6月のHappy Live  − First Half



  エッセイストの岸本葉子さんの「炊飯器とキーボード」(講談社文庫)が気に入って毎日寝る前に読んでいます。帯の「エッセイ書く人ってこんな暮らしです」という言葉どおり、エッセイストの仕事をめぐる日常が細かく書かれていて、ジャンルは違えど同じくシングルかつフリーで仕事をしている者としてとても興味深い。おりしも、私も「ジャズ歌手って、どういう練習をしているの?」という質問をお受けしたばかりなので、ちょっぴりそのへんもあわせて、書いてみることにします。書きたい理由はもうひとつあって、今週は2日連続でライブがあったんですが、2日ともとっても楽しかったから、その記憶も残したいのです。それでは、2001年6月13日からの3日間の仕事日記を。

6月13日(水)曇り/雨
  明日から大事なライブが2日続く。どのライブも大事には違いないけれど、明日からの2つはピアノ、ベース、ドラムのバンドメンバーを私自身が選べて、あくまで私がメインというものなので、どうしても他より重きをおいてしまう。私は勝手に「座長」を名乗り「大越康子一座」と名付けているが、他のメンバーに座員の自覚があるかは疑問。それはさておき、こういうライブは楽しいけれど、やはりそれなりに疲れるので、できれば日にちの間隔をあけてやりたい。だが出演日というのはお店が決めるので、私が自分のやりやすいように「ライブは毎週ひとつづつ、できればお客様を呼びやすいよう週末に」なんてわがままは言えない。出演依頼をいただけるだけでもありがたいのだから、可能な限り受けることになる。

  ということで、明日から2日連続で「大越康子一座」公演。上野アリエスと立川ジェシージェイムス。前日にあたる今日は準備と休養のため、出掛ける仕事は休みにしている。
11時起床。起きる時刻は予定によってバラバラで、きょうはゆっくり眠ったほう。外は曇り。爽やかなミントの香りのする「海」という名前のお香をたき、カフェオレを飲みながら、新聞の週間天気予報に目をとおす。明日、明後日とも雨。うーん、梅雨なんだから仕方ない、と思いつつも、今夜はてるてるぼうずをつくろうと決める。

  その後、メールチェック。月始めには出演スケジュールを郵便でお送りしているのだが、メインライブのアリエスに限っては、その他にも直前に葉書、ファックス、e−mailでも宣伝している。それぞれ、11日の月曜には届くようにしたので、それに対して「出来るだけ行こうと思っています」とか「今回は無理です、また次回」とかお返事 が届く。こちらは勝手に宣伝しているのに、忙しいのにこうしてお返事いただけるのは嬉しい。お客様のなかには、「いつも忙しくて忘れてしまうので、直前に宣伝してもらったほうがいい」」とおっしゃる方もいるので、そうした方数人にまたファックスとe−mailを送る。私は自分でも電話が好きではないせいか、電話での宣伝というのはどうしてもできない。なのでe−mailの存在には本当に感謝している。ひととおり終わった後、ライブの当日は出掛けなくてもすむように買い物。おまけのお香がほしくて、またしても爽健美茶を買ってしまった。

  帰ってからいよいよ練習。まずは、ストレッチ体操と発声。これは市販されている発声法のトレーニングブックのCDの中から、自分に必要なものをMDに編集したのを使っている。発声といっても、大きい声を出しているつもりはないのだが、うちは普通のアパートの1階。ご近所には聞こえているらしく、2階の女性には「ライブやってるんですか、がんばってください」と言われ、隣の大家さんは「うちの娘もピアノを教えていて・・」と言い、近所でのライブに来てくれた。うるさいだろうに、皆さんすみません。もちろん発声は夜はやりません。歌そのものは小さい声で真夜中でも歌ってしまうことがあるけれど。

  発声の後はライブの曲目選びと曲順決め。曲目のほうは、大体決めてある。まず、その季節の歌。いまだったら梅雨なので「シェルブールの雨傘」「コンスタントレイン」、逆に晴れの歌で「On The Sunnyside Of The Street」 「Over The Rainbow」 など。これとドラムのチッコさんや、ベースの久末さんとのデュエットの曲、お客様からリクエストいただいたもの、自分がいま気に入っていて、どうしても歌いたいものなどを組み合わせる。スウィング・ボサノバ・スローバラード・8ビートのポップスという感じで、変化を持たせるように、できれば同じキーも続かないように、1ステージ5曲くらいで一晩3ステージ分作ってメモしておく。このメモは当日も持っていて、急にリクエストがきたときにどこに入れるか、これを見て考えたりする。決まったら曲順に譜面ならべ。バンド3人分なので、しばしの間、部屋じゅう楽譜だらけ。選び出した曲以外の譜面もリクエストに備えて、一応持っていく。

  この後、先程のメモを見ながら、不安なものを中心に1曲づつおさらい。新しくレパートリーに取り入れたもの、リクエストに応えて久しぶりに歌うものは特に重点をおいて。自分の部屋にいても、頭の中ではお店のステージに立っていてお客様の顔を見ながら歌っているイメージを持って。

  ひととおり終わったら、今度は衣装や持ち物の準備。ドレスとアクセサリー、靴を選び、録音用MDも充電。先程の楽譜と歌詞ノートも必携。のど飴だの薬(鎮痛剤やアレルギーのじんましんのもの。ステージ中になったら大変)だのなんだかんだいろいろカバンに詰め込む。そうそう忘れずにマイクも。これもできるだけマイ・マイクにさせてもらう。普通、お店にあるのはSHURE58だけど、私のは56。専門店でテストしたらこっちのほうが高音がきれいに出たので、もう4年くらい愛用している。マイクとMDでかなり重くなるのだけれど、がまんがまん。荷物準備も終わって、今度はお客様に手渡す、7月からの出演スケジュール書き。完璧なお店の地図も入ったスケジュールはもう少し先でなければ作れないけれど、いまわかっているものだけでも紹介しておけば、ご予定に入れて下さる方もいるのでは・・、それに、もしお一人でいらっしゃって、ステージが始まるまでの間、てもちぶさただったりしたら眺めていただければいいかな、と考えて作っている。地図は入れないし、日にちと場所だけなので書くのは簡単。書きあがったらコンビニでコピー。

  などとばたばたしているうちにもう夜。もう一度メールチェック。来てる、来てる。「雨が降ろうと、槍が降ろうと行きます」心強い。のんびりお風呂に入り、あがってからは昼間買った爽健美茶のおまけのお香「レモンの香り」をたきながら、マッサージ。いつも「大事なライブの前日には全身エステに行ってほぐしてもらう」という理想を抱きつつ、時間的理由からかなえられずにいて残念。8月にまた、3夜連続ライブというときがあるので、そのときこそは! 最後に忘れずに、てるてるぼうずを作って、窓のそばに吊るす。なんか遠足前の小学生みたい。でも雨は客足に関わるんだから、こんなことで晴れてくれるんだったら、いくらでも吊るしたい気分。夕刊の天気予報でも明日は一日雨。私はテレビを持っていないので、天気予報は新聞か電話の177で聞くのです。念のため177もしてみる。やっぱり雨の予報。でも槍が降ってもきてくださる方がいるんだから、楽しまなくては。それに今回のアリエスはドラムはいつものチッコさんだけど、ピアノ金子雄太さん、ベース岡田勉さんという新しい組合せなんだし・・・、と気持ちを切り替え、のどのため吸入して、午前2時就寝。

  14、15日の最高に楽しかった2日間の模様はまた次回・・・・。
  果たして、てるてるぼうずの効果は?
 


大越 康子