辿り着くと、アキラの口からくすぐったそうな息が漏れる。 到底快楽とはかけ離れた様子に、ヒカルは少し悔しくなる。 ヒカルは顔がアキラの肌に届く程度に身を起こし、自分に覆いかぶさろうとしている男の鎖骨に口唇を当てた。軽く歯を立て、いつもアキラがするように吸い上げようとすると、やんわりと頭を押さえられた。 「そこは駄目だよ……、もう少し下に……」 ストップをかけられて面白くないが、確かに人目につくと困るだろうから素直に口唇を下ろす。胸の突起よりも僅かに上辺り、強めに吸い付いたが、痕がついたかどうかは暗がりでよく分からない。 本当は皮膚の柔らかいところのほうがくっきりと鬱血することはヒカルも理解していた。しかし国際棋戦を明日に控えて、首筋に華を散らしていくわけにはいかない。 あまり手馴れているとはいえないヒカルの愛撫に微笑んだアキラは、まだ胸元で格闘しているヒカルの肩をそっと押し戻し、ヒカルのシャツをたくし上げた。 肩の辺りで絡まるシャツが邪魔で、ヒカルはそのまま脱いでしまう。手を伸ばしてアキラのパジャマのシャツも下ろし、腰から上だけ裸になった二人は再び口唇を重ねる。 アキラは口唇から顎に、顎から首筋にと悪戯な舌を降下させ、先ほどヒカルが挑戦していたように、ヒカルの胸の上にちょこんと乗っている乳首へ舌を這わせた。 「……っ」 ヒカルの腰がぴくりと揺れる。 アキラは小さな突起を口の中に包み、舌先で優しく転がした。ヒカルの眉間がアキラの舌の動きに合わせて震えている。 初めて身体を重ねた頃、こんなところをいくら触られたってくすぐったいだけでしかなかったのに。 散々愛されて違う感覚を植えつけられてしまった身体は、アキラの動きひとつひとつに敏感に反応するようになっていた。 もっと強く吸って欲しい――そんな浅ましい希望を訴えてアキラの髪を掴むと、アキラはヒカルの望む通りにしてくれる。ヒカルは顎を仰け反らせ、アキラが与えてくれる快楽に目を閉じた。 アキラの口唇はみぞおちを通過して臍をくすぐり、更に下へとじりじり目標を定めていく。そこに辿り着くまでにも何度か焼けるような熱さを感じていたから、恐らくヒカルの身体には点々と痣が残っているのだろう。 アキラはヒカルのジャージのズボンをトランクスごと少し引き下げ、覗く茂みの付近に執拗に口唇を当て始めた。中途半端な肌の露出に、ヒカルの下半身が焦れてびくびくと揺れる。 もどかしくなったヒカルは、自ら手をかけて下着ごと着ているものを下ろしてしまった。足首に絡まった衣服を蹴るように跳ね飛ばすと、アキラがくつくつと肩を揺らして笑っている。 「せっかちだな」 「お前がためすぎなんだよ」 アキラはまた少し笑って、躾けのなっていないヒカルの両脚を捕まえた。そのまま広げるようにふくらはぎを持ち上げると、さすがに羞恥を感じるのかヒカルが呻き声を漏らす。 控えめな非難には耳を貸さず、アキラはヒカルの下半身へと顔を埋めた。 「んっ……」 一番弱い部分を口の中にすっぽり包まれて、ヒカルは顎を浮かせて口唇を噛む。 アキラは根本まで深くヒカルのものを咥え込んで、舌の腹を擦りつけるように全体を舐め回してくる。時折尖らせた舌先で先端のくびれをなぞられて、ヒカルの口からか細い嬌声が漏れ始めた。 強い刺激が欲しいのに、アキラはなかなか緩やかな動きを速めてはくれない。ヒカルがもじもじと揺らす脚の意図に気づいていないはずはないだろうに、ライバル同士でいたいなんて意地を張ったヒカルへの罰のつもりだろうか。 「……アキラぁ……」 正気を保っていたら絶対に出せないような甘ったるい声でねだると、アキラの身体がぴくりと反応した。 それまで優しくヒカルを包んでいたアキラの口が、ふいに激しく上下に動き始めた。