ジャズボーカルを始めたきっかけ



  第1回目の今回はジャズボーカルを始めたきっかけを・・。
 「昔からジャズを聞いていたんですか?」とよく聞かれますが、そんなことは全然なくて、実は「友達に誘われて」始めたのです。しかも、これがとってもいい加減な始め方で・・。

  私は学生時代から演劇をやっていて、卒業後も「残業はない」という会社に入りOLのかたわら、舞台活動に明け暮れていました。  ちなみに卒業した学校は社会福祉の専門大学で、卒業生は9割以上が福祉の専門職につくという真面目なところです。なのに私は福祉系に進んだらお芝居はできなくなってしまう、という理由で自分でとらばーゆで探して会社を決めました。昼はOL、夜はお芝居と忙しいながらも充実した毎日でしたが、社会人劇団の悲しさ、皆の都合が合わなくなり、やむなく解散という日がきてしまいました。

  するとそれまでは毎日のように稽古があったので急にヒマをもてあました仲間のひとりが「今度暇つぶしにジャズボーカル習いに行くんだけど、一緒にいかない?」と誘ってれたのです。  聞くとその学校は新宿にあり、今期の募集締め切りはもう間近だというではありませんか。ちょっと興味の沸いた私は、早速学校を訪ねました。

  受付には優しそうなお姉さんが。

 「あのー、ボーカルコースに新しく入りたいので詳しいことを知りたいんですが」
するとお姉さんは、若いながらも貫禄あるひとりの男性と替わってくれました。

男性 「ボーカルコースね。まあ、こちらにおかけになって・・。ああ、お友達も今度入るんですね。 ところでうちの学校のボーカルコースにはジャズとロックがあるんですが、どちらをご希望ですか?」

 「えっ。ロックって考えたこともなかったです。 でもちょっとカッコイイかなー。 あっ、でもロックコースは若い人が多くて、私じゃ浮いちゃいますかね?」

男性 「えーと、うーーん。いや、あのそんなこともないかとは思いますが・・。 ああじゃあ大越さんは、普段はどんな音楽を聞くんですか? やっぱりよく聞くもののほうがいいでしょうし」

 「(きっぱりと)音楽はあまり聞かないんです」

男性 「あ・・そ、そうですか。ううん、じゃあ最初はお友達と同じジャズコースにしてみたらいかがでしょうか?もしだめだったら、途中でコース変更もできますから」 と、

 このようにしてめでたく私はジャズボーカルコースに入りました。あとでわかったのですが、応対してくれた男性は学院長だったそうです。音楽は聞かないなんて言っちゃって失礼しました。

 でも芝居三昧だったので、ほんとに聴かなかったんです。もちろんジャズだって全く聞いていなかったので、さっそくスタンダードジャズのオムニバスCDを買って、聞いてみたのですが大変!!どの曲も皆同じに聴こえる!!「枯葉」の次に「You´d Be So Nice To Come Home To」を聞くと「さっきのとどう違う?」なんて言ってたのですから、ジャズファンの方々には叱られてしまいそう。始めて教わった曲は「Bye Bye Blackbird」でした。
 なつかしい・・。

  学校のレッスンは週1回でしたが、時々発表会や生徒のライブなどがあり、徐々に私の生活のなかで歌がお芝居に取ってかわっていきました。それでもまだあくまで趣味にすぎなかったのです。

  ところがそんなある日、会社で人事異動がありまして、仕事内容が激変。正直、私にはあまり向かない仕事で辛くなったので転職しようと決意。 「まあ失業保険も出るし、辞めてからまたとらばーゆで探そう」と考え、会社には転職とは言わずに「ジャズのほうを真剣にやりたいから」と言い、辞職しました。

 この時点では本当に転職するつもりで、実際とらばーゆをぱらぱらめくっていたのです。ところが、ビックリ。退職した翌週ボーカルレッスンに行くと先生が「今、四ツ谷の某ジャズクラブでボーカル兼ウェイトレスを募集しているんだけど、今日これからオーディションに行ってみない?」ですって!なんというタイミング!早速出掛け、ものすごく、どきどきしながらMistyとNight And Dayを歌ったことを覚えています。

 結局「あなた歌はまだまだだけど、ここでお運びしながら勉強しなさい」と社長に言われ、その四ツ谷三丁目のダイヤモンド倶楽部というお店で歌いはじめたのが、人前で歌うようになった最初です。これってまさに「嘘からでたまこと」ですね。

 その半年後には現在も行っている中野のマイウェイというお店に行き始め、しばらく後、念願かなってライブハウスに単独初出演を果たします。このときピアノを弾いてくれたのが、先日銀座カナディアンウィンドで共演した宇多慶記さん。宇多さんは冗談で「あれから20年」なんて言ってたけれど、まだその半分もいってませんよ。

 でもメンバーとお客様に恵まれて、いつのまにかここまできました。その間一度たりとも飽きたり、嫌になったり、辞めたいと思ったことがないのは、幸せなことです。ほんとうにまわりの皆さん、ありがとう!

  これからもせつなくて、悲しくて、まっすぐで、すきとおっていて、ずうっとつづくわたしの気持ちを、できるだけ長く歌っていきたい、と思っています。
  ひょんなきっかけで始めたジャズボーカルですけれど。

大越 康子