ぶらぶら歩く街


 ここ数年、ぶらぶらと街を歩くことがなくなった。
 この十数年同じような生活をしているのに、どうしてだろう。無駄遣いしなく(できなく?)なったから、余計な寄り道はしなくなった?ついフラフラと買い物をしても、余分な持ち物が増えるだけ、ということに気づいた?どっちもあるような。でもいちばんの理由は、住んでいる場所の違いかも。

 ずっと前にも書いたけれど、東京に来てはじめて住んだのがナント原宿!竹下通りまで歩2分。雪深い秋田から出てきた少女(当時はね!)にとって、それは刺激的な街でありました。通りにはティーンにも買える値段のお洋服がいっぱい。流行の面白グッズが大集合のキディランドもすぐ近く。たとえお財布の中身が寂しくても、眺めて歩いているだけでそれはそれは楽しく、心踊るような街だったのです。竹下通りを一本裏に入った路地には、お洒落な喫茶店があって、メールもなかった当時は、そこで何時間もかけて手紙を書いたりしたものでした・・・。

 一年後、引っ越したのは、「ミュージシャンの街」高円寺(あ、でもそれってロック?)。当時、学生兼劇団研究生だった私には、とっても都合のいい街でした。終電は遅いし、お風呂屋さんも遅くまでやってるし。物価も安くて、暮らしやすい。駅から延々と続く商店街もあって、ここも何も買わなくても、ブラブラと眺めつつ歩いているだけで、ほんわり楽しくなってしまうのでした。いまもあるのかな。私と劇団の仲間の行きつけだった喫茶店の「ごん」。コンソメぞうすい、味噌ぞうすい、ミルクぞうすい、アーモンド・オ・レ。怪しげで、でも美味しいメニューの数々。真夏でもあんまり冷房が効かず、暗い感じのお店に劇団の帰りによく寄ったっけ。今も高円寺に歌いにいってるじゃないかって?そうでした。少し、早く行って偵察に行けばいいだけなんですが、ライブ前はどうもどういう気分にはなれなくて。時間と気持ちにゆとりがあるときに偵察してきます。

 その後は東急線の学芸大学に移り住みますが、ここも商店街が充実してました。上京してきた母は「東京といっても、このあたりは田舎のお店とおんなじ感じね」などと述べたほど、のどかなムードのお店が立ち並びます。食器屋さんから、お洋服屋さん、本屋さん、輸入食品のお店、喫茶店などなど。お散歩の途中に除くのにふさわしいでしょう?ここから引っ越して久しいですが、かかりつけの歯医者さんはこの駅前にあるので、いまも年に2回は行っています。商店街のムードはちょっと変わったかな。全国規模のドラッグストアや、ファストフードのお店が増えて、ちょっとにぎやかな感じにになりました。

 次に住んだのが同じ世田谷区の桜新町で、多分この頃から私のそぞろ歩きは減ってきたのだと思います。桜新町は、長谷川町子美術館がある「サザエさんの町」として知られているとおり、家族的なムード漂う町なのです。商店街はサザエさんの漫画のモデルという魚屋さんをはじめ、お肉屋さん、お花屋さんなどありますが、そぞろ歩きして楽しむというより、家族代々で行きつけになる、という感じなのです。一人暮らしの私には縁遠い話で、したがってスーパーで買い物を済ますと、さっと家に帰るようになってしまったのでしょう。

 いまはまた別の街に住んでいますが、ここは商店街らしい商店街はありません。若い人が多いせいか、居酒屋さん、牛丼屋さん、ラーメン屋さんが多く、手紙を書くようなお洒落な喫茶店はみあたりません。長時間かけて手紙を書くこと自体、もうないのですけれどね。1年ほど前に、駅へ行く道すがらに、過ごしやすそうな安いコーヒーショップができたのですが、行ったのは2度だけ。仕事帰りにちょっとひと休みするなら、がんばってもう3分歩いて、うちでゆっくりするほうがいい、と思ってしまうのですね。

 地下鉄の乗り換えで表参道の駅もよく通ります。この春、表参道ヒルズができて、人通りが圧倒的に増えました。私は乗り換えに通るだけで、肝心のヒルズは横目で見るだけです。そのうちに一度は探索しよう、と思ってはいるものの、実はそれほど心惹かれない。どうもごちゃごちゃした原宿が原体験の私にとって、近代的なきれいなところは面白くないようです。横浜のランドマークもそうだし、このあいだはじめて行った天王洲アイルもそう。整然と並ばれるよりも、何がでてくるかわからない雑多な街のほうが好きみたい。同じ理由で、中野の商店街、サンロードとブロードウェイは大好き。(な割には投資してなくてスミマセン。あ、でもこのあいだ靴を買いました!)下北沢や吉祥寺も好き。下北沢は駅前の開発計画があって、住民の方が反対しているそうですが、気持ちわかります。なんでも整然とすればいいってものでもないような。吉祥寺はこのあいだお友達に案内してもらって、あまりのドレスの安さにたまげました!今度絶対、仕入れ(?)に行こうっと。

 そしてもうひとつ忘れてはならないのが、巣鴨。そう「おばあちゃんの原宿」。ここが楽しくてしようがないのです。お洒落な喫茶店はないものの、ながめて楽しいお洋服屋さん、靴屋さん、仏具屋さん(お香や香りのするろうそくが好きなので)がいっぱい。だらだらといつまでも続く道も私好み。まだウン十年早い気もするけれど、すでにハマッています。でも、巣鴨もいまどきの若い人がおばあちゃんになる頃には、近代的ファッションビルの「巣鴨ヒルズ」になってしまうのかなあ、とちょっと心配なのでした。


大越 康子