同時にきつく吸われ、喉をついて出てくる引っくり返ったような声にヒカルは口を開かされる。 「あ――……」 全身の脱力を感じて、ヒカルは力の入っていた両脚をぱたりと地に下ろした。 アキラは口の中で何か受け止めるような仕草を見せ、それから収縮を終えたヒカルの分身の先端をちゅっと吸って、喉をごくりと上下させる。 ヒカルは横たわったまま、ぼんやりとそんなアキラのシルエットを見上げていた。自分で出したものを飲み下されて恥ずかしくてたまらないのに、麻痺した頭は羞恥すらも鈍らせている。 アキラはぺろりと口唇を舐めて、ぐったりしたまま荒く息をつくヒカルの脚をするすると撫で始めた。その動きに合わせるように、一度は閉じたヒカルの脚が再び緩やかに開いていく。 アキラはその間に身体を割り込ませ、開いた脚を更に広げて、高く抱え上げた。 息を呑んだヒカルが身じろぎする。 「あ、アキラ……」 「何?」 「……このカッコ、恥ずかしい……」 「暗いからよく見えないよ」 「で、でも……」 「大丈夫……黙って……」 優しく囁き、アキラは顕になったヒカルの脚の付け根に顔を落とした。 触れられることを予想してか、ひく、と震えた肉襞と、陰嚢の間をつなぐ柔らかい皮膚を攻める舌に、ヒカルはひときわ大きな声をあげた。 「あ、や、やだ」 ヒカルの静止の声を無視して、アキラは弱い皮膚を執拗に舐め上げる。 「やだ、そんなとこ、アキ――」 肉襞の奥へ入り込んだ舌の感触に、ヒカルは声を引き攣らせた。 今まで何度も触れられてはいるが、舐められたことはない場所に湿った暖かいものを感じて、恥ずかしさでどうしようもなく気持ちが昂ぶっていく。 耐え切れなくなったヒカルは、アキラの頭を押しのけてがばっと身体を起こした。そして、未だに下半身にパジャマを身に着けたままのアキラのズボンを乱暴に下ろして、すでに反り返っていたものを一気に口に入れる。 「う……」 アキラが軽く腹を曲げて呻いた。 ヒカルは口と舌を必死になって動かし、添えた手で根本を扱く。明らかに硬さが増したそれを最後まで導こうと動きを速めると、ふいに頭を掴まれてぐいっと引き剥がされた。 開いたままの口唇に、アキラの口唇が噛み付いてくる。 勢いそのままごろりとヒカルの身体が布団に転がると、アキラは傍らに用意していたコンドームをもどかしく取り出して、きちんと装着できているかの確認もろくにせずに自身に被せると、アキラの唾液で濡れたままのヒカルの入口にぐいっと頭を潜らせてきた。 「あ――!」 余裕なく押し入ってきたものに、ヒカルの身体がぎゅうっと窄む。 思った以上に入口が窮屈だったのか、アキラは低く呻きながらもじりじりと奥まで腰を進めた。 初めはゆっくりとしていた動きが、徐々に荒くヒカルの奥を突き上げていく。下腹部に感じる圧迫感に耐えながら、ヒカルはアキラの下で鼻にかかった声を漏らす。 揺さぶられるがまま身体を大きく開き、一番弱い部分を容赦なく攻め立てられて、ヒカルは押し寄せる波に堪えきれず、アキラの首に齧りつくように腕を回した。 「ヒカルっ……」 掠れた囁きと一緒に耳の中に舌が入り込み、ぶるりと背中を抜けていく甘い痺れがヒカルの理性を根こそぎ奪い取っていく。 「あ、あ!」 甲高い悲鳴と共にぐっと下腹部に力を入れたヒカルの中で、びくりと身体を竦めたアキラのものがふいに動きを止め、ひく、ひくと収縮しているのが分かった。 押し殺した息を細く吐き出して、アキラはヒカルの中から小さくなったものを引き抜く。湿ったものを掻き混ぜるような音が響き、ヒカルはぐったりと手足の力を抜いた。 アキラも肩で息をしながら、腹の下でぶら下がっているゴムの残骸を始末し、裸のままごろりとヒカルの隣に転がる。 