秋の読書週間・その2


 今日は「文化の日」。皆様いかがお過ごしでしょうか?私は文化の日にふさわしく(?)、某劇場で歌ってまいりました。その昔、舞台女優をしていた私にとって、劇場は懐かしい場所です。音響もよく、とても気持ちよく歌えた秋の夜でした。
さて、前回「秋の読書週間」に書ききれなかったので、今日は第二章。最近読んだ本の感想を、それこそ、つれづれなるままに。

・マイナス・ゼロ(広瀬正・著)

 最近、復刊された日本SF小説の傑作。子供の頃に読んだことがあり、その後、細かい部分は忘れてしまったものの、「ものすごく面白い小説」という印象だけがずっと心に残っていたのです。あと「マイナス・ゼロ」という言葉の響きがカッコよく思えて、とても好きだったのです。復刻版が出て、すぐに買って読み、はまりました。ああ、私の大好きな世界がここにある〜〜!タイムマシンもので、昭和初期のなつかしい描写もあります。時間旅行の時系列がわからなくなり、自分で年表を作ってチェックしてみたり。十二進法がでてくるので、確認して計算してみたり。私にしては、理系のアタマを使いながら読みました。知らなかったのですが、広瀬正さんは作家になる前に、ジャズバンド「広瀬正とスカイトーンズ」を作っていたらしいです。私が住んだことのある福島県郡山市にある日大工学部を卒業しているし、なんだかご縁があるわね〜、と勝手に考えています。残念ながら、作者は1972年に若くして亡くなったのですが、他の作品も続々と復刊されているので楽しみです。

・雑貨屋さんぽ(リベラル社)

 これは小説ではなくて、東京と横浜にあるすてきな雑貨屋さんを写真入りで紹介した本。きれいで、見ていて楽しい。文房具などちまちました雑貨が好きで、いつも今度あそこに行くときには、ちょっと早めに行って、近くの雑貨屋さんをのぞこう、なんて思うのだけれど、決まってギリギリになってしまい、行けずに終わります。でもこの本を眺めれば、かわいい小物が自分のものになったかのように思えて嬉しい。この中でいちばん心ひかれたのがカギ。小さなカギをブローチにしたり、ペンダントにしたら、普段使うのにお洒落でいいかな?とこれまた構想のみ、でまだ実現していません。

・六本木ケントス物語(島敏光・著)

 島敏光さんは、ジャズ歌手笈田敏夫さんの息子さん。先日、あるお仕事でご一緒して、そのすばらしく上手なおしゃべりと、心あたたまるボーカル「この素晴らしき世界」を聞かせていただきました。その島さんの書かれた、ライブハウス「ケントス」の物語。ロックの世界なのと、年代的にわからない部分もありましたが、業界内での苦労、ミュージシャンやスタッフの考え方などには、現在の私も共感でき、楽しく読めました。なかでも最近、六本木ケントスで歌っているボーカルが、「自分のオリジナルを発表するつもりはさらさらなく、50〜60年代のオールディーズを徹底的にコピーして、お客様に喜んでもらいたい」と言っているのに感動。私も誰かのコピーをするつもりはないけれど、オリジナルには興味がなく、皆の記憶にある曲を歌って、気持ちよく聴いてもらいたい、と常々思っているので。団塊世代の方は、きっとより楽しめると思います。

・さよなら渓谷(吉田修一・著)

 最後はまた小説。これも某週刊誌に連載されていたもの。数年前に起こった、秋田での児童殺人事件、大学の運動部員による女子暴行事件をからませたストーリー。連載ものとあってセンセーショナルな箇所はたくさん。でも、実際の事件にネタを求めたところからしてどうかと思うし、作中の誰にも感情移入できず、あまり楽しく読めませんでした。貸してくださったMさん、ごめんなさい!しかし、実際の事件を元にして小説化するのって、最近多いのかしら。特にミステリー系。それだけ現実での犯罪が劇場化しているということなのかしら。確かに、このあいだ自殺してしまったロス疑惑での容疑者(と呼んでいいのかな)なんて、どんな小説よりも不可解だし、これだけ犯罪が起こっていたら、どんな内容を書いても、何かの事件には似てしまうのかもしれない。それでも、私は作家の方には、現実社会とは全く違った世界を書いてほしいです。小説を読むのは、日常からの旅だから、思いもよらない世界に連れていってほしい。そんなふうに思うから、SFが好きなのかもしれないな。現実社会にいては、タイムマシンにはなかなかお目にかかれませんものね。

 そういうわけで、このあとは広瀬正さんの「ツィス」を読みます。耳障りな音=謎のツィス音が絶え間なく、いたるところで聞こえてくる、というパニック小説。音がテーマのあたり、ジャズマンだった広瀬正さんらしいですよね。秋の夜長の楽しみです。


大越 康子