震災その後

 大震災から2週間が経ちました。被災された方、そのご家族に心からお見舞いを申しあげます。中学〜高校の3年間、福島県郡山市で暮らし、また福島には2度歌いに行き、お世話になったのです。皆様のご無事を祈ります。

 私にもたくさんの方からお見舞いの電話やメールをいただき、ありがとうございます。お蔭様で,秋田の実家も無事でした。私は地震のときはうちにいて、前夜のライブの片付けを終え、夜の仕事に備えてのんびりお昼寝をしていました。なので最初の縦揺れをよく覚えていないのです。横に大きく揺れはじめてから「これは地震だわ」と気づき(既にお気づきでしょうが、ニブいのです)「うそ〜」と言いながら、閉じ込められないようにドアを開け、テレビのスイッチを入れ、バッグにお水やら携帯電話やら手帳やらを放り込んでいました。NHKはしきりに「大津波に警戒を!」と言っていました。揺れがおさまってから、秋田に電話してみましたが通じません。一人で家にいるのも怖いし、この時点ではまだ夜は歌いに行くつもりだったので、仕事に行く支度をしてから、夕ご飯の買い物に行くと、いつものスーパーはもう閉まっている・・・。このお店は商品を棚に高く積み上げているから、崩れ落ちてそれで閉めちゃったのかな〜、などと考え、別のお店で買い物。帰りに「そうだ!今日はドラッグストアのポイント3倍デーだから寄ってみよう」とのぞいてみると(今にして思えば暢気なのですが)、こちらも揺れで散乱した商品片付けのため,既に閉店していました。

 帰ってテレビを見ると、大津波の襲来、都内の電車も全面ストップで、予想以上のおおごとになっていて、この頃やっと事態の深刻さに気づき、本格的に怖くなってきました。仕事に行きたいけれど、これはもう無理、休ませてもらおう、と電話しますが、こちらも通じず。秋田にも何度かけても通じず。6時半を過ぎて、やっとお店に休みの連絡を入れ、8時前に都内に住む弟が「秋田と連絡がついて皆、無事」と知らせてくれたのでひと安心、のはずなのですが、テレビは次々にショッキングな映像を流し、気が休まりません。

 そしてそれからは、余震と原発事故の影響に怯える時間が続いています。放射能のほうを恐れる方が多いのかもしれないのですが、私は関東直下型の大きな地震もくるのが怖い・・・。、緊急地震警報が出ると、さっとコートを着て、カバンを持って身構えます。地震の影響で仕事は次々にキャンセルになったので、うちにいる時間が長く、地震警報を聞こうとテレビをつけていると不安をあおるようなニュースばかりやっているので、ますます怖くなって何もできない、、という悪循環。いろいろなものが不足しているというので、午前中のうちにスーパーに行くと長蛇の列。レジから入り口までずら〜っと並んでいるのです。お米やパンを数日食べなくても、他に食べ物が何かあれば大丈夫なはずなのに、とにかくほとんどの商品がなくてびっくり。それでも、家にいて怖がっているよりは、例え他人と一緒にレジに並んでいるのでも、誰かといたほうが落ち着く感じがしたのも不思議でした。いつもは人ごみは苦手なのに。仕事もないし、いまにも大地震がきて逃げなければいけないような気がして、ほぼ一週間近く、お化粧もしませんでした。大人になってから、こんなに長い間すっぴんでいたのははじめて。時間はたっぷりあるのだから、ふだんできないことをしようと思うのですが、余震がくると集中が途切れてしまう・・・。ずっとNHKテレビをつけっぱなしにしていたので、ニュースの声を聞いただけで、今ではどのアナウンサーが読んでいるのかわかるほど。またこうした緊急時には、ニュース担当のアナウンサーが地方局からも応援にくるのですね。知りませんでした。(NHKといえば、本震発生時に緊急地震速報を伝えた伊藤健三アナウンサーは素晴らしかったです。あとからYouTubeで見たのですが、ぐらぐらと揺れるスタジオから、落ち着いた声で冷静に避難を呼びかけていました。プロ根性に感激し、涙がでました。またこの速報のときに、まだ大津波に襲われる前の美しい気仙沼も写しだされます。哀しくてたまりません・・・。)

 こんな毎日でしたが、事態は長引くようですし、いつまでもこうではいけませんね。いつくるかわからない地震を怖がって、何もできずにいるなんて。病気でもないのに、こんなに休みがあることはめったにないのだから、リセットのための時間をもらったと思って何かしよう。これまでは、「今できないことでも、いくらでも次の機会があるから、またいつかでいいや」と思っていたけれど、それは間違いで、約束された未来なんてないのかもしれないのだから。

 先ほど仕事はキャンセル続きと書きましたが、出演スケジュールに載せているライブは予定どおりに行います(3月27日現在。万が一変更の場合はホームページに載せます)。春のイチオシライブは4月15日(金)アリエス。ひとときでも不安と疲れを忘れていただける、明るく、あたたかで、元気がでるステージを、とバンドの皆とも話しています。不安な状況のうえに、春は年度がわりでお忙しい時期でもありますが、よろしければくつろぎにいらしてくださいね。新レパートリーはブジルのシンガーソングライターMilton=NascimentのBridgesという、美しいバラード。Bridgesとは「つながり」という意味だと思います。明日につながる橋、過去につながる橋、悲しみでできた橋、虹という輝きでできた橋、、きっとどこかに愛でできた橋があることを私は祈る・・・といった歌詞。心をこめて歌います。
少しでも早く、皆が穏やかな気持ちになれますように。

大越 康子