まだぼんやりしているヒカルの顎を振り向かせ、アキラは長いキスをした。口唇の端から溶け合うような、長く優しいキス。 口唇が離れた後、愛おしそうにヒカルを抱き寄せるアキラの腕の中で、ヒカルは頬を摺り寄せながら掠れた声を振り絞った。 「も、いいの……?」 「ん……?」 「お前、いっつも一回じゃ足りないじゃん……」 アキラが少し咽せたようだった。それでも軽く笑い返したアキラは、ヒカルの額に小さなキスを落として、 「明日、レセプションでキミがずっと腰を押さえてたら困るから」 そんなことを言って、ヒカルをきつく抱き締めた。 ヒカルも笑って、満足げにアキラの首に顔を埋める。 「……少しは、楽になった……?」 アキラの問いかけに、ヒカルは鼻を擦り寄せて答えた。 「……すげえよく眠れそうだよ」 ふふっと空気を揺らす笑い声が小さく響く。 微かな汗の香りが、乱れていた鼓動を落ち着かせる。 アキラに全身をすっぽり包まれ、怖れを知らない腕の中で、ヒカルは眠りを招き入れた。 汗ばんだ胸にゆったりを身を任せ、重い瞼を一度閉じたら、そのまま思考は夜の闇へと溶けていく。 *** 誰かが、俺を抱き締めている。 ぶっきらぼうで少し乱暴だけれど、そのくせ凄くあったかくて優しい。 薄ら瞼を開くと、怒ったようなアキラの顔が映った。 ヒカルが今見知っているアキラの顔より、幾分幼い表情で眉間に皺を寄せている。 ああ、ちょっと誤解されやすいけど、これはアキラの心配している顔だ。 覚えのあるシチュエーション。そうだ、あの時の――二年前、初めての合宿の夜のアキラだ。 お前、こんな顔していたのか。 佐為のために勝ちたくて、燻る思いを抱え切れなくて、でも一人で頑張らなきゃなんてやる気ばかり空回りさせていた夜。 そんな様子のおかしい俺を心配してくれたアキラが、ぽつんと廊下に蹲る俺を見つけてくれたんだ。 冷えた身体を抱き締めて、優しすぎるキスをくれて、笑っちゃうくらい必死だったお前。 あの時は暗がりで見えなかったけど、こんなに俺のこと心配して見つめてくれていたんだ。 大丈夫だよ。 お前、あれからずっと俺のこと守ってくれていたんだ。 誰より俺の近くにいてくれて、俺を分かってくれる。 お前がいるから、俺も今よりもっと強くなれる。 大丈夫だ。 腹が据わった。 勝つよ、俺。 気負いじゃなく、過信じゃなく、勝つために、これからずっと続く明日のために打つ。もう、大丈夫だ。 だからお前もそんな顔しないで。 笑って。笑って…… *** 柔らかい光に顔を照らされ、ヒカルはすんなりと瞼を開いた。 障子越しに差し込む朝日は、眩しさというには控えめな、穏やかな光だった。 向かい合って微笑んでいる綺麗な顔を目の前に見つけ、ヒカルはうっとりと目を細める。 「おはよう」 アキラの低い囁きに、小さくオハヨ、と答えた。 「よく眠れた……?」 「ん……夢見た」 「何の?」 夢も見ないくらいと豪語した手前か、ヒカルの発言が納得いかないものだったらしく、アキラは僅かに眉を寄せる。 ヒカルはにこっと歯を見せて、 「お前の夢」 そう、悪戯っぽく言ってやると、ようやくアキラは満足そうに口元を緩めた。 「……それは物凄く寝覚めが良かっただろう?」 「どうかな〜?」 「……、さ、そろそろ起きないと家に戻れなくなるぞ」 「おい、すねんなって。うわっ、さみっ! 引っぺがすなよ!」 それは第三回北斗杯・レセプション当日の朝のこと。 |
当日の朝まで何をやっているのか……!
久しぶりの裏要素ありなお話でしたがいつも同じような感じですね……
基本システム(早漏)に変わりはありません。
(BGM:Silent Blue/氷室京